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七百三十七話 チームの存在

 グラオ達との邂逅から数時間後、昼食を終えたライたちは改めて"ポレモス・フレニティダ"の街を探索していた。

 今回の目的はグラオ達。もとい、ヴァイス達の拠点を探し出す事。当ては無いが居るかもしれないという事は分かっている。なので片っ端から探し出すのが先決だ。


「多分表には出てこないよな。となると居るかもしれないのはやっぱり裏路地か」


「寧ろこの街じゃ裏路地が表みたいなものだもんね。目立つ建物とかは無いと思うけど、探すなら裏路地を中心にした方が良いかも」


「ああ。行動を起こす以上、あまり目立つ行為はしていない筈。普段は兎も角、今回は珍しく慎重だったからな。私たちも先程まで可能性は考えていたが気付きはしなかった」


 今回のヴァイス達の動きから考えて、十中八九裏路地の何処かが拠点だろう。しかし同じ場所に留まる事はしない筈。当然拠点は見つからぬように複数あるだろう。

 なのでライたちはそれらしき物を見つけたら確かめてみるのが良いと考えていた。それも踏まえた上での裏路地探索が第一候補だ。早速ライたちは進み、目移りしそうな程に賑やかな街中を抜けて景色は一転、薄暗い目的地とする裏路地へやって来た。


「相変わらず……っても数時間振りだけど、すさんでいるな。空気も雰囲気も」


「うん……けど気配は消していると思うからヴァイス達を見つけるのは大変かな」


「ふふ、それは百も承知だろう。元より姿を隠しながら行動を起こしていた……どちらかと言えば私たちとの出会いが不測の事態なのだろうからな」


「しかしまあ、厄介なのは変わりない。場を絞れるだけ上々という事だな」


「うん……。鼻を利かせれば見つけられるかもしれないし……」


 一筋縄でいかないのは既に承知の上。なので簡単な会話をしつつも裏路地の探索を行う。

 先ずはその範囲を決めるところから入るつもりだ。


「グラオ達が居たのは彼処だな……グラオ達の速さなら何処からでも行けるだろうけど、人間達の回収もあるからなるべく近場に拠点を置くかもしれない。常に場所を変えていたとしても、連れ去った人々を移動させる為にそこまで遠方には行かなそうだしな」


 その範囲予想はグラオ達と出会った場所から然程離れていない近辺。建物が消え去っているのでもはや裏路地ではないが、様々な募るであろう労力を考えた結果、意外とそこから近場に居るのでは無いかと推測したのだ。

 拠点を転々としており一定の場所に留まっていないだろうというのは大前提。その事を考慮した上での推測と捜索だ。


「ああ。おそらく向こうの目的は生物兵器の素材集め。その線は有り得るな。それなりに長い時間探す事になりそうなのは想定内だ」


「うん。何か手懸かりでもあると良いね」


「少なくともこの辺には居なさそうだ」


 一先ず建物が無くなり日差しに照らされている旧裏路地には誰も居なかった。

 それはチームやグループの存在も含めた意味であり、この場所では隠れられず目立ってしまうという事もあって人が居ないのだろう。

 此処をスタート地点としたライたちは、"ポレモス・フレニティダ"での実質二日目の行動を午後も捜索にてるのだった。



*****



「全く見つからないな。そろそろ日も暮れる時間帯だ」


「思った以上に見つからないね……案外あっさり見つかると思っていたのに……」


「気配を隠す為に素早く移動も出来ないからまだ十分の一も見ていないぞ」


「加えて他のチームやグループにも出会えていない。運が無いな」


「大変……」


 午後の捜索を開始して数時間後。日が沈み柑子色こうじいろの光をかもし出す時間帯。裏路地がより一層暗くなった現在まで、全くと言って良い程に何の当ても見つからなかった。

 ヴァイス達だけならまだしも、情報を与えてくれそうな存在にすら会えていない現状は中々に来るものがある。見つからないのは大前提だ。なのでそれくらいでへこたれる訳にもいかないが、やはり思うところはあるのだろう。


「こんなところでまだ何をしているんだ。お前達は。見ての通り此処は危険。あまり長居はしない事を進める」


「……。いや、ちょっとした捜査? をな。えーと……アンタは?」


「なに。何でもない。ただのお節介な酔いどれだ」


「ハハ。酔いどれにしてはさっき見た力……中々のものがあると思うけどな」


 行き詰まり掛けたその時、昼間に見た男性が話し掛けてきた。どうやら此処が危険という事で気に掛けてくれたのだろう。治安の悪いこの街、厳密には裏路地ではまともな部類に入る人間だった。

