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七百四十五話 主力達の戦い・中心街

「オラァ!」

「チィ……!」


 この国に集ったアレスを除く全ての主力達が戦闘を織り成す中、ライの放った拳がゾフルの身体を打ち抜いた。既に炎や雷と化しており、物理的なものからある程度の魔法・魔術も流動出来る身体となっているが、魔王の持つ無効化の力を纏っているライに効果はない。

 打ち付けられたゾフルはそのまま落下し、"ポレモス・フレニティダ"の街全体に大きな振動を響かせた。


「っと、街を破壊しちゃったか? いや、大丈夫そうだ。あまり力を込められないのは大変だな」


 近くの建物に降り、振動と共に街を破壊してしまったかもしれないと懸念するライだが、どうやら石造りの道が砕けただけで建物や人々に対する被害は生まれていないと安堵する。余波で世界が滅びうる力を宿しているライ。なので一挙一動にも気を使うのだろう。


「ふざけやがって! 舐めんじゃねェぞ!」

「別に舐めちゃいないさ。俺はアンタらみたいに街を破壊する征服方法は行わないんだ」


 そんなライ目掛け、雷速でゾフルが迫り来る。確かに今の言い方では舐めているとも取られてしまうだろう。なので決して舐めている訳ではないと告げたライはあくまで街を破壊するやり方はしないとだけ告げて構え直す。


「だから、なるべく街は壊さないようにアンタを壊すとするよ」


「俺は玩具か!」


 刹那に踏み込み、ゾフルの眼前に迫って拳を放った。それをゾフルは仰け反ってかわし、同時に炎と雷撃をライの身体に流す。それによって目映い光がほとばしり、熱と痺れがライの全身を覆い尽くした。


「この程度じゃ意味がないって気付いてんだろ!」

「当たり前だ!」


 全身を覆った炎と雷を風圧で消し飛ばし、向き合うと同時にゾフルの顔を殴打するライ。殴られたゾフルは体勢を変え、全身を変化させてライの身体に纏わせる。


「どうせこれも効かねェんだろ! 炎と雷のエネルギーは使えるが、どうにも有効打は与えられねェみてェだな!」


 炎上と放電。二つの自然エネルギーがライの身体を飲み込んで刺激する。常人なら既に死している力だが、ライには意味がない。ライは肩を落とし、ゾフルに向けて言い放った。


「悪いけど、あまり楽しむ時間はない。早いうちに決めさせて貰おうか……!」


「ハッ! そうかよ!」


 纏割り付くゾフルを剥がし、魔王の力は無効化以外に使わず力を込める。それを見たゾフルはクッと笑い、空中に移動して炎と雷を一ヶ所に集めた。


「んじゃ、俺もさっさと決めてみるか。テメェとは相性が悪過ぎるからな。最低で惑星破壊規模のダメージを与えなくちゃ無傷。それならこの星をる勢いでやらなきゃ意味ねェよな!」


「そうか。けど、アンタが空中に居て良かった。空なら俺の力で世界が崩壊する危険性は薄くなる……!」


 炎と雷が混ざり合い、目映い光の球体が周囲を照らしてエネルギーを散らす。おそらくゾフルの全力に匹敵するエネルギー体だろう。まだ戦いは始まったばかりなので全力では攻めないが、ライにダメージを与えられるかもしれない力をもちいていた。

 対するライは余裕のある態度で構えており、ゾフルの出方を窺う。


「どうせ正面から受けてくれんだろ。ならさっさとけしかける!」


「ああ。正面から破壊しなくちゃ世界が危ういからな」


 ライの行う敵の攻撃に対する対処法は既に知れ渡っている事。世界征服はするが、世界を破壊したい訳ではない。なので、場所や位置が悪かった場合は敵の攻撃を正面から粉砕するのだ。

 それを分かっているからこそ、ゾフルは躊躇わずにエネルギーの塊を雷速で放った。


「消し飛べ!」

「アンタがな!」


 雷速で迫る惑星破壊の力を秘めた球体に向け、ライは全身に力を込めて拳を突き出した。


「オラァ!」


 ──それによって球体は破裂し、その爆風が街全体を覆い尽くす。衝撃だけで複数の建物が砕けたがライの力によって相殺されていなければ余波だけでこの街が消し飛んでいた事だろう。


