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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第五章 魔法の街“タウィーザ・バラド”
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七十七話 大樹の内部

 ──"タウィーザ・バラド"。


 大樹を目指して歩くエマ、フォンセ、リヤンの三人は、大樹へと向かうついでに街並みを眺めていた。


「……ある物と言えばそれぞれの季節が違う花、広場の真ん中にある噴水、そして遠方には山のような、丘のような物……改めて見ると自然が多いのだな。この街は……」


 そして街を眺めるフォンセが言う。そう、その街には人工的な物よりも自然的な物の方が多かったのだ。

 恐らく、魔法・魔術に使える物を多く生産する為に自然を多くしているのだろう。

 知っての通り、魔法には道具が必要不可欠だ。その道具は様々だが、一番役に立つ物は自然が生み出した薬草・霊草である。

 薬草というのは文字通り薬品へと変わる草。霊草というのは自然から恩恵が与えられ、薬草よりも様々な効果を持つ草類だ。

 有名どころではマンドラゴラや優曇華うどんげ、知恵の樹にユグドラシルなどがある。

 しかし知恵の樹やユグドラシルはあまりにも規格外の為、この街"タウィーザ・バラド"で育てる事は不可能だ。

 話の趣旨がずれたが、要するに魔法・魔術に役立つ物は植物であろうが何であろうが活用する。という事である。


「まあ、自然が多いというのは良い影響を与えるものだ。人や魔族は酸素を吸って生きるからな。……多過ぎると毒になるが……酸素を放出する自然が近くにあるのは利点も多い。まあ、生物学上では死者の私には関係無いがな」


 そしてエマはフォンセの言葉に返すようつづった。

 そのような事や他の事をを話ながら進むエマ、フォンセ、リヤンの三人は、"タウィーザ・バラド"の街並みを楽しんでいる。


「……私……この街……好きだな……」


 リヤンは街の植物を眺め、呟くように言う。

 自然と共に成長したリヤンは幻獣・魔物のみならず、植物類なども好きなのだろう。


「ふふ……確かに落ち着く街だ。賑やかといえば賑やかだが、自然が多いからか空気が澄んでいる。妙に安らぐな……」


 街の植物が生み出す空気を肌に感じながらリヤンの言葉に返すフォンセ。

 何度も言うが、魔法・魔術が盛んという事で必然的に植物が多くなるのだろう。

 先程の場所から少し歩き、気が付けば三人は一際賑やかな場所に辿り着いていた。


「……祭り……? ……いや、それとは違うものか?」


 その場所には人だかりが出来ており、何やら盛り上がっていた。そこにある看板に書いてあったのは──


『"タウィーザ・バラド""魔法・魔術"披露宴"薬草・霊草"展覧会会場~開催期間は……』


 ──という文字。

 それを見るに何かしらの行事が行われているようだ。そして、興味深そうにそれを見つめるのはフォンセとリヤン。二人は一点を見つめるよう、ジーっと眺めていた。


「……どうする? 寄りたそうな表情だが?」


「「…………!」」


 二人の様子を眺め、そんな二人、フォンセとリヤンに笑いながら話すエマ。

 エマの言葉を聞いたフォンセとリヤンはハッとしてそちらから目を反らす。


「ふふ……私は別に構わんよ? 二人はこういったものに興味がありそうだからな。魔法・魔術の街……それに自然も豊富……魔術師のフォンセと自然好きなリヤンにとってはこれ程相性の良い組み合わせは無いだろう」


 エマが言ったのは、魔術師のフォンセと自然好きのリヤンがこの街のイベントを気にするのはおかしくないという事。

 魔術師のフォンセは魔法・魔術について詳しく知れればそれが自身にも仲間の為にもなるかもしれないから。

 そして自然が好きで、まだエマたちには話していないが神の子孫であるリヤンは自然を知る事によって、自身の理の力を知ることが出来るかもしれないから。

 このように、二人にはこの街を知る事で得る事の出来る利点が多いのだ。


「で……でも……私の為に本を解読してくれるのに……私が自分勝手に行動しちゃ……」


「私もだ……。折角エマとリヤンが協力してくれるっていうのに……私が勝手な行動を取るのは……」


 そして、そんなエマの言葉に対して申し訳無さそうな表情で返すフォンセとリヤン。お互い自分の為に他の者たちの邪魔をしたくないのだろう。


「やれやれ……二人とも意地を張っているな……なら、大樹に行った後にでも寄ろうではないか。"開催期間は……"と、書かれておる。つまり今日だけではなく数日間やっているという事だ。それなら問題ないだろう?」


