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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第五章 魔法の街“タウィーザ・バラド”
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七十五話 洞窟

 ゼッルたちやフェンリルたちと別れ、"イルム・アスリー"を旅立ってから数時間後。ライたち一行は大口を開けているかのような洞窟の前に居た。


「……こ……此処に入るの……?」


「……ああ……まあ、確かに不気味な見た目をした洞窟だけど……仕方ないだろ……?」


 レイが聞くように言い、ライが返す。

 キュリテの超能力で次の街へ向かえば良いと思うかもしれないが、"暗黙の了解ルール"を聞いた今、ライたちは無闇にキュリテの超能力を頼ってはいけないという思考に至ったのだ。


「別に問題ないのにねぇ……私も出現する場所を考えれば……」


「いや……そういう訳にもいかないだろ。キュリテが良くても俺たちが良くない。それが原因で敵に情報が渡ったら苦労するのはキュリテ何だからな。……まあ、幹部やその側近はキュリテの超能力に気付いている奴が多いって聞いたが、それはそれだ」


 キュリテは気にする事は無いと言うが、ライは気にしないという事が出来なかった。何故ならそれによってキュリテを危険に晒してしまう可能性があるからだ。

 例えば、"レイル・マディーナ"や"イルム・アスリー"からライたちの事が魔族の国全体に伝わっていた場合、キュリテの事も報告されている筈である。

 幹部の側近というだけで魔族の国では知名度が高い。ダークやゼッルがキュリテの事を言わずとも、他の誰かが言っている可能性もある。楽に移動したいが為に仲間を危険に晒すというのは、ライが許せないのだ。


「まあ、見た目は不気味な洞窟だが……多分問題無いだろ……包囲された状態の可能性がある敵地の真ん中に飛び出す方が何倍も危険だ」


「ライの言い分に一理あるな。しかも今は夕刻……魔族は活発に動く時間帯だ。闇雲に超能力や魔術を使うものじゃない。魔力を感じ取れる者がいたら即アウトだからな」


 ライが言葉を続けて言い、それに返すエマ。それら二つの言葉に同調するように頷いたレイ、フォンセ、リヤン。

 そう言われてしまえば納得せざるを得ないキュリテ。こうしてライたちは不気味な夕刻の洞窟に入って行く。



*****



 ──"イルム・アスリー"付近の洞窟。


 ピチャン、ピチャン。と、水滴が天井から零れ落ち、洞窟内に音を響かせる。水滴が当たっている場所は昔からあるらしく、水滴によって小さな穴が空いていた。

 夕刻の洞窟という事もあり、外から射し込む沈み行く夕日のかすかな光みが視界を映し出す明かりとなる。

 この洞窟を歩く陣形は、ライとエマが先頭を行き、真ん中にレイとリヤン。後方をフォンセとキュリテで囲む形となっている。

 人間よりも闇夜で目が利くのは魔族とヴァンパイアだからだ。

 なので闇で目が利かないレイとリヤンをライ、エマ、フォンセ、キュリテで囲んでいるのである。

 一番危険な先頭は一番の実力者であるライと一番闇で目が利くエマが、死角から攻められる可能性のある後方は視野が魔術や超能力で広いフォンセとキュリテが、一番安全な真ん中は一番動きにくいレイとリヤンが。と、行動が制限される洞窟ならではの陣形となっているのだ。


「なあ、キュリテ? この洞窟って凶暴な生き物ってどれくらいいるんだ?」


 それから、ライはキュリテにこの洞窟に棲んでいる幻獣・魔物で危険なものはどれくらい居るのかを尋ねる。

 その数によって危険度が明らかになるからだ。無論、多ければ多い程危険である。


「そうだねぇ……。まあ、魔族の国にしても何処の国にしても……野生の獣は気性が荒いのが多いからねー。どれくらいかはちょっと分からないかなー……」


 キュリテは相変わらずの態度でライの質問へ返した。答えはよく知らないとの事。

 確かに野生の生き物というのは何処にでも居る。だからこそ、その詳しい数は把握できないのだろう。


「そうか。……まあ、数が多いって事が分かればそれで良いか。ありがとなキュリテ」


 キュリテへ礼を言い、前を向くライ。

 何はともあれ、ホイホイと楽に行ける洞窟ではないという事は確かだ。


「そういや……。今更だけどフェンリルやユニコーンに……何故かブラックドッグ? とイフリート? が居たけど……あの二匹は何なんだ? フェンリルとユニコーンは着いてきた……って可能性が高いけど……」


