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七百四十八話 主力達の戦い・南側

 ──"ポレモス・フレニティダ・南側"。


 街の南側では、エマとノティアが依然としてロキと戦闘を続けていた。展開された炎をエマが雨を中心的に降らせて防ぎ、ノティアが杖を構える。


「今更だけど、見ての通り私は魔法使いよ! "(ネロ)"!」


 杖に魔力を込め、放たれた水魔法。どうやらノティアは魔法使いらしく、エマの雨に合わせて炎を消し去る水を形成した。

 それによって炎は消火され、南側は水蒸気に包まれる。


『更に焼き払ってくれよう……!』

「させるか!」

「"ヴィンダ"!」


 その水蒸気に向けてロキは炎を放って水蒸気爆発を引き起こそうと試みる。しかしエマが風を操り、ノティアが風魔法を放って全ての水蒸気を消し去った。水蒸気爆発自体はエマにとって影響は無いが、あくまで幹部の側近クラスのノティアはそうもいかない。なのでそれを引き起こされると厄介なのだ。

 水蒸気を消し去った二人はその場で力を込め、更なる魔法と天候でけしかける。


「今更だが、炎その物の身体を持つ貴様は厄介だな。ライやレイならば兎も角、私たちでは与えられるダメージも限られてしまう」


『フッ、笑えるな。不死身の肉体を持っているお前が厄介と述べるか。通常のヴァンパイアは火にも弱い筈だが、お前はそうでもなさそうだ。この世界のヴァンパイアは皆がそうなのか?』


 ヴァンパイアの滅ぼし方は、日光に浴びせる。銀の武器を使う。心臓に杭を打ち込む。聖なる力を込めた十字架を向けるなど、その他にも色々と存在している。

 火もそれらの弱点と同じで、ヴァンパイアを討ち滅ぼすにはそれが必要と謂われているのだ。

 しかしエマは様々な弱点はあれど、別段火に弱いと言った様子ではない。常に燃やし続ければ良いのかもしれないが、ロキはそんなエマが気になっているようだ。

 それに対してエマは笑って返した。


「ふふ、火にも弱い者は居る。これでも私は流水を渡れなかったり日差しに弱かったりと中々不自由しているんだ。生命力が高いから浴びる苦しみも比例するという皮肉よ。長く生きれば、その分肉体が自然に慣れていくだけだ」


 曰く、「慣れた」との事。

 数千年。それこそエマは、かつての勇者が魔王討伐の為に旅をしていた頃から生きている存在である。この世に伝わる伝承の大半を見ていると言っても過言ではないのだ。

 だからこそ長い年月で自然と身体が慣れたらしい。確かに自身の弱点には苦しめられるが、何も即死する訳ではない。暫く耐える事が可能であり、そこから逆転した事も何度かある。力をあまり鍛えなかったエマは、通常のヴァンパイアよりも遥かに強靭な耐久力を手に入れたという事だろう。


『成る程。長く生きれば慣れると。おかしな話だが、妙な説得力があるな。事実私の炎を受けてもダメージは無さそうだからな』


「まあ、それと引き換えにあまり強い力は手に入れられなかった。だから私は今、災害魔術のような力を使えるようになる為の練習をしているんだ」


 会話を終わらせ、瞬間的に洪水を集中させてロキの周囲に引き起こす。ロキは炎でそれを蒸発させて消し去り、自身が炎となってエマに迫る。


『ならば、私のブランク解消にも付き合って貰おう』

「私が居る事も忘れないでよね! "パゴス"!」


 そんなロキに向け、蚊帳の外になっていたノティアが氷結魔法を放ってけしかける。

 洪水をも蒸発させる程の熱を持った火その物であるロキに氷は効かないだろう。だが、今ので生まれた新たな水蒸気。それは別だ。水蒸気は瞬く間に凍り漬き、氷の壁が形成された。それに突っ込む形となったロキはそのまま進むがそこにエマとノティアの姿は無く、氷に隠れて左右から攻め込んだ。


『フム、氷による光の反射と壁。そして景色やそのまま凍った水蒸気の白……それを使って私の視線を別方向に誘導したか』


「そう言う事。暑い夏には氷が良いでしょ?」

「まあ、火その物のロキに熱や冷気が通じるのかは分からないがな」


 そう、凍らせた水蒸気は全てフェイク。ロキの視界を狭め、死角を生み出す為に作り出した物だ。

 エマとノティアは話ながらも既に次の段階へと行動を起こしており、技を放てる体勢になっていた。


「水のみならず、火を揉み消すというのも良さそうね。"デンドロン"!」

「なら、私は火に対する耐性を与えよう」


 ロキに向けてノティアが樹を造り出し、エマが雨を降らせてその樹を湿らせる。湿った樹は燃えにくい。当たり前だろう。つまりエマとノティアは、あまり効果の感じられない水の力ではなく質量で押し潰す事を考えたのだ。不意を突いた今だからこそ、ほぼ確実に入ると判断したのだろう。

