表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
767/982

七百五十八話 中心街の戦い・決着

「オラァ!」

「しゃらァ!」


「よっと!」

「……っ……ハッ!」


 同じ中心街にある別々の場所にて、ライが拳を放ち、アレスが槍を薙ぎ、グラオが蹴りを打ち付け、ヘルメスがハルパーを振り下ろす。それによって中心街に巨大な爆発が巻き起こり、ライとアレス。グラオとヘルメスの元に自分達が発したものとは違う粉塵が迫った。

 その一撃で四人は押し出される形となって全員が揃った。


「……。また全員()が揃ったみたいだな。纏めて倒すつもりだから逆に好都合だけど」


「ハハ、それは此方の台詞だよ。一噌いっその事、君達三人対僕一人でも良いんだけどなぁ」


「ハッ、ヘルメス。随分とボロボロだな。やっぱ下がってるか気ィ失っていた方が良いんじゃねえの?」


「ハァ……気を失う訳には……いかないさ……意識を失うか……ハァ……戦意が無くなれば……ハァ……そのまま……さらわれるらしいからな……」


 四人が揃い、各々(おのおの)でおそらく自分が一番親しいであろう者、もしくは他の者よりは素性について知っている存在と話す。

 ライとグラオにはまだ余裕があり、アレスも少し疲労とダメージが見えるが問題は無さそうな様子だ。

 しかしヘルメスは既にボロボロであり、何時意識を失っても不思議では無い状態。限界に近そうである。


「んじゃ、ヘルメス。お前は休んでろ。俺様が居れば問題は無い筈だろ?」

「……!」


 そんなヘルメスを気に掛けたのか、ただ邪魔だから排除したのか分からないが、アレスが槍の柄で軽く小突いてヘルメスから意識を奪い取る。

 有無を言う暇もなくヘルメスは意識を失い、その場に倒れ伏せた。


「やっぱりな。本当に軽く叩いたつもりだったんだが……それに反応をする事も出来ず挙げ句の果てに意識を失う……聞こえているか分からないが、お前はもう限界だったんだよ。……ま、一応よくやった……とでも言っておくか」


 アレスの攻撃は、とても攻撃と言える代物ではなかった。本当に軽く。幹部クラスにとっては少し痛いかな? くらいの威力で放たれた一撃。

 それを受けて気を失うのを見ると、戦う意思はあれどこのまま戦い続けるのは危険だったに違いない。基本的に自分勝手なアレスにしては珍しく優しさを見せたと言える行動だった。──最も、本当に邪魔だったからという線も残ってはいるのだが。

 気を失ったヘルメスを持ち上げて適当な場所へ放り投げたアレスはライとグラオを見て不敵に笑い、槍と盾を構えて言葉を続ける。


「さて、邪魔者は居なくなった。さっさと続きと行こうじゃねえか?」


「……。アンタ、意外と優しいんだな。ヘルメスがあのまま戦い続けていたら現世じゃなく、あの世や冥界専用の伝達係になっていただろうさ」


「ハッ、そんな風に好意的な解釈をしてくれたのか。本当に邪魔だったから退かしただけだよ」


「ハハ。けど、彼の気力は中々のものがあった。僕が判断するにはまだ戦えたかもしれないけど、見込みのある人が直ぐに倒れるのは勿体無いからね。いい判断だよ。アレス」


「随分と上からじゃねえか。ハッハ……勝手に言ってろ。つか、戦えねえ奴を戦線離脱させただけでこの称賛かよ。よく分からねえ感覚だ。舐められてるっー感じでもあるし、大袈裟に言われている感覚もある。良い気分と悪い気分の中間……だが普通の感覚じゃねえな」


 アレスの行動に称賛しつつ、ライとグラオも構え直す。

 アレス本人には良い事などしたつもりはなく、あれだけでこれ程の称賛されるのは皮肉にしか聞こえない。揶揄からか割れていると判断したのか、戦意は最大だった。


「取り敢えず馬鹿にされてる気はしたから、テメェらを纏めて相手にしてやるよ!」


 それだか告げ、アレスは周囲を狙って槍を薙ぎ払った。ライとグラオはそれを跳躍してかわし、空気を蹴って加速。そのまま三人は自分の敵である二人に向かって突き進む。


「オラァ!」

「よっと!」

「ダラァ!」


 同時に拳と槍と蹴りを放ち、正面から衝突する。その衝撃は爆発のように周囲へ広がり、大地を浮き上がらせて周りの瓦礫を吹き飛ばした。

 それによって弾き飛ばされた三人は地面を擦って止まり、刹那に踏み砕いて肉迫する。再び各々(おのおの)の出せる力を出し、拳、足、槍など魔法・魔術ではない物理的な力がぶつかり合った。