 そして、次に気になっていたフェンリル、ユニコーン、ブラックドッグ、イフリートの事をリヤンに尋ねる。

 ライが気になった事は、"レイル・マディーナ"近隣の森に置いて来た筈のフェンリルとユニコーンが"イルム・アスリー"に居た事と、見覚えの無いイフリートにブラックドッグが居た事について。フェンリルやユニコーンはまだ分かるとして、他二匹が理解不能なライ。


「えーと……ハウンドとリートは相手が連れてきた子で……フェンとユニは勝手に着いてきちゃったみたい……お陰で助かったけど……怪我は治したけど休ませる為にあの街に……」


「ハウンド? リート? フェンにユニ……名前を付けていたのか……いや、それはまあ良いとして……そうか、確かに接戦だったらしいからな。怪我が治っても疲労が取れない可能性がある。休ませるのは良い事だ」


 それに返すリヤンの言葉を聞き、ライは肩を竦ませて返す。名前を付けていた事に思わず聞き返してしまったが、まあどうでも良い事だろう。

 どうやらフェンリルたちは休ませる為に置いてきたらしく、それは賢明な判断だと思うライ。

 一先ず話が纏まったところで、ライは言葉を──


「じゃ……早速奥へ……」



 ──"行くか"。とは、続かなかった。



『『『グオオオォォォォォッ!!』』』


 耳を突くような鳴き声、それは人間や魔族のモノではなかった。それと同時にライたちを囲み込むその影。


「ハハ、早くもお出ましか……えーとコイツらは……"リザードマン"……だっけ?」



 ──"リザードマン"とは、蜥蜴トカゲのような身体を持った幻獣である。


 その姿は蜥蜴トカゲそのもので、蜥蜴トカゲが二足歩行をしているのを思い浮かべると良いだろう。


 リザードマンには人語を話す者もおり、知能もそれなりにあると謂われている。

 だが、それは悪魔でそれなり程度。その為大体は本能で行動する。


 リザードマンにはリザードマンの言語もあり、人や魔族と話し合ったりする時以外はその言葉でコミュニケーションを取る。


 そしてその皮膚は強靭で、剣や弓矢が当たっても掠り傷が付く程度しかダメージを受けないらしく、それに加えて治癒能力も高いのでその掠り傷は直ぐに癒えると謂われている。


 武器を扱う事も出来る為、手には剣、胴体には鎧。と、それらを纏っている。

 リザードマンは力も強いが、主に剣や弓矢などの武器を扱って戦闘を行う者がほとんどだ。


 割りと温厚な面もあり、縄張りに入ったり勝負を仕掛けなければ襲わない事もある。

 しかし、そもそもの性格が荒っぽい為、一度目を付けられたら面倒だろう。


 二足歩行の蜥蜴トカゲで力が強く、一匹でも厄介な幻獣、それがリザードマンである。



「……成る程……此処はリザードマンの巣だったって訳か……。……いや、数居る幻獣・魔物の中で、この場所がリザードマンの縄張り……って考えた方が良いな……。縄張りに入ったら襲い掛かる……か……」


 ライはリザードマン達を一瞥する。その様子を見たところ、リザードマンが持っている剣と鎧は古い物で所々に錆がチラついているのがよく分かる。

 何にせよ、リザードマンの性格から逃げる事は無理だろう。話し合いが出来る様子でも無い為、やむを得ずにライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテはリザードマンへ構える。


「けど、此処は……」

「私とライに任せてもらおうか……?」


「「「「…………!」」」」


 そして六人が構える中、ライとエマが名乗り出た。

 リザードマンは正面から来た為、陣形的にはライとエマが相手をするべきと考えたからである。怪訝そうな表情をする四人に対し、ライは言葉を続けて話す。


「レイたちは闇で目が利かない……フォンセたちは魔力を感じ取られる可能性がある……。だから此処は闇で目が利き、魔力をあまり使わない俺たちに任せて欲しいんだ……」


 リザードマンを見ながら横目で確認を取るライ。フォンセたちがリザードマンと戦ったとして、魔力がメインのフォンセや暗闇で目が利きにくいレイとリヤンでは少しばかり問題が生じる。それを懸念しライとエマが前に出たのだ。

