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七百七十四話 神

「此処が聖域の入り口か……もう大分整備は整っているんだな」


「ええ。その通りです。危険がありそうという理由で内部探索はしておらず、拠点作りが関の山でしたが……それもあって施設は充実しております」


「ハハ。確かにそうだな。色々あり過ぎて一つの街があるんじゃないかって思ったくらいだ」


 鎧を纏い、剣を腰に携えた勇者が四つの国の境界線が交わる所に現れた聖域へと来ていた。──ああ、これはまた夢の続きか。勇者の様子から、一晩が明けて朝から探索しに来たって感じだな。

 ご先祖様。夢の中だけど、昨日の夜スピカさんたちと何を話したんだろう。帰れなくなる? 必ず帰る? それとも、私にはご先祖様たちの日常が分からないけど、何時もと変わらない事を話したのかな……。

 此処が聖域……。夢の中だからか、白み掛かって何が何だか分からないな。確かに何かがそこにある。それしか分からない。

 みんなの声……聞こえる……。みんなもこれを見ているのかな……。


「ハハ。確かに街みたいなものですね。今回の自然災害は世界的に影響を及ぼしています。各国の協力の元に建てられた拠点ですから。並大抵の街よりは環境も整っていますね。まあ、魔王亡き今、別れてしまった人間の領域。魔族の領域。幻獣の領域。魔物の領域。その四つの地点の中心なので聖域以前に危険は多いのですけど。作業の間にも様々な妨害がありましたよ」


「成る程な。確かに魔王討伐の功績もあって今は人間を中心に世界は広がりつつあるけど、各々(おのおの)には自分達の住むべき領域はある。全ての境界線が交わっているとは言え、拠点を建てられるのは領域を侵されるのと同じだからな。妨害する気持ちも分かる」


「そうですか? まあ確かに自分の領域が荒らされるのは嫌かもしれませんね。けど、自然災害の影響は他の領域にまで及んでいる筈……それを阻止しようとしているのに妨害されるのは大変ですよ」


「まあ、意志疎通が出来ないんじゃ仕方無いからな。幻獣や魔物には自然災害も俺たち人間の仕業って思われている可能性もあるさ。自然災害が起き始めてからこの場所が建てられたんだから、何かの影響があると思われるかもしれない」


 確かに勇者の言う通りかもしれない。事情があったとは言え、住み処を荒らしてしまったのだから。自然災害が続いているとも言っていたし、他の動物達もストレスとかでピリピリしていそうだ。

 不可抗力って言うのかな。少し違う気もするけど……確かに第三者からすれば突然現れた建物に前から続く自然災害で関連性があるって考えるかも。幻獣と魔物は知能もあるし……。

 調査も一筋縄ではいかないという事か。伝承として大体が伝わっている今と違い、まだ誰が犯人なのか分かっていない事からするに、原因不明の災害なのがまた質が悪いな。

 私の先祖が引き起こした自然災害……それの所為で皆が迷惑している……。今はもう過去になった出来事だけど……だからこそ過去に迷惑していた事実は変わらないで固定されている……。本当に悪い事していたんだ……私の先祖……。


「聖域に同行する他のメンバーは居るのか? このままだと俺一人で行く事になるけど。まあ、俺的には一人の方が周りを巻き込む心配も無いから都合が良いけどな」


 視界と場面が急転回し、拠点の出入り口付近から聖域の前に来ていた。まあ厳密に言えば聖域は俺の目には見えないので本当に近くへ来たのか確認のしようは無いが、何となく聖域の近くに来たと分かるのだ。

 またご先祖様は一人で行こうとしている。笑顔を絶やさず、皆の希望として。たった一人で。ご先祖様は孤独な旅をしていたけど、周りに向ける顔はいつも変わらない笑顔だった。何で辛く苦しい事が待っているかもしれないのに笑っていられるんだろう……。一人の方が周りを巻き込む心配が無いって言っているけど……本当にそれで良いのかな……。

 自己犠牲の精神……とは少し違うな。勇者にはそれを実行出来る力がある。まあ、当時は魔王討伐の功績はあれど自らを犠牲にする者と思われていたのかもしれない。遥か未来である現代の私たち視点からすれば全てを解決した事実が伝承に記されているからな。それで上手く行っているのだろうが、当時の評価はどんなものだったのか、悪くはないようだが気になるものだ。

