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七百三十八話 チームの頭二人

 ──"ポレモス・フレニティダ・宿屋"。


 翌朝、ライたちは早めに目覚め、迅速に朝の支度したくを終えた。

 昨日の今日という事もあって行動は早い。存在をライたちや幹部に知られたヴァイス達は今日のうちに行動を起こす可能性が高いからだ。

 そうなるとそれを迎え撃つべくライたちも早くに行動を起こさなくてはならない。普段通り挨拶を交わし、朝食やだしなみを整えるなどの支度を終えたライたちは宿の外に出た。


「流石に朝早くから攻めては来ないか? 少し警戒し過ぎたかもな」


「そうでもないさ。奴等が居る事は分かっているのだからな。遅かれ早かれ、すぐに攻めて来る筈だ。それなら事前に警戒網を張っていた方が良いだろうさ」


「例え今日攻めて来ず、それが無駄に終わったとしてもそのまま残りの場所を探索すればこの行動は無駄にならない。逆に長時間探る事が出来るから丁度良いだろう」


 宿の外は、朝なので人通りは少ないが至って平和。それは治安の悪さが分からぬ程のものだった。

 ライは早とちりが過ぎたかと考えるが、エマとフォンセの言うようにこれはこれで別の行動に時間を費やせるので存外悪い事ではないだろう。

 一先ず街の様子を確認する為にも探索を行う。この街では今までと違ってゆっくりと観光する時間が無いが、それも仕方の無い事である。治安の悪さとヴァイス達の存在。街の景観は眺められど観光している暇は無いからだ。


「街中にも目立った変化は無し。というか、多分何も変わっていないか」


「昨日みたいな小競り合いも無し。一昨日の夜みたいな……あれはなんだ。煙が出てたからボヤ騒ぎという事にしておこう。……的なものもない。まだ動き出さないのか、頃合いを待っているのか」


 宿から少し進み、石造りの道を歩きながら葉の無い街路樹を余所に街の様子を確認するライたち五人。だが、やはり何も無い。数十分程近辺を探索したがそれでもまだ朝早い。日が昇り始めて二、三時間の時間帯。その時間という事もあり、まだ行動には出していないのだろうか。と、ライたちがそう思っていたその時──一つの建物から連鎖するように"ポレモス・フレニティダ"の建物が瓦解した。


「早とちりと思っていたのが早とちりだったか……それとも……」


「みたいだね。予想通り朝から仕掛けてきたみたい……。それか、別の抗争かな?」


「ふふ、好都合だ。確かにまだチーム間での小競り合いの可能性もあるが、そのどちらでも何かの手懸かりはあるだろう」


「彼処は……昨日調べていた場所とは真逆の方向だな。誰が居てもおかしくない」


「うん……急いだ方が良いかも……」


 その音が聞こえると同時に音の響いた場所へ向かう。街にあるチームがおこなった抗争のようなものだとしても、目的であるヴァイス達の仕業だとしても何かの手懸かりは掴める。なので行かない手は無いだろう。

 そのまま進みライたちはその場所へ到達した。



*****



「……。中々の有り様だな……いや、大きな争いの後でも途中でも、戦いが起こればこうなるか」


 到着した瞬間にライたちを迎えたのは少し大きな破壊だった。

 幸い人や生き物の死者は出ていないようだが、周りの建物は崩落しており、街路樹は折れ、石造りの道が剥がれて剥き出しの地面があらわになっている。一目見ればそれなりの破壊規模だ。だが、その状況とは裏腹にライたちの顔は訝しげなものだった。


「この破壊痕……どうやらヴァイス達の仕業じゃなさそうだな。無造作に破壊されたような痕に加えて、アイツらは街を破壊するなら一角だけを砕くやり方はしない。中途半端な規模だ。それに、生物兵器の兵士達も居ない。主力クラスの気配はあるけど、肝心の本人達のものじゃない……」


「うん。それに……もう何かと戦った跡みたい……」


「となると後者だったか。近くにそれをおこなった者達の姿は無いな。もうこの場は離れたらしい」


 その破壊の痕から、ライたちはヴァイス達が起こしたものではないと理解した。

 ヴァイス達と幾度と無く争ってきたライたちだからこそ、その破壊痕からある程度の事は分かる。どうにもやり方が中途半端で違和感がある。これを引き起こした者もそれなりの力を秘めているのだろうが、ヴァイス達とは根本的に違うのだ。

