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七百六十話 長い夢路

「ノヴァ……本当に行くの……?」


「ああ。王様に招集されたんだ。行かない訳にはいかないだろう。最近の天変地異……宇宙の異変……その原因が分かってきたんだからな。『ソル』と『ルナ』。そして『ティエラ』には上手く言い訳をしてくれ。結果次第じゃ簡単には帰れないかもしれないからな」


「…………」


「ハハ。そう心配するなって。俺はこの世界を救った英雄だぞ? 簡単に言えば、今の世界最強は俺なんだからな。そんな世界最強の夫が居る世界一の妻、スピカ・ミール。何時ものように夫の帰りを待っていてくれ」


 ──またあの夢の続きか。その様子を見ているけど、会話の内容からして何やら世界に異変が起きているらしい。その事から、勇者はこれから城に向かうようだ。

 ソルにルナ。そしてティエラ。子供たちの名前かな。もしかしたら子供たちとももう会えないのかもしれないけど、私の御先祖様……勇者ノヴァ・ミールは何時も笑顔を絶やさない。辛く苦しかった旅でも、今生の別れになるかもしれない今と言う過去でも、何時でも一人で笑っている……。

 これが勇者の性格か。世界の異変は恐らく……かつての神が起こした世界滅亡の序章だろう。

 前までは幸せそうな家庭を持っていたかつての勇者さん……私の先祖が原因でこんな事になるなんて……。


「と、当然だよ。けど、やっぱり不安だよ……。例えこの世界で貴方が一番強くても……異変は宇宙の星々にまで影響を及ぼしているらしいし……。もしも相手が宇宙その物だったら……この小さい星の世界最強でも……」


「だったらその時は宇宙最強にでもなるか。……なんてな。ハハ、大丈夫だ。まだ何が原因かの推測でしかない。多分今回は早いうちに帰れる」


「今回……"は"……なんだね……」


「今後があるかもしれないからな。世界の異変はただ事じゃない。魔王が目覚めた説があれば、誰かの実験説。中には神の仕業なんじゃないかと色々噂されているよ。大丈夫。心配するな」


 不安そうなスピカさんの頭を撫でる御先祖様。あれ? スピカさんも私の御先祖様だから……御先祖様の頭を撫でる御先祖様……? けど、どちらにしても心配させないように振る舞っているみたい……。

 信頼はしているようだが、やはり不安なのか。まあその気持ちは分からなくもない。勇者は私の祖先を仕留めた剣を背負い、家の外に出る。

 夢だからなのかな……一瞬で場所が変わっちゃった……。私の視界には豪華絢爛な装備品……。そしてレッドカーペットの先に勇者を始めとした兵士達と……少し老いた王様が映っている……。

 世界レベルの問題って言っていたな。成る程。確かに大事になっているみたいだ。


「来てくれたか……勇者ノヴァよ」


「はい。……けど、勇者と久々に呼ばれましたね……やっぱり少し違和感があるような……勇者という名も、厄災が原因でそう呼ばれるようになったので、比較的平和な今は普通にノヴァで構いませんよ」


「残念ながら……平和というものに程遠くなっているのかもしれぬのだ。今回我々が突き止めた原因からしてもな……」


「……!」


 王の言葉に、勇者はピクリと反応を示した。……ふむ、確かに伝わっている伝承では様々な問題が神の仕業とされている。平和ではないな。少なくとも。

 私の先祖の所為で……勇者のお陰で平和になった世界が荒れてきている……。何が目的で……何をどうやって世界中の全生物を滅ぼそうとしたのかは伝承の範囲でしか分からないけど……やっぱり私の先祖は悪い人なのかな……。あ……人じゃなかった……。

 他の声が聞こえる。皆も居るみたいだ。しかし、今まで見たり聞いたりした話からはてっきり神本人が勇者達に宣言したのかと思っていたけど、色々な災害が前兆にあったのか。確かに婆ちゃんから聞いた伝承にも悪い出来事は色々起こっていた。みたいに言われていたな。

 突き止めたってどうやったんだろう……。御先祖様が居た国は結構大きな国だったのかな? 確かに今の人間の国は世界的に見てかなり発展しているけど、まだ魔族や魔物が蔓延はびこっていた昔は国や街を発展させる事も難しそうだけど。