 流石にデメテルの操る樹と比べれば足元にも及ばないが、そこまで広範囲の高威力でなくとも確実な一撃を叩き込める筈だ。


『フム、焼き防ぐのも一苦労だな』


 湿った樹に対し、ロキは炎を放って焼き払う。当然直ぐには消えないがロキの炎はそもそも桁違いの威力を秘めている。なので幾ら湿らせようと即座に燃え尽きてしまうだろう。

 それによって周りの氷も溶け、再び水蒸気に包まれる。気体だった先程の水蒸気は一度凍って固体になり、次いで溶けると同時に液体、再び気体へと変化する。


『……。まさか……!』

「ああ、そのまさかだ。貴様も常に炎である訳じゃなかろう。一瞬でも足止め出来ればそれで良い!」

「エマに同じよ! "パゴス"!」


 そう、その気体を再び凍らせるとどうなるか。気体となった先程までの氷はノティアの氷魔法でまたもや固体となり、ロキの身体を拘束した。

 樹を焼き払った直後だったが故にその身体は実態を持っていた。基本的には自動で炎となって流動させるのだが、火に神格が宿った存在でもあるロキは火にもなれるというだけであり、様々な事柄に対する対処次第では実態を持つ事もあるのだ。今回は周りの氷による液体。即ち水がその原因だろう。

 気付いた時既に遅し、白く凍りつく水蒸気は実態を持った一瞬のロキを固定する。本人も気付けば再び炎へと変換させて周りを溶かすのだろうが、その一瞬あれば十分だ。エマとノティアは更にけしかけた。


「即座に貴様を消し去る!」

『……!』


 先ずはエマが雨を降らせ、ロキの炎を更に消し去る。一瞬の隙が生まれるのならばその様な事をしなくとも良いかもしれないが、ロキが炎である事は変わらない。だからこそ、確実な一撃の為に水を掛けたのだ。


「次は岩で揉み消す! "落石(プトシ・ブラホン)"!」


 放たれたのは土魔法を応用した岩魔法。数tはある岩を高速で降らせたそれは、隕石に匹敵する破壊力を秘めていた先程までロキの居た場所は水浸しとなりて大岩が降り注ぎ、"ポレモス・フレニティダ"の南側の一角は更に崩れた。


『フッ、全て無意味だ。忘れたのか? 周りにある火の粉から私は再生出来るのだ』


「ああ、知っているよ」

「そうだったの……!?」


 水が掛かった事によって実態を持っていたロキは、別の炎へと移動していた。

 それは火その物であり、火の化身と謳われるロキだからこそ成し得た御技である。炎から炎へと移動出来るのを知っているエマは特に驚かないが、初めて知ったノティアは呆然とする。何はともあれ、一瞬の隙を狙った攻撃もロキには無効という事だろう。加えて、次からは隙を生み出しにくくなる筈だ。油断していたからこそ水蒸気からなる液体で身体を濡れさせて実態を持たせる事が出来、もう一度水を掛ける事が出来た。

 しかしそれを学習したロキは、もうそんなヘマは踏まないだろう。再び炎へと身体を変化させると同時に周囲へ展開させ、その範囲を広げる。先程から無意味に炎の位置を広げているようにも思えるが、先程のような事があった時の為に逃げ場を用意しているという考えがあるようだ。


『次は此方から行かせて貰うとするか』


 展開させた炎を片手に纏い、一気にそれを放出した。渦巻く炎は周囲を焼き払い、業火で包み込んで大炎上させる。息をするのも辛く苦しい程の炎。常人なら炎の前に煙で意識不明に陥る筈だ。

 エマとノティアは互いに顔を見合わせ、力を込めながら迫り来る轟炎に向き直った。


「このくらいならば問題無く消し去れるさ」

「ええ、そうね。"ネロ"!」


 エマが天候。雨を片手に集め、魔法や魔術のように放つ。ノティアは水魔法を放ち、ロキの放出した轟炎を一気に消火させた。

 それによって何度目となる水蒸気が周囲に広がり、視界を埋め尽くす。しかし火その物であるロキの姿はある程度見えている。元々気配を感知しているのであまり関係無い事だが、エマとノティアが気配を消せば一時とは言え姿を隠す事が出来るだろう。


『フン、下らんな。先程のようなヘマは踏まない』


 その水蒸気に向け、炎を放って焼き尽くす。水蒸気に引火し、連鎖するように水蒸気爆発が引き起こって南側の街を轟音と衝撃が埋め尽くした。


「やれやれ。広範囲の技が多いな」

「そうね。"ヴィンダ"!」


 爆風と熱気を嵐の風雨と風魔法で吹き飛ばす二人。建物をも吹き飛ばす程の暴風雨は街全体を大きく振動させ、衝突するように相殺し合い、一瞬の無風を起こして爆発的に暴風が吹き荒れた。

