七十四話 二つ目の街・征服完了
戦闘の終了が告げられたのか"イルム・アスリー"を囲っていた見えない壁が消え去り、それと同時に"イルム・アスリー"に住んでいた魔族達が雪崩れ込む。
その者達は、
「「「な……!?」」」
ポカンと口を開け、その光景を目にして同時に叫んだ。
「「「い、一体何なんだァ!? これはァァ!?」」」
──その、変わり果てた街並みを見て。
科学の街、"イルム・アスリー"。その面影は既に無くなっており、残っているのは元々"それ"だった瓦礫の山のみ。
一部の建物は形を残しているが、本当に一部。骨組み程度だ。
ほんの少し暴れるだけで街へ壊滅的な被害を与える者が居る。この街の住人は恐怖によって肩を震わせていた。
「また随分と派手にやらかしたものだな……これは流石に支配者の耳へ入るだろう……これからも大変そうだ……」
ふふ、と苦笑を織り交じえた笑みを浮かべ、誰に言う訳でも無く呟いてライたちを探すエマ。エマはクルクルと日傘を回し、辺りを一通り見渡す。
「さて……ライたちの姿は見えないが……まあ、多分負傷者は瓦礫が少ない広場にでもいるんだろうけどな……。誰が怪我をしているのか、誰も怪我をしていないのか、全員怪我をしているのか……はてさて分からないモノだが……」
ライたちや幹部達の姿が見えない事から、自分が見ていた場所からは少々遠いところに居ると推測するエマ。取り敢えず負傷者が居そうな広場か何処かを探す。
「……。何やら彼方から物音が聞こえたな……」
エマが耳を澄ましていると、遠方から瓦礫が崩れる音が聞こえてくる。
風か何かの可能性も高いが、ライたちの手掛かりも無い為に、そこへ向かうことにするエマであった。
*****
「驚いたな……リヤンにこんな力があったなんて……」
一方のライ。ライはリヤンによる治療を受けていた。
リヤンの治療術は魔法・魔術の類いとは違うらしく、触れる必要も無く手を翳すだけでライの痛々しかった傷はみるみるうちに治っていった。
「うん……。……けど、私もあの人との戦いで初めて気付いた事だから……」
リヤンは頷くが、そこに転がっているジュヌードを指差して今までは知らなかった事だと言う。
「ハハ、そうか。……なら、他にも何かの能力に目覚めるかもな」
リヤンがこんなところで嘘を吐く筈も無いので、ライは軽薄な笑みを浮かべてそれに返した。
「アハハ……そうだね。……私も皆の役に立ちたいから……」
リヤンは笑ってライの言葉に返す。
リヤンはまだ自分が神の子孫だと言う事を話していない。がしかし、いずれ話す事になるだろう。そんな事を話しているうちに、ライの傷は完全に塞がった。
「おぉ……凄いな……これ……」
ライはリヤンの力を受け、感嘆のため息を吐いて言う。
試しに怪我していた方の腕を振り回してみる。するとその痛みも全て消えていた。
治療時間も去る事ながら、砕けた腕が簡単に再生する程の治癒力。リヤンの回復させる能力は想像を絶する程に凄まじかったのだ。
「うん、これなら行動に支障をきたさないで済む。ありがとな、リヤン」
「えへへ……」
ライに褒められたリヤンは、照れるように笑う。
生まれて此の方"人"に褒められた事が無いリヤンはどうすれば良いのか分からず、笑うしかなかった。が、この場合は褒められた事に対して素直になっているようだ。
そしてライは一つの事が気になり、リヤンに聞く。
「そういや……その技? って魔力か何かを消費するのか? 受けたところ魔力的なモノは感じなかったが……」
それはリヤンの回復術? の事についてだ。
通常、魔法・魔術というモノは魔力を消費し、その対価として自然現象や治癒力などの恩恵・奇跡を受ける事が出来るモノ。
妖術・呪術・仙術・錬金術など、魔力を消費せず別の力を消費する事で恩恵・奇跡を受ける事の出来るモノもあるが、リヤンの回復術にはそういったモノが無かった。
ライが気になったのは、何を対価としてあの技? を使ったのかという事である。
「えーと……ごめんね……。私もよく分からないの……今日使った魔術も初めてだし……元々そんな力があったって事も知らなかったから……」
「そうか。まあ、これから色々分かるさ。……ぶっちゃけ、俺も知らないことしか無いからな」
自信無さげに呟くリヤン。ライは自分も知らないことが多いと言う。一通り話終えたライは、リヤンに向かって話す。