「一応魔王の七割に匹敵する力なんだけど、結構軽く受け止められているな……」


「ハハ、そりゃあ君がこの街やこの星に注意して放っているからね。本来なら一挙一動で世界を砕く力。この街すら残っているのはおかしな話だよ」


「何なら本来の力を出してみても良いんだぜ? その方が俺からしても燃えるからな!」


 ライが拳でアレスを殴り飛ばし、グラオがその横から脇腹へ蹴りを放ってライを吹き飛ばす。そのグラオにアレスが槍を突き刺し、グラオとアレスを纏めてライが拳で打ち抜いた。

 現在のライは、魔王の七割に匹敵する力を使っている。しかし本当の七割ならばどんなに力を落としても最低で大陸一つは一撃で砕けるだろう。つまり、中々決着がつけられない理由はライ自身も無意識のうちに攻撃の際、七割に匹敵する力から五、六割に落としているという事なのだ。それでも世界を砕く、揺るがす力であるが、七割よりは破壊範囲も狭まるだろう。

 そんな思考を余所に殴り飛ばされた二人はライに近付き、再び攻撃をけしかけた。


「なんか俺だけ一回多く殴られてねえか?」

「気のせいだ」

「うん、気のせいだよ」


 アレスが槍を薙ぎ、今度の二人はしゃがんでかわす。同時に踏み込み、身体をバネのように使ってライがアレスの懐、グラオがライの脇腹。アレスがグラオ目掛けてけしかけた。


(この時に破壊範囲を抑えながら力だけを強く……!)


「……!」


 力を無意識に弱めてしまっているライだが、力はそのまま、破壊範囲だけを狭める方法も知っている。それを使えば七割の威力を秘められた確かな一撃が放てる事だろう。

 そんなライの拳から何かを察したのか、アレスは飛び退いてライの拳をかわした。同時にグラオの蹴りがライの脇腹を狙うが、ライはそれを見切って避け、グラオの足を掴んでアレス目掛けて光以上の速度で放り投げる。


「……ッ!」

「あらら、ごめんごめん」


 光を超えた肉弾にアレスは巻き込まれ、街の遠方へ吹き飛ばされた。グラオには余裕があるようだが、弾となったグラオにも相応の衝撃は及んでいる筈。多少なりとも影響はある事だろう。

 しかしアレスの反応から効果的なものは見つけた。今までもライが優位に立っていたが、あれだけではイマイチ決定打に欠ける。七割に匹敵する自分の力を一点に込め、無駄な破壊を省いた力。それこそがアレスのみならず、他の幹部達にも有効的な力だろう。


「後は当てるだけだな……!」


 グッと握り拳を作り、気合いを入れ直してグラオ、アレスを吹き飛ばした方向に駆け行く。ライは魔王の七割に匹敵する力を使っているので光を超えた移動も可能。即座に追い付き、二人目掛けてけしかけた。


「チッ、面倒だ!」

「ハハ、やられっぱなしほ性に合わないね!」

「オラァ!」


 槍を突くアレスと拳を放つグラオ。七割に匹敵する力をもちいたライの拳もこの二人が相手では相殺されてしまい、相殺され切れなかったほんの少しの力によって中心街が大きく崩壊する。

 三人は向き合う形で停止し、次の行動と出方を窺う。──次の刹那、ライ、グラオ、アレスはその体勢から攻撃へと移行した。


「さっさと決める!」

「出来るかな?」

「ハッ、面白え!」


 ライは体勢を低くして回し蹴りを放ち、それをアレスは跳躍、グラオはしゃがんでかわす。跳躍したアレスは槍を振り回しながら勢いよく降り立ち、同時に槍を振り下ろして大地を砕く。ライはそれを避け、しゃがんでいたグラオは飛び退き、着地と同時に踏み込んでアレスを狙う。そこにライも仕掛け、アレスは防御。三つの破壊衝撃が街を揺らし、それによって生じた粉塵の中から三人が飛び出すように攻防を繰り返す。


