表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
763/982

七百五十四話 西側の戦い

「……。取り敢えず、試しに一発撃っとくか」

『『『…………』』』


 ゆっくりと重鈍な足付きで迫る巨人兵士の一人に対し、デュシスは試し撃ちをするようだ。

 その言葉通り魔力の込めた弾丸を放ち、巨人兵士の足を抉った。片足を失った巨人兵士はバランスが崩れてその場に倒れ、周りに土煙を舞い上げた。


『……』

「チッ、やっぱ直ぐ再生すんのな」


 しかしその巨人兵士は即座に立ち上がり、足を再生させながら復活する。

 魔力を込めた弾丸なら大木のような足も一発で吹き飛ばせるが、やはり傷の回復は早いらしい。それを見たデュシスは先の長さを思ってため息を吐く。


「巨人兵士が相手なら……使うしか無いかな……」

「……?」


 そんな巨人を見たリヤンは呟くように言い、近くに居て聞こえていたデュシスが小首を傾げる。何かの秘策がある事はその言葉から大凡おおよその理解は出来る。それが何なのか、問題はそこだ。

 デュシスにとって今のリヤンは味方だが、やはり気になる事は気になるのが戦士としての性である。チームの頭なので戦士ともまた違っているかもしれないが、それは捨て置く。


「巨体を細胞一つ残さずに消すなら……!」


 刹那、リヤンの身体に神々しい気配が宿った。まるでリヤンを包み込むような輝きと神聖な気配。

 その力はリヤンの力に変換され、徐々に形を作り出す。そしてリヤンはけしかけた。


「"神の光(ディバイン・ライト)"!」

『『『…………!』』』


 放たれたのは、リヤンの持つ神の力に特殊魔術である光魔術を加えた神の光魔術。

 その光に全身を包み込まれた数体の巨人兵士は影も残さず光の中に沈み、光の中にて完全消滅した。


「……っ。何が起きたんだ……何も見えなかった……。巨人兵士も消えてやがる……」


 リヤンの放った神の光魔術。そのあまりの眩しさに何も見えなかったようだが、何かとてつもない事が起こったのは理解したようだ。

 その証拠に巨人の兵士達は消え去っている。だが突然の状況でとてつもない事が起こった以外の理解が追い付かない状態という事だろう。


「やるね。巨人の生物兵器も簡単に消滅してしまったようだ。まあ簡単にやられるのは知っていた事だけど、巨人だけでは足りな過ぎたかな」


 ヴァイスは見ていただけ。ただの観察が目的のようだ。

 魔王とも違うのだがコピーする事の出来ないリヤンの力。あの時点のリヤンが使えた生き物の力は使えるが、見ただけでコピー出来る力が使えないのは牴牾もどかしいようである。


「さて、生物兵器の兵士達はまだまだ居る。無論私もね。君達が何処までやれるのか、それを改めて確かめてみるとするよ」


 しかし出来ないなら仕方無い。ヴァイスはそう割り切り、生物兵器と自分を相手に何処までやれるのかを確かめる事にした。

 リヤン、デュシスの二人も消え去った巨人兵士から視線をヴァイスに移し、他の生物兵器達を警戒しつつ行動に移った。


「先ずは邪魔な兵士達から……!"光の柱(ヌール・ザウル)"……!」


 視線はヴァイスの方に向きつつ、周りの兵士達を消滅させるリヤン。デュシスも既に行動を開始しており、生物兵器に紛れて高速で移動しながらヴァイスの死角へ回り込み、一気に銃を放った。


「そこだ……!」

「フフ、気付いているさ。君の場所はね。あの光に紛れようと考えていたみたいだけど、私は物探しが得意なンだ」

「チッ、そうかよ!」


 気配は消して、姿もリヤンの光魔術に隠していたつもりだったデュシス。しかしヴァイスはそんなデュシスの行動も先読みしており、姿や気配は関係無く見つけたようだ。

 見つかったなら仕方無いとデュシスは気を取り直して連続するように銃を撃ち込み、ヴァイスはその全てをかわす。別に当たっても問題無いが、当たらない方が相手にストレスを溜める事も出来る。不死身の肉体は前提なので当たって即座に再生するよりもこの方が効果的であると考えたようだ。


