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七百五十九話 軍神の街・終結

 ──"人間の国・ポレモス・フレニティダ・アレスの城近隣"。


 各々(おのおの)の戦いを終わらせたライたちは、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人。

 東側の頭である女剣士アナトリー。西側の頭である銃使いデュシス。南側の頭である魔法使いノティア。北側の頭である弓使いヴォーリア。中心街の頭であるメソン。

 そしてこの街の幹部アレスと人間の国幹部兼支配者の側近ヘルメス。

 計十二人の主力たちが比較的被害の少ないアレスの城付近にて避難した住人達と共に集まっていた。


「いや待て。何かがおかしい。何で君達もしれっと混ざっているんだ!? 傷の治療は素直に感謝するが、君達は部外者だろう!」


「ハハ。まあ良いじゃないか。成り行きだよ成り行き。折角だし主力同士で話し合おうよ。それに、部外者って訳でも無いしな」


「何を勝手に進めているんだ。チームのリーダーは兎も角、君達は侵略者だろう!」


「マジかよ!?」

「デュシス。君は少し黙っていてくれ」

「んだとテメェ、ヴォーリア!」


 この集まりに疑問を問い質すヘルメス。傷は既にフォンセとリヤンによって治療済み。アレスを始めとし、全ての主力は肉体的な負傷が完治していた。

 そんな中、腑に落ちない様子のアレスが言葉を発する。


「それで、何でこの俺様も混ざらなきゃならねえんだよ。お前達と決着を付けるって言うなら喜んで戦うがな」


「まあ、それは後だ。グラオが居たとは言え、俺とアンタの決着は付いている」


「ハッ、それが気に食わねえんだよ。力では俺が劣っていたが、まだ負けた訳じゃねえ。今度からはそれなりに鍛練してお前をぶちのめす!」


「そうだな。なら引き分けにしよう。それなら良いだろ?」


「白黒着けなきゃ意味ねえだろ。ったく、まあ、これ以上言っても先に進まねえか。取り敢えずさっさと話せ。特別に俺様が聞いてやる。涙流して感謝しな」


 随分と負けず嫌いな様子のアレスだが、先程の事もあったので話だけは聞いてくれるらしい。ヘルメスもレイたちやアレス、チームの頭達が制止し、ライは苦笑を浮かべつつも言葉を続ける。


「単刀直入に言おう。今回分かったのはヴァイス達の、幹部の街に来た場合の目的だ」


「幹部の街に……? 選別とは違うって事?」


「ああ。あくまで推測の範囲内だけど、俺が考えるに──」


 ライはレイの質問に答え、自分の推測をレイたちとアレス達。そしてノティア達に話す。アレス達とノティア達にはヴァイスの本来の目的を。レイたちには幹部の力を狙っているという事を。その事は当然アレス達にも話す事になるので、結果として主力達全員に伝わった。


「──って事で、ヴァイス達が幹部の居る街を襲撃した場合、十中八九その幹部の力が目的かもしれないって思ったんだ」


「へえ? だがそのヴァイスって奴。確かに"スィデロ・ズィミウルギア"幹部ヘパイストスの力を使ってたぜ? 俺達の前で銃を作っていたからな」


「うん……。確かに私も見た……ヴァイスが銃を作ったのを……今までのように欠片からじゃなくて……"無"から……」


 ライの説明にいち早く反応を示したのは実際にヴァイスと戦い、ヘパイストスの力を目の当たりにしたリヤンとデュシス。

 元々ヴァイスは武器の欠片から武器を再生させるやり方で戦っていたが、二人が見たのは無から生み出す力。ヴァイス本人も肯定しており、確かにヘパイストスの力を宿したのだろうという事が分かっていた。


「ああ。アレスの攻撃をわざとらしく受けた事からしてもほぼ確実だろう。そのうち、他の幹部達の街にも向かうかもしれない」


「そうなると、このままこの街でのんびりもしていられないな。崩壊した街の修復は手伝いたいところだが……どちらを優先すべきか」


 ヴァイス達の狙いが本当に幹部や他の主力達ならライたちとしてもうかうかしていられない。しかし見ての通り"ポレモス・フレニティダ"は壊滅状態。既に改造されたであろう行方不明者を含めてその被害は甚大だ。

