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七百四十一話 西側・特殊魔術

 ──"ポレモス・フレニティダ・西側"。


「チッ、こりゃマジだったな。何かよく分からねえ兵士が彷徨うろついてやがらぁ」


『『『…………』』』


 ノティアに言われて自分の収めている西側にやって来た──デュシス。

 デュシスは物陰から様子を窺い、自分の収める場所が戦場に成り果てた様子を眺めていた。

 辺りにはよく分からない兵士。生物兵器の兵士達が闊歩しており、建物からは煙が上がり粉砕した瓦礫や道が連なっている。この有り様では仲間が無事かも不安である。


「チッ、好き勝手やりやがって。仲間が死んでたら首謀者に弾丸をお見舞いしてやるよ……」


 魔力で強化された銃を構え、出方を窺う。まだ人々の死体などは道端にも無く、おそらく無事かもしれないという希望が見えていた。

 なのでどの様に切り込み、仲間達を探すのか。それが先決すべき行動だ。


「あの……」

「うおっ!?」


 その様に警戒する背後から、大人しそうな声が掛かる。それを聞いたデュシスは驚愕するように振り向き、銃を構える。そこには先程見た者たちの仲間、リヤンが居た。


「テメェ……何しに来やがった!」

「え……えーと……て……手伝いに……」

「手伝いだ? んなモン要らねえよ! さっさと帰りやがれ!」


 この状況では手伝いというのも有り難い存在だが、先程手伝いは要らない。協力したくないと言った手前引くに引けない状況。デュシスの言葉を聞いたリヤンは俯いて肩を落とす。


「……。ごめんなさい……」

「……っ。そう簡単に謝るな! 何か俺がスゲー悪人みてえじゃねえか!」


 あまりにも素直なリヤンを見、申し訳無い気分になるデュシス。言動は乱暴だが、案外悪い者ではないのかもしれない。

 そもそも、ノティアからもチームの頭という存在は自分の仲間を思う気持ちはあると言われていた。なので根は悪い者ではないのだろう。


『『『…………』』』


 そしてその様なやり取りをおこなっていた時、リヤンとデュシスは生物兵器の兵士達に囲まれた。

 生物兵器の兵士達は剣や槍。弓矢に銃などを構えており、る気に道溢れているといった雰囲気である。


「チッ、囲まれたか。テメェ、魔術を使っていたが魔術師か? しゃーねーから協力してやる。助けは要らねえよな?」


「うん……平気……。あと……魔術師という訳じゃない……色々使える……」


「ハッ、そりゃいい。頼むぜ助っ人」

「分かった……あと……この兵士達……不死身だから……気を付けて……」

「不死身の兵士か……面倒臭えな。つか、その話し方なんとかなんねえのか?」

「……」

「ま、無理強いはしねえ」


 この状況では協力せざるを得ない。なのでデュシスはリヤンと協力してくれるらしい。だが相手は不死身の生物兵器。鬼に匹敵する怪力と不死身の性能を持っているので一筋縄ではいかないだろう。


『『『…………!』』』


 そして次の瞬間、一番近くに居た生物兵器がけしかける。槍と剣を突き刺し、リヤンとデュシスが身を低く屈めてそれをかわす。そのまま加速し、一旦生物兵器達から距離を置いて壁を足場に、デュシスは銃を構えた。