「俺の傷は良くなったし……次はフォンセの火傷を治せないか? ……いやまあ、何度もほいほい使えるか分からないけど……」
それはフォンセの顔にある火傷の事である。
フォンセの魔力は残り僅かという事を既にフォンセから聞いていたライ。自己再生が出来ない為、回復術を持っているリヤンに聞いたのだ。
「この街に住む魔族達も帰って来ただろうし、キュリテの超能力も容易に使えないだろうからな……。暗黙の了解ってのがあったのは初耳だった……」
ライはフォンセからある程度の事を聞いており、キュリテが容易に超能力を使えない事やそれぞれの戦いで起こった事をそれなりに聞いていた。悪魔でそれなりだが。
「うん……分かった……」
リヤンは快く了承する。
大人しい性格なので嫌々了承しているようにも見えるが、リヤン自身は頼られる事が嬉しそうだ。
「……うん……これで良いよね……?」
そしてフォンセの治療も終わる。火傷だけだった為、ライ程時間も掛からずに火傷の痕が消え去った。
「おぉ……本当に凄いじゃないか……手を翳すだけだから回復魔術よりも時間を要する事が無い……」
「アハハ……」
さす、と火傷があった場所を掌で触れ、それが無くなっているのを確認して感心するように話すフォンセ。リヤンは二度褒められた事へ照れくさそうに頬を掻く。
「その様子を見ると……ライたちが勝利を収めたようだな……」
「「「「「………………!」」」」」
そして、突如として空から女性の声が聞こえてくる。
ライ、レイ、フォンセ、リヤン、キュリテは同時に空を見上げ、その声の主の名を発する。
「「「「「エマ(お姉さま)!」」」」」
「ふふふ……ようやく見つけたぞ。負傷も目立ったところには無いが……この有り様を見る限り圧勝したとも考え難い……。既に治療済みなのか?」
エマはライたちの様子を見て外傷が無いように感じたが、ライたちの疲労感を見、何かで治療したと推測する。
「ああ、それはだな……」
そんなエマの言葉に対し、ライは順を追って説明する。
「──って事でリヤンにも色んな技が使えるらしいんだ。何で急に目覚めたかは知らないけどな。如何せん親も分からないし」
「ふむ……そうか。ふふ……ますます私の血液が必要無くなってきたな。まだ完全には分からないようだが、魔力などを消費せずに回復術を使える可能性があるようだからな」
ライの説明を聞き、その内容を理解したエマ。エマは自分の血液による治療が必要無くなる事でライが治療を拒む事も無くなるだろうと笑っていた。
そして視線を移し、横になっている者達に向ける。
「……で、そこに転がっている奴らがこの街の幹部とその側近か……。ゲームが終了してから然程時間は経過していないが……そろそろ起きそうな者もいるか?」
「……さあ? どうだろうな。誰がどのタイミングで意識を失ったか分からないからな……」
横になっているゼッル、シャバハ、ジュヌード、スキアー、チエーニを眺めて話すライ。
「そうだねぇ……先に起きるとしたらダメージをあまり与えないで意識を失わせただけのチエーニちゃんかなぁ?」
それを聞いていたキュリテはチエーニの方を一瞥し、ライたちに視線を戻して話す。
「……だから……"ちゃん"付けは止めてよ……」
そしてその予感は見事に的中し、チエーニがムクリと起き上がる。寝起き? だからか、ゲームが終了したからか、割りと大人しい感じだ。
「アハハ。ごめんねチエーニちゃん!」
「……はあ……もういいわよ"ちゃん"で……」
頑なにちゃん付けを止めないキュリテに対し、呆れたようにため息を吐いてそれを認めるチエーニ。
「……で? アナタ達この街を征服するって言っていたけど……うちの幹部を起こさなくても良いの?」
そして、チエーニはゼッルの方を一瞥してライへ言う。
ライがこのゲームを挑んだ理由はこの街──"イルム・アスリー"を征服する為。
"イルム・アスリー"を仕切っているのはゼッルの為、ゼッルを起こさなくては話が進まないのだ。
「それもそうだな。そろそろ幹部様を……」
ライはチエーニの言葉に返し、ゼッルの方を向き──
「もう起きてるぜ……。まあ、身体中が痛えけどな……」
──言葉を続けようとしたが、ムクリとゼッルが起き上がる。
「……何だ。起きてたのか……起こす手間が省けたって喜べば良いのか?」
そんなゼッルを見て苦笑を浮かべるライ。
「俺たちももう起きたぜ……?」
