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七百八十五話 裏側への侵略者

「ハリーフとヴァイスは自分の相手を見つけたみたいだな。俺たちもそろそろ仕掛けるか?」


「そうだね。まあ、僕的にはライやハデスの方と戦いたかったけど、今回は譲るとするよ。けど勇者の子孫も取られちゃったからねえ。目ぼしいのは神の子孫か魔王の子孫かな。ヘルヘイムの女神と冥界の女王も捨てがたいけど、優先順位は少し落ちるかなぁ」


「値踏みしているの? 物好きねぇ。私はやっぱりエマの所に行こうかなぁ。あーでもあの世に関係している二人とあの世談義するのも良いかも!」


「俺ァ主力と戦えるなら誰でも良いぜ。"ポレモス・フレニティダ"の一件じゃ簡単にやられちまったからな」


『だが、奴等は四方と中央に分かれているからな。そのうちの一つはハリーフが行っている。私たちが行くとして、誰か一人は余るぞ』


「「「そこが問題だ」」」

「アハハ。息ピッタリ」


 シュヴァルツ、グラオ、マギア、ゾフル、ロキが順に話す。

 この五人は全員がるき満々だが、徒党を組むようなやり方ではなく個人的に挑みたいらしく誰がどの方向に行くのかを話し合っていた。

 因みに現在位置は、塔は見える場所だがまだそれなりに離れている。気配も消しているので向こうが最大限の警戒をしなくてはそう簡単に気配を掴めない事だろう。

 なのでのんびりと計画を立てているが、前述した事が問題となっている現在。そのうち生物兵器の兵士達も全滅させられ兼ねないので五人は行動に移った。


「じゃあ、早い者勝ちって事で良いね? 誰が誰と戦っても恨みっこ無し。余った人は兵士達の相手だ」


「良いぜ。何処に誰が居るのかは微妙な気配でしか分からねェから曖昧だが、ある程度検討は付いているからな」


「良いよ。私は無論エマだね」

「速さには自信があるぜ? まあ雷速なんてお前達にとっちゃ遅いかも知れねェがな」


 少し話した結果の決定事項は早い者勝ち。実にグラオ達らしいやり方だ。

 各々(おのおの)が話す中、ロキが先に行動を起こした。


『早い者勝ちならもう行くか』


「あ、待ちやがれ!」

「じゃ、僕も!」

「俺も行くぜ!」

「え!? 私、出遅れた!?」


 そんなロキに続き、シュヴァルツ、グラオ、ゾフル、マギアの順で後を追う。この様な軽いノリで侵略されてはたまったものではないが、余裕の裏返しからなるノリと考えれば迷惑極まりない。

 グラオ、シュヴァルツ、マギア、ゾフル、ロキの五人は"ビオス・サナトス"の街中へ目にも止まらぬ速度で駆け出した。



*****



 ──"幹部の塔・裏側"。


『『『…………』』』


 ──一方の塔では、生物兵器の兵士達は依然として攻め続けていた。

 巨人兵士は既に半数以上をライが消したが、生物兵器というだけならまだまだ存在している。近場の兵士なら塔に居る主力が簡単に仕留められるので問題無いが、単純に武器を扱えるだけで遠方から大砲や投石が来るのでその点については面倒である。


「あの距離でやられたら面倒だな。私の魔術は簡単に届かせる事が出来るが、余波によって周囲を巻き込んでしまう」


 そんな塔の裏側にて、飛んで来る大砲の弾や岩をフォンセが風魔術からなる風の壁で防ぎ、反射させるように飛ばし返す。

 弾かれた大砲や岩は下方の生物兵器達を巻き込み、四肢を奪って行動不能にするが見る見るうちに生物兵器の兵士達は再生して直進した。


「面倒だな。大砲や岩を防げば下方の兵士達が攻めてくる。防がなければ塔に被害が及んでしまう。こうも数が多いと、相手をするのが面倒だな。質より量という考え方は間違っていないのかもしれない」


