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七百五十三話 主力達の戦い・西側

 ──"ポレモス・フレニティダ・西側"。


「オラオラオラオラァ!」


 あらゆる場所で戦闘が終わる中、西側ではデュシスが二丁拳銃を構えてヴァイス目掛け一気に銃弾を撃ち込んでいた。

 魔力が込められる事で通常の数十倍の破壊力である銃弾。第一宇宙速度程の速度で向かってはヴァイスがそれを避け、もしくは防いでいた。


「成る程、半ば自棄やけになっているみたいだね。狙いは正確だけど、先読みも何もなく簡単にかわせるレベル。それに、そう簡単に攻撃しても良いのかい?」


「ハッ、テメェにゃコピーする力があるらしいが、さっき見た銃の腕は本物だった。なら、今更俺のコピーなんか必要ねえだろうと判断したのさ!」


「うン。正解だよ。君は合格に値しているけど、君レベルの狙撃手の力はもう持っているからね。まあ主要の銃は違うけれど、銃関連ならある程度は扱えるだろうと判断したまでさ」


「チッ、一々挑発を交えやがる……!」


 ヴァイスの言葉に苛立ち、銃を構えて即座に発砲するデュシス。ヴァイスはヘパイストスの力で武器を生み出し、第一宇宙速度で迫る弾丸に自身の弾丸をぶつけて軌道を逸らし、背後の建物を粉砕させた。

 同時にヴァイスは一歩踏み込み、"テレポート"をもちいてデュシスの背後に回り込む。一歩踏み込んだのは駆けて来ると錯覚させる為。完全に隙を突かれたデュシスは銃を構えるが、ヴァイスの方が一手早かった。


「させない……!」

「さっきから姿を現さないなと思っていたら、襲撃の機会をうかがっていたのか。けれど、それも無意味に終わったようだね」


 そんなヴァイスに目掛けてリヤンがけしかけ、ヴァイスは軽く受け流す。結果としてデュシスへの攻撃は防げたが、逆にリヤンがその隙を晒す事になった。

 死角から攻めるリヤンに対してヴァイスは消え去り、逆に死角へ回り込んで力を込める。


「貴方が使える力は……私も使える……!」

「……。へえ?」


 そしてリヤンは"テレポート"をもちいて消え去り、ヴァイスの下部へ移動し幻獣・魔物の力を使って思いっきり拳を振り上げ、ヴァイスの身体を天空へ舞い上げる。そこから更に力を込め、再び"テレポート"で移動した。


「この星の生き物の力は……私の力……!」

「似ているね。私の能力に。まあ、私の場合は生物兵器を取り込んだ事で使えるようになったのだけれど」


 次に纏ったのはダークの腕力。ライや支配者を除き、一番強いと判断した力を纏ったのだ。

 つまりリヤンは、既に神としての本質の力を使っているという事である。

 片鱗だけでは精々幻獣・魔物の力だけで精一杯だったが、神としての力を使えばこの星で生まれ育った者の魔法・魔術その他の異能。身体能力に超能力などが使える。

 あくまでリヤンが使える範囲に限るが、既に支配者に匹敵する力が目覚めている現在、支配者の力や他の者達の力も扱えるようになっているのだ。

 そんなリヤンの例外は魔王などのようなこの世の理から大きく外れた存在の力や、そもそもかつての神が創造していない者の力などである。ヴァイスとの違いはこの事だ。


「けど残念だ。仮に現在の私が不死身という事を除いても、今の私に純粋な腕力は効かないよ」

「……!」


 異世界の存在であるロキの力を使い、肉体を火その物に変換させたヴァイスはリヤンの宿したダークの拳を流動させた。

 そう、ヴァイスは既にロキとも相対している。なので火その物になる力もコピーし終えているという事だ。

 異世界の存在の力はリヤンには使えない。ヴァイスは完全な隙が出来たリヤンの身体を炎で包み込み、軽く笑って話す。


「君と私の能力は似ているけど、根本的な部分が違うのさ。君の場合は血縁が故に生まれ持って備わった力。私の場合は幾度と無くこの身を犠牲にし、他人を使った実験を重ねて手に入れた力。データ容量は私の方が多いかな」


 同時にリヤンの身体を発火させ、己の炎と合わせて燃やす。苦痛に顔が歪むリヤンを余所に、一時的に炎を解いたヴァイスは先程のリヤンのように、ダークの腕力を纏ってその身体を西側の大地に叩き付けた。