 そんな中、ライの指摘に対してフッと笑いながら酒を一口。どうでもいいが昼間からずっと持ってたその酒は無くならないのか気になるところである。


「まあ、力ならこの街に居るだけで自然に身に付く。見ない顔だが、旅人か? 目的は何かあるのか?」


「ああ。そんなところだ。この裏路地が少し気になってな。一角が吹き飛んでいる。それの調査みたいな事をしているよ」


「成る程。確かに此処では小競り合いが日常的に行われているが、あの様な被害は滅多にお目に掛かれないからな。気になるのも頷ける」


「滅多にって事はたまには起きるって事か……」

「フッ、チームやグループの主力クラスが争えばな」


 どうやら"ポレモス・フレニティダ"ではチームやグループの主力クラスがぶつかり合う時この様な被害が起こるとの事。だから街の住人は気にしていなかったのかと納得する。

 しかしながら、だからと言って彼処までスルー出来るのは相変わらず疑問だ。


「成る程ね。確かにアンタレベルの人達が争えば被害は大きくなりそうだ」


「こんな酔いどれがチームやグループの主力と?」


「違うのか?」

「ああ、違くはないが少し違う。どちらかと言えば……チームやグループの頭だ」

「ハハ、そう来たか」


 ライはあくまで主力クラスの誰かかと思っていた。しかしまさか、この男性はチームやグループの頭。少なくとも一つのそれらを結成した張本人だとは思わなかった。

 この街に幾つのチームがあるのかは分からないが、そのチームの数だけこの男性クラスが居るとなればこの街だけで支配者相手以外ならある程度他国の街に居る主力と渡り合う事も可能だろう。

 最も、協力し合うという事も無さそうなのでそれを実行に移すのも至難の技の筈だ。加えて他国の幹部クラスも更に頭一つ抜けているのでそう簡単にはいかない。


「それで……何でアンタは此処に? ただの親切で来た可能性もあるし、また別の理由の為っていう可能性もある。まあ、チームに勧誘って線は無さそうだな」


「ほう? 鋭い子供だ。そうだな。単刀直入に言えば……今回の裏路地が消し飛んだ件。君達が関係しているんじゃないかと思ってな。どうだ?」


「ハハ、やっぱりそんな感じか」


 ライも薄々と気付いていた。この者はライたちを探っているという事に。

 朝に少し話しただけだが今回を含めて毎回のように"こんなところで何をしているのか"について聞き、今はライたちに目的があるのかを訊ねた。そして先程の裏路地消滅前にライたちと出会っている。等々、疑われても仕方無いと思える程に証拠が揃ったいるのだから。まあ実際にライたちが関係しているのだが、一先ずそれは置いておく。ライは男性に言葉を続けた。


「関係していないって言ったら嘘になるな。けどまあ、消し飛ばした張本人は最近(ちまた)で街を襲っているやからの仲間だ。あと、この街の幹部」


「ああ、幹部さんか……。まあ、それはいい。だが、せないな。何故お前はその侵略者の者達を知っている?」


 幹部と聞いて呆れ返る男性。どうやら幹部のこの様な行動は茶飯事のようだ。

 しかしライたちに対する疑いが晴れた訳ではない。その者達の知り合いである。それだけで疑われるには十分過ぎる判断材料が揃っているからだ。ライは軽く笑って返す。


「そうだな……言うなら、偶々(たまたま)その場に居合わせたからだな。現場を直接見ていた。だからその者達の存在に気付いた。……って感じかな。アンタらも気を付けた方が良いよ。どうやらこの街のチームやグループを中心的に襲っているらしいから」


 自分が戦いに参加していたとは言わない。それによって何らかの事態に巻き込まれる可能性があるからだ。此処で問題を起こしてはヴァイス達に探っている事がバレてしまう。なので決して嘘は言わず、一部を濁らせて話したのだ。

 無論、犠牲者は少なければ少ない方が良いので忠告はした。


「成る程。嘘ではないか。そして街を襲っている者達がこの街で行方不明者を増やしている。つまりさらっている。俺たちが知らない事が多いが……君達は少なくとも、今は何もしなさそうだな」