「先ずは再生力と肉体的耐久力のテストだ」


『『『…………!』』』


 そのまま銃を放ち、兵士達を撃ち抜く。魔力の込められた弾丸は大砲に匹敵する威力を誇っており、肉片と鮮血を散らしながら肉体がぜた。


『『『…………』』』

「成る程な。数秒から数分まで様々だ」


 デュシスは飛べないので建物の出っ張りに掴まり、比較的安全地帯から再生過程を眺める。その様子を見ながら数を数え、再生時間も様々であると理解した。


「単純に考えりゃ、破壊具合から時間は割り出せるな。微塵になれば微塵になる程再生に掛かる時間は多くなる。こりゃ手数が必要になりそうだ」


 懐に手を入れ、拳銃をもう一つ取り出す。破壊が多ければ多い程に再生時間も掛かる。だからこそ、不死身を殺せぬ代わりに手数で攻めて時間を稼ごうという魂胆なのだろう。

 二丁拳銃となったデュシスは建物の上に上がり、屋根を進んで死角から回り込み、狙いを定めた。


「ハッ、俺の銃は百発百中だ!」

『『『…………!』』』


 決め台詞のように言い、生物兵器の兵士達へ集中砲火する。一つ一つが大砲並みの弾丸は魔力が上乗せされて音速を超越して進み、近くの建物ごと粉砕する。


「建物は尊い犠牲だ。しゃーねー」


 銃撃を止め、様子を窺う。既に再生し掛けているが、これなら数十分は掛かるだろう。デュシスはその場を離れ、標的を移して他を狙った。


「生物兵器を倒すには……細胞一つ残さずに壊す……それなら……"光の柱(ヌール・ザウル)"……!」


 デュシスが動きを止める一方で、リヤンは直接生物兵器を粉砕していた。

 光の柱が生み出され、その中の生物兵器が細胞一つ残さず消滅する。これは魔族の国幹部の側近、ラビアの光魔術だ。

 神の子孫であるが為に、見ただけでこの星に居る者たちの力を使えるようになるリヤン。当然他の幹部や側近もう同等。加えて支配者の力までも扱えるようになれるかもしれない。同じような力でも学習させた生物兵器の完成品からなるヴァイスのように異世界や多元の存在を応用する事は出来ないが、その分この星の存在に対する応用は無限にある。これなら神の力を使わずとも生物兵器を消し去る事が可能だろう。


「なんつー光魔術だ。てか、通常エレメントに光みたいな特殊エレメント? 何で二つの力使えるんだコイツ。四大エレメントでそれっぽく見せる事は可能だが……通常魔術と光魔術は別物だぞ……」


 リヤンの放った光魔術を見て、デュシスは驚きの表情を見せる。

 この世に存在する魔術は、その全てが"火""水""風""土"からなる四大エレメント。俗に言う通常エレメントである。

 しかし稀に、破壊を形成する破壊魔術や光を生み出す光魔術。武器を顕現させる武器魔術など、どのエレメントとも似付かない力を使える者が居る。それが特殊エレメントと呼ばれるモノの類いである。


 それは四大エレメントでそのように見せる事は可能だが、根本的な魔術の質が違うのだ。

 なのでそれを扱える者は血筋や生まれついての才など、後天的に身に付ける事が不可能な力でしか成立しない存在なのである。加えてその魔法・魔術を使える者は四大エレメントなどの力が、どの様に努力しようと悪魔に魂を売ろうと気休め程度にしか扱えなくなる。特異な力だからこそ、性質や強さも特異なモノなのだ。


 となるとリヤンはどうだろう。先程デュシスが見た通常以上の力が秘められた水魔術と光魔術。その二つが両立するなど不可能。そんなリヤンは、存在その物が矛盾しているのだ。


「テメェ……何で二つの魔術を両立出来るんだ?」

「……。え……?」


「……。その様子……何も知らねえみてえだな。無意識のうちに両立させているのか? 本来、通常のエレメントと光みたいな特殊エレメントは両立出来ねえんだが」


「……。そうだったんだ……」


 そう、本来は両立出来ない。その事実は揺るぎなく今現在も変化していない事柄だ。ただ単にリヤンが、神の血縁であるが為にその能力を使えただけなのだから。

 当のリヤンはそれを知らなかったのでキョトンとした表情のままだ。


『『『…………』』』


「って、んな事話している場合じゃねえか。何人か片付けたが、まだ終わってねえんだった。まあ、俺の倒した分はそのうち再生しちまうがな」


「……。細胞一つ残さないで倒せば……再生しない……」


「そうか。だがそれじゃ、やっぱ俺はこの兵士達と相性が悪いな。あくまでただの銃弾。魔力を込めてっから威力はあるが、細胞一つ残さず消し飛ばすのは無理だ」


 生物兵器の兵士達とデュシスは相性があまりよくないようだ。確かに弾丸では完全消滅させるのが難しいだろう。魔力を込める事で威力と速度を上げているが、消滅と破壊は根本的に違うからだ。