「ハッ、剣の攻撃なんか数分で治るからな……。……つー事で出血を止めてくれや……」
「……ケッ、俺の計画は何十年後になるのやら……。俺の弱さじゃ長生きするしかねェか?」
ゼッルに続くよう、スキアー、シャバハ、ジュヌードも起き上がる。スキアーは頭を掻きながら欠伸をし、シャバハは痩せ我慢をする。そしてジュヌードは自分の弱さにガッカリし、肩を落としている様子だ。
「まあ、取り敢えず幹部の皆さんは起きたようだし……勝利宣言して良いか?」
幹部とその側近が全員起き、話せる状態になったところでライはゼッル、シャバハ、ジュヌード、スキアー、チエーニの五人に尋ねる。
「あー……そうか、俺たちは全員負けたのか……。本当に強ぇなアンタらは……。まあ、死人に口無し……俺たちは生きているが、アンタら程の実力者達と戦って命があるだけで儲け物だ。好きにしな」
ゼッルは五人を代表するようにライへ言い、敗北を認める。
「そうか、ありがとよ。以外だ、割りと潔いんだな魔族ってのは」
ライは敗北を認めたゼッルに対して笑いながら言葉を発した。ゼッルもつられるように笑い、言葉を続ける。
「ハッ、魔族ってのは自由だが、その代わりに自分の敗北は素直に認めるのが殆どだ。まあ全員が全員じゃねえが……。つか、お前も魔族だろ?」
フッと口角を吊り上げ、横目でライわ見てて話すゼッル。
「いやいや、俺は十数年人間として育てられたんだ。根本的なモノは同じかもしれないけど、戦闘好きって訳でも無えし」
そんなゼッルの言葉に返すライ。ライが持っている魔族の知識と言えば戦闘好きで人間よりも力が強い。くらいだ。
人間として育てられたライにとっては魔族が持つ潔さも知らなかった。
「そうか。……まあ、魔族も人間もそれぞれが違う思考を持っている。それは変わらねえ事実だ。要するにいずれは魔族って事を実感できる日が来るかもな?」
「そうかい。魔族の国を支える幹部様がそう言ってくれるなら、誠にありがたいものだねえ……」
そして会話を終えるライとゼッル。ライとの会話を終えたが、ゼッルは別の事について話す。
「じゃ、人を集めてくれや。俺たちの敗北宣言とお前達の征服宣言を同時にしようか……?」
「「「「「「…………………………」」」」」」
ゼッルの言葉に無言で頷いて返すライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人。
そして、他の場所より少し高い場所へ移動するライたち六人とゼッル達五人だった。
*****
ワイワイ、ガヤガヤと、少し目立つ場所に魔族達が集まっていた。ゲームが終わってから直ぐの召集という事もあり、中には不安そうな表情をしている者も居た。そんな者達の前にある瓦礫へゼッルが立ち、
「よーし、俺たち幹部一同はこの者達に敗北した。つまり約束通りこの街は征服される。以上」
それだけ言い、直ぐに後ろを振り向いて瓦礫から降りる。
「「「………………え?」」」
それを聞き、"イルム・アスリー"に住む魔族達はゼッルが何を言っているのか理解できなかった。
そして暫く静寂が続き──
「「「はあああァァァァァ!?」」」
──一斉に声を上げて騒ぎだした。
「幹部たちが負けた!?」
「そんな馬鹿な!?」
「征服されるって!?」
「何もなくなったこの街を!?」
「俺たちは奴隷になるのか!?」
「殺されるかもしれない!」
「いやまて!相手はまだガキだったぞ!?」
「強さにガキも何もあるか!」
「そうだ。幹部たちが負けたのは事実なんだ!」
次から次へ困惑と混乱が"イルム・アスリー"の街に広がる。突然の言葉に脳の処理が追い付かないのだろう。
ザワザワと話すその者達の様子を見たライは、先程ゼッルが立っていた瓦礫に上って魔族達の方を向き──
「この街は俺が征服した! これは紛れもない事実だ! だが、お前達"イルム・アスリー"の民をどうこうしようという考えは無い! この街を再生させたら直ぐに別の街へ移動する! つまり! この街での大抵の事は昨日と変わらないままだ! 俺が征服したという言葉だけを覚えてくれれば良い!」
──演説するように声を上げて魔族達へ言った。
「「「………………」」」
「そういう事だ! だが、まだ理解していないお前達に今から詳しく話してやる! つまり──」
それを見た魔族達は唖然としていたが、それに続くようゼッルも詳しいことを話、ライたちが征服した事へ正当な理由を付けた。
