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七百七十三話 炉の女神とブドウの神の街・終結

 ──"人間の国・炉とブドウの街・フォーノス・クラシー"。


 ヘスティア、ディオニュソスとの戦闘を終わらせたライたちは合流し、フォンセとリヤンの力をもちいて戦闘で傷付いた幹部二人を治療した。

 傷は癒したが目覚めるにはまだ少し掛かるだろう。その間にライたちは今回の戦闘についての会話を行う。


「エマとフォンセも勝ったみたいだな。山の位置が少し下がっていると思うけど……戦闘が原因か?」


「まあな。色々あって戦っている途中に外へ移動した。それでまた色々あってこの様だ。やはり神というだけあってかなりの実力だった」


 エマたちの勝利も確信したライは山の座標が少し下がっていると気に掛かり、それに対しての返答は取り敢えず色々あったらしい。

 しかしエマが端折るのならディオニュソスが中々の強敵だった事は分かる。山の座標が下がったのもそれが原因と理解し、やはり幹部には相応の力があるという事が分かった。


「ディオニュソス……ブドウの神でこの力か。まあ、確かに伝承でも変身してたし、旅で信仰を集めていたみたいだから身体能力が高くてもおかしくはないな。余波だけで山の座標を下げるレベルの力は少し強過ぎる気がするけど」


「……。それは……それ以上の力を使える君が言うと皮肉に聞こえるね……」


 ディオニュソスの力についてライが考えている時、一つの声が掛かった。ライはそちらを向いてそのまま言葉を続ける。


「……気が付いたみたいだな。気分はどうだ?」


「それを侵略者の君が聞くとはね。気分自体は不思議と悪くない。治療を施してくれたんだな。それについては感謝しよう」


 その者、この街の幹部ディオニュソス本人。治療してから然程時間は経っていないが、起き上がる事は出来るようだ。確かに傷は完治しているので意識さえ戻れば完全復活出来るだろう。

 そんなディオニュソスの感謝にライは返答した。


「ハハ。感謝なら俺じゃなくてフォンセとリヤンにしてくれよ。戦いが終わった今なら教えても良さそうだ。俺たちの中で回復を行うのはこの二人なのさ」


「成る程ね。とてつもない治癒能力だな。死なない限り一瞬で完治出来そうな程だ」


「まあ、そうだな。二人の力なら死なない限り治せるし、エマの力なら種族が変わるけど死んだとしても治せる」


「ハハ……驚き過ぎて声も出ないな……」


 どうやら大丈夫そうだ。傷を治しても侵略者相手には警戒するのが普通だが、ディオニュソスは人柄からかその様な事は無いらしい。先代ディオニューソスと性格も少し変わっているので今のディオニュソスは寛大なのだろう。

 そんなディオニュソスに続き、ヘスティアの方からも声が届いた。


「どうやら、決着は付いたようですねぇ。皆さんお元気で何よりです」


「決着は付いたって……一応アンタが自分から敗北を宣言してたんだけどな……」


「あら、そうでしたかぁ? 意識を失う前後の記憶が曖昧ですねぇ……頭を強く打ったから記憶が飛んでしまったようです」


「それを自分で直ぐに理解出来るのは凄いと思うな……」


 ヘスティアの言葉に疑問を思い浮かべるライだが、どうやら攻撃のショックで少し記憶が飛んだらしい。しかしそれを冷静に把握するヘスティアにレイは苦笑を浮かべる。


「じゃあ、改めて言って置きましょうか。コホン。この戦いはアナタ達の勝利でぇす。おめでとうございまぁす。パチパチパチパチ……」


「ハハ、まあいいか」


 記憶が曖昧ながら、現在の状況から敗れた事は理解した。なので改めてライたちの勝利を祝い、自分でも言いながら拍手をする。

 ヘスティアの性格からライも取り敢えず納得し、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とヘスティア、ディオニュソスの二人は改めて向き直った。