 大砲や岩を防げば防いでいる時間に他の生物兵器が前進する。しかし防がなければ塔が危ういという二竦みのジレンマ。

 フォンセの力を持ってすれば生物兵器の兵士達を片付けるのも楽に出来るが、なるべく街や塔に避難している住人へ被害は出さぬよう力を調整しているので難しいようだ。


「これは……流石に此処を一人で死守するのは大変だな。まだ姿を見せていない主力も気に掛かる。気配的にはレイたちの方に一つあるが……他の主力は不明のままだからな」


 周りを気にしなければフォンセ一人で全てを消し去れるだろう。しかし守りながら大勢と戦うというものはかなり難しい事を改めて理解した。

 しかし相手自体は割りと余裕を持って行えている。そうなると一番気掛かりなのはまだ姿を見せていない他の主力だ。

 フォンセが前線に出ればこの場の状況が全て丸く収まるが、その間にこの裏側を敵の主力達によって攻め落とされてしまえば元も子もない。敵の性格から徒党を組むような事は無さそうだが、万が一があるので動き出せないのだ。


「フォンセさん。俺たちの事は気にせず行って下さい。大丈夫ッスよ。きっと」


『ええ。塔の護衛を任されてその任務を遂行出来ないのは我ら幻獣の名折れ。きっと守って見せましょう』


「その心遣いは有り難いが……逆に危険極まりない気がしてきたからやはり私は残ろう」


 悩むフォンセを見兼ね、今居る兵士たちの中でも親しい方の魔族兵士と幻獣兵士が促した。しかしその様な事を言われては逆に不安になってしまう。俗に言うフラグというやつだろう。なので丁重に断るフォンセ。


「まあ、下方の生物兵器は簡単に消滅させる事が出来る。問題は大砲や岩を放って来る遠方の生物兵器だ。機械的で一定のリズムだから対処は難しくないが、機械的だからこそ下方の生物兵器達と噛み合って攻めにくくなっている」


 断ると同時に、現在の状況を兵士たちに知らせた。

 そう、ただ面倒なだけで別に苦戦している訳ではない。機械的で規則性があるので対処はしやすいが、全員が同じような考えだからこそ周りの動きを確認せずとも噛み合う動きが厄介なのだ。


「……。ふむ、良し。こうしよう。お前たちの言葉に甘えて数分此処を離れる。たった数分だが警戒を解くな。今からこの塔を遠距離攻撃に対応させる」


「任せてください! フォンセさん!」

『ハッ。貴女がそう言うのなら』

『んじゃ、俺たちも乗ってやるか。ずっと待ってんのは退屈だからな』

「かしこまりました。ハデス様が信頼している貴女の言葉に逆らう理由はありませんよ」


 遠距離攻撃と下方の生物兵器達を相手にしていたフォンセは何かを思い付き、人間・魔族・幻獣・魔物の兵士たちに指示を出す。それを聞いた者たちは全員が頷いて返し、フォンセは裏側から離れて数分後にリヤンも居る中央に到達した。


「……! フォンセ……? 見張りは良いの……?」

「リヤンか。ああ、少し相手の攻撃が面倒と判断してな。今から魔術で防壁を造る」

「そうなんだ……頑張って……」

「任せろ」


 軽く笑い、リヤンに返すフォンセ。リヤンもリヤンでやはり心細さは感じていたのか、フォンセを見た瞬間小さく笑顔になった。

 そしてフォンセが塔の中央に来た理由。それは大砲などを防ぐ防壁を造る為。確かに使用後も残り続ける魔術で防壁を造ればこれからの戦闘はグッと楽になるだろう。

 リヤンとの軽い会話を終えたフォンセは塔の上に登り、魔力を込めて全体に届くよう放出した。


「"被覆の壁コーティング・ウォール"!」


 瞬間、魔力からなる壁がこの塔を覆い、見る見るうちに塔が変貌する。

 その壁は柔らかいようであり、硬い壁。砲弾などの物は容易く跳ね返すだろう。ちょっとやそっとでは砕けないのでこれなら塔も安泰だ。


「これで良さそうだな。じゃあ、リヤン。私は裏側に戻る。中央の見張りは任せたぞ」


「うん……。フォンセも気を付けて……」


 防壁は貼った。裏側に兵士たちを待たせているのでフォンセは直ぐ様戻る態勢へと移行した。リヤンも状況は理解しているので頷いて返した。

 後は攻めてくる生物兵器を討つだけだが、主力の姿も見えていないのでまだ不安は多いだろう。なるべく急ぎ、フォンセは裏側の見張りに戻るのだった。



*****



「や。遅かったね。見張りの兵士達は倒しちゃったよ」

「フォ……フォンセ……さん……」


「……っ。貴様……!」


 ────そして裏側に戻った時、一人の兵士の胸ぐらを掴んで不敵に笑うグラオが立っていた。

 その兵士は顔面が変形する程に殴られており、周りには血の海が広がっている。その事からするに、グラオはかなり手加減をしたようだ。そうでなくては兵士達が全員塵と化しているのだから。