「突き止めた……? 今までの災害は人為的に行われていた事という訳ですか。確かに天候を操ったり世界を壊せる者は今までも何人か見て来ましたけど……魔王亡き今のご時世にそんな事をするとは……。せめて俺が死んだ後とかならまだしも、世界最強で最凶の魔王を倒した俺が居るのにそんな事をするなんて……魔王軍の残党か何かが原因ですか?」


「まあ待て。先ず、お主の質問に答えるなら魔王軍の残党ではない。不本意ながら、魔王に関わった者達はみな処刑されてしまったからな……。話し合えば分かると思っていた。しかし人々はそれを拒んだ。何人かは魔王軍の拠点だった土地に逃げ延びたようだが、おそらく魔王の血族はもう居ないだろう……」


 スッと寂しいような遠い目をしてそれを話す王様……。どうやらこの王様は魔族や魔物を生かしたかったみたい……。

 魔族の一斉処刑。そして逃げ出した者達。育ちは人間の国だけど、魔族である俺には思うところがあるな。確かに大多数の魔族や魔物は魔王に便乗して悪行の限りを尽くしたんだ。相応の罰は与えられて然るべきなんだろう。けど、同族がこの様な目に遭うのは良い気分じゃないな……。

 王様は"人々"って言っていた。だから、人間達の魔族への差別意識はこの時代から始まったのかな……。危険因子の排除……皆は魔王の再誕を恐れているのかな……それとも……自分達にも分からない何かに怯えているのかな……。

 幼かったとは言え、戦闘用の奴隷だった私はまだ幸運だったのかもしれないな。それか幼い私が屈強な戦士や凶暴な生き物に勝てる訳無いと踏んだ処刑の一環だったのかもしれないが。


「…………」


「確かに脅された訳でもなく魔王に加担した者達は明確に悪と言えるだろう。だが、私は思う。ただ血が繋がっているだけで鬼や悪魔と恐れる必要があるのかと。事は環境が決めるのかもしれないとな」


「……。ええ、俺もそう思います。無垢な子供や血縁者だからと言って恐れて排除するのは間違っていると。まあ、本元を落としたのは紛れもない俺なんですけどね」


 どうやら王様と勇者は一方的な制圧を望んでいなかったみたいだ。しかし世間はそれを許さなかった。多分、俺や婆ちゃん。そしてフォンセが人間の国でも生きてこれたのはこの二人の意思が人知れず受け継がれていたからなのかもしれない。まあ、確かに世間には苦しい思いをさせられていた事実があるし、警戒するのは理解出来るけどな。

 この時のしがらみが大きくなって、数千年に渡って続く人間と魔族の関係かぁ……。私が見た魔族は私が人間って分かっても普通に接してくれたし……人間の国にはその懸念が独り歩きしているだけなのかも……。

 面倒臭いものだな。しがらみというものは。みな同じ生き物。普通に接すれば良いだけなのに。

 世界には色々な問題があったんだ……。魔族の国の森にずっと居た私には何も分からない……。伝わらない事だったみたい……。


「しかしまあ、この問題はまた後日に話すとしよう。今は災害の出所についてだ。人間の領域と魔族の領域。魔物の領域と幻獣の領域。魔王が消え去った事で今は世界が四つに分断されてしまったのは知っているな? 偶然か否か、その四つの領域の中心に"聖域"への道が現れたらしい」


「聖域……? ……それって、神話の中だけの存在ですよね? 神が居ると云われていて、全宇宙を見守っているという」


「うむ。その聖域だ。最近他の領域にも国の調査隊を向かわせていてな、その報告結果で今まで起こった全ての災害がその聖域に隣接しているという結果が出たのだ」


「隣接している……? さっきから疑問だけで失礼ですけど、それってつまり……聖域は世界中に繋がっているって事ですか? 幾らなんでも広過ぎのような……」


「と言われてもな。調査隊の者たちはまだ誰も入っていないが、全てのエレメントはそちらに続いているらしい」


「そんな馬鹿な……」


 聖域? それって……多分私が思い浮かべている聖域で合っているよね……。今は御先祖様が居るって云われているあの聖域の事かな……。

 興味深いな。おそらく四つの領域とは今で言う人間の国・魔族の国・幻獣の国・魔物の国の事の筈。そこの四つが並ぶ中心に聖域があるのか。

 言われてみたら今まで聖域について考えた事は無かったかも……。私の先祖が住んでいた場所……。気になる……。

 聖域……。

 ──世界の平穏と秩序を引き換えに今も聖域で世界を、私たちを見守ってくれている──

 もしかして、婆ちゃんから聞いたこの一文は本当に……。勇者の物語は誇張されたものじゃなくて、本当に起こっていた事なのか……。じゃあ、勇者も本当に聖域に……?