 そして次の瞬間、直ぐ近くで破壊音が響き渡った。


「どうやら、まだ近くに居るみたいだな。行くか!」


「うん!」

「「ああ」」

「うん……」


 それならば確かめない手は無い。この街の主力だけで十分な情報になるからだ。ライたちは駆け出し、直ぐ近くであろう場所に到達した。


「お前が犯人なんだろ、『ヴォーリア』!」

「何を言っている! 僕がそんな事をする訳が無いだろ! 『デュシス』!」


 そこでは、薄水色の髪に眼鏡を掛けたヴォーリアと呼ばれた男性とその男性に絡む、金髪のデュシスと呼ばれた男性が争っていた。

 ヴォーリアと言う男性は距離を置きつつ弓矢を放ってけしかけ、デュシスと呼ばれた男性がそれらを銃で撃ち落とす。それらには魔力が込められており、かなりの威力となっていた。矢と銃弾がぶつかった瞬間に爆発のような衝撃が辺りに響き渡って轟音と共に大地を吹き飛ばしたのがその証拠である。


「お前、いつも冷静に何かを考えていたよな? 俺のチームから仲間ダチさらったろ!?」


「何を訳の分からない事を……! そう言う君こそ好戦的でよく勝負を挑んできた! 僕のチームメンバーを始末したんだろ!」


 銃声と弦の引く音が"ポレモス・フレニティダ"に木霊こだまする。その直後にそれらの音を掻き消す轟音が響き渡り、衝撃波が周りを飲み込んで加速した。


「……っ。どうやら、アイツらみたいだな。根元は。あの強さ……少なく見積もって幹部の側近クラスはある……会話の内容からしても昨日の男が言っていた他チームの頭か……!」


「そうみたいだね……! 凄い衝撃……これも根本を辿ればヴァイス達の所為なのかな……!」


「間違いなくそうだろうな。お互いに相手を犯人と決め付けて荒ぶっている。ヴァイス達からすればこの小競り合い、街に攻め入る絶好の機会となっているだろう」


 建物が吹き飛ぶ衝撃波の中、少し風圧に押されつつも難なく会話をこなすライ、レイ、エマの三人。フォンセとリヤンも会話には参加していないがこの場で平然と立っていた。

 しかし事情はどうあれ、ヴァイス達について緊迫している現在、この小競り合いを放って置く訳にもいかないだろう。


「死に晒せ、ヴォーリア━━ッ!」

「息絶えろ、デュシスッ……!」


「そこまでだ」

「「……!?」」


 互いを滅ぼす為に放たれた、魔力が込められた一つの銃弾と一本の矢。音速を超えた速度で迫ったその中心にライが姿を現し、銃弾と矢を左右のてのひら、人差し指と中指で止めた。