 そんな中、エマは己の手を見やり何かを考えるように呟く。


「ふむ、どうやら天候を操る力……それはその者に降らせるだけでなく、自身に纏って魔法や魔術のようにも扱えるのか。魔力も関係無し。確かに遠隔操作と言えばそうだが、何故そうなるのか……考えてみれば、催眠とかのような技は超能力に近いな。となると……天候を操る力も念力のようなものに類似しているという事か」


 それは、ヴァンパイア。つまり自分の持つ天候を操る力について。どうやら天を操るのみならず、特定の天候を身体に纏う事も出来るらしい。それはエマの目標とする災害魔術に近い力だ。

 エマが推測するに、それは念力のようなものと同じような力。ヴァンパイアが超能力を使えるのかは定かではないが、操り方次第では様々な応用が利く事だ。


「どうかしたの?」


「ああいや、お前も先程見た力をもう少し上手く扱えればより戦えると思ってな。さて、まだ倒せている訳がない。気配は感じているだろう?」


「ええ、感じているわ。けど、へえ。確かに天候を操る力は応用が利きそうな力ね。災害魔法みたいな力が出せるかも」


「そうか、何も災害は魔術だけじゃないのか。触媒からなる魔法に応用させる事も可能。災害魔法も世にありそうだ」


 考え事をするように呟くエマへ訊ねるノティア。エマは軽く返し、立ち上る黒煙と水蒸気に向き直った。

 メラメラと揺らぐほむらもちらほら見え、まだロキは無事である事が分かる。天候を操る力も魔法・魔術のように自由自在に扱えるかもしれない。それならば念力のような力である事を踏まえた上で、天候を纏って構える。


『フッ……!』


 ──瞬間、黒煙と水蒸気を貫く轟炎が放出され、エマとノティア目掛けて放たれた。二人はそれを見切ってかわし、左右へ別れるようにロキへ迫る。


態々(わざわざ)正面から防ぐ必要は無いな。居場所は分かった。一気に攻めるぞ」


「ええ、そうね。何をするにしても、水で炎を無効化しなくちゃ意味が無い……!」


 場所が分ければ行動は迅速だ。エマは雨を片手に纏い、風で圧縮して覆う。まだ力の扱い方はよく分からないので、使える力で固定したのだ。

 ノティアは杖に魔力を込め、ロキの位置を把握しつつ魔法の届く位置に構える。


「はあ!」


 そして、先ずはノティアが魔力の塊を放った。

 放たれた魔力の塊。それは真っ直ぐにロキへと向かい、その途中で破裂した。それは急上昇して天空へ向かい、雲が集まり出す。


『またフェイクか!』


 その事からノティアが何かを仕組んだと考えたロキは雲に向けて炎を放ち、上空全ての雲を焼き払う。先程の事もあってかなり警戒しているのだろう。既に周りには炎が張り巡らされており、逃げる準備も完遂していた。


「掛かったな。それがフェイクだ!」

『なにっ?』


 次の瞬間、ロキの周りに魔力が集まり、徐々に氷を形成した。

 今回のロキはしかと確認を怠っていなかった。警戒もしていた。ならば何故魔力が周りに集まっていたのか。ノティアは笑って返す。


「先程散った魔力。空へ放った方がフェイク。散らせた周りが本命だよ」


『フム、成る程な。また見抜けなかった。自分で言うのも何だが、かなり勘が鈍ってしまっているな』


 先程魔力の塊は破裂し、その大多数が空へと昇って行った。しかし、それこそがフェイクだったようだ。ノティアは既に氷魔法を宿した魔力の塊を放っていたのである。

 だから空に散った欠片から雲が形成された。空気中の水蒸気が凍りつく魔法。仕掛けたのが氷ならば、ロキに対する有効な事柄が多いのだ。そのままでも視界や行動を制御出来、炎によって溶ければそれによって一瞬だけ触れられるようになる。

 しかし、それはもう必要無いかもしれない。何故なら、既にエマがロキの上からけしかけているからだ。


「悩みが一つある。これは魔法や魔術じゃないから、エレメント名を口にした方が良いのかどうかというものだ」


『フッ、さあな。分からぬ』


 そして放たれた、風で雨を圧縮して封じ込めた天候の塊。それはロキに着弾し、圧縮された天候が一気に解放された。

 爆発のような暴風が吹き抜け、大波のような雨水が降り注ぐ。そこを中心に半球状の広がりを見せ、南側の街が飲み込まれる。エマ、ノティアとロキの戦闘。エマが数千年にして覚醒しつつあるこの戦いは、決着が付こうとしていた。

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