 レイ、フォンセ、リヤン、キュリテはため息を吐いてライの言葉へ返す。


「うん、分かった。確かに私じゃ剣の範囲的にも私の五感的にも足を引っ張りそう……だからライとエマに任せるよ」


「……そうだな。確かにこの程度の奴らが相手なら、わざわざ六人で挑むこともない」


「え……? そうなの? なんか二十人? 匹? くらい居るけど……」


「問題無いと思うよー? ライ君とエマお姉さまはね♪」


 先ずはレイがライとエマに話し、それに続くようフォンセ、リヤン、キュリテもライに言った。暗闇で目が利き魔力を使わないライとエマ。確かにこの二人の方が洞窟での戦闘は良いだろう。

 何故ならそう、次の街に魔力を感じる事の出来る者が居た場合、フォンセとキュリテに問題が生じてしまう恐れがある。暗闇で利き難い目を持つレイとリヤンは敵の格好の的。という事だ。

 そんな会話を広げている中、ライとエマに向かってリザードマンが飛び掛かる。


『『『グオオオォォォォォッ!!』』』


「……やっぱ話し合いは無理か……」


 リザードマンの様子では、やはり話し合いが出来るという感じでは無かった。

 なのでライは、


「オラァッ!」


『ガギャ……!?』


 殺さないように手加減してリザードマンを蹴り飛ばした。先ずは正面から接近してくる一匹に蹴りを放ち、その一匹の後ろに居るリザードマンを巻き込んで吹き飛ばしのである。

 吹き飛ばされたリザードマンは洞窟を貫通し、見えないところまで吹き飛んで行った。


「……さて、これで五匹は沈んだか……? まあ、治癒能力も高いらしいから直ぐに目覚めそうだがな……」


 吹き飛んでいく様子を眺め、リザードマンの耐久力を思考するライ。殺さない程度の蹴りだが、魔物という時点で普通の生物よりは高い生命力を所持している事だろう。


「まあ、要するに……行動不能にすれば良いのだろう?」


『『『………………!?』』』


 次にエマが立ち、エマの紅い目に睨まれた数匹のリザードマンの動きが停止した。

 そして、


『『『グオオオォォォォォッ!!』』』


『『『…………!!』』』


 次の瞬間、エマに睨まれた数匹のリザードマンが仲間へ向けて攻撃を仕掛ける。

 エマの──ヴァンパイアの持つ能力、"催眠"だ。

 数が多く、あまりり騒ぐ事が出来ないのなら敵を操り、敵で敵を抑え込めば良いという事である。


『ガギャァ!?』

『グオォォ……!』


 突然仲間が攻撃を仕掛けた事により、困惑の表情を浮かべる他のリザードマン。

 操られているリザードマンに意志がある筈もなく、そんな仲間に構わず剣を振り回して攻撃を続ける。


「ハハ、流石エマだな。俺のように構わず吹き飛ばすよりも効率が良い倒し方だ……なッ!」


 その様子を見たライは笑いながらリザードマンを蹴り飛ばす。

 リザードマンの一匹は壁に埋もれ、一匹は壁を突き砕き、残りも似たような状況になる。そしてみるみるうちに二十匹近く居たリザードマンは数を減らしてしまい、残りは七匹程度となっていた。


