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七百四十話 戦いの波

「くたばりやがれ!」

「もうアンタじゃ、俺には勝てねえよ!」

「……ッ!」


 火花を散らしながら雷速で迫るゾフルを見切り、右に逸れて脇腹へ膝蹴りを放つライ。それを受けたゾフルは裏拳のように炎の拳を放つがそれも避け、そのまま腕を掴んで建物の方向に吹き飛ばした。

 飛ばされた場所には炎が広がり、その中で不敵な笑みを浮かべたゾフルが立ち上がる。

 

「クク……確かに実力に差が開いたかも知れねェな。だが、俺だって鍛えてんだ。まだ異能を無効にする力以外を纏っていないテメェとは割りと戦えると思うぜ?」


「……」


 立ち上がった瞬間に移動し、雷速で背後に回り込んだ。それを見切ったライが後ろ回し蹴りを放つ。が、ゾフルはそれをかわして上へと舞い上がり、天空に手を掲げていかづちを込めた。


「"落雷(ダーバット・サイカ)"!」


 その手を振り下ろし、轟音と共に稲光が周囲を飲み込む。同時に凄まじい電流がほとばしり、ライの身体を感電させた。


「まだだ……! "雷の衣(ラアド・モラビス)"!」


 その瞬間に複数のいかづちを纏わせ、絶えず続く雷撃を更に強める。常人なら黒く焦げ、そのまま炭と化してしまう程の雷撃を受けたライはというと、


「これも、魔術の一つなら問題無い!」


 無傷のまま片手を薙ぎ、全ての雷を振りほどいた。

 ゾフルに触れる為にも、基本的に自分自身の力だが魔王の無効化能力だけは纏っているライ。その様に全身が無効化の力で覆われていれば、後から纏わされた雷の衣も容易く剥がせるのだ。


「想定内……! まだまだ攻めるぜ!」

「……!」


 ライが解いたその瞬間、雷速で移動するゾフル。移動先には雷の軌跡が描かれており、またもやライを電撃が拘束する。

 しかしそれは効かないと分かっているのだろう。なのでゾフルは自身を炎へと変換させ、その上から更に炎で覆い尽くした。


「この炎も効かねェのは分かっている! だが、熱は違う! 炎が生み出す熱は直接テメェを焼き払うんだぜ!」


「成る程。電熱と炎の熱の合わせ技か。この温度、常人なら焦げている」


 炎の様子を確認し、冷静に状況を判断するライ。ゾフルは更に力を込め、ライを覆う炎を圧縮させて押し潰した。

 熱は熱によって更に熱せられ、それが無限に流転して温度を上昇させる。上がり続ける熱はゾフルの魔力が続く限り止む事はないだろう。炎は強まり、失明する程の光と共に白炎。そして青白い光へと変化した。


「いや、骨も残らずに蒸発しているか」

「ハッ、これでも効かねェか……!」


 その炎を片手で薙ぎ、消滅させる。常人なら既に全ての肉体が消え去っていてもおかしくない温度だったが、無限地獄の業火を体感した事のあるライにとっては大した温度ではなかった。

 ゾフルもこの程度では効かないと分かっていたのか、苦笑を浮かべながらも次の行動に移る準備をしていた。


「けど、確かに戦法が少し変わったな。基本は力押しだけど、変化も加えている。今まで蒸し焼きみたいなやり方はしなかっただろ?」


「ああ。折角炎と雷になれるんだから様々な手が使えると思ってな。てか、テメェもテメェで"世界樹ユグドラシル"の時から成長し過ぎじゃねェか? "スィデロ・ズィミウルギア"から思っていたが、やっぱ変だ」


「ま、色々あったからな。俺は成長期だし伸び代があるんだ」


「んな事で済む力じゃねェだろ」


 ライが地獄にて自分の力を引き上げた事を知らないゾフル。もとい、ヴァイス達全員。なのでライの成長には少し驚いているらしい。だがそれを教えたとして何の利点もない。なのでライは適当に調弄はぐらかし、調弄されたゾフルは肩を落としてその瞬間にライへ迫った。

 同時に二人がぶつかり合い、周囲に熱と衝撃雷撃が巻き起こる。ライとゾフル。二人の戦いは続く。



*****



『さて、楽しませよ。下界の民達よ!』


 ライとゾフルがせめぎ合いを織り成す中、炎を展開させたロキがレイ、エマ、フォンセ、リヤン。そしてデュシス、ノティア、ヴォーリアの七人を狙った。


「やあ!」


 が、七人に放たれたその炎をレイは切り裂いて防ぐ。それによって生じた炎の中から六人が飛び出し、ロキに向けて一斉にけしかけた。


「炎には……水で良いか……!」

「ああ、同感だ。"ウォーター"!」

「うん……!」


『在り来たりだな。全員焼死しろ!』


「へえ? 剣士に魔術師……金髪のあの子は何かしら?」

「ハッ、何でも良いさ。こんなもん。俺の弾丸なら炎も砕けるからよ!」

「僕の矢は炎も消し去る」


 エマが天候を操って雨を降らせ、フォンセとリヤンが水魔術をロキに向けて放射する。対するロキは炎を放出してそれらを相殺しつつ全員に仕掛けた。

 ノティアはロキの様子を窺いつつエマの観察をしているのでまだ行動には移っておらず、デュシスとヴォーリアが弾丸と矢で周りを覆う炎に穴を空ける。そこにエマの雨とフォンセたちの魔術が放たれ、ロキがレイたちに向けて放った炎は消火された。