「──という事だ! 特に異論は無いな!?」
ワアアアアアアア!! と、"イルム・アスリー"の幹部、ゼッルが話した事へ共感するような歓声が上がる。
「流石の幹部だな。俺から見たら割りと荒れていた魔族達が纏まっている」
「そうでもねえよ」
ライとゼッルがすれ違い、そこで言葉を交わす。こうして、ライは形だけでも"イルム・アスリー"を征服した。
*****
その後、街の復興なども再生魔術やキュリテの超能力、ライの力などでスムーズに進み、僅か数時間である程度が回復した。もうライたちが手伝う必要も無いほどに。
そして休憩も兼ねて、
「科学の街の湯殿か……中々良いな……。疲れた身体を魔法・魔術以外で癒してくれる良い物だ」
「だろ? ハッハー、お前も中々分かる奴じゃねェか! 魔法・魔術・科学で簡単に湯が創れるこの世界……だが、だからこそ! 何も使用していない古き良き自然の温泉が良いって物よ! まあ、それのお陰で火山騒動がたまに起きるけどな!」
「騒がしいぞスキアー。ククク……だが、いずれはこの湯も俺が手にしてやるよ……」
「出来ると良いなジュヌード……。まあ、今はそんな物騒な事言ってねーでのんびりやろうや……征服された身は敵では無いからな……」
ライ、スキアー、ジュヌード、ゼッルが"イルム・アスリー"にある温泉で寛いでいた。
何故こうなったかというと、戦いや復興作業で汚れてしまった為、主に女性陣の要求で速やかに温泉を再生させたのだ。
ついでだからライとゼッルたちも入ろうという事である。
「自然の湯か……。何度か入っているが、やっぱ疲れた後が一番良いな……」
チャプ、と湯を掬い上げ、それを眺めるように呟くライ。
そんなライを見たスキアーはふっふと笑ってライに言う。
「ククク……分かっちゃいねェな……お前はまだまだガキだ……」
「……?」
スキアーの言葉に眉を顰め、ライはピクリと反応を示す。その視線からそれを読み取き、スキアーは言葉を続ける。
「ククク……湯を楽しむ……それも良いさ。だが、まだ俺たちにはやる事がある……」
「……やる事……?」
訝しげな表情でスキアーへ尋ねるライ。スキアーはカッ! と目を見開き、小さな声だが叫ぶように言った。
「壁の向こう側を"視る"事だ……!!」
「壁の向こう側を……視る……? 壁の向こう側って言やぁ……レイたちが居る所じゃねえか?」
そう、スキアーが言ったのは女湯を覗く。という事。
その言葉に対し、ライは何とも言えない表情に変わる。
「何でそんなものを視る必要があるんだ……?」
それはスキアーの言っている事に何の利点があるか分からないからだ。視たところで何かが満たされるという事でも無いだろう。スキアーはクッと笑って言葉を続ける。
「ククク、やはりまだまだガキだな……。良いか? お前は知らないと思うが、俺たち魔族は謂わば知恵を持った野生動物だ。四六時中は大抵戦うことを考えているが、戦い以外を考えている時もある。その時に子孫を増やしたりしてんだ」
「……?」
スキアーが綴る言葉にキョトンとした表情をするライ。スキアーは立ち上がり、女性陣が入っているであろう湯船に隔ててある壁へ歩み寄り、
「つまり、こういう事だ!」
そこに空いていた小さな穴に目を近付け──その刹那、
「"岩の針"!!」
「ギャアアアァァァァァッ!!!」
壁から岩が生え、スキアーの脇腹を抉った。その岩によってスキアーの脇腹から鮮血が漏れ、スキアーは意識を失う。
「「「…………何やってんだ? お前?」」」
ライ、ゼッル、ジュヌードは同時にスキアーへ言い、それからゼッルは呆れ顔で"治療魔術"をスキアーへ施した。
*****
「……どうしたの……? チエーニちゃん……?」
一連の流れを見ていたキュリテは、若干引きながらチエーニへ言う。土魔術を放ったチエーニ。直ぐに岩は消したが、キュリテは見た。その先端には真っ赤な液体が付いていたのを。
そんなキュリテに対してチエーニは、明るく笑ってキュリテへ返す。
「何もしていないよ?」
「そ……そう?」
その笑顔は見る者を固まらせるような冷たいモノだった。それは、湯船に浸かっているキュリテすら寒気がする程の。
「それにしても……何か負けた気がするのよね……キュリテに……」
湯船に戻ったチエーニはキュリテの身体を上下に見、ブクブクとお湯に口を浸けて呟く。
