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七百五十二話 南側と北側の戦い・決着

「気を付けろよ、フォンセ」

「ああ、エマも気を付けてくれ」


「邪魔だけはしないでよね?」

「僕の言葉だと思うな。それは」


『足は引っ張るなよ?』

「此方の台詞!」


 互いの身を案じるエマ、フォンセといがみ合うノティア、ヴォーリアにマギア、ロキ。

 六人にはチームワークの欠片しか無い様子だが、確かな戦力ではある。エマ、フォンセ、ノティア、ヴォーリアとマギア、ロキは一気にけしかけた。


「ハァ!」

「"魔王の風(サタン・ウィンド)"!」


「"大地の矢(ギー・ヴェロス)"!」

「はっ!」


「"女王の炎(クイーン・ファイア)"!」

『焼き払ってくれる!』


 エマが圧縮した天候の塊を放り、フォンセが魔王の風魔術を放った。

 ノティアが大地から形成された矢を射ち、ヴォーリアは束ねた矢を複数本射つ。

 マギアがリッチの炎魔術を放出し、ロキも炎を展開させて周囲を焼き払う。

 しかしいがみ合っているノティア、ヴォーリア、マギア、ロキも味方の力に合わせた技を使っている。どうやら確かに協力はする形が形成されているようだ。

 計六つの力が様々な方向からぶつかり合い、魔力と炎。余波を南側に広げる。それだけで本当に南側どころか"ポレモス・フレニティダ"が消滅し兼ねないが、互いが絶妙に相殺し合う事で街の消滅は免れた。


「天候を小さな塊に圧縮している……。エマ。この短時間で新たな力を身に付けたようだな。一体どうやって?」


 衝撃が消え去ったのを見やり、依然として警戒を続ける中でフォンセはエマの力について訊ねていた。

 エマが何度か天候を操るのを見た事はあるが、圧縮して弾丸のように放っているのを見るのは初めて。だからこそ気になっているのだろう。

 対するエマは何時ものように軽く笑って返す。


「ふふ、まあな。天候を操ると一概に言っても色々あるらしい。どうやら私の力は念力のようなもので、天候その物を圧縮して放てるようだ」


「成る程。災害魔術を模倣したような力に近いという事か。いや、天候魔術と言っておくべきか……」


「ふふ、どちらでも良いさ。何はともあれ、力にはなれる」


 念力のような力で天候その物を圧縮して放つ事で天候のエネルギーを一ヶ所に与える事の出来る力。嵐などのエネルギーは街一つを吹き飛ばす力があったとしてその数百倍はある。それが圧縮されて放たれれば、並大抵の者は死する筈だ。それなりの者でもかなりのダメージを負う事だろう。

 しかし元より次元の違う敵であるヴァイス達。エマにとっては自分の力が通じる切っ掛けなので都合が良かった。


「エマも強くなったんだね。親友として私は嬉しいよ♪」


「誰が親友だ。親友同士で殺し合いをするか? いや、する者も居そうだな。だが少なくとも、私と貴様は親友じゃない」


「そう断言しなくてもさぁ。少なくとも私は親友って思っているのに……」


「私は思っていないな。貴様の片思いだ。諦めろ」


「ヒドーイ!」


 エマとマギアは、おそらくこの中では最も古い付き合い。千数年。もしくは千に近い数百年の仲である。

 互いに不死身の生物なので長生きするのも当たり前だろう。だからこそマギアにとってエマは特別な存在であり、自らの一番のお気に入りと述べている。しかしエマにとっては大した存在ではなく、腐れ縁という関係。寧ろマギアの行いを見て断ち切りたいとすら考えているようだ。