 撃ち抜き砕く事を生業なりわいとする銃は、消滅のように全てを消し去る存在とは別物である。あくまで破壊に特化した物なので細胞一つ残さずに消滅させる事には向かないのだ。


「だから、俺が適当に足を撃ち抜くからテメェは纏めて消してくれや」


「分かった……」


 それだけ言い、二丁拳銃をもちいて一瞬にして生物兵器達の足のみを撃ち抜くデュシス。それによって動きが止まったのを確認したリヤンは光魔術を用いて完全消滅させた。


「さて、ある程度は片付いた。後は主力とやらを探してみるか」


「うん……」


 生物兵器の殲滅を確認したデュシスは本来の目的である主力の捜索を開始する。リヤンも周りの気配に集中し、鼻を利かせて周囲を探る。


「……!」

「どした?」


 その結果、感じた事のある気配と嗅いだ事のある匂いに気付いた。デュシスが小首を傾げて訊ねた瞬間、リヤンは顔を上げてその場所に視線を向ける。デュシスも続くように向け、一人の人物を視界に映した。


「やあ、やっと気付いたかい。生物兵器はあっさりとやられてしまったようだね。それと戦い振りを見ていたけど、うン。良いね。デュシス。君は合格だ。おめでとう。となると他のリーダー達も合格に値する力を秘めているかもしれないね」


「……。ヴァイス……」


 ヴァイス・ヴィーヴェレ。敵の組織にてリーダーのような立ち位置に居る存在。どうやら西側にはヴァイスが来ていたらしい。

 そんなヴァイスは来た瞬間デュシスに合格を言い渡す。ヴァイスの選別対象者は前提として生物兵器との戦闘で考える。純粋な力が強いのは勿論、力が無くとも戦略にけている場合は合格になるのだ。今回の選考基準はデュシスの純粋な実力。戦略面ではまだよく分からないところだが、正確な銃撃に魔力の質。諸々を踏まえた結果合格になったらしい。


「ハッ、合格だ? 何かよく分からねえけど、どうでもいい。何がどうあれ、テメェが主犯格って事だろ? だったらテメェを倒して終わりだ」


「やれやれ。好戦的だな。まあ、好戦的な者達との接し方は知っている。要するに力でひれ伏させれば話くらいは聞いてくれるかな?」


 その合格を一蹴し、二つの銃弾を放つデュシス。ヴァイスは"テレポート"で移動し、軽く力を込めつつデュシスの背後から手刀をけしかけた。


「危ない……!」

「……!」

「フム、邪魔が入ったか」


 その一撃に対し、リヤンが迅速な反応を示して防ぐ。ヴァイスの手刀はリヤンによって止められ、その刹那にリヤンは力を込める。


「貴方も……生物兵器なら……!」

「細胞一つも残さずに消し飛ばすと?」


 そのままヴァイスの全身を狙い、光魔術で覆い尽くした。だがヴァイスはそれを理解しており、即座にその場から消え去るようにかわす。どうやら"テレポート"とはまた違った避け方のようだ。

 おそらくヴァンパイアの霧になる力をもちいたのだろう。エマの力は取り込んでおり、魔物の国支配者の側近であるブラッドの力もある。ヴァンパイアの力が使えるのは当然だ。

 

「うン。確かにそれが一番のやり方だ。けど、自分の弱点は熟知しているさ。最も、不死身の身体の弱点を突ける時点で君はかなりの力を秘めている事になるけど。それは大分前から知っていた事。私の合格には君も入っている。当たり前だね」


「……」


「距離を置いたか。なら、俺の銃撃だ!」


 霧のように姿を現したヴァイスに向け、二丁の銃を構えて一気に放つデュシス。魔力の込められた弾丸は音速領域を超越し、第一宇宙速度から第二宇宙速度に匹敵する速度となってヴァイスを狙った。


「別にかわさなくても良いけど……折角だから此方も銃撃で対応してみよう」


「なにっ?」


 ──刹那、ヴァイスは(・・・・・)無から(・・・)銃を(・・)形成して(・・・・)放った(・・・)