「……。やっぱり駄目か」


 自身の技が意図も容易く砕かれたゾフルは何かを察し、背後に回り込んでいたライに視線を向けた。


「ハッ、本当に何処でそんな力身に付けたんだよ。俺を遥かに凌いでいやがる」


「ちょっと地獄でな。肉体ごと」


「成る程。そりゃ魂だけ地獄に行っていた俺じゃ相手にならねェか」


 そのままライはゾフルの首元に回し蹴りを放ち、その身体を吹き飛ばす。本来なら首の骨が折れていたが、ライの触れている部分から広がる無効化の力。どうやら炎や雷が勢いを少し流動させたので首の骨までは折れなかったらしい。

 しかし吹き飛んだ事実には変わりない。建物を複数貫通し、瓦礫を巻き上げ痕を残しながら数キロ程向こうに飛ばされた。


「さて、跡を追うか」


 その姿を見やり、まだ余力はあるだろうと判断したライは吹き飛んだゾフルの跡を追う。数キロ飛んだが、ライならば直ぐに追い付けるだろう。

 ライとゾフル。二人の戦いは地獄で鍛えられた事もあってライが優位に立っていた。



*****



「さて、アレスが来るまで此処で待っているのも退屈だね。君達、アレスが来るまでの時間潰しにもう少し付き合って貰うよ?」


 一方、"ポレモス・フレニティダ"の中心街にて戦闘を楽しむグラオはヘルメスとメソンに向き直って不敵な笑みを浮かべていた。それを気いた二人は肩を落とし、ため息を吐く。


「やれやれ。自分の街で無くとも、退屈凌ぎで国の街を破壊されてはたまったものじゃないな。やはり何とか動きくらいは止めておきたいものだ。メソンと言ったな。手伝ってくれ」


「言われなくともそのつもりですよ。……うん、敬語は苦手だ。普通に話すとしよう」


「そんな事は気にしなくとも良い。まあ、その様に礼儀正しく話されるのも立場的にあまりないから悪くないがな」


 グラオの脅威は数撃で理解した。なので幹部と頭。二人は協力してグラオを叩くようだ。それに対してグラオは楽しそうな笑みを浮かべて言葉を続ける。


「ハハ。そうこなくちゃ。じゃあ早速」

「……!」


 それだけ告げ、第五宇宙速度程で迫って拳を放った。それを見切ったヘルメスはハルパーの腹を使って受け止める。その衝撃と重みは凄まじく、思わず後退った。

 だが、この一撃を受けても後退るだけで済んだヘルメスも流石の実力という事だろう。それによって止まった一瞬の隙を突き、メソンが割り込むように蹴りを放つ。それをグラオは受け止めた。


「うん。良い連携だね。僕が蹴りを受け止めた瞬間に脇から刺し込む小刀……ハルパーだっけ?」


「読まれていたか」


 そう、受け止めた瞬間を狙ったヘルメスは一瞬だけ光の領域に達してハルパーを突いていた。だがグラオの勘と先読み、そして反射速度によって軽く避けられる。同時にグラオはメソンの足を掴み、持ち上げてヘルメスに叩き付けた。


「……ッ!」

「ガハッ……!」


 叩き付けられた二人は数十メートルだけ吹き飛び、擦るように地面に転がる。あまり距離を移動すると移動が面倒になりアレスが来るまで時間が数秒延びてしまうかもしれない。なので数十メートルに調整したのだ。


「さて、力は弱めていたからまだ立てるね。別に普通に飛ばしても大丈夫だったんだろうけど、移動は面倒だからね。さっさと立ってよ」


「やれやれ。人使いが荒いな。好戦的な者はどうしてこうも自分勝手なのか」


「好戦的だからとしか言えなさそうな疑問だな。それは」


 先を促すグラオに呆れ、ハルパーを構えて立ち上がるヘルメス。メソンも立ち上がっており、いつでも行動を起こせるように構えていた。

 グラオの力と速度は理解済み。理解したからと言って追い付ける訳ではないが、何も知らないよりは幾分かマシだろう。


「じゃあ、次は君達から来てみるかい?」

「ああ、そうさせて貰おうか」

「まあ、何もしないよりは良いか」


 グラオの挑発に乗り、加速して迫る。先程のグラオと同等、第五宇宙速度で肉迫したヘルメスはハルパーを巧みに振るい、逃げる方向をも予測して切り付ける。その間にメソンがグラオの死角に回り込み、次の瞬間ヘルメスのハルパーとメソンの蹴りがグラオの上段と下段を捉えた。