「それでは、決着も付きましたしぃ。早速……」


「……」

「「……」」

「「……」」


 真剣な表情でライたちを見るヘスティア。これから何かを言うつもりのようだが、ただ事では無さそうである。

 ライたち五人も真剣な面持ちとなり、ヘスティアの言葉に耳を傾ける。それを確認し、ヘスティアは本題を告げた。


「お城の修繕。その他諸々を宜しく頼みますねぇ」


「……はい?」

「え?」

「「……」」

「……?」


 その言葉を聞いたライたちは素っ頓狂な声を上げて小首を傾げる。その予想外の言葉に一瞬何を言ったか分からなくなったのだ。

 ライたちの反応を見たヘスティアは軽い笑みを浮かべて言葉を続けた。


「えぇ? だってぇ、そう言う約束だったんじゃないですかぁ。忘れたとは言わせませんよぉ」


「ああいや、勿論覚えては居るさ。覚えているけど、やけに真剣な顔付きだったから……」


「ふふ。それは当然真剣になりますよぉ。だって自分の家なのですからぁ。半壊で済んだのが奇跡なくらいですもの。しっかりと手伝って下さいねぇ」


「ああ、そりゃ手伝うけど……」


 ヘスティアとの約束。確かに城の修繕は約束であり、ヘスティア達が暮らしている事から大事な事の一つである。ライたちも覚えている事だ。

 だが珍しくヘスティアの真剣な顔付きだった事も相まり、思わず出てしまった反応だった。

 何はともあれ、ライたち五人は城の修繕を手伝う事にした。



*****



「ふう……思った以上に大変な作業だったな」

「うん……腕が疲れちゃった……」


「確かに大変だな。魔法や魔術を使わずに修繕しなくてはならないとは」


「それがこの街の方針なのかもしれないな……確かにブドウ栽培や店に売っていた炉にも魔法や魔術のような力は使われていなかった……」


「うん……」


 修繕開始から数時間後、ライたちは一仕事終えて城の貴賓室にて休憩をしていた。

 建物にしても日用品にしても、物を造るという事柄に対して魔法や魔術を使わない"フォーノス・クラシー"の方針。今までの修復作業が楽だった事も相まり、ライたちも大分堪えていた。


「お疲れ様。後は俺が見ておくから、君たちはそのまま休んでいて良いよ。はい。これ餞別。この国じゃ、ヴァンパイア以外はお酒を飲める年齢じゃないからブドウの絞り立てジュースだ」


「あ、ああ。ありがとう、ディオニュソス」


 しかし修復作業に数時間費やした事もあって、後はディオニュソスが最終的な確認をするのみとなっていた。

 なので大方の事を終わらせたライたちは貴賓室に呼ばれ、たった今ディオニュソスから渡されたブドウジュースを飲んでいる状況だ。当然毒なども入っておらず、新鮮で甘酸っぱさが癖になる美味な味わいだった。


「この国にも色々あるんだな。大抵の事は魔法や魔術で解決出来るけど、"フォーノス・クラシー"みたいに人々の力を合わせて発展させている街もあるみたいだ」


「うん。皆で街を形成しているんだね。何か良いなぁ。こう言うの」


「ふっ、敢えて苦労を楽しむ方針か。確かにディオニュソスもブドウ畑でその様な事を言っていたな。それが奴の言う試練という事か」


「そう言えばそんな事も言っていたな。ブドウ畑だけじゃなく、街全体の方針だったのか」


「へえ……そうだったんだ……」


 ディオニュソスはエマとフォンセにブドウ畑でこの街のあり方を話した。それは街全体での事だったらしく、その様にして生活しているのが"フォーノス・クラシー"なのだろう。

 ライ、レイ、リヤンはエマとフォンセの話を興味深く聞いており、ライたち五人は暫し談笑を続けていた。そしてそこにヘスティアが姿を現す。


「皆さんお疲れ様でぇす。暑い中よく頑張ってくれましたぁ。まさか山の座標まで戻してくれるとは思っていませんでしたよぉ。それのお礼と言いますかぁ、汗も掻いたでしょうし、お風呂の準備が出来ましたよぉ」


「ああ。分かった。ありがとう」

「分かりました」

「ふふ、確かにライたちは汗を掻いているからな。く言う私も日差しの下での作業だったから少し疲弊している」

「戦闘方面以外での苦労は久し振りだった。風呂に入るのも悪くない」

「うん……」


 どうやら湯殿の準備が出来たようだ。ヘスティアの姿が見えなかったのはそれが理由だったようである。

 ともあれ、程好い疲労と掻いた汗。それもあるので風呂に入るのは悪くない。城の修繕も終わったのでライたちはその言葉に甘える事にした。



*****



 ──"フォーノス・クラシー・城の中・浴場"。


「……。それで、何でアンタも居るんだ? てか、また混浴なんだな。この風呂」

「ふふ。折角ですからねぇ。それに、混浴も一種の文化ですよぉ」


「男性もライだけみたいだしもう慣れたから良いけど……ヘスティアさんは気にしないの?」

「ええ。私から見たらエマさん以外は子供のようなものですからぁ。それに、元々混浴のあり方からして恥ずかしがる理由はありませんよぉ」


 準備された風呂に入った時、何故か居たヘスティアにライたちは困惑する。

 今現在の並びはライ、ヘスティア、フォンセ、リヤン。向かい側にレイ、エマというもの。

 そんなヘスティア曰く、折角だからとの事。本人の性格からそれならそう言う事なのだろうと納得出来るが、レイは異性と共に風呂に入るのを気に掛けていた。それについてはライの年齢的に平気らしい。そう言えば以前もシュタラとその様な事を話したなあと思い出す。何はともあれ、諸々の理由から平気なようだ。