『『『ギャアアアァァァッ!』』』


 そして、そのリザードマンは倒れている仲間を連れて悲鳴のような声を上げて逃げ出した。

 勝てないと悟った相手から逃げ出す。それは野生で生き延びる上で重要な事である。


「一丁上がり……ってやつか?」


「そうだな。厄介な幻獣だと思っていたが……思いの外そうでもなかった」


 パンパンと汚れや埃を払うように手を叩き、一仕事終えた表情で話すライとエマ。ほんの少し暴れただけだが、その洞窟の入り口付近は崩れ落ちていた。


「…………。……取り敢えず……この洞窟を使う者もいるだろうし……岩だけでも退かしておくか……」


「……そうだな」


 そして、崩してしまった洞窟の岩を退かす事にしたライとエマは、岩を砕いて横に追いやった。


「……だが、入り口付近ってのにもかかわらず……早速幻獣が現れたからな……。……魔物もいるかもしれないし、警戒する事に越したことはないな」


「「ああ」」

「「うん」」

「そうだねー」


 ライの言葉に返事をする五人。何はともあれ、リザードマンの件について解決した為、洞窟の奥へ向かうライ一行だった。



*****



「……はあ、これで全部か……?」


「……みたいだな……」


 洞窟の奥へ進んだライたちは、名を持たない野生動物を倒していた。

 凶暴ではあるが有名ではないとは、これ如何に。それは人の形をしている獣の為、分類的には獣人だろう。無論、殺してはいない。

 今居る所は洞窟の真ん中より後ろ辺りの場所だ。日の光は完全に入らなくなっており、今ある光は洞窟の隙間から見えている月の光のみだった。


「ふう……割りと入り込んでいる洞窟だし……幻獣・魔物もやっぱ多いな……」


 謎の獣人を倒したというもう一つの仕事を終え、一息吐くように壁へ寄り掛かるライ。そして微かな月の光を見るライはふと思い付いた事を話す。


「……そういや……一つ気になったんだけどよ……」


「「「「「…………?」」」」」


 ライの言葉に反応し、首を傾げるレイたち五人。そんな五人を一瞥しつつ、ライは頭を掻きながら彼女らへ尋ねる。


「……前で指揮を執るように立っていて……此処まで来ながら言うのも何だが……この洞窟って分かれ道が多かったし……今俺たちが居る所って、出口に向かっている場所だよな? 一応風を感じる方向に向かっていたけど……」


「「「「…………え?」」」」


 突如としたライの告白に、キョトンとした表情のレイ、フォンセ、リヤン、キュリテの四人。

 実を言うと、ライは自分たちが向かっている方向をよく理解していなかったのだ。その洞窟はライが言ったように入り込んでおり、此処に来るまで多種多様の分かれ道があった。

 困惑の表情を浮かべる四人と、申し訳無さそうな表情をしているライを見たエマが、フッと笑って言う。


「ふふ……案ずるな。ライが風を感じた方向に向かっていたと言ったが、それは正しいかった。……私は五感が鋭くてな、人よりも強く感じるんだ。ライが向かっていたのは紛れなく出口の方向だ」


 ヴァンパイアのエマは五感が強く、あらゆる事を人よりも感じやすい為この洞窟に入った瞬間その地形を理解していた。なのでライの方向に間違いは無いらしい。


「……そうか、良かった。俺が間違えていたらエマたちを危険に晒してしまうからな……いやいや、合っていて良かったよ」


 それを話したエマに対し、ライは安堵したように言う。そんなライに向け、キュリテは笑って言葉を発する。


「まあ、いざという時は私の超能力があるし。迷っても問題無いよ? 洞窟の地形は普段通らないから分からないけどね!」


 洞窟の事をよく分からないと自信満々に言うキュリテ。ある意味ではこういった思考の方が良いのかもしれない。


「ハハ……じゃあ、此処を真っ直ぐ行けば出口なのか?」


 そして、ライはエマに洞窟の事を詳しく聞こうとする。

 エマがその地形を把握しているのならば無駄な回り道をせず、真っ直ぐ出口に向かった方が良いと考えたがらだ。


「ああ、そうだな。まあ、強い幻獣・魔物は気配を探してもそれっぽい物は居ないが……先程の獣人やリザードマンのような気配は幾つかあるな」


 エマはライの言葉に頷いて肯定こうていし、特に時間を要する事無く出口へ行けると言う。


「そうか。……よし、じゃあ行くかぁ!」


 それから暗闇の道を進み、襲ってくる幻獣・魔物を軽くあしらったあと、


「良し……! 彼処あそこが洞窟の出口か……!」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人はその洞窟を抜け出し、出口の光射す方へ向かって行ったのだった。

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