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七百八十四話 成長・無機質な世界

「オラァ!」

『『『…………!』』』

『……!』


 塔から離れたライは巨人兵士を次々と討ち滅ぼしながら進み、ついにはおそらく前衛の主力であろうバロールの元に到達した。既にバロールは見たら即死の魔眼を開眼させているが、ライには魔王の力が作用しているので即死の力を判断するよりも前に意図せず無限の耐性を得られている。問題無く魔眼を見ながら進み、バロールの頬を殴り付けた。


「そらよっと!」

『……ッ!』


 殴り飛ばされたバロールの肉体は崩壊しない。やはり魔人と呼ばれた巨人。相応の力を宿しており、そう簡単には砕けないのだろう。

 だが吹き飛ばされた事には変わりなし。そのまま真っ直ぐ進み、山を数座砕いて停止する。同時にライは降り、街中に着地する。そして自分の拳を一瞥した。


(まだ無効化以外の魔王の力は使っていない……俺自身も本気には程遠い……また力が上昇した気がするな……)


 それは、自分自身の力の変化を気に掛けた事。自分自身の力が強くなっている事に対してのものだった。

 ライはまだ魔王の力を無効化以外纏っていない。そもそも即死などのような自分にとって不都合な事に対する無効化は意識せずとも発動するが、それも今は関係無さそうな様子だ。ライ自身も魔王の一割に匹敵する力すら使っていないが、今の攻撃は魔王の三割に近いものがあった。

 そんな困惑するライの様子を見、魔王(元)は笑ったような声で話した。


【クク。別に不思議じゃねェだろうよ。お前は常に成長してんだ。あのヴァイスって奴がお前からコピーしたのはその成長力。……ー事は、だ。お前が意識しないうちに、お前の全力なら俺の全力に限りなく近い力を身に付けていても全くおかしくねェって事だよ。元々お前は、周りを巻き込まねェ為にトドメ以外は全力を使わないって枷を意識せず付けている。その枷を自由に外れるようになったと考えりゃ……ま、今の力は何らおかしくないって事だな】


(俺の手加減が……俺自身の力を底上げした……?)


 曰く、ライの今までの戦いにより、ライの力が本格的に目覚めたとの事。

 魔王(元)の言うようにライは今まで意図せず全力。その時点のライの全力、魔王の七割に匹敵する力をトドメ以外に使う機会は少なかった。

 しかし体内に眠る潜在的な強大な力。敢えてそれを抑え込み続ける事によってライ自身の肉体が適応する為に成長し、今や魔王の力に近い領域に達しているらしい。

 理屈ではよく分からない事だが、今のバロールに対する手応えは確かなもの。今、ライの力が完全に目覚めたと見て良さそうだ。


【ククク。素直に喜べよ。加えてお前はまだまだ発展途上だ。その発展途上は永遠に。永遠に続くだろうぜ。……つまり、お前が仮に俺を越える力を身に付けたとしても、更に進化と成長を無限に繰り返すだろうぜ】


(そんな馬鹿な。誰だって成長はするけど、それには必ず上限がある筈。無限に成長を続けたらそれはもう生き物の領域から掛け離れている)


【元々生き物染みた力じゃねェだろどう見ても。ま、俺もそうだがな。俺の勘は当たるんだ。お前は……お前とお前の力を取り込んだヴァイスは永遠に成長を続けるだろうぜ。もっと喜べよ。それはつまり、無敵の力が手に入るって事だ!】


(……無敵の力……別に欲しくないな。それに、イマイチ実感が湧かない。俺が死ぬまで成長するって事なら俺が死んだら止まるそれは無限の成長じゃないし、永遠って何だよ……)


 ライは自分でも成長を感じ取れている。だが、実感は無かった。

 魔王の言う無限の成長ならライが死した後も永遠に続くという事になる。それのみならず、例え宇宙が終わりまた新たな宇宙が始まりそれが終わる程の時間だろうが永遠に成長するという事。成長する肉体が無くなっても成長を続けるとはどういう事だろうか。


【ま、概念のような存在になるって事だよ。永遠に残り続けるのさ】


(それ、逆に不幸じゃないか? 永遠を生き続けたとしてもなぁ……)


【クハハ。なに。此処にゃあの世もある。輪廻転生や生まれ変わりってのも記憶を消しただけで元々は死んだ誰かなんだ。俺たちは最初から永遠に生き続けているんだよ】


(記憶が無くちゃそれがあったのかも分からないだろうさ。けどまあ、本当にそうなるかは分からないしな。権力者や何時終わるのか分からない程の長い夢を見る人からすれば永劫は夢かもしれないけど)


 永遠。それは人によって様々な印象を持つだろう。

 ある者からすれば終わりなき苦痛。地獄。ある者からすれば終わりなき絶頂。幸福。まさに人それぞれだ。

 何はともあれ、成長を続けるという事にも実感は無く、一先ずそれは置いておく事にした。


(まだバロールは倒していないし、そろそろ起き上がるか?)