「遅かったか……たった数分。たったそれだけでこの有り様とはな。殺さずに生かしているという事はかなり手を抜いたようだな……! 貴様が来るとは……グラオ……!」


「うん。考えてみたら君と戦った事は無かったからね。それに、兵士達は連れて戻る予定だし、殺す訳にはいかない。まあ、連れて戻ったら何人かは尊い犠牲になっちゃうけど。それは関係無いよね」


 フォンセが離れていた時間はほんの数分。此処から中央に向かい、壁を貼って戻るまでの時間。その短時間で攻め込まれ、兵士たちを巻き込んでしまった。フォンセは歯噛みする。


「すまないな。お前たち。戻ってくるのが遅れてしまった……」


「ハハ。気にする事は無いよ。まさか数分でこうなるなんて誰も予想出来ないんだから」


「貴様が言うな! それに、私自身も薄々は何か嫌な予感がしていたからな。……他の主力は別の場所に向かったようだな」


「まあね。僕たちは目的は遂行するつもりだけど、自分が楽しめる事をモットーとしているからね。楽しくない事を嫌々やるなんて効率が悪い。ストレスが溜まる。つまらない。楽しんで侵略する僕たちは、基本的に攻めるのは個人的な行動さ」


 楽しんで行う侵略。だからこそ個人的に好きな場所へ攻めるのが良いらしい。

 ヴァイス達からすれば周りの被害は関係無く、最終的に街を制圧すれば良いのでその過程は自由で良いのだろう。


「やれやれ。その楽しみ方をもっと良い方向に持って行けば良いのにな。いや、私が言えた事ではないな。まあしかし、此処の見張りを任されたのは私だ。責任を持って兵士たちの借り、返させて貰おう」


「良いね。無駄話は必要無い。さっさと始めようよ。魔王の力とは何度か向き合っているから、魔王の魔術とも向き合いたかったんだ」


 魔力を纏うフォンセとそれを楽しそうに見やるグラオ。二人の間に緊張が走り、その緊張は最大限に高まる。次の瞬間にそれが張り裂けた。


「"火の槍(ファイア・ランス)"!」

「よっと!」


 フォンセが炎魔術からなる槍を放ち、グラオがそれを拳で迎え撃つ。それによって衝撃波が広がり裏側の一角が砕け、見張り窓から炎が漏れる。フォンセとグラオは塔から飛び出し、空中で向き合った。


「良いのかい? 見張り位置から移動しちゃって」


「これしか道は無いからな。塔内で戦ったら塔その物が崩壊してしまう。他の主力達が来たら全員が塔から外に出るだろうさ。お前達が個別に攻めるなら、塔の警戒は少し疎かでも構わないだろう。人数も此方の方が多いからな」


「それもそうだね。じゃあ、僕も遠慮無く攻めようかな」


「元より遠慮などするつもりは無いだろう"風の盾(ウィンド・シールド)"!」


 グラオが拳を放ち、フォンセが風魔術からなる盾でそれを防ぐ。その衝撃で二人は弾き飛ばされ、生物兵器の兵士達が居る裏側の戦場の中心地に着地した。同時にフォンセが両手を広げ、魔力を込め直す。


「周りの邪魔者は消しておこう。"(ファイア)"!」


 瞬間、裏側の戦場を炎が包み、生物兵器の兵士達を焼き払い細胞一つ残さず消滅させた。

 炎魔術によって生じた焔が風に煽られて揺れ、揺らめく炎の中で二人が向かい合う。


「別に僕が命令を下せば戦いの邪魔はさせなかったのに」


「私とお前の戦いは……な。護るべき塔には仕掛けられてしまうだろう。それでは元も子もない」


「ハハ。まあ、僕たちも目的の元に集っているからね。楽しむ事はモットーだけど、目的は達成しなくちゃね」


 塔を護る為に裏側の生物兵器達は消滅させた。まだまだ増えるだろうが、防壁も貼ったので暫くの間は裏側から攻められる事も無いだろう。

 フォンセとグラオ。実はまだ一対一サシで戦っていなかった二人の戦闘が始まる。

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