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七百三十四話 人間の国・五人目の幹部

「クク、姿は見せねェか。なら、いつも通りこっちから仕掛けさせて貰うぜ? "破壊ブレイク"!」


 出会った瞬間、シュヴァルツが破壊魔術をもちいて周りの建物を空間ごと崩壊させた。

 砕かれた建物は音を立てて崩れ落ち、辺りには粉塵が舞い上がる。そのタイミングを狙い、ライは一気に駆け出した。


「居場所の特定が完全に出来ていないアンタらと出来ている俺なら、アンタらのそれは大きな隙になる!」


「ハハ、一度姿を確認しちゃえば、その隙を埋めるのは造作も無い作業だよ」


 飛び出すと同時に拳を放ったライを居場所を特定したグラオが回し蹴りで防ぐ。それによって大きな衝撃波が辺りに広がり、砕けたばかりの建物と意識を失って倒れていた者達が吹き飛ぶ。

 二人は互いに弾かれて着地し、ライの背後からシュヴァルツが飛び出した。


「ハッ! 隙だらけだぜ! "破壊ブレイク"!」

「させない……! えーと……"破壊ブレイク"!」

「……!」


 隙を突いたつもりで仕掛けたシュヴァルツだが、リヤンによる模倣の破壊魔術で自身の破壊魔術が相殺された。

 二つの破壊が空間に生じ、その空間を粉々に粉砕する。真空を埋める為に周囲から集まった空気に吸い込まれそうになりつつ、シュヴァルツとリヤンは堪えて構え直す。


「そういや、テメェは色んな力を使えるんだったな。このパクり野郎が」


「仲間を守れるなら……同じ力でも良い……!」


 空間の裂け目から飛び退き、二人は互いを正面に立ち合う。

 この星に生まれた生物の能力なら一度見るだけで模倣する事の出来るリヤンは空間という概念その物を砕く破壊魔術を扱う事も出来、相手の力を打ち消す事が可能。ある意味全能に近い力を持っていた。


「ハッハ! だったら纏めて吹き飛ばせば良いだけよ!」


「おっと、それは私が阻止させて貰う」


 ライとグラオ。リヤンとシュヴァルツ。

 それを見兼ねたゾフルが仲間問わずに放った炎と雷。その二つをエマは特訓中の天候を操る力で押し返し、炎には雨を。雷には雷をもちいて相殺させた。


「ヴァンパイアか。正直言って、ライ達の中じゃ最弱だから興味が薄れるな。それに、無限再生の相手は面倒だ」


「あまり舐めない事だな。私も力不足は感じているが……特訓をしているんだ。久々に成長出来るかもしれないから楽しみだよ」


 ゾフルにとって、エマの相手をするのはあまり乗り気な事では無いらしい。

 その強さもライたちの中では下と考えており、バラバラにしても即座に再生して攻めてくる肉体的な力があまり好ましくないのだろう。

 しかしエマは気にしない。天候を操る力を昇格させ、天候魔術に匹敵するようなものとさせれば差を縮める事が出来る。それの練習相手としてはまあまあ良い存在だからだ。


「後は二人か。何処かに潜んでいるのかな?」

「ハッ、さあな。案外近くに居たりして」

「……。へえ?」


「やあ!」

「ハッ!」


 揃いつつある主力を前にしたグラオは楽しそうに言い、ライがそれに返答すると同時に空間移動の魔術で距離を詰めたレイとフォンセが勇者の剣と魔術をもちいてけしかける。

 それを見切ったグラオはかわすがその瞬間を逃さず、ライは側頭部に回し蹴りを打ち付けた。


「そらよっと!」

「相変わらず重い一撃だ」


 蹴られた瞬間に吹き飛び、既に砕けた建物の瓦礫に突っ込むグラオ。それによって大きな砂塵が舞い上がり、レイが飛ばした斬撃とフォンセの使う魔術で追い討ちを掛ける。


「はあ!」

「"衝撃インパクト"!」


 よって砂塵が切り裂かれ、衝撃波に押されて瞬く間に消え去る。

 その消え掛かった砂塵からグラオが上に飛び出し、それを追撃するよう飛び上がったライが下から拳を打ち付けた。


「どうだ? この連携は?」

「うん。良いと思うよ。悪くないね」


 上空から打ち上げられたグラオは"ポレモス・フレニティダ"の天を舞い、そのまま更に上空で停止する。ライは空気を蹴って空を駆け上がり、グラオの上へと陣取って上空から踵落としを放った。