 ライの拳をグラオが掴んで受け止め、ライを振り回してアレスに攻め込む。ライはグラオの手から抜け出し、勢いそのままアレスに蹴りを放つ。アレスは紙一重で躱すと同時に槍を突き、それをグラオも紙一重で躱す。その間に地面へ着地したライが駆け出し、二人へ蹴りを打ち込んだ。二人はそれも避け、三人が再び向き合う形となる。同時に嗾け、ライの拳。グラオの足。アレスの槍が衝突して激しい衝撃波が"ポレモス・フレニティダ"の街を覆い尽くした。


「これで終わりだ!」

「良いね、そろそろ終わらせようと思っていたんだ!」

「良いぜ。やってやるよ! 受けて立つ!」


 同時に離れた三人が力を込め、トドメの一撃の準備をする。その際にも隙は見せず、何処から不意討ちが飛んできても問題無い状態。力を込め終わった三人は跳躍し、街よりは比較的破壊を抑えられる上空。大気圏近くへと到達して最後の一撃を放つ。


「──オ━━ラァッ!!」

「──そーら……よっと!」

「──洒落臭え!!」


 魔王の力は纏わず、魔王の七割に匹敵する力を一点に込めたライの拳。そしてライの望み通り余計な破壊はしない為、ライのように一点に力を込めたグラオの拳。全力を注ぎ込んだ槍の一撃。

 それら三つの攻撃が正面からぶつかり合い、大気圏近くの上空から星全体に大きな衝撃波を撒き散らす。一点に込めた力で破壊範囲は抑えられているが、それでも世界を揺るがす一撃のようだ。


 それによって下方の海は荒れ、一部の山河が崩落する。世界中の雲が消し飛ばされ、星の外で降り注ぐ隕石は焼き消え月の表面が削り取られる。近隣の惑星にまでその余波が広がり、太陽風が太陽の元へ無理矢理引き戻された。

 そのせめぎ合いは時間にして一秒も無い。それ程までの衝撃が一瞬にして太陽系全域に及んだのだ。

 そして三人はその衝撃に飲み込まれた。



*****



「やれやれ。まだ立ち上がるか。と言っても、割りとボロボロみたいだね。僕もだけど」


「ああ。まだ全力には程遠いからな。アンタはどうなんだ、アレス」


「ハッハ……! すげえ疲れてすげえ痛えが……るってんなら望んでやるぜ? この三人の中じゃ最弱ってのは気に食わねえ……」


 大気圏付近から落下したライ、グラオ、アレスの三人。三人ともそれなりの負傷はしているが、アレスを除いてまだ余裕があるような雰囲気だった。

 しかしこの戦いも、もう続行は不可能だろうという事を告げる者が姿を現す。


「まだ続けたいと思うけど、悪いね。グラオ。それなりの収穫はあった。今日は帰ろう」


「「……!」」

「えー。もう? けどまあ、仕方無いかな。ヴァイスが此処に来たのがその証拠だからね」


 ──その者、敵の首謀者ヴァイス。

 グラオはヴァイスが此処に来た事から本人達にしか分からない何かを悟り、軽く跳躍してヴァイスの隣に移動する。その横でアレスはライに訊ねていた。


「おい、アイツ何者だ? 仲良さげっー事は仲間同士って事だろ?」


「ああ。……てか、ヘルメスが此処に来たならアンタも聞いてる筈なんだけどな……アイツはヴァイス・ヴィーヴェレ。簡単に言えば全ての元凶だ」


 確かにヘルメスから特徴は聞いており、三色ヘアーで変わった者などヴァイスくらいだが、当のアレスは表面上だけ真面目に聞いているように見せて軽く流していたところもあったので知らなかったらしい。