 射撃スキルは魔族の国幹部の側近ラサースのもの。だが、銃を生み出したのは確かに何もない空間からだった。

 放たれた二つの銃弾は互いにぶつかり合い、火花を散らして消滅する。通常よりも強度の高まった銃弾だったが力も上昇しているので耐えられなかったのだろう。それによって生じた衝撃波が辺りに轟くがデュシスの疑問はそこではなかった。


「無から武器を生み出す力だと!? それは"スィデロ・ズィミウルギア"の幹部、ヘパイストスの力の筈だ……!」


 それは、幹部の使っていた武器創造の力をヴァイスが使えた事に対する疑問。幹部クラスの技は全能の者を除いてその幹部しか使えない。そんな力を使えば当然気になる事だろう。

 その疑問に対し、ヴァイスは口元だけ軽く笑って返す。


「フフ、便利な力だろう? 私はヘパイストスから攻撃を受けてね。この力を手に入れたンだ。……と言っても私の能力が分からない君からしたら何を言っているのかさっぱりだろうけど」


「攻撃を受けて手に入れた……? ハッ、ほぼ言ってんじゃねえか。つまり、攻撃を受けて手に入れたって事だろ?」


「……。……ああ、うン。そうだね。……まあ一先ずそれは置いておこう。取り敢えず、今の私はどんな兵器も片手で生み出せるという事さ。まあ、流石に神話クラスの武器は本物より劣るけど」


 デュシスの言葉に一瞬停止したが構わず続け、剣や槍。銃に矢など様々な武器を形成して見せるヴァイス。自身の能力を明かすのは愚策だが、合格を言い渡した手前自身の力を知って貰おうという考えもあるのだろう。

 何故自分が不利になるその様な事をするのか、その理由は例え能力を明かしても勝てるという確証があるからこその行為だ。合格の時点でデュシスの死亡率は一気に低下した。だが、例えこのまま戦っても無駄という事を思い知らせるのが本当の目的だろう。あわよくば戦意が喪失して自分の方になびくかもしれない。それも狙った上での行動だ。


「ハッ、色んな力が使える奴はそれなりに見てきた。その程度で驚くかよ!」


「さっき驚いていたような……」

「うるせえ! こういうのはノリだよ。ノリ」


 だが、その力を見て意志が揺れるデュシスではないようだ。様々な力を持つ者は少なからず存在している。だからこそ、多少の驚きはあれど簡単に流される性格ではないのだ。

 それはリヤンも同じ事。ヴァイス達を倒すのはライの目的でもある。それを実行する為なら、リヤンは身を傷付ける覚悟があった。


「やれやれ。交渉決裂か。と言うか、今までで交渉が一回で成立したのは少ないな。元々反逆の意志があって生き返らせたという恩があるゾフルと、内通者だったハリーフくらいだ。ロキを仲間に加えるのも大変だった。……グラオ、シュヴァルツ、マギアはどうだったか……。忘れてしまったな」


 俄然やる気になったデュシスを見、頭を振って肩を落とす。交渉は基本的に一発で上手くいかない。そのまま蹴られる事は多々あった。なので呆れたのだろう。"そんな無意味な事をして何になるのか……"と。

 しかし、だからこそ勧誘の甲斐があるというもの。それだけの強い意志がある証拠なのだから。と言っても素直に協力してくれたゾフルやハリーフにも相応の意思はある。なので考えるだけ無駄だろう。ヴァイスはただ、自分の創る世界で生きる許可のある選別対象を決めているだけなのだから。意思のある者は良いが、無いなら無いで構わないと言った感覚である。


「さて、君達は二人とも合格している。私を殺さない限り勧誘は続けるよ。他の国の者達もね」


「だったら私は……全部断る……!」

「同意だ。力に屈する程俺はヤワじゃねえよ!」


 そして戦闘が再開した。勢い余って殺す事はあるかもしれないが、なるべく殺さぬように勧誘するヴァイスとそれに抗うリヤンとデュシス。

 人間の国"ポレモス・フレニティダ"。西側で行われる侵略者との戦闘は、まだ始まったばかりだ。

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