 渾身の一撃を片手どころか計四本の指で止められたデュシスとヴォーリアは驚愕の表情を浮かべてライの姿を捉える。それと同時に武器を構え直して言葉を発した。


「俺の弾丸が片手で止められた? 何者だ、小僧……!」

「僕の矢を容易く防ぐとはね。何者だい、君?」

「あ?」

「ん?」


 同時に発せられた同じ意味を持つ言葉。二人は相手を睨み付け、力を込めながら構える。


「お前……俺の真似してんじゃねえよ……」

「器が小さいな。それでよくチームのリーダーが務まる……君こそ真似をしないでくれるかな?」


「はあ……駄目そうだな……」


 言葉が被っただけで敵意を剥き出しにするこの二人はかなり不仲のようだ。それは様々な者達を見てきたライですら呆れる程に。

 何はともあれ、武器は構えられたままだが戦闘は一時的に中断された。なのでライは喧嘩する二人を無視して言葉を続ける。


「アンタら……今の状況を分かっているのか? 喧嘩の前に気になる事も多々あると思うんだけど……」


「ん? ああ、そうだった。──で、お前誰よ?」


 ライに言われ、デュシスが思い出したかのように訊ねる。場はわきまえているのか、ヴォーリアも喧嘩を止めて視線をライの方に向けていた。

 ようやく収まったのを見計らい、ライは言葉を続ける。


「俺の名はライ。しがない旅人さ」


「旅人? ただの旅人な訳ねえだろ。何でただの旅人が俺達の技を受け止められる」


「まあ、技と言っても力を込めただけの通常兵器だけど」

「何でお前はそう水を差すような事しか言わねえんだ」

「事実だろう?」

「事実だが、だ!」


 また喧嘩を始めてしまった。このままでは相手が反応を示すたびに喧嘩が勃発しそうなのでライは構わず言葉を続けて先をつづる。


「面倒だから単刀直入に言おう。今この街にはちまたで騒ぎを起こしている侵略者達が来ている。アンタらの仲間をさらったのはそいつらだ」


「なにっ?」

「……っ」


 その言葉を聞いた瞬間二人は目を見開いてライの方に視線を向けた。やはり争いの原因となっていた存在が明らかになるのとならないのでは反応に差が出るのだろう。

 ライは更に続く。


「アンタらも知っているように、最近話題の侵略者は二つのチームがある。過激派と穏健派とでも言ってくか。その二つのうち、過激派の方がこの街に居る。それで兵士補充の為に人材を集めているらしい」


「街を破壊して回っている奴等か。見たことはねえが、そんな奴等が居るのは良い気分じゃねえな」


「珍しく意見が合ったな。僕としても接触は避けたいところだ。即刻排除したい気分だよ」


 ライはもう一つの侵略者、自分たちの存在は明かしていない。互いが互いを疑っているこの状況、明かしたら余計面倒な事になるのは目に見えているからである。

 ヴォーリアはライへ訊ねるように話す。


「ところで質問だけど……何で君はそんな事を知っているんだい? 仮に何処かで情報を得たとしても、その存在を知るには直接会うか幹部クラスの者達から聞くかしか方法は無いと思うのだけど。まあ、君が凄腕の情報屋って可能性もあるけどね」


 ヴォーリアの質問はもっともだろう。この街で頭を張っているこの者達ですら知り得なかった情報を、自称ただの旅人であるライが知っているのは疑問に残る筈だ。

 偶々(たまたま)聞いたという線も無い事は無いが、その様に重要な情報を漏らす兵士が居たら即刻首を切られる事だろう。無論、物理的に。ライは笑って返す。


「旅人だからな。色々な情報が自然と入ってくるんだ。それと……。……その侵略者とは何度か会った事があるからな」


「んだと?」

「へえ?」


 言うか迷ったが、侵略者と会った事があるという事は一応教えておいた。

 二人にヴァイス達の目的は知られていない筈。なのでヴァイス達が必ず住人全員をさらう事も、全生物の選別が目的である事も知らないだろう。だからこそ会った事があるだけなら被害に遭わなくとも問題無いと判断したのだ。

 そんな事を言われた当の二人はというと、訝しげな表情でライを見ていた。


「となると、色々と聞きたい事がある。その侵略者についてね」


「俺も一応チームの頭張ってんで、答えて貰うぜ? 当然、そこに居る仲間達にもな」


「やはりバレていたか」

「と言うか、始めから気付いていたんじゃないかな……」

「十中八九そうだろうな」

「うん……」


 聞きたい事があると二人は弓矢と銃を収め、物陰に隠れていたレイたちへ指示を出す。

 そんなレイたちもレイたちでバレているだろうと思っていたので特に大きな反応は示さず、指示通り姿を現して少し早足でライの近くに来た。


「此方としても単刀直入に聞こう。その者達の特徴は?」


 集まった瞬間、ヴォーリアがライたちへ訊ねる。その様な者達が居てはうかうかしていられない。だからこそ率直に聞いた。

 ライとしてもヴァイス達の出方は気になる次第、なので即答で返すように口を開き──


「そいつらの特徴は──」


 ──その直後、南側にて爆発音が響き渡った。


「「……!?」」


「あれは……!」

「来たのか……?」

「それなら良いが……」

「……」


「──……。彼処あそこに行けば分かると思うな」


 言葉で説明するよりも見た方が早いのは当然。なのでライは爆発した方向を指差し、苦笑を浮かべて言葉を返した。

 それを聞いた瞬間デュシスとヴォーリアは即座に向かい、ライたちも後を追う。

 次の爆発。その正体は目的の人物か別のチームの者達か。その現場に行かなければ分かる筈もない。ライたちは少し早足で向かうのだった。

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