 しかしヴァイスの正体? を聞いたアレスは嬉々として槍を構える。


「ハッ、なら倒した方が良い相手じゃねえか。行くぜ……!」


「あ、おい!」


 ライの制止は聞かず、ボロボロの身体で槍を振り回して駆け出すアレス。

 この時点で既に嫌な予感はしている。ただでさえ傷が深いのに、今では支配者クラスの実力があるヴァイスに挑むのは無謀の他ならないだろう。

 アレスはそのまま槍を突き出し、跳躍して瓦礫の上に居るヴァイスへ突き刺した。


「しゃらァ……!」

「……」

「……」


「なっ……!」


 そしてヴァイスは──アレスの槍を避けも防ぎもせずに突き刺さった。その隣ではグラオが欠伸あくびをしながら座っている。

 周囲に鮮血が飛び散り、真っ赤に染まる。アレスはそれを横に薙いで切り裂くように抜き、ヴァイスの上半身と下半身が数十センチの肉で繋がれている状態となった。


「ハッ、口程にもねえな! いや、何も言ってねえか」


「……簡単にやられた? いや……」


 そんなヴァイスを見たアレスは笑って言い、ライはヴァイスが何もせずにやられる訳が無いと考える。

 見る見るうちにヴァイスの身体は再生し、アレスの表情が変化した。


「チッ、再生持ちかよ。面倒なタイプだ。つかその肉体、そこら辺に転がってた兵士と同じだな。ー事は不死身か」


「……! そうか、分かったぞ……! アレス。ヴァイスはアンタの攻撃をわざと受けたんだ」


「あ?」

「アイツは自分に攻撃をした者の能力や力を学習する。学習して模倣するんだ。だから、アンタの攻撃はわざと受けてアンタの力を学習したって事だ」

「マジかよ。面倒臭えな……」


 ヴァイスが不死身だった事を理解したアレスと、ヴァイスの目的を理解したライ。それを聞いたアレスは肩を落とし、ヴァイスは全く笑わず軽く笑って言葉を続ける。


「ああ、そう言う事さ。君の性格からして、目の前に姿を見せれば問答無用で襲ってくるのは分かっていた。だから手に入れたよ、軍神アレスの力をね。さて、帰るとするか」


「じゃあね。二人とも。また機会があったら戦おう」


 それだけ告げ、ヴァイスとグラオはゾフルを連れて姿を消し去る。どうやらヘルメスとメソンは見逃したようだ。

 ライとアレスはその場に残され、辺りに静寂が走る。しかしライには、ヴァイス達の目的が謎だった。


(アイツらの目的は全生物の選別……この街に来た理由が生物兵器の材料集めかと思ったけど……もしかして最初からアレスの力が目的だったのか? それなら以前の"スィデロ・ズィミウルギア"で街の住人をさらわなかった事にも合点がいく。人間の選別は二の次、つまりカモフラージュ。もしかしたらヴァイスは……幹部の力を集めている……!)


 そしてその謎は、ライによって即座に解かれた。

 今までもヴァイスは幹部の街に来た事がある。しかし他の街と違い、幹部の街からは人をさらっていない。何人かの人間を攫ったのは今回の"ポレモス・フレニティダ"が初だろう。

 その事からするに、幹部や主力の居ない他の街では人材集め。幹部の街では、あわよくば幹部クラスの実力者を連れて帰ろうとは考えているかもしれないが──幹部の力その物が狙いだったかもしれないのだ。

 確かにそれなら態々(わざわざ)全てをさらわなくとも良い。そしてヴァイス達の目的を知っている者からすれば目的は選別にあると考えられる。

 ライが至った結論は、幹部の街での大きな行動は全てがミスリードであり、幹部の力が狙いであるという事。おそらくそれで間違いは無いだろう。


(してやられたって訳か。じゃあ既にヘパイストスの力は持っているって考えるのが妥当だな。……ハァ……これから征服面以外でも忙しくなりそうだ。ゴーゴン三姉妹との約束も果たさなきゃならないしな)


 これにて"ポレモス・フレニティダ"の戦闘は終わる。しかしヴァイス達の目的が分かった今、ゆっくりもしていられないだろう。

 ライはアレスと意識を失っているヘルメス、メソンから離れ、レイたちとの合流を優先する。今回得た情報はかなり重要だからだ。

 人間の国、軍神アレスの街。様々なチームが存在する"ポレモス・フレニティダ"。その街全体で行われていた戦争は、次第に収束するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