 今は攻められている途中。なのでのんびりと会話をしている暇などなかった。

 バロールの吹き飛んだ方向を見、まだ決着は付いていないと判断する。それと同時に遠方から灼熱の業火が放たれた。


「来たか……」


 全ての大海を炎海へと変える程の炎。それを前にライは拳を作り、正面に放ってその炎を一瞬で消滅させる。その瞬間に大地を踏み砕き、先程バロールを吹き飛ばした山目指して加速した。


「位置は多分……彼処か!」

『……ッ!』


 そして見つけた巨人。バロール。

 山の上に横たわるバロールはライを見るや否や炎を放ち、ライは掌で軽く仰いでそれを消し去る。同時に空気を踏み抜き、そのまま加速してバロールの腹部へ拳を叩き込んだ。

 それによって山が沈み、大地が陥没する。それなりの距離を飛ばしたのでそこに墓地は無く、巨大なクレーターは造られたが周りへの影響も少なく済んだ。


『……』


「こんなものか。成る程ね。成長……少し実感が湧いた。あのバロールを数撃で倒せるのか……このバロールも伝承のバロールとは別人なのか……。言葉は失っていたし後者の線が高いな」


 その一撃で動かなくなったバロールの上に、少しは力を実感したライが佇む。言葉を失っているこのバロールが本物かどうかは分からない。しかし今まで主力たちが苦労しながら戦っていた存在を数撃でダウンさせる力。確かに強くなっているのかもしれない。ライはバロールから飛び降り、森の中に着地した。


「これがお前の実力か。この者……バロールを打ち倒すとはな」


「ハデスさん。貴方も来たんだな」


「ああ。此方の方向から攻めてきたから、もしかしたら敵に関する情報を掴めるんじゃないかと思ってな。だが見たところ、その者達は居ないようだな」


「みたいだな。まあ、居ないと思っても唐突に現れる事はよくあるんだ。俺たちにも気付かれないレベルで気配を消せるからな」


「成る程。それは厄介だな」


 ライがバロールを倒した所にやって来たハデス。ハデス以外の気配も遠方に感じるので何人かの兵士達と共にヴァイス達を探しに来た事が分かる。それでもライの様子はうかがっていたようだが、敵意も無いのでハデスの質問に返した。

 ヴァイス達は気配を消す事が出来る。それも、ライたちに気付かれないレベルでだ。此処に存在する空気のように消せるのである。その気になれば大陸一つ全体の気配を感じられるライから消せるのは最早もはやそれを能力と言っても過言では無いだろう。


「だから姿を見せてあげるよ。ライに人間の国No.3の幹部さン?」


「「……!」」


 それと同時に声が掛かり、ライとハデスが振り向き様に蹴りを放つ。それを声の主は消え去るように避け、ライとハデスはその者の方へ視線を向けた。


「な? 言っただろ。こう言う奴なんだ。ヴァイスって人物は」


「成る程。よく分かった。あの距離まで詰め寄るとなると先に仕掛けられるタイミングはあっただろう。だが、敢えて仕掛けず黙認していた。そして余裕のある面持ちで話し掛ける……そう言う性格なのか。面倒なものだ」