 だがそれもまた親しみの表れ。寧ろ昔からこの様な接し方だったのかもしれない。


『女同士でキャッキャと何をしているのか。話がずれてはいないか?』


「別にー? 友情に性別は関係無いでしょ? 悪神の貴方には分からない事でしょうけど」


『いや、友情云々には一応理解がある。義兄弟のオーディンやもう一人、雷の神と共に旅をした事もあるからな』


「へえ? それも友情……?」


 ロキは本物の"世界樹ユグドラシル"をオーディンや雷の神と共に旅をした記憶がある。だからこそある程度の友情には理解があるとの事。

 マギアもその言葉に頷いて納得するが、友情とはまた違うような気もすると心に留めておく事にした。


「と言うか……フォンセのあの魔術……あれって何だろう……何か嫌な気配が……」


「ほう? 珍しく気が合ったな。僕もあの娘は気になっていた」


「へえ? 一目惚れって奴?」

「君は意外とバカなのか? 話の内容から考えて魔術についてに決まっているだろう」

「少しは乗ってくれても良いのに。とことん真面目なのね、貴方」


 一方で、ノティアとヴォーリアはフォンセの魔術について話していた。

 自身の技に魔王の名を付けるのは絶対的な力という意味でよくある事だが、フォンセの放った魔術の場合は根本的なもの。魔力の質その物に違和感があるのだ。

 それは言葉に表せぬ違和感だが、深い不安。焦燥。闇。ありとあらゆる負の感情が混ざり合ったかのような違和感。嫌な感覚としか言い表せないものだった。


「どうやら、あの二人はフォンセの魔術について違和感を覚え始めているらしいな。よくは聞き取れないが、これ以上その力を使うとバレるかもしれないぞ?」


「なあに。別に構わない。確かに私の祖先は過去の行いで明確に全世界の敵と言える存在だが、会った事があるのはエマを始めとしたほんの一部だからな。悪というのは偏見では無いかもしれないが、血の罪を私まで背負う必要は無いさ」


 フォンセに罪は無い。世界征服を実行している今はもう罪まみれだが、少なくとも生まれた瞬間は悪魔の子、鬼の子を称されたとしても純粋無垢な存在だった。

 肉体的には今でも純潔だが、精神的な意味では純粋の中にも黒い何かが混ざっている状態。両親を殺された時に力に目覚めて人を殺めて以来、その罪を背負う事になってしまったが魔王の罪がフォンセのものじゃないのは確かだろう。


「……。さて、少し無駄話が多かったかな。そろそろ行くか、エマ。決着を付けるという意味でな」


「ああ。さっさと敵を片付けてライたちと合流するか。少し長く続き過ぎた」


 罪云々は関係無い。フォンセは魔力を込めてマギアとロキに向き直り、エマは暴風雨を圧縮しててのひらに収めた。

 現在、フォンセ、ノティア、ヴォーリア、ロキは満身創痍に近い状態である。南側と北側が吹き飛ぶ程のぶつかり合いが起きているのだから当然だろう。

 不死身のエマとマギアはまだまだ大丈夫だが、エマからしてもそろそろ決着を付けるというのは同意のようだ。


「だってさ。私は乗るけど、貴方はどうする? ヴォーリア?」


「無論、僕も行くさ。君にはまだ言っていなかったね。僕は割りと身体にも限界が近付いて来ている。元々規格外の彼女達には付いて行けないんだ」


 会話をしつつ、エマやフォンセに同じく力を込めるノティアとヴォーリア。

 ノティアは杖に魔力を込め、自身の使える魔法に力を入れる。ヴォーリアは矢に魔力を込め、山を粉砕する力を蓄える。


「折角エマと会えたのにもう終わり? 悲しいなぁ……」


『どの道連れて帰るのだろう? それなら決着を付けるという方向が一番正しいのではないか?』


「確かにそうかもね。けど、そう簡単に連れて帰れたら向こうに居る私のお気に入りは何で味方に居ないのかなぁ」


 決着を付ける方向で纏まる話に対し、少し名残惜しそうなマギア。ロキはそちらの方向で話を進め、マギアの利点になりそうな事を言って納得させる。

 嘘を吐くにも相手の出方を窺う必要がある。なので読心術にも長けているのだろう。

 だが、目的の事もあるのでマギアは魔力を込め始めた。それを見たロキも自分達を覆うような炎を展開させて自分のフィールドを形成した。


「これで決着が付くかどうか……」

「それは付いてみなくては分からない事だな。しかし付かせなくては此方としても辛いものがある。……かもしれない」


「敵二人以外は一応味方なのが幸いね。エマやフォンセが敵だったと考えるだけで大変……」

「また気が合ったな。僕も同意見さ。あの力を目の当たりにしているからね」

「貴方って、基本的に他の人と同じ意見だよね?」

「……。そうかもしれないね……」


「今回は貴方の言葉に乗るけど、これは私の意思だからね」

『知っている。他人の言う事を全て聞くタマでもあるまい』


 ──辺りに静寂が広がった。

 ロキによって展開された炎が燃え盛る音のみが辺りに響き渡り、パチパチと小さな破裂音が鼓膜を揺らす。戦いによって生じていた黒煙はうに消え去っており、生物兵器の兵士達の姿も見えない。おそらく別の場所を襲撃しているのだろう。もしくは既に大多数を消されたか。