 だからこそ、せめて手伝いたいと考えるライたちだが、悩むライとエマを始めとした五人に向けてアレスが言葉を発した。


「ハッ、余計な事すんじゃねえよ。お前達も立場的には侵略者……此処は一応俺様の街だからな。行く所があるならさっさと出ていくか、この街に残るとしたらもう少し俺様を楽しませて欲しいものだ」


 アレスからすれば、基本的に街の事は考えていないが勝手に荒らされたりする事には思うところもあるらしい。

 元々この街がアレスの領地であるからこそ、侵略者である者たちには好き勝手な行動をさせたくないのだろう。自分勝手な性格のアレスだからこそ、その様な考えが強いようだ。


「それに、復興の口実を得られれば上層部からの支援も見込める筈。お前達がある程度直したらそれも叶わなくなるだろ? なあ、ヘルメス。お前の報告次第で援助や諸々が決まるんだ。頼んだぜ」


「やれやれ。本当に自分勝手だな。もう少し素直になれば良いんじゃないか? 幹部という立場上、そう簡単にこの街から出る訳にはいかない現状……他の街の事を心配してそんな口振りを──」


「──なワケねえだろ。馬鹿か? 俺様は普通にコイツらが邪魔だって思っただけだよ」


 街が崩壊したとあれば、相応の支援が与えられるのは目に見えている。それを受ける為にライたちの手助けは得ないと告げるアレスだが、ヘルメスからすればそれが表向きの悪態と見抜いていた。

 自分勝手にして粗野で凶暴なアレスも、一つの街を治める幹部。いくら評判が悪いと言ってもある程度統制する力がなければ幹部業にすら就けていない筈だ。その事から考えても、どうでもいいとは本当に思っていたとして、街での行動は立場をわきまえているのである。本人の性格からしてその様な事を言うのは絶対に無いのだろうが。

 それを聞いたライたちは軽く笑って立ち上がり、言葉を続ける。


「ハハ、じゃあ侵略者の俺たちはこの場は退散させて貰うか。確かに街の事に部外者が立ち入るのは無粋だったな。まあ、俺たちの知り合いがしでかした事。瓦礫の撤去や少しの手伝いはして先を進むよ。後はアンタらから逃げるていで移動するさ」


「うん。やっぱり幹部なんだね。貴方も」

「ふふ、そう言う事ならライの言うようにこの場を去るとしよう。あくまで多少の手伝いで終わらせるさ」

「ああ、そうだな。此処にはチームのリーダー達も居る。直ぐに解決するだろうさ」

「……。うん……」


 ライたちも侵略者。アレスやヘルメス達の敵である。どちらかと言えば追われる身。だからこそライたちは捕まる前にこの場は離れる事にした。

 アレス、ヘルメスの幹部達を始めとしたアナトリー、デュシス、ノティア、ヴォーリア、メソンの主力達から、ライたち五人は姿を消し去る。そして七人の主力のみがこの場に残った。


「行ったか。ハッ、ヘルメス。また報告する内容が増えたんじゃねえか? 良かったな。これでまた仕事が増えたぜ」


「それは果たして本当に良い事なのか分からないな。侵略者を逃がした事実には変わりないんだからな。ふう、最近は忙しい。少し休みたい気持ちもあるさ」


「あの者達……本当に悪人だったのか疑問だな。私が会ったレイという者。彼女を始めとして悪い雰囲気はなかった」


「ああ、そうだな。俺からしても悪い奴等じゃねえって思ったぜ?」


「うん。あの子達、良い子だったよ」


「だけど侵略者は侵略者だ。気の良い者達だったとしても、おこなっている事……というより最終目標は世間一般から見ても悪行だ」


 大体の事が済み、ヘルメスに向けて軽口を叩くアレスとライたちに悪い印象を持っていないチームの頭達。この調子なら"ポレモス・フレニティダ"の復興も早いだろう。元より小さな事は気にしないタイプだからこそ、逆に大きな事が起こっても冷静に対処出来るのかもしれない。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの去った人間の国荒れた街"ポレモス・フレニティダ"にて、主力達は復興に向けて行動を起こすのだった。



*****



 ──"人間の国・ポレモス・フレニティダ近隣の道"。


 "ポレモス・フレニティダ"を後にして数十分後、その街から少し移動したライたちは近隣にある整備された道の端に広がる草原にて手頃な岩に腰掛け、何故かリヤンから話を聞く体勢となっていた。