『この程度は消せるか。なら……!』


 炎が消えたのを確認し、新たな炎を生み出して周囲へ放つ。一見すれば無駄な作業だが、逃げ場を無くしジワジワと追い詰める。中々に厳しい状況を進行形で生み出しているのだ。

 加えて炎によって酸素も薄くなり、空気も熱く呼吸が困難になる。直接的な破壊も群を抜いている炎だが、状態にも悪影響を及ぼす恐ろしい力なのである。それが無尽蔵に生み出せるロキの力、通常の魔法使いや魔術師が放つ純粋な魔法や魔術とは比べ物にならない力の差があった。


「広範囲の炎は厄介だな。"巨大な水の壁ビッグ・ウォーター・ウォール"!」


 だが、それはあくまで通常の魔法使いや魔術師に限った話である。魔王の力を纏わずとも最上位に位置する魔術師のフォンセには関係の無い事。巨大な水壁を造り出して周囲を覆い、ロキの炎を相殺した。それによって水蒸気が生じ、周囲を白く染める。


『そう来ると思ったさ』


 その水蒸気を目掛けて、ロキは炎をぶつけた。刹那に水蒸気へ引火し、辺りが轟音と共に水蒸気爆発に飲み込まれる。

 そんな爆炎を突き抜け、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人がロキの眼前に迫った。


「やあ!」

「ハッ!」

「"水弾(ウォーター・バレット)"!」

「えい……!」


 勇者の剣を振り下ろすレイと翼を広げて飛び、ロキの元だけに大雨を降らせるエマ。そして水魔術からなる弾丸を放つフォンセに同じく水魔術の力で狙うリヤン。

 それら全てはロキに効果のある力であり、直撃すれば確かなダメージを与えられる事だろう。


『フン、剣は避ければ良い。そして水は蒸発させるのが一番だ』


 そう、当たればの話だが。

 例え触れられても避けられてしまえば意味が無い。そして雨や水魔術も、神や魔王の力を使わなければロキにとっては大した意味を成さないものに成り下がる。


「火の身体か。周りの炎は簡単に砕けるが、それはただ風圧で消しているだけ。あのロキにゃ通じねえかもしれねえな」


「また意見が合ったな。僕もそう思っていたところだ」


「私の力も簡単に防がれそうだなぁ。あれが相手じゃ」


 レイたちが攻める一方で、街に火が引火せぬように消火活動を行っているデュシス、ノティア、ヴォーリアの三人はどのように攻めるべきか悩んでいた。

 ロキが放って周囲に散った炎は簡単に消せる。引火元や火その物を消せば良いだけだからである。しかしロキ自身の炎は中々に難易度が高い。通常の炎とは比べ物にならない耐久力を誇っており、ロキ自身が手練れであるからだ。