「アハハ……何の事?」
キュリテは愛想笑いをするが、チエーニが何故敵意剥き出しで自分を見ているのか理解できなかった。いや、理解しようとしなかった。
「……ま、まあ、チエーニちゃんってまだ一五〇歳もいってないでしょ? まだまだこれからだよ!」
「その言い方がムカつくのよ……!」
刹那、ガシィッ! と、チエーニを励ますキュリテの胸を鷲掴みにするチエーニ。
「ひゃ……!」
チエーニに掴まれ、思わず声が漏れてしまうキュリテ。
「天は何故こんな飄々としている人に二物を与えたのよ……!」
「し、知らないよぉ……!」
グググと力を込めるチエーニ。キュリテはどうすれば良いか分からなくなっており、赤面しつつ力が抜けていた。
「仲が良いんだね……あの二人……」
その様子を見たリヤンは羨ましそうに呟く。それは友"人"同士でじゃれ合った事が無いからだろう。
「アハハ……そうは見えないけどね……」
そんなリヤンの言葉に苦笑を浮かべて返すレイ。リヤンが言っている事はちょっと違う気がしたからだ。
「ふふ……まあ良いだろう。子供は子供同士仲良く……な」
「まあ、あの二人にとってはエマ以外の私たちが子供だけどな」
そしてそれを眺める親のようなエマとフォンセ。我関せずの態度を取る二人だが、一番冷静に物事を判断できるのはこの二人だろう。
「貴女達も……ヴァンパイアを除いてイラつくのよーっ!」
チエーニはターゲットをキュリテ一人からレイ、フォンセ、リヤン、キュリテたちに移し、それらへ飛び掛かる。
「「きゃぁ……!」」
「…………下らんな……」
「別に気にしていないが……ヴァンパイアを除いてとはどういう意味だ……?」
レイとリヤンは捕まり、フォンセは避け、エマは少しイラつく。少々騒がしい女性陣だが、チエーニも大分馴染んだらしい。
こうして、少し騒がしく入浴を終えるレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、チエーニと、のんびりと入浴を楽しんだライ、ゼッル、ジュヌード。スキアーも傷が癒え、ライ一行と"イルム・アスリー"メンバーだった。
*****
ヒュウと冷たく、凍てつく風が通り過ぎる。全体的に暗い印象を与える街。この街には野生の幻獣・魔物も近付かない。
「───様。調べてみたところ、やはり"イルム・アスリー"が壊滅的な被害を与えられています」
「……そうか。この国に攻め込む者……本当に居たんだなァ……。ククク……これは面白そうだ。────や─────。そして───。アイツらよりも先に面白そうな奴を相手取ってみるか……」
クククと不気味な笑い声を響かせる者。
平穏で怠惰で退屈な世界。そんな世界に攻め込んで来るものが現れたのだ。
退屈な日々を過ごしていた者──支配者にとってはこれ程に無い楽しみの筈だ。
数年もしないうち、恐らく数ヵ月で出会うだろう。魔族の国を支配する者と世界征服を企む者。
この二人が出会った時、魔族の国は滅ぶのか、それとも何も無いのか。それは誰にも分からない事だった。
*****
「……さて、行くかぁ……」
ザッと地面と擦る音。
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテは移動し、"イルム・アスリー"の入り口に立っていた。
「フフ……お前は本当に世界征服を目指しているのか?」
「ああ、勿論だ。俺は世界を征服して俺の理想郷を創り出す。それに向かってな……」
そんなライたちを前にしたシャバハがライに聞き、ライは笑って返す。
「理想郷……か。……ッハハ、それは中々面白そうな夢を持っているじゃねえか……それがどんなモノか詳しく聞きいてみたいが……そんな時間も無さそうだしな……」
シャバハに続き、ゼッルが笑いながらライへ言う。
ライの夢に興味があるようだ。ライはフッと笑ってゼッルへ返すように言う。
「ああ、俺も詳しく話してみたいが……生憎そんな時間も無いもんでね……目標を達成できたらまたこの街にでも寄ってみるよ」
「ッハハ……そうか。それは楽みだ」
それだけ交わし、ライたちは振り向いて次の街へ向かう。
魔族の国にある街、六つのうち二つを征服したライ。
ライの旅は終わる事無く、世界征服を目指してライたちは旅を続けるのだった。
そう、"イルム・アスリー"の……次の街を目指して。