 何はともあれ、既に力を込め終わっている六人は溜めた力を一気に放出した。


「ハァッ!」

「"魔王の処刑サタン・エグゼキューション"!」


「"自然災害フィシキ・カタストロフィー"!」

「はっ!」


「"女王の斬首クイーン・ビヒディング"!」

「塵と化せ……」


 ────そして放たれた、圧縮された天候の塊と魔王の魔力からなる刃。エレメントを自然災害その物へと干渉させた魔法と山河を砕く矢。全ての首をねんばかりのリッチの魔力からなる刃に太陽に匹敵する熱量を持つ炎。太陽のようにエネルギーの塊ではないので消火は出来るが、数万度の温度ではそれも難しいだろう。


 それら六つが互いにせめぎ合い、相殺し合って爆発的な衝撃波を生み出す。その破壊エネルギーはこの星その物を容易く粉砕する事も可能な程だが、互いに力が相殺されているのとエマ、フォンセとマギア、ロキが頭達に合わせているのもあってそこまで大きな被害には至らなそうだ。

 因みにマギアとロキがノティア、ヴォーリアに合わせているのは目的がさらう事だからである。

 そしてそれらの相殺するエネルギーは更に広がり、南側を飲み込んで目映い光に包まれた。



*****



「成る程……トドメのつもりだったが、全員無事みたいだな……」

「傷はあるが……やはり力を弱めていた事が原因のようだな……」


「力を弱めていた……それでこの破壊力……!? 私は全力だったのに……!」

「僕も同意だ……。あれで手を抜いていた力……その言い方からするに、本気の比にならないと考えて良さそうだ……」


「あらら。服が破れちゃった。結構弱めたつもりだったんだけどなぁ」

『やはりこんなものか。手を抜いていたとは言え、この程度の破壊しか出来ないとはな……かなり鈍っている』


 ──単刀直入に言えば、南側が崩壊していた。

 先程放たれた、ノティアとヴォーリアを除いて力を弱めながらの攻撃。それによって南側は崩壊してしまったのだ。

 しかしそれなりのダメージはあれど最大で山河を砕く程度の力。ノティア、ヴォーリアは満身創痍の状態だが、疲労はあってもエマたちとマギア達は続行しても問題なさそうな雰囲気だった。


「それで、どうする? 続けるか?」

「私は別に構わないが……」

「正直私は限界に近いかな……」

「同意だ……」


「私は全然平気だけど、服がなぁ……」

『私も問題無いが……やはり完璧に仕上げたいところだな。うむ』


 続行可能が四人。続行不能が二人。しかしマギア、ロキにも思うところはあるらしく、肩を落として言葉を続けた。


「じゃ、私は帰ろっかなー。合格者が見つかっただけで儲けものだし」

『私も戻るとするか。この状態ではあの二人だけでも相手にするのは得策じゃない』


 それだけ告げ、不可視の移動術で南側から二人が消え去った。

 二人からしてもエマとフォンセの力は知っている。それを踏まえた上で、そこまで好戦的ではないマギアと調整したいロキが去ったのだ。

 ロキの事だから帰ったと思わせて不意討ちを噛まして来るかもしれないと身構えたが、気配は完全に消え去り、遠方から爆発音は聞こえるがノティアとヴォーリアの疲弊による吐息のみが木霊こだまする空間が作られていた。なので本当に帰ったのだろう。


「終わったみたいだな。一応は」

「ああ。南側と北側の復興は私が手伝うとするよ」


「ほ、本当に終わったのね……まだ破壊音は響いているけど、少しは休憩出来るかな……チームの皆も心配……あ、あとフォンセ。終わったら復興の手伝いしてくれるのありがとう」


「ふう……先が思いやられる。君達を含めてあの様な者達が居るなんてね……後は本当に無事かチームの皆を探さなくては……」


 此処での戦闘が終わったのを見計らい、緊張の糸が途切れたように座り込むノティアとヴォーリア。二人とも自分の率いるチームの安否を気にしつつ、少し休憩するようだ。


「さて、二人も言うように残りの場所がある。あまり休んでいる暇は無いな」


「ああ。取り敢えず二人は私が治療しておこう」


 遠方から聞こえる爆発音を横に、空を見上げて街の事を考えるエマとフォンセ。フォンセの治療魔術なら二人の傷と肉体的な疲労も収まる事だろう。

 しかしまだまだ戦争は終わっていない。一体だけでも脅威的な生物兵器の兵士達が蔓延はびこる"ポレモス・フレニティダ"。これからも続くであろう戦いに思いをせ、四人は少しだけ休息を取る事にした。

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