 小首を傾げ、ライはその事をリヤンに訊ねる。


「それで……何の話だ? リヤン。まあその様子だと、かなり重要な事ってのは見て分かるな」


「さっきは話せなかった事なの?」


「話せなかったというより……人間の国の人達にはあまり関係の無い事……」


 曰く、人間の国の者達には関係が無い。だから離れて話すつもりとの事。リヤンの面持ちから真剣なものと理解したライ、レイ、エマ、フォンセの四人は向き直り、リヤンの言葉を静聴する。


「……えーと……やっぱりって言うか……アスワドさん……シャドウさん……ゼッルさん……ラビアさんの四人はヴァイス達に捕まっているみたい……。魔族の国と幻獣の国の皆はその捜索を続けてるんだって……」


「……! やっぱり捕まっていたのか。確かに重要な事だ。……それで、その捜査はどれくらいまで進んでいるのかとか分かるか?」


 リヤンの話した事は、現在行方知れずのアスワド、シャドウ、ゼッル、ラビアの四人について。ヴァイス本人から聞いたリヤンは知った情報を言い、ライが捜査の進行を訊ねた。

 リヤンはコクリと小さく頷いて言葉を続ける。


「うん……。ヴァイス本人から聞いた事だから概要だけで詳しくは知らないんだけど……ヴァイス達の拠点の幾つかは見つかっていて崩壊しているって……」


「となると人間の国に他の国の者達が来ている可能性もあるという事か……」


 確かにヴァイスの拠点が潰れているならと、エマが他の国の者たちがこの国に来ているかもしれないという可能性を述べた。

 おそらく、その拠点は世界中にある筈。だからこそ現在潰された場所が魔族の国や幻獣の国、魔物の国にある拠点だったとしても、その国の者たちが調査で人間の国に来ている線はあるのだ。


「……これからヴァイス達の行動が本格化するとして……多分アスワドさんたちにも何かしらの影響があるかもしれない……。だから……」


「ああ。言いたい事は分かった。人間の国を進みつつ、アスワドたちの捜査もしたいって事だろ? 俺もそう思ったからな。さらわれた人たちも見つけよう」


「うん……!」


 リヤンが言いたい事は、ライも同じ考えである。アスワドたち四人の捜索に断る理由はなかった。

 本人たちの性格からしてもヴァイス達に協力するという事は無いだろう。だからまだ幽閉されているのはほぼ確実である。


「それなら、勿論私たちも手伝うよ! アスワドさんたちを助けなくちゃね!」


「ふっ、私も異議はない。あの者たちが囚われているという事に対して色々と思うところはあるからな」

「ああ、当たり前だ」


 ライとリヤンの意見に、レイ、エマ、フォンセの三人も賛同する。元より魔族の国とは他の国よりも関わりが深い。初めて征服した国だからというのもあるが、当然それのみならず、さらわれた者の中にはより親しい者も居るので断る理由が見つからない程度には協力しようという考えているのである。


「そうと決まれば、早速行動に移るか。今までのように人間の国を探索しながら幹部を仕留める。そしてアスワドたちの捜索だ。アスワドたちを探せばおのずとヴァイス達とも鉢合わせるだろうからな」


「うん。それも踏まえて先を急いだ方が良いね」


「ああ。そうしよう。ヴァイス達も既にこの国から離れているだろうしな」


「ふふ、善は急げだ。征服は世間から見たら悪だが……さらわれた者を救うのは善と見て良いだろうからな」


「うん……」


 リヤンの話も終わり、早速ライたち五人は次の行動へと移る。

 ヴァイス達はこの街には既に居ないだろう。それを踏まえて後を追うような形となるが、この行動は今行える最善のものだと理解していた。


 近場で絶えぬ争いが続く人間の国幹部の街"ポレモス・フレニティダ"。その街の幹部に完全なるものではないが一応勝利したライ。しかしまだ目的達成には程遠く、新たに目標が加わった。だがそれもいずれ終わるだろう。


 これにてライたちは人間の国で六人の幹部を倒した事になる。それでも最低で十二人は居る人間の国の主力達。短いようで、やはり先は長いのかもしれない。

 本当の目的である世界征服を完遂すべく、この国での旅は続く。元・魔王と行くこの旅をまだ終わらせる事無く、ライたち五人は先に進むのだった。


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