「そこでお主を呼んだ訳じゃ。聖域には何があるか分からぬ。もしかしたらかなり脅威的な怪物が居るかもしれない。だから、お主に聖域の調査に向かって欲しいと考えた。十分な食料と生活に必要な物は支給する。近くに拠点も建てている。非常に勝手な願いだが、あわよくばその原因を突き止めて欲しいのじゃ……!」


「そんな……頭を上げて下さい王様。皆が見ている前で一国の王が頭を下げるなどという真似をしなくても……」


「そう言う訳にはいかぬ。国の……世界の存亡が掛かっているかもしれない重大な事柄。十分な支給に私が頭でも下げねば、逆に示しが付かぬ!」


 頭を下げて悲願する王とそれを制止する兵士。ふふ、中々面白いな。この王。良い性格をしているじゃないか。尊厳よりも何よりも世界を案じている……嫌いじゃない性格だ。

 世界の存亡……。さっきまでそんな事は言っていなかったけど……。やっぱり前兆だけで嫌な前触れって分かるんだ……。

 うん。確かにそんな危険な場所に娘の夫である勇者を行かせるのに気が引けるのは分かるな。だけど、世界の危機かもしれないって薄々感付いているからこうやって頼んでいるのか。

 御先祖様は黙ったまま。だけど、今の世界を生きる私たちには返事は分かっている。


「止めてくださいよ王様。当然、俺は行きます。こう見えて鍛練は続けていましたし、妻や子供たちの危機かもしれない現状、断る理由なんてありませんよ」


「ほ、本当か……!?」


「俺がこの状況で嘘を吐く薄情者に見えてたんですか? その方がショックですね」


「ああいや、スマン。感情的になってしまった。その……スピカには……」


「大丈夫です。ちゃんと話しましたから、今日帰って報告しますよ。出発は明日で構いません。スピカは分かっていますから」


 うん……。分かっていた……。夢の中でしか見ていないけど……かつての勇者はこんな人なんだって……。

 それでこそ、俺が今も憧れを抱いている勇者。この様な人になりたい。本を聞かされた時からずっと思っていた。予想通りの性格だ。

 私の御先祖だもん。例え伝承の前情報が無くても、私も信じられたと思う。

 ふふ、こんな者が私の先祖を仕留めたとはな。いや、こんな者だからこそか。


「おお! それは頼もしい! なら早速──」

「──」



 ──此処で、一気に言葉が遠退いた。



 成る程な。かつての神が直接告げたんじゃなくて、自発的に聖域に向かったのか。今日は夢が少し長かったな。けど、この夢で聖域の場所を知れたのは良かったかもしれない。



「────」

「────」




 御先祖様と王様。一応王様も私の御先祖様かな。……あれ? そういえば私って王族の血縁者でもあるんだ……。

 ううん。そうじゃなくて! 二人は信頼し合っている事がよく分かった。世界を滅ぼせる力があっても、好かれているんだね。御先祖様。




「───」

「───」





 声が遠くなり、視界が徐々に暗くなる。いや、今の私は眠っているのだからその表現もおかしいな。寧ろ目覚める為に光に向かっている筈。だが視界は何も見えなくなっている。微かに聞こえる勇者と王。兵士達。そして皆の声。





「──」

「──」






 私の先祖が居た聖域……。そこに向かう事になった勇者達……。そう言えば……ずっと独りっ切りで旅をして居たから……少し楽しみなのかな……。現在イマからしたら過去の出来事だけど……伝説の人が身近に感じるかも……。私も……皆との旅が楽しいから……。






「─」

「─」







 ──そして()たちは、白い光に包まれて何時もより長い微睡みから目覚めた。







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