「おっと危ない」


 軽く跳躍し、それを飛び越えるようにかわすグラオ。二人は着地を狙ってけしかけ、グラオは着地と同時に飛び退いて距離を置いた。


「そこだ!」

「へえ、速度を上げたか」


 距離を置く事は想定の範囲内。光の速度に達したヘルメスが背後を取ってグラオの背にハルパーを突き刺した。が、ギリギリでかわされたので脇腹を掠ったくらいだ。

 しかし不死身をも殺すハルパー。掠った傷も中々癒えず、鈍く鋭い痛みをジワジワと与える事だろう。同時にメソンが迫り、グラオの頭にかかととしを叩き込んだ。その一撃でグラオは前のめりに倒れ、衝撃によって石造りの道が砕け小さなクレーターを形成させた。


「どうせ然程効いていないのだろう。さっさと立て」


「ハハ、バレたか。けど、ハルパーの傷。あれは地味に痛いね」


 倒れたグラオを見るヘルメスが言葉を発し、それに反応を示したようにグラオが起き上がって距離を置く。やはり不死殺しのハルパー。それはグラオにも例外無く効くらしい。寧ろ例外であるライ。もとい魔王(元)が規格外なので今更だ。

 だがヘルメスの神速もグラオにとって大した事はない。なので有効手段ではあるが、隙を作らせるのは難しいだろう。

 三人は互いに向き合い、張り詰めた糸のような緊張感が周囲に広がる。数撃放ってはうかがい、数撃放っては窺いの繰り返し。上級者同士の戦闘は気の抜けるタイミングがなかった。


「うぐァ!」

「えぇ!?」


 ──不意の出来事を除いて。

 三人が構え、緊張感漂う空間にて、何かが声を発しながら遠方からグラオの上に落下したのだ。

 流石のグラオもこの様な事態は予想していたかったらしく、高速の落下物に押し潰されて声を上げる。次の瞬間にその場所へ数十メートル程のクレーターが形成され、ヘルメス、メソンとグラオ、謎の物体に挟まれる形で屋根伝いに移動していたライが姿を現した。


「あ、何か巻き込んじゃったかもしれないな。まあいいか。敵の主力みたいだし」


「「…………」」


 降り立った瞬間の第一声は、心底軽いもの。しかしヘルメスとメソンには会っているライ。その立ち位置からしてもヴァイス達の誰かが戦っていたのは明白。なので特に気にはしていなかった。

 その一方で突然の事態に唖然とするヘルメスとメソンはハッとして構え直す。


「君は……もう一方の侵略者の少年か」


「知っていたのか。まだ報告はアレスにしかしていないが、出会っているなら推測くらいなしたのだろう」


 ライの存在は、ヘルメスとメソンは知っている。メソンには直接明かしていないが、その洞察力からライたちの素性は本人の前で明かしたのだ。

 ヘルメスはその事について呟くが、相応の観察眼を持っている事は大体分かったので特に追及はしなかった。


「ゾフル……あっさりやられちゃったみたいだね。君は」

「ああ。見ての通りだ。やっぱ強くなってんな、ライの奴」

「ハハ。そうじゃなくちゃ面白くないからね。それよかゾフル、退いてくれないかな。別に重くは無いけど地に這いつくばるのはあまり好きじゃない」

「おっと、悪かったな」


 軽く話すライと唖然とするヘルメス、メソン。そしてグラオとゾフルも二人で軽く話し合っていた。やはり隕石の如く速度で落下してきたくらいならグラオにとって大したダメージにはならないらしい。

 グラオとゾフルは立ち上がり、身体の土汚れを払ってライ、ヘルメス、メソンに向き直る。


「えーと、それで……ライが来たって事は参加する事になるのかな?」


「さあな。俺は別に構わねェぜ。見ての通り、ライにはあっさりやれちまったがな」


「ハハ。仕方無いさ。確かにライは急激に強くなっているからね」



「俺も別に良いな。何なら、アンタら全員の相手をしても構わないぞ?」



「知ってして何もしていなかったという事はメソン。お前はライに然程害は無いと分かっていた……という事だな?」


「まあ、そうだな。……が、今からやるというなら当然相手にするつもりだ」


「良し。なら、俺たちも参加しつつ向こうは向こうで潰し合いをして貰うか」


 ライ、グラオ、ゾフル、ヘルメス、メソンの方針は決まった。五人のうち味方が一人か無しで互いの戦力を潰し合うという方向に、である。

 街全体を巻き込む戦闘。主力であるライ達五人。1vs2vs2の戦闘が、"ポレモス・フレニティダ"の中心街にて勃発する事になった。

 そして、この街の幹部はまだ姿を現していない。

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