 一人での旅と行動……もう家族の皆とも別れている筈……かつての勇者は寂しくなかったのかな……。


「同行者は何人かおります。やはり人類初の聖域捜索……邪魔にならぬよう行動はしますのでご了承下さい」


「この記録、今後の事も考えて保存しておくのは利点が多いですからね。我々研究者も目を輝かせていますよ!」


「ハハ……まあ、安全って保証は無いから気を付けてくれよ」


「「「はい!」」」


 どうやら同行者は十人程らしい。当時の人類に入った記録は無いらしく、人類観測史上初となる聖域の探索。確かにこの人数で行くのも頷ける。

 それでも、今の時代に記録は残っていない。何でなんだろう? 当時聖域に何人かが入っていたなら、長い歴史で失われていたとしても記録の一つや二つあってもおかしくないのに……。

 記録者が何らかの理由で記録を出来なくなった……? 死んだか、それとも出られなくなったか。はたまたそのどちらでも無いのか気になるな。

 疑問は色々あるけれど……私たちの視界に映る人達は聖域に向けて進んで行く……。


「……! は、入れないぞ!?」

「何だこれ!?」

「オーイ、勇者様ーっ!」


 ──そして、誰も入る事は出来なかった。ただ一人、勇者を除いて。

 成る程な。それで記録が残っていないのか。死んだとかじゃなくて、誰も入れなかった。

 何でご先祖様は入れたんだろう……強さ? 優しさ? 精神力? 何だろう……どれもピンと来ない。

 だが、勇者もそれには気付いたらしい。着いて来ない研究者達に視線を向け、そちらの方向に歩み寄ろうとしている。

 けどその時……私たちの……勇者や研究者達の耳に声が聞こえてきた……。


《来たか……勇者とやら。お前と会うのを楽しみにしていたぞ。退屈なこの世界にて舞い降りた面白そうな存在よ。エラトマを打ち倒し、よくぞ此処まで辿り着いた》


「……その声……聞き覚えは無いが、多分聖域の主だな? ハッ、アンタがこの聖域を開いたんだろ。辿り着くって程じゃねえよ。姿を現せ! 仰々しい話し方しやがって!」


《ああ。姿は見せてやるさ。だが、お前が我の元まで到達出来たらの話だがな。この話し方も色々と考えた。名乗り遅れたが、我は世界を創った神だ。厳格そうな話し方の方が神としての威厳も保てるだろうと考えた次第さ》


「そんな理由かよ! つか、神って……まあこの際神ってのはどうでもいい。神にも名はあるんだろ? 名乗るべきはその名だよ自称神! 何が目的で聖域を開けたのかもついでに教えろ!」


《我が儘な奴だな。声を届かせるのも面倒だと言うのに。ならば名乗ろう、我が名は『ソール・ゴッド』。奴と共にかつてこの世界の全てを築いた創造主だ》


 ──声の主……かつて世界を創造し、そして数千年前に滅ぼそうとした元凶、かつての神……! まさか、この夢で神の名を知る事になるとはな……!

 神様の名前は……神……? 自分以外の神は認めない……そんな雰囲気の神様。

 かつての神。成る程な。伝承として勇者も神も魔王も名は伝わっていないが、勇者や魔王は兎も角、神はあながち間違っていなかったという事か。

 ソール・ゴッド……。それが私の先祖の名前……ソール・フロマやゴッド・フロマじゃないんだ……。じゃあ……私の姓……"フロマ"は……正真正銘……母さんの……。


「ハッ、奴ってのが気になるが……それは置いておく。神の名前が神ってどういう事だよ。安直過ぎるな」


《神なのだから仕方無いだろう。それと、まだ質問も残っていたな。此処を開けた理由だが……単純に我はお前を認めたからだ。我に認められたからこそ、我はお前に通る許可を出した。ただそれだけだ》