 それをグラオは紙一重でかわし、空を切りがら空きとなったライの懐へ裏拳を放つ。ライは片手でその拳を受け止め、もう片方の手で殴り付ける。負けじとグラオももう片方の手を使い、互いの首を互いに殴り付けた。


「……!」

「……!」


 中枢。所謂いわゆる急所に叩き込まれた山河を風圧のみで粉砕することも可能な重い一撃。それを受けた二人は空中から落下し、裏路地へと落ちて轟音と共に瓦礫やゴミを舞い上げた。


「ライ……大丈夫……?」

「ああ、大丈夫だ」


「クク、どうだ?」

「うん。中々強くなっているね。常に成長しているから当たり前だけど。僕としては嬉しいよ」


 落下したライへ心配して駆け寄るレイと落下したグラオを見て楽しそうに笑うシュヴァルツ。互いの仲間による対応の違いはあるが、一応シュヴァルツも気には掛けているようだ。

 二人は瓦礫の山から立ち上がり、身体についた土汚れを払って向き直る。急所に重い一撃は入ったが、元々強靭な肉体を持つ二人にとっては大したダメージでは無かったらしい。

 改めてライ、レイ、フォンセ、リヤン、グラオ、シュヴァルツとエマ、ゾフルが向き合う。人数の多いライたちが三人を囲んでいる陣形だが、グラオ達もまだまだ余裕のある雰囲気だった。


「何か騒がしいと思ったら。面白い事をしているじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」


「……!」


 ──その刹那、何処からか声が掛かり、その者の近くに居たライが殴り付けられる。

 無論不意討ち耐性のあるライはその拳を受け止めたが突然の事態に少し身を引き、正面へ蹴りを放ってその者を引き剥がす。その者は軽快な身のこなしで着地し、楽しそうな笑みを浮かべてライたちとグラオ達に向き直った。


「ハハ! 俺様の予想通り、お前ら中々強えじゃねえか! ま、俺様が試したのはアンタ一人だけどな。少年!」


「……。アンタ、何者だ? 見たところ……というか体験してかなりの実力者ってのは分かったけど」


 明るく笑い、言葉を続ける謎の人物。

 いきなり攻撃されるのはたまったものではないが、元より不意討ちなどされても自分のおこなっている事から仕方無いと割り切るライは気にしない。が、不意討ちとは別に見ての通り好戦的かつ相応の実力を伴っているであろうこの者について気に掛けていた。

 その者は高らかな笑いは止め、腰に手を当てて言葉を続ける。


「俺様か? フフ、ならば名乗ってやろう。俺様は"アレス"! この国"ポレモス・フレニティダ"で幹部を努めている者だ!」


「なっ──!?」


 薄々気付いていたが、やはり幹部。そしてその名にライは目を見開いた。



 ──"アレス"とは、オリュンポス十二神の一人にして戦を司る神だ。


 破壊と狂乱が神格化された存在であり、粗野で残忍で不誠実な性格と謂われている。


 その性格と司る事柄や好戦的で相応の実力は有しているが戦績が良くなかったりとあまり良い印象は受けられない神だが、その容姿はオリュンポス十二神の中でも一、二を争う程に美貌を持っているとされる。


 本来の姿はかなりの巨体であり、二〇〇メートルあると謂われている。


 戦争の破壊と狂乱を司る戦の神、それがアレスだ。



 軍神アレス。その存在は驚愕に値するものだが、それはこの街の雰囲気からして妙に納得出来る事だった。

 粗野で残忍で不誠実。幹部としての行動をあまりしていない代表格のような性格。上層部がこうであり、誰も逆らえないような力を有しているのでこの街はすさんでいるのだろう。