「それで、アナタ達はこの国を征服しようとしているらしいですねぇ。幹部達を全て倒し、支配者も倒す事を前提で」


「ハハ、突然真面目な事を言うんだな。けど、ああ。そのつもりで人間の国に来たんだ」


「ふむ……それなら何故もう一方のように所構わず攻めないのでしょう? その方が手っ取り早いと思いますけど」


「それは俺の趣味じゃないんだ。まあ、侵略者の俺が言うのも変な話だけどな。俺の望む世界征服は平和の為の世界征服さ」


 ヘスティアの疑問は当然の事だった。実際、ただ世界を手にしたいだけなら実力行使で良いだろう。

 しかしライの場合、より良い世界の為に一度世界を手にしようと考えている。人々がおらず、自分たちの手によって殺戮の限りを尽くされた世界など何も残らない。この星がただの岩石に成り下がるだろう。それをしない為にも主力のみを狙ったやり方という訳だ。

 それもそれでおかしな気もするが、齢十四、五の少年なりの考えという事だろう。最も、旅の日数からして今の年齢は十五、六となっているが。


「平和の為の世界征服……世界征服は初耳ですねぇ……けれど、それを置いておいても矛盾しているようにも思えます」


「まあそうだな。けど、それが目標なんだ。無闇むやみ矢鱈やたらに攻めはしないさ」


「……」


 湯に浸かり、自分の目標を話すライ。ヘスティアはそんなライを見やり、レイ、エマ、フォンセ、リヤンに視線を向ける。

 その様な事を目標にする以上、何らかの苦労があった事はうかがえる。それが何かは分からないが、とても悲しい事だったのかもしれない。ヘスティアはそれを察して軽く笑い、言葉を続けた。


「ふふ、そうですかぁ。苦労したみたいです……けど、応援する事は出来ませんねぇ。私に出来るのはこれくらいです」


「「「…………!」」」

「え!?」

「……?」


 言葉を続けながら唐突に、ライ、フォンセ、リヤンの三人を胸に抱え、両手で抱き寄せた。柔らかな感覚がライたち三人を包み、更に続ける。


「親の居ない孤児を守るのが私の役目。立場上は敵ですけど、アナタたちの事は見守っていますよ。ライさん。フォンセさん。リヤンさん」


「「「…………」」」


 ライ、フォンセ、リヤンの三人は落ち着く感覚に包まれ、身を委ねる。エマは動きを見せず、レイは赤面しているが、何も言わずにその光景を眺めていた。

 炉と家庭の女神にして、孤児の守護神ヘスティア。敵という立場でありながら、親の居ないライたちの事を思う気持ちは強かった。

 ライ、フォンセ、リヤンとレイ、エマ、ヘスティアの六人は、湯船にて心身を癒すのだった。



*****



 ──"人間の国・フォーノス・クラシー"。


 風呂から上がり、次の街へ向けて進む準備を終えたライたち五人は街の外側にあるブドウ畑付近にやって来ていた。既に街の外へ出ているので、後は先を進むだけである。


「さて、これくらいか。此処も良い街だったな。炉とブドウの街"フォーノス・クラシー"……」


「ああ。何となく、離れ難い気持ちもあるな……」


「うん……」


 準備は終え、街の外から眺めるライ、フォンセ、リヤン。その風貌は何処か名残惜し気だった。

 しかし気を取り直し、改めて五人で先を急ぐ。


「今はもう日も暮れてきている。別に今日くらいなら残っても良いと思うが?」


「うん。ヘスティアさんもディオニュソスさんも良い人だから別に何も言わないと思うよ?」


「ハハ。そうすると益々(ますます)離れ難くなる。当初の目的は征服だからな。ヴァイス達の捜索も必要だし、のんびりはしていられないさ」


「ああ。今回の事は、貴重な体験として記憶に留めておくとするよ」


「うん……」


 親の居ないライたちの事を気遣い、レイとエマがまだ滞在しても良いと話すが、ライたちには目的があるのでそれを断った。フォンセとリヤンも同意見らしい。

 本人たちがそう言うのならと、レイとエマはこれ以上野暮な真似はしなかった。


「さて、行くか。次の街にな」

「うん!」

「「ああ」」

「うん……」


 先を進む為、"フォーノス・クラシー"を背にライたちは歩み出す。これにて六人目と七人目の幹部との決着も付け、目標にまた一歩近付いた。

 長かったこの旅も、後半に差し掛かるにつれてそろそろ終わりとなるだろう。それが終わった時、世界がどうなるのかは誰にも分からない。


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人が行く人間の国征服の旅は、順調に続くのだった。


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