「フフ、面倒とは酷い言い様だ。性格は生まれた時に決まるンだ。私の性格は生まれつき……仕方の無い事さ」


 ヴァイスのおこなった一連の行動を見、軽く笑って話すライにその性格を理解するハデス。

 当のヴァイスは全く表情を変えずに笑い、生まれつきの性格なので仕方無いと告げる。そして二人に向き直り、更に言葉を続けた。


「さて、私の狙いは君達だ。……あーそれと、ハデスの方かな。君が連れてきた兵士達だけど、私は手出しをしないでおくよ。あくまで今回の狙いは君だからね。ハデス」


「そうか。だがその言い方……既に生物兵器の兵士とやらをけしかけている可能性は高いな。兵士たちは一時的に退かせるとしよう」


 ヴァイスの言葉から兵士達の身を案じ、懐から何かを取り出した。


「それは……成る程ね。合図を出す狼煙筒か。染色によって行動を指示するもの。当然持っているか」


「ああ」


 軽く返し、狼煙筒から警戒色である赤を放出する。狼煙というものは敵に知られぬように自分達で色などを決めるものだが、ハデス達は分かりやすい色を選んだようだ。

 しかし放ったのは"今すぐ逃げろ"を示す赤。ヴァイス達の実力は本人からしたら未知数だが、確かな警戒はしているらしい。


「さて、狙いは私だと言っていたな? ライから話は聞いた。攻撃を受けるとその攻撃を模倣するとな。それによってこの国でもヘパイストスの能力を模倣したらしいではないか。……だが、それを気にしている暇は無い。さっさとお前を倒し、この戦争を終わらせるとしよう」


「へえ? 模倣される事を承知の上で攻めてくる……か。良いね。私としてもその方が有り難い」


「まあ、俺も居るし、シュヴァルツやグラオが居ないなら大丈夫そうだな」


 ハデスはヴァイスが相手の力を模倣する事は知っている。しかしその為に手を抜いては勝てない相手と理解したのか、関係無く攻めるらしい。

 加えて今はライも居る。少なくともこの街では最強の二人が揃ったのだ。分は此方の方が良いだろう。ハデスは両手に力を込め、それを横に薙いだ。


「さて、周りを巻き込みたくはない。付き合って貰うぞ。ヴァイスとやら」


 ──瞬間、世界が流転した。

 白い光が周りを飲み込み、世界がライ、ハデス、ヴァイスを中心に廻って様々な彩色を映し出す。その色が混ざり合い、辺りには仄暗ほのぐらい灰色の世界が創り出された。

 世界は一変し、周りに立ち並ぶは崩壊した建物に黒い木々。空は白く、白くて暗い。漆黒の大地に連なる黒い建物は悪夢の世界にでも迷い込んだのではないかと錯覚させる景観だ。


「此処は……?」


「此処は……おそらく命無きモノ達の集う世界だ。冥界とは違い、生き物以外の命の無い"物"に限るがな。まあ、建物や木々。命無き物と言っても様々。実際の所はこれが本当に死んでいるのか、まだこの世界で生きているのかは分からない」


「不思議な世界だな……」


 周りを見、ライがハデスに訊ねた。

 ハデス曰く、命の存在しない物が集まる世界らしい。だが本人も言うように木や建物と関連性が無く、既に死んでいるような物があるので自分でそう思っているだけで実際の所は不明らしい。

 この世界を簡単に表すならライたちの世界から人を消し去り、白黒灰色に染めた感覚。

 ライはヴァイスに視線を向けつつ更に質問をする。


「何でアンタは……いや、アナタはこの世界に来れるんだ? 今の言い方だと何故来れたか自分でも分からない様子だ」


「うむ。本当にその通りなんだ。私が冥界を行き来出来る力を使えるから此処もその一種だろうと勝手に考えているだけ……推測の段階だな。本当に此処がどんな世界なのかは分からない。だが、私の力で行く事が出来る。広さも何も分からない世界だな。だから、これから戦うとして都合は良いだろう」


 全てに置いて不明な世界。しかし様々な物があり、それなりの広さもある。ライとハデスにヴァイス。世界でも随一の実力者達が戦うに当たって好都合な世界だろう。

 そして、この世界に来てから黙り続けていたヴァイスが口を開く。


「成る程ね。確かに戦闘には持ってこいの世界だ。これなら周りを巻き込んで貴重な人材を失う事も無いだろう。……まあ、兵士達は然程さほど貴重な材料でも無いけど」


「ハッ、待っててくれたんだな。優しい事で」


「フフ。攻撃してもメリットは無いからね。今回の目的は力を手に入れる事。どうせ仕掛けても避けられるンだ。この不思議な世界の説明を聞いていた方が有意義だろう?」


「本当に面倒臭い性格のようだな。まあいい。さっさと終わらせて街に戻るとしよう」


 ライ、ハデス、ヴァイスの三人が向き直る。突如として移動した生気の感じられない無機質な世界。この世界に居る生き物はライ達三人だけ。手間が省けて丁度良いだろう。

 塔の方に敵が攻めている中、世界を移動したライ達による戦闘が始まった。

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