「ああ、確かにそれは名案だ」

「うん、賛成……!」


 エマの意見に笑顔で賛同するフォンセとリヤン。

 "タウィーザ・バラド""魔法・魔術"披露宴"薬草・霊草"展覧会には大樹の後に行くという事で纏まったのだった。

 それから、街の様子などを眺めたりはしているものの、特に寄り道などもせずに目標であった大樹の前へ辿り着いたのだった。


「取り敢えず図書館かどうかの確認のみ、そして軽く調べたら残りは明日……という感じで良いのか?」


「ああ、魔族の街の夜は何処だろうと混んでいそうだからな。軽く見て回ったら人が少なそうな明日詳しく調べた方が良い気がする」


 エマがフォンセとリヤンに本をどうするかを聞き、それにフォンセが返す。

 怪しげな本を調べるのなら人が少ない時の方が良いという意見に纏まる。


「うん……。私もそれが良いと思う……」


 そして二人の言葉にリヤンは頷き、三人の意見が一致する。

 こうしてエマ、フォンセ、リヤンの三人は大樹の中へ入っていくのだった。



*****



 ──"タウィーザ・バラド"、大樹の中。


 その大樹の中に入り、始めに飛び込んできた光景は豪華ごうか絢爛けんらんなエントランスルームだった。

 大樹の中とは思えない程平滑(へいかつ)な床に天井から吊るされているシャンデリア。

 受付のような場所には職員? がおり、多くの人々。もとい魔族達が行き来していた。この様子を見る限り、この大樹はそれなりの建物なのだろう。


「……さて、この様子じゃそれなりの資金がいる筈だろうが……いくら持ってきている? 私は金貨五枚だ」


「私も金貨五枚だな」


「私も……」


 エマ、フォンセ、リヤンが懐から金貨を取り出し、互いに見せ合う。因みにこの金貨は、いつぞやのペルーダと戦った時に入手した戦利品である。

 その金貨は資金としてライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテに分けてあるのだ。


「……まあ、三人合わせて金貨十五枚……十分に足りるだろう。むしろ多過ぎるくらいだな」


「そうだな」

「うん……そうだね……」


 それを確認したエマがフォンセ、リヤンに言い、それに頷いて返す二人。

 何はともあれ、これならば特に何事も無く大樹の奥へ入れる筈だ。


「ようこそお越し下さいました。此処は"タウィーザ・バラド"最大の建物でございます。入場料を払えばこの建物の中をご自由に見学できます」


 そこに行くと、定型文ていけいぶんのように淡々とつづる職員のような者が居た。

 女性のようで長髪。職員のような服を纏う者。恐らくこの者が職員で間違いないだろう。


「じゃ、これで」


 そんな職員を前に、懐から金貨を取り出し、取り敢えずスッとその金貨を一枚差し出すエマ、フォンセ、リヤン。


「……金貨一枚ですね。それがあれば御三人方様でも二、三日は無料で御利用できますが……どうします? 二、三日御利用するのであれば此処に名前か、自分を自分と証明できる物を書いて下さればその時点で登録され、二、三日は御利用出来ます」


 その金貨を一瞥した職員はエマたち三人に向け、名前を書くか自分の事を証明できる印を書けば無料でこの建物を利用できると言いながら証明書のような紙をエマたちに差し出す。

 金貨一枚にはそれ程の価値があるのだろう。しかしそれも当然だ。金貨一枚は銀貨十枚と銭貨百枚分の価値なのだから。


「……そうだな……。よし、分かった。じゃあ、名前ではなく私を私と証明できる事を書こう」


 職員の話を聞き、それは都合が良いと考えたエマは名前を伏せて職員が差し出した紙に──


「筆は要らぬ……私はこれで書くからな……」


 ──『指を噛み切り』、それによって生じた血液で印をつけた。


「……!?」


 それを見た職員はポーカーフェイスで変化しなかった表情を変え、驚きながら若干引いていた。突然指を噛み切ったのだ当然だろう。

 エマをヴァンパイアと知っているフォンセとリヤンは気にしなかったが、一般的な魔族である職員が驚愕するのは無理もない事だ。


「……あ、あのぅ……一体何を……?」


 そしてその事を理解しにくかった職員は、顔を引きつらせながらエマに尋ねる、そんな職員に対してエマはフッと悪戯っぽく笑いながら返す。


「ふふ……何でもないさ。私を私と証明できる物は私の血液が丁度良かった。……ただそれだけだ。案ずるでない、血で文字を書くなど造作もない事だ。自分で言うのもなんだが……私は治癒能力が高いからな。明日には傷口も塞がっているだろう。またそこを傷付けるから血痕から私を私と証明できる」