「許可……か。まあそれもいい。最後に聞きたいんだが……アンタが今まで起きた災害の元凶か?」


《そうだ》


 ──即答だった。

 俺たちは数千年に渡って途切れず続く伝承で知っていた事だが、当の勇者達からしたらとんでもないカミングアウトだな。けど成る程。勇者しか行けなかった聖域での会話が伝承に残っている理由は、神が他の者達が居る中で話していたからか。けど、全ての元凶って言うのは魔王討伐後の話だったのか。婆ちゃんに聞かされた話では魔王も含めて神の仕業みたいに書かれていたし、少し変化して現代に伝わったんだな。

 あっさりとした肯定……退屈していた神様からしたら拒否をする理由も無いからだよね。逆に私のご先祖様が本気で挑んで来るって楽しんでいそう。

 しかしまあ、思ったような性格でも無いかもしれないな。神という存在は。割りと明るい。厳格な話し方もイメージを大切にしたと言っていたな。

 私の性格……どっちに似たんだろう……。先祖のような感じじゃないし……やっぱりお母さんかな……。


「そうかよ。何でそんな事をするんだ? 俺は一応正義の味方みたいなものだからな。返答次第じゃ実力行使に行かせて貰う」


《力で解決する正義の味方か。正義の定義は分からないが、お前にとっての我が自称神ならお前は自称正義の味方だな》


「ま、そう思ってくれて構わないさ。さあ、教えてくれよ。アンタの目的をな。神!」


《ならば言おう。なに。単純な目的だ。その前に前提として、先程我は退屈していると言っただろう。それを頭に入れておけ。……さて本題だ。単刀直入に言えば、退屈だから全生物を滅ぼそうと思ってな》


「……! 全生物を滅ぼす……言ってしまえば、この世界を終わらせるって事か……! 退屈って理由だけで……!」


《まあそうだな。しかし一つ訂正してやろう。全生物が消えて世界が終わるという訳ではない。それは生物であるお前の価値観だ。生き物が居なくとも顕在している星は多数あり、宇宙もその一つ。お前の言う"世界"が人間・魔族・幻獣・魔物。そしてその他の生き物が創ったものを示すなら確かに世界は終わるが、我の見下ろすモノを示すなら我が居る限り世界は未来永劫残り続ける》


「ハッ、じゃあこの世界は……俺たち生き物が居る事で顕在している世界って事だよ!」


《成る程。それなら訂正は要らぬな。世界は終わる》


 世界の崩壊。神がおこなったその方法は分からないが、此処で研究者達にも世界を終わらせる事が伝わっている。これも後の伝承か。この聖域の近くで伝承の大半が記録されたって事なんだな。

 今まで見てきた様子からしても、ご先祖様はそれを許す訳がない。神様はそれを踏まえた上での行動なのかな。けど、本当に終わらせるつもりだったみたいだし……。

 それを聞いた勇者がどんな反応をするか、考えるまでも無さそうだ。

 私の先祖……完全に悪人だよね……もう……。……私も世間から見たら悪人だけど……。


「じゃあそれを阻止するのが俺の役目だな。オイ、アンタら。そう言う訳だ。ちょっと神様倒してくるからこの記録を王様に伝えてくれ」


「は、はい! 分かりました!」

「何人かは残る予定ですので、お気をつけください!」


《フフ、我を倒すか。それは朗報だ。直接会ってみたい。さあ、世界が滅ぶ前に来るが良い……勇者よ!》


「ああ。んじゃ、行くか。聖域に!」


 勇者は腰に手を当て、自分の剣を確認する。それと同時に先を進み、俺たちの視界は白く染まった。


 ああ……。また終わるんだ。此処で夢が。名残惜しい。もうそろそろ、ご先祖様の姿も夢に出てくる事は無くなりそう……。


 肉体は無いが、身体に妙な浮遊感が生まれる。ふふ、朝か。この続きは何週間後になるんだろうな。寝るのが楽しみだ。


 初めて聞いたご先祖様の声……それは勇者にしか興味が無くて……本当の悪人だった……けど……日記を読んだから……本当に退屈していたのが分かる……。



 ()たちは意識が遠退き、聖域に踏み込む勇者の背中を眺める事しか出来なくなっていた。

 しかしそれは紛れもなく、伝説の記録の一ページ。

 視界が完全に消え去り、()たちはまた長かった微睡みから目覚めた。



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