「チッ、当たらねえ!」

「だったら……光の速度……! "光の球(ヌール・クラ)"……!」

「光だろうと同じさ。今の私なら光の速度くらい簡単に見切れるのだからね」


 銃弾が当たらず苛立ちが増すデュシスを余所に、光速で光の球を撃ち込んだリヤンだが、ヴァイスは軽く逸れるだけでそれも避けた。


「さて、もう一度吹き飛んでみようか?」

「……!」

「させるかよ!」


 それと同時に"テレポート"をもちいてリヤンの背後に回り込み、再び回し蹴りを放つヴァイス。

 そこへデュシスの弾丸が通り抜け、リヤンを素通りしてヴァイスを狙う。ヴァイスは余裕のある態度でその弾丸を見切った後、リヤンが裏拳を放って遠避けた。


「危なかった……」

「遠距離からの援護射撃は面倒だね。あの速度だと一秒も掛からずに来るから攻撃の段階に踏み込めないや」

「ハッ、俺の得意分野だからな……!」


 ヴァイスの場合、精神的に追い詰める為にも数言話してから仕掛ける事が多い。それも災いし、攻撃の時間にラグが生まれてしまうのだ。

 魔力が込められた事で第一宇宙速度になって進む弾丸ならその間に詰め寄られてしまうという事である。


「フム、やはり君達は私が纏めて相手にする方が良いのかもしれないね。生物兵器で分担させようにも、直ぐに消されてしまう。それじゃ勿体無い。生物兵器はもっと効率的かつ上手く使わなくてはね。自分で言った言葉を何度も訂正するのに思うところはあるけど」


 自分の言葉を何度も訂正するヴァイス。その事について思うところはあるらしいが、何より効率重視。既に選別は終わっているので、リヤンとデュシスをある程度弱らせるのが目的の現在、やり方は自由のようだ。


「さて、続きと行こうか。少しキツくなるよ」

「「……!」」


 向き直り、片手をかざすヴァイス。二人は警戒心を最大限に高め、不敵に笑ったヴァイスは翳した手を天空に向けた。


「私が欲しい残る支配者の力は二つかな」


「……っ」

「何だ……ありゃ……隕石!?」


 その手から形成されたのは巨大な隕石。そう、魔族の国の支配者シヴァの持つ創造の力から隕石を生み出したのだ。

 隕石だけなら土魔法・土魔術に長けている者が造り出す事も可能。しかしシヴァの創造術からなる隕石にはあまり魔力を要しない。加えて複数の物を大量に生み出せる。その気になれば宇宙その物を創り出せるという、所謂いわゆる全ての創造能力における最上位の力という事である。

 その力に掛かれば隕石の創造など容易い所業。今降らせた隕石の直径は数十キロ。それは"ポレモス・フレニティダ"のみならず人間の国、この星を揺るがす大きさだ。


「このくらいなら……"神の剣(ゴッド・ソード)"……!」


 そんな降り注ぐ隕石に対し、片手に神の力からなる剣を形成したリヤンは正面から切り裂いた。

 隕石は両断され、次の刹那に更に細かく切り刻む。剣術は努力で手に入れる力なのでそこまでけている訳では無いが、他の魔法や魔術もその者の特徴からなる力。魔族の国には剣士の幹部や側近も多く、ある程度の剣術は身に付いているのだ。


「この大きさなら……弾数はかなり必要だが、出来なくもねえな!」


 細かく刻まれた隕石の欠片にも数メートルから数十メートルのものはある。なのでデュシスはそれに向けて銃弾を撃ち込み、街へ被害が及ぶ前に破壊したのだ。

 粉々になった隕石は砂塵のように細かく成り果てて視界に散った。


「一つの隕石で随分手間取っているようだね。リヤン。君なら一瞬で完全に消滅させる事も出来ただろうに。そこの狙撃手に力の正体は見せていないみたいだね」


「……っ」


 リヤンの持つ、神の力。それが知られれば人間の国その物に大きな波乱が待ち受けている事だろう。既に事は大きくなってきている。ヴァイスはおそらく疑心暗鬼にさせるのが目的なのだろう。

 リヤンが歯噛みをする横で、デュシスは軽薄な笑みを浮かべて鼻で笑い、ヴァイスの言葉に返した。


「力の正体? ハッ、何か知らねえがコイツには特別な力があるって事か。生憎あいにく、俺はノティアやヴォーリアと違って他人の力どうこうは気にしねえたちなんでな。気になる事を言って注意を引こうとしても無駄だぜ? それで余計な疑惑や争いが生まれるのが一番駄目なパターンだ。俺は此処まででコイツの行いを見て、少なくともテメェよりは信頼出来るって分かっている」