 それらを踏まえた結果、自分達の攻撃は効かないと自信家である筈の三人は意気消沈していた。


「というか、何で自然な流れで協力する事になっているのかしら? あの子達となら良いけど、デュシスとヴォーリアは御免だわ」


「あ?」

「ふむ」


 その様に悩んでいる最中、ふと、ノティアから発せられた言葉。それを聞いたデュシスとヴォーリアはハッとして反応を示した。


「そう言えば、確かにおかしいね。成り行きとはいえ、デュシスやノティアとは協力したくはない」


「俺もだ。つか当たり前で当然で無論だ。何でコイツらなんかと……」


 三人からすれば、お互いに何時も歪み合い常時抗争をおこなっている明確に敵と言える存在。そんな三人が成り行きだけで協力するなど、互いのプライドが許さないのだ。


「ノティア。お前はしても良いと言ったが、俺はアイツらと協力するのも思うところがある。外から来た奴に街を任せるのは好かない」


「僕もだ。街の防衛は本来幹部の仕事だが、この街では僕たちというチームの存在がある。此処は南側。君の収める場所だ。僕達には関係無い」


「そう、勝手にすれば? 私はあの子達とは昨日知り合った中だし、悪い子達じゃないって分かっているもの」


 加えてデュシスとヴォーリアはレイたちともあまり協力したくない様子。チームは収める場所を区分されており、南側はノティアが収めているらしい。

 現在ゾフルとロキに襲撃されているのはその南側。つまり、デュシスとヴォーリアが手を貸す道理は無いのだ。

 当然、その二人が収める場所が襲撃されていたとしてもノティアには助けるつもりが毛頭無い。自分の身は自分で守る。それがこの街のルールである。


「さっきから聞いていれば。面倒臭い事を話しているようだな。それなら、自分達の場所を護っていた方が良いんじゃないか?」


「なにっ?」

「……」


 翼を広げたエマが三人を見下ろして話、デュシスとヴォーリアが反応を示す。

 エマは小さく笑いながら遠方を指差し、言葉を続けた。


「考えてみろ。この街に居るチーム頭は五人。相手は七人。それでそのうちの二人が此処に居る。結果、残りの敵の数は五人になる訳だ。単純に考えても、残った敵の五人は残り三つの場所を襲っている筈だろう? 東西南北に……おそらく中央。いや、中心街。此処が南側なら残り四つの地域は一、一、一、二くらいの人数で分別されて襲撃されている筈だ」


「「……!?」」

「確かに……」


 エマの言う事は最もだった。

 敵の数からして、此処に居る存在は少な過ぎる。残ったのが五人ならエマの言うような配分で街を襲撃していると考えるのが妥当だろう。

 デュシスとヴォーリアは慌てた様子でエマの言葉に返しもせず、自分の収める地域に向かう。そんな二人の様子を見たノティアが一言。


「私が言うのも何だけど、あの行動を街全体に向けてくれればもうちょっと好きになれるんだけどな……」


 街を収める身として、自分の居る場所以外に干渉しないのは普通。この街に限っては。

 しかし自分の生まれ育った街である以上、やはり嫌いにはなれないのが当然だ。愛着も当然ある。だからこそノティアも自分を含めて街全体に感心を向けて欲しいと考えているらしい。

 心の中で思っていても行動に移せないのは己の弱さ。相手との接し方や自分と相手の性格など様々な理由があるだろう。肩を落としてロキに、というよりレイたちに向き直った。


「貴女達! 不本意で勝手だけどデュシス達に協力してあげて! 本人は嫌がっているけど、多分デュシスとヴォーリアだけじゃ勝てないから! 我が儘だけど出来たら他の場所も……。此処は私……ううん。私一人じゃ勝てない。だから、私と誰か一人だけ残って手伝って!」


 レイたちに向け、デュシスとヴォーリア。そして他の場所の手伝いを頼むノティア。ゾフルとロキを一時的に一人で相手していたノティアだからこそ、チームの頭達だけでは敵の主力に勝てないと理解しているのだ。

 だからこその頼み。それを断るレイたちではない。


「うん。分かった! ノティアさん!」

「ふふ、この場には私が残る。ライも居るから私だけで良いだろう」

「分かった。なら、私たちは東と西。北とに向かおう。中央にあの酒好き男とアレスが居る事を考えれば、手薄な三つの場所に三人向かうのが一番だ」

「うん……」


 言われた瞬間にロキの相手から離脱し、エマとノティアのみがこの場に残った。ライとゾフルも居るが、もう既に姿の見えない場所にまで行った様子。運が避ければ他の場所の手助けも出来るだろう。


「ありがとう。えーと……貴女は?」

「エマだ。エマ・ルージュ。金髪に赤い眼。そして翼……見ての通りヴァンパイアさ」

「ヴァンパイア……。ううん、それは関係無いや。ありがとう。エマ!」


 人間の天敵であるヴァンパイアの名を聞き、一瞬戸惑うノティアだが協力して貰っている身であり、悪い者たちじゃないと理解しているので信用してロキに向き直る。


『フム、よりによって大した事の無い者達が残ってしまったか』


「ふふ、ブランクありであまり強くない貴様程度、大した事の無い私たちで十分と判断した次第だ」


「それに、デュシスやヴォーリアも実力はほぼ私と同じよ。エマだってかなりの実力者だもんね!」


『減らず口を』

「その言葉、そっくりそのまま返してやろう」


 エマとノティアを見たロキはつまらなそうに吐き捨てるが、その二人の返答で少しイラついたらしい。そのまま二人の挑発に乗り、ロキは更に炎を広げて二人へ構えた。


『フッ、その余裕。即座に消し去ってやろう』

「「貴様もな(貴方もね)」」


 エマとノティアが言葉を被らせて言い、力を込める。

 ライとゾフルが別の場所で戦う中、エマ、ノティア、ロキの戦闘が再開された。一方では自分の収める場所を護る為に向かったデュシスとヴォーリア。その二人と他の場所の手伝いに向かったレイ、フォンセ、リヤンの三人。戦火の波は"ポレモス・フレニティダ"全体に広がる。それによって戦争はより激しくなるのだった。

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