「……ッ!」


 その衝撃でリヤンは吐血し、西側の街がひっくり返る。それに比喩や訂正は無く、文字通りひっくり返ったのだ。

 リヤンの落下地点から石造りの道と大地が盛り上がり、そこから地割れが広がって建物を浮かせる。そのまま割れるように反転し、西側の街が崩壊した。


「街が……なんー力だよ……!」


 街が反転した衝撃で立つ事も儘ならない状態のデュシスがヴァイスの力を見て驚愕する。

 それもそうだろう。傍から見れば空に居るリヤンを軽く叩き落とし、その衝撃のみで世界が反転したのだから。様々な力を使えると言っても、まだ目覚めて数ヵ月のリヤンと何年も様々な武器を扱い、この一月程で主力達の力をものにしたヴァイス。応用力の経験からしてもその差は歴然だ。


「……痛い……けど……!」


 背面から勢いよく落下したリヤン。肉体的な強度は上がっているが、あの速度で落下すればダメージも負う。大部分はダークの腕力によるものだが、かなりの苦痛を伴うのは目に見えているだろう。

 しかしヴァイスに自分を殺すつもりがないのは知っている。なので即座に自らを回復し、ヴァンパイアの再生力も合わせて無理矢理完治させた。


「回復……いや、癒しの源だっけ。そう言えば、使えるかと思ったけどその力は使っていないな。……いや、私に宿らなかったようだ。まあ元々使える再生術があるから良いけど」


 自身を回復させたリヤンを見やり、癒しの源からなる回復技は何故か使えないなと呟くヴァイス。本人からして再生術には長けているのでそこまで気にしてる様子ではないが、やはり気にはなるようだ。

 以前、今の力に目覚めた時には使えると思っていたようだが、どうやら使えなかったらしい。何処かで実験をしていたのだろう。その実験を経て癒しの力も使えないと分かったと考える逃れ妥当だ。

 出所も何もかもが分からない癒しの力。悪い意味での研究者でもあるヴァイスには興味深いようである。


「さて、まあそれはどうでもいい。そこで見ているだけの君も含めて、二人掛かりで来たらどうだい? その方がまだ相手になると思うのだけれど」


「……っ。舐めやがって……!」

「……」


 合格者は既に決まっている。なので後はその力の本質を観察するのが第一優先。ヴァイスはそれを手っ取り早く行う為にリヤンとデュシスに先を促した。

 その挑発にデュシスは乗って二丁拳銃を構え、リヤンも無言ながら立ち上がって構える。二人の闘志は消えていなかった。


「お前、大丈夫か? まだやれるか?」

「大丈夫、問題ない……。傷はもう癒したから……」


 あの勢いで吹き飛ばされたリヤンを気に掛け、一先ず大丈夫そうだとデュシスは安堵して銃を撃った。その銃声と共にリヤンはヴァイス目掛けて駆け出し、力を込めてけしかける。


「オラァ!」

「やあ……!」


「フフ、この程度の攻撃は効かないよ。そう言えば、リヤン。君の本当の力も私はコピー出来なかったね。君の力があればもっと楽に世界を収められたかもしれない」


 リヤンとデュシスの攻撃を軽くいなし、リヤン自身の持つ力は使えないなとまた呟くヴァイス。

 確かにリヤンの持つ一目見た者の力を扱えるようになる能力。それがあれば態々(わざわざ)自身の肉体を痛め付ける必要も無い。不死身なので痛みはあまり無いのだが、効率を重視しているからこそリヤンの能力が魅力的なのだろう。今使えるのは生物兵器の完成品がコピーした当初にリヤンが使っていた力のみである。


「しかしそうなると、私は君からどンな力をコピーしたのか気になるな。この星に棲む様々な生き物の力も表面上だけ。それこそ私に再現出来るレベルの力だ。癒しの力でもない。もしかしたら、ライやフォンセの宿す力を除いて唯一コピー出来ない能力なのかもしれない」


「さあね……。けど……それは私にとって好都合だから……!」


 ヴァイスでもコピー出来ない力は、実は存在している。それは全てを無効にする魔王の力や魔王の魔術である。魔王の魔術も魔王の力なので、魔王その物がコピー出来なくなっているのだ。

 しかし神の力をコピー出来ない理屈はよく分からない。ヴァイスは気になっているが、リヤンにそれは関係が無いだろう。それを気にせず、構わず攻める。


「何だ? アイツの力はコピー出来ねえのか。ハッ、どういう訳か分からねえが、アイツを軸に攻めりゃ良いか」


 リヤンが攻め込む中、デュシスは二丁拳銃を構えて一斉に撃ち込む。

 ヴァイスがリヤンの力をコピー出来ないのなら相手のやり方も少し変わる筈。だからこそデュシスは撃つなら今と判断したのだろう。

 最も、先程から滅多撃ちにしていたのだが。


「やあ……!」

「複数の銃弾に君の力……うン。良いね。面白くなってきたよ」


 銃弾とリヤンの猛攻を避けつつ、この勝負に面白味を感じている様子のヴァイス。魔族の力や細胞も取り込んでいるので戦い自体に少し興味が湧き始めているようだ。

 しかしヴァイスの思考は元より戦いは二の次。少しそう感じただけであり、根本的な部分は変わらないのである。


「はあ……!」

「……」


 ダークの身体能力を纏ったリヤンの回し蹴りが放たれ、それをヴァイスは片腕で止める。そのままリヤンの腕を引き、近付けると同時に腹部へ膝蹴りを打ち付けた。


「……ッ!」

「そこかな」


 それによってリヤンの肺から空気が漏れ、鉄の味が口内に広がる。怯んだのを狙い、背部に肘打ちを放って大地に叩き付けた。叩き付けられてバウンドしたところを蹴り上げ、空中のリヤンに差し込むような蹴りを打ち付けて吹き飛ばした。