「へえ、そこまで頭が良い訳じゃないけど、だからこそ余計な事は考えない思考ルーチンが出来ているって訳か。まあ、彼は生身の人間だけどね」


「ハッ、何言ってっか全く分からねえが、力なんかは気にしねえ。さっさと続きに行こうじゃねえか」


 デュシスはリヤンの力を気にしない。そう告げると同時にヴァイス目掛けて複数の弾丸を撃ち込み、ヴァイスはそれを"サイコキネシス"からなる念力の壁で防いだ。

 そのまま反射するように弾丸をデュシスへ返し、デュシスは返された弾丸を銃で撃ち落とす。金属音のような音が響き渡ると同時に強化された弾丸故の爆発が起きて大地が抉れ、その背後から神の剣を携えたリヤンが降りてきた。


「やあ!」

「フム、剣術か。なら私は棒術で対抗しよう」


 降りると同時に剣を振り下ろすリヤンに対し、如意金箍棒にょいきんこぼうを取り出したヴァイスが正面から受け止める。そのぶつかり合いによって金属音と共に神の力の欠片と火花が散った。

 同時に二人は相手を弾き、リヤンは剣を振りかぶって構え、ヴァイスは如意金箍棒を背後に回して持っている手とは逆方向の死角からけしかける。


「はあ……!」

「フム……」


 そして棒の先端をリヤンが剣の腹で受け止め、再び力の欠片を散らせて食い下がる。

 そんなリヤンを見たヴァイスは何かを考え、言葉を発した。


「伸びろ如意棒」

「……ッ!」


 剣の腹で受け止められたのならと、そのまま如意金箍棒にょいきんこぼうを伸ばして吹き飛ばす。

 近距離から亜光速で伸びる如意金箍棒に押されたリヤンは歯を食い縛ってこらえるが瓦礫に衝突してしまい、その瓦礫を更に崩して埋もれる。


「如意棒……!? それって斉天大聖・孫悟空が持つやつか!? 何でんなもん持ってんだよ……」


「フフ。簡単な話さ。彼とは何度か戦った事があってね。その時に生じた欠片から再生させたンだ」


「……!?」


 如意金箍棒にょいきんこぼうを見て驚愕の表情を浮かべるデュシスの言葉に返しつつ、"テレポート"で目の前に現れたヴァイスは如意金箍棒は伸ばさず、そのまま先端で突いてその身体を吹き飛ばした。

 怪力から織り成される突き。棒を伸ばさなくともそれなりの威力は秘めているだろう。その証拠に如意金箍棒を受けたデュシスは吹き飛び、瓦礫の山を崩してリヤンの近くに飛ばされた。


「よぉ……さっきもこんな感じになったな……」

「うん……。やっぱりヴァイスは手強い……」


 吹き飛ばされた二人は瓦礫の中から姿を現し、土汚れと瓦礫の欠片を払って立ち上がる。

 押されっぱなしの現状を打破したいところだが、支配者二人の力に人間の国の一部の幹部を除いた魔族の国・幻獣の国・魔物の国に居る幹部の力。そして神と魔王を除いたライたちの力を使うヴァイス。それもかなり難しい事だろう。


「さて。此方としてはそろそろ決着を付けたいところなンだけど、君達はまだまだ余力があるように見える。だから、もう少し本気を出してみるとするよ」


 吹き飛ばされた二人の前には既にヴァイスが来ており、決着を付けたがっていた。なので少し本気を出すようだ。

 そんなヴァイスを前にしたリヤンとデュシスは立ち上がり、傷を癒して言葉を続ける。


「……。だったら、私も少し本気を出す……!」

「俺は割りと力を使ってんだがな……ま、流れに乗ってみるとするか……」


 此方の二人としても、そろそろ少しの本気を出すらしい。しかしデュシスは既に半分以上の力は使用している状態。今以上に激しくなるというこの戦いに付いて行けるか不安そうだった。

 東西南北と中央にて行われている戦闘。残る戦いは西側と中央のみ。そしてこの西側での戦闘も、三人がこの街を崩壊させない程度の力を解放する事で終わりに向かって進むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