 エマが言った事はエマがヴァンパイアだからこそ出来る荒業。そして明日も血液を紙に付けると言う。確かに血痕を調べれば同じ者と分かり、偽造される事もないだろう。


「そ、そうですか……。で、ではこの館内の地図を差し上げます……。これに先程の血液を張り付けますので、明日は傷付けなくとも大丈夫ですヨ……?」


 突然の行動に唖然としながら館内の地図を差し出す職員。

 これに証明できる物を張り付ける事によって偽物を作り出さないようにしているのだ。

 奪われる可能性もあるが、奪われた者が悪いというのは魔族の国全体に伝わるルールのようなモノ。奪われたとしても再発行は出来ない事となっている。


「すまないな。では」


 それだけ言い、受付を後にするエマ、フォンセ、リヤンの三人。そして三人は館内の奥へ向かい、探索を始める事にした。



*****



 ──"タウィーザ・バラド"宿の前。


 一方のライ、レイ、キュリテの三人が一通り物事を片付け、少ない荷物を宿に運び終えた頃。先程まで違和感のあったライの様子も少し戻ってきていた。


「……よし……と……。これである程度は済んだか?」

「そうだね。本当に宿があった……」

「しかも中々良いところなのに結構安いらしいよー?」


 ふう。と、軽く息を吐いて運んだ荷物を確認するライ。

 ライの様子が少しだけ戻ってきており、レイとキュリテは安堵したようにライへ返す。


「いやぁ、何か悪かったな。急に疲れが出て来てさ。……まあ、少しの疲労だから問題は無い。ちょっと疲れただけだからな」


 "疲れ"や"疲労"と言う言葉を強調するライ。明らかにおかしい様子だが、レイとキュリテは敢えて何も言わなかった。こういったモノは大体自分で解決するものだからである。


「……相談できる事があったら言ってね? 仲間なんだから……」


「……ああ」


 しかしレイに無視をするという事は出来ず、心配そうにライへ言う。キュリテも近くでライを見つめ、ライは空返事をした。


「まあ、頃合い……? が来たら話すさ……。今はこの街"タウィーザ・バラド"だっけ? を探索しなきゃな」


 ハハ、と軽薄な笑みを浮かべてレイとキュリテに話すライ。

 いずれ話してくれると言う事で一旦この話を終え、ライ、レイ、キュリテの三人は宿の外に出た。



*****



 ──"タウィーザ・バラド"、大樹の中にある場所。


「……さて、と……この場所で最後か?」


「……みたいだな」

「うん……」


 大樹の中に入ってから数分。エマ、フォンセ、リヤンの三人は内部を地図通りに行き、大樹の内装をそれなりに理解した。

 そして今三人が居る所が見て回った部屋の最後の場所となっている。


「この樹にあったのは"売店"・"図書館"・"食堂"・"宿泊部屋"・"入浴場"・"実験室"……か。他にも幾つかあったな。軽い宿代わりにもなりそうだ」


 エマが地図を見ながらチェックを入れる。その大樹にはあらゆる施設が設置してあり、数々の利用法方がありそうな所だった。


「そして本命の図書館も見つけた……。なら、今日はこれで終わり、あとは明日詳しく調べる……といったところか……」


 そんなエマの言葉に続くようにフォンセが言う。

 今日の目的は本を調べるという事だけでは無く、この街の地形を知るという事もある。

 つまり、図書館を見つける事に成功して街の地形を多少理解できたという成果は上々なのだ。


「だな。恐らくライたちは宿を見つけているだろうから……あとはライたちと合流してこの大樹の事を話す……だけで良いな」


 フォンセの言葉に頷いて返すエマは、ライ、レイ、キュリテのメンバーと合流する事を優先にするらしい。

 此処は魔族の国。ライたちならば何かがあっても対処出来そうではあるが、やはり心配ではあるのだ。


「そうだね……。けど……ライたちの居場所って分かるの……?」


 そして、そんな会話をする二人に尋ねるリヤン。

 ライたちが宿を見つけていたとしても、ライたちを見つける事が出来なくては意味が無いからだ。


「フッ、大丈夫だ。私は五感が優れている。ライたちの匂いを追ってライたちの所に辿り着くなんて朝飯前だ」


「最悪、私の魔術もあるからな」


「そっか……」


 フッと笑いながら話すエマとそれに続くフォンセ。

 そんな二人を見たリヤンは不安そうな表情が無くなり、軽く笑って返した。


「じゃ、ライたちを探すついでに先程の"魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会とやらでも見に行こうではないか。人が多ければ魔法関連の装備をしていない私たちが目立ちそうだからな。もしライたちが居たとしても目立つだろう」


 エマは親心のような心境でフォンセとリヤンを、先程二人が気になっていた会場へと誘う。

 無論、エマの言うように互いが互いを分かりやすいという利点もある為その会場に行くのは正当法でもある。


「そ、そうだな。……確かにすれ違いになるよりは人の多い所で目立つ仲間を探した方が早い気もする……!」


「うん。うん……」


 フォンセとリヤンもぎこちなく口角を少し上げつつ、少しだけ目を動かしながらながらエマの言葉に賛成する。

 やはりこの二人は気になっていたのだろう。見ていると嬉しそうな表情をしていた。


「ふふ……ならばこの図書館では明日調べものをするとして、先に会場あそこへ向かうとするか……」


 普段見せないフォンセとリヤンの様子に思わず口元がほころびそうになってしまうエマ。

 そしてエマが笑いを堪える中、先ずは"魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会へ行くことになった。

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