「チッ、何で当たらねえ!」


 その間にもデュシスは連続して銃を撃っていた。しかしヴァイスには当たらなかったのだ。

 狙いは正確だったのを考えれば、リヤンに攻撃を加える途中にも念力などで防いでいたのだろう。


「……消えた?」


 そしてそんなデュシスの前からヴァイスの姿が消え去る。突然姿を眩ましたので本当に消えたと錯覚してしまったデュシスの背後から、


「遠距離からの射撃。微妙に厄介だね」

「……ッ!」


 側頭部に回し蹴りが放たれ、別の方向へ吹き飛ばされた。

 複数の建物を粉砕し、瓦礫を突き抜けて吹き飛ぶデュシス。それによるダメージも相まり、切り傷と打撲に生々しい傷が形成された。


「だ……大丈夫……?」

「あー……そりゃ此方の台詞だな……。お前の方が受けたダメージはデケェだろ……」


 吹き飛ばされた二人は近くの位置におり、互いに互いの心配をしているようだ。

 だがそれなりの余裕は残っているらしく、傷はあるが会話する事も出来ていた。二人は即座に立ち上がり、既に背後へ回り込んでいたヴァイスに話し掛ける。


「ただたたずんでいただけで仕掛けて来ないとはな。あくまで倒すのが目的じゃねえって事か」


「まあ倒して無理矢理連れて行っても良いのだけれどね。ある程度心身共に痛め付けなくては私たちの目的に賛成してくれないと考えたのさ。いやいや本当に、君達の精神力には恐れ入ったよ。本当にね」


「……。心にも無い事を言って……」

「いや、本当に参っているンだ。君達の抵抗を見たら分かるだろう。この大変さを」


 何処までも冷徹な目で話すヴァイスの目的は選別。なのにリヤン達は抵抗を止めず、気が滅入っているのだろう。

 ポーカーフェイスなのでその事は分からない。もしくは分かりにくいが、本当に心の底から思っている事のようだ。


「そこで、やっぱり生物兵器をもちいてみようと思う。私一人でも十分だけど、有象無象に妨害させる事で心の底に諦めの意思を示してみようと考えているよ」


『『『…………』』』


 此処までの戦闘で、ヴァイスは生物兵器を使っていなかった。なので命令が起きるまでずっと待機していたのである。

 強敵一人に対して周りに居る不死身の兵士達。確かに精神的に辛いものはあるのかもしれない。


「生物兵器……!」

「チッ、厄介なのがワラワラと……!」


「フフ、何時もの兵士達だけでは無いよ」

『『『…………』』』


「巨人だと……!?」

「……。久し振りに見た……」


 そして現れた、巨人の生物兵器。デュシスは驚愕の表情をしており、リヤンは「そう言えば居たなぁ……」と言った表情をしていた。

 そう、ヴァイスの生み出した生物兵器には巨人の兵士も居る。力は通常の巨人の数倍で肉体は不死身。生物兵器の兵士達を巨大にしたような存在の巨人兵士はかなりの強敵だろう。


「オイ、あれも細胞ごと消滅させなくちゃ倒せねえのか?」

「うん……。だから広範囲にそれなりの威力の技を……」

「マジかよ……。ヤベェなオイ……」


 巨人の生物兵器を見、肩を落とすデュシス。それもそうだろう。この生物兵器に対しては自身の銃弾も効きにくい筈。ただの生物兵器ですら完全には倒し切れない現状、勝てる訳の無い相手だった。


「つか、あんなの何処に隠し持っていたアイツ……」


「……。ヴァイスは色んなモノを細かく刻んで肉片とかを持っているの……生物兵器の場合は再生しないように工夫を加えながら……だから好きな時に色んなモノを生み出せる……」


「成る程な……。つまりかなり面倒臭い相手って事か……」


「さて、そろそろ仕掛けるとするよ」

『『『…………』』』


 ヴァイスの言葉に従い、巨人の兵士達がリヤンとデュシスに迫る。一歩で大地が大きく揺れ、瓦礫の山を粉砕する。

 リヤン、デュシスとヴァイスが織り成す"ポレモス・フレニティダ"西側での戦闘。それは巨人兵士が加わる事で激しさを増していった。

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