「……。今は……か。ハハ。やっぱりヒントを与え過ぎたかな。俺たちが誰なのか、大凡おおよその検討は付いていると思う」


「ああ。大体分かったが……まあいい。君達は仕掛けられなければ滅多に手を出さないと見て分かる」


「ハハ。案外そうでもないさ。俺たちから仕掛ける事も多いからな」


 何かを疑う男性がライたちに話し掛けた時点で、張本人であるライたちは自分の存在がバレ兼ねないと大凡おおよその検討は付いていた。となるとそのライたちが侵略者の話を出せばどうなるか。考えるまでも無いだろう。それが今の結果である。

 しかしそれもあって裏路地消滅の疑いは晴れたようだ。自分たちの存在を明かし、情報を与えたのは所謂いわゆる対価のようなものである。


「そうか。まあ裏路地の件が分かったならもういい。俺はもう一呑みするから自由に探索していてくれ」


「と言われても、もう夕方。後は帰るだけなんだけどな」


 酒瓶を片手に、一口呑んで裏路地を去る男性。チームの頭が態々(わざわざ)ライたちに訊ねた理由はおそらく、彼処の裏路地を治めているのがこの者のチームだったという事だろう。

 そんな、酒瓶を片手に去ろうとする男性は最後に振り返り、言葉を発した。


「因みにこの街……グループは数百組程あるが……その殆どが主力チームの派生だ。チームの数は全てで五つ。んで、頭も俺を含めて五人という事を一応教えておく」


「そうかい。何から何までありがとさん」


 それはこの街にある、幹部を除いたチームの数。それだけ聞けば幹部一人に五人の側近。数百数千の兵士と通常の幹部の街と同じである。規模だけなら今までに寄った人間の国の中でも幹部二人の"ミナス・イリオス"に次ぐ大きさだ。

 だからこそヴァイス達は慎重に行動を起こしていたのかもしれない。その辺のグループはて置き、ヴァイス達なら貴重な人材としてチームのリーダー達は残すだろうからである。

 それだけ告げた男性は本当に立ち去り、夕焼けに包まれた薄暗い柑子色こうじいろの周囲に静寂が広がった。



*****



「もう探す時間は無いか。収穫はあったけど、結局拠点を見つけ出す事は出来なかったな」


「うん。けど、あれから本当に音沙汰も無いからヴァイス達も今日仕掛けるつもりは無さそうだね」


 数十分後、夕日も落ちて完全なる闇が覆う"ポレモス・フレニティダ"の街中にて、ライたちは現在の自分たちの拠点である宿に戻る途中だった。

 ゴロツキに絡まれては面倒なので少しだけ探って現在は帰る途中という事である。

 チームなどの情報を得る事は出来ており、裏路地の半数は探したので大凡おおよその場所も絞られている。しかし何となく惜しい感覚だった。


「まあ、後は明日を待つか。既に街を去った可能性は無いと思うが、相手の出方が分からないままだからな」


「攻められたらその時はその時という事か。幹部や主力に匹敵するチームの数からしてそう簡単に街が崩壊する事は無さそうだが、やはり一抹の不安は残るな」


 この国に集う主力クラスからして、攻め込まれてもある程度の対応は出来るだろう。しかし支配者クラスのヴァイス達をどうにか出来るレベルなのか、それが不安だった。


「ああ。不安要素や懸念は色々あるけど、取り敢えず今日は休もう。グラオ達や幹部、チームの頭との接触で疲れた……」


「そうだね。今日は色々あったし、少し休んで明日に備えよう」


「ふふ、そうだな。見張り役は任せろ。ゆっくり休むと良い」


「ふっ、いつもいつも助かるよ。エマ」

「ありがとう……」

「うん!」

「ああ、本当にな」


「気にするな。私はこの街でそこそこ血も吸えているからな。睡眠を取らずともそれなりに力は蓄えられている」


 ライたちは今日、グラオ達、幹部、チームの頭と、たったの一日だけで様々な大物と出会った。その疲労は肉体的よりも精神的なものが多いだろう。昨日と違うのは昨日程気分が悪くないという事だ。

 それから"ポレモス・フレニティダ"の拠点である宿に戻ったライたちは各々(おのおの)で休息を取り、実質的な二日目を終えるのだった。

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