「アレス……! 成る程な。この街の雰囲気はアンタが上だからこうなっているのか。近隣では戦争も続いているみたいだしな」


「ハッハッハ! そんなの俺様の知った事では無いだろう? 俺様は色々司るって謂われているが、なんやかんや事を起こすのは他の奴等だからな! そりゃまあ、俺様が居るだけで少しは性格に影響も及ぶかもしれねえ。だが、勝手に人の所為せいにしないで欲しいものだ! 捌け口に都合の良い性質を司っているからって俺様の所為にされても困る! 俺様だけじゃ人民を操って戦争を引き起こすなんて出来ねえからな!」


 確かにアレスの言い分にも一理ある。全ての戦争行為の原因が戦乱を司る自分の所為にされるのもたまったものではないというのもその通りだろう。

 しかし街の管理を怠っているのも大体分かる。だがその性格は現在のアレスも引き継いでいるらしく、一見は気の良さそうな者だがこう見えて中々に悪どいのかもしれない。


「……って、んな事はどうでもいいんだ。さっさとやろうぜ? 見たところ、アンタら全員楽しんでそうだからな!」


「全員って言うのは間違いだろうね。けど、僕たちは楽しいから全員で良いか」


「ハッハ! 分かっている奴も居るじゃねえか。纏めて掛かって来い! アンタら全員相手してやるからよ!」


 握り拳を作り、獰猛な笑みを浮かべて高らかに宣言するアレス。伝承では槍や盾などの武器を使っているが、今は小手調べのような感覚なので徒手空拳でやるつもりのようだ。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は一人の乱入を考慮して少し互いの距離を詰め、グラオ、シュヴァルツ、ゾフルの三人は戦力を分散させる為に少し距離を置いた。

 その中央に位置するアレスは軽く身体を動かしながら準備体操をしていた。「いきなり攻めてきたのに今更かよ」とでも指摘したいが、この緊張感の中でそれを実行してしまえば緊張が解けて油断が生まれてしまうので避けた。

 八人、改めて九人は警戒を最大限に高め──


「まどろっこしい! さっさと来いや!」


「……!」

「「……!」」

「「……!」」


「「「……!」」」


 ──る間も無く、アレスが猪突猛進の勢いで突き進んで来た。

 流石は軍神。先陣を切って一気に突き進む行為に慣れているようだ。ライたちとグラオ達は飛び退き、始めにグラオが軽薄に笑って距離を詰め寄る。


「ハハ! 良いねその性格! 相手の様子を窺うよりも前に攻めるやり方は好きだよ!」


「ハッハ! 気が合うな! だが、正面からの殴り合いは得意だ!」


 二人が拳を放ち、余波と余風で裏路地が吹き飛んだ。辺りを気にせず見境無く、下手したら"ポレモス・フレニティダ"その物が消し飛んでしまいそうである。

 小手調べではなく本気ならもう既に一帯は更地となっていた筈。多少は場をわきまえているのか。まだ現在はマシな様子だが、真偽は定かではない。


「軍神か。その力、見せてみろ! "破壊ブレイク"!」


「ハッ、空間ごと砕く魔術か! 良いじゃねえか!」


 アレスの力を見て興味を持ったシュヴァルツがけしかけ、アレスは破壊を避けて回し蹴りを放った。

 それを受けたシュヴァルツは吹き飛ぶが瓦礫を足場に止まり、続くように嗾ける。


「ハッハ! 悪くねェ! 良い一撃だ!」

「俺様の蹴りを受けても平気だったお前もな!」


 空間を砕き、剣のように空間の欠片をアレスへ降り注がせる。それにアレスは虚空に拳を放ち、空間を歪めて対処した。

 歪んだ空間に妨げられた空間の欠片はアレスを逸れ、周囲に散って他の空間の一部となる。


「"お前"とか"アンタ"とか、アンタの人称ブレブレだな。まあ、俺も言えた事じゃないけど」


「なら、"お主"とでも言えば良いか? ハッハッハ!」


 空間を避けたアレスに向け、第三宇宙速度で迫るライをアレスは即座に受け止めた。それに弾かれると同時にライの中では遅い第三宇宙速度と比べたら少し速い第四宇宙速度へと移行し、緩急を付けて攻め行く。

 今までの幹部はこれに引っ掛かって一撃を与える事が出来たが、


「フッ、遅いな!」

「ま、やっぱ防がれるか……!」


 グラオ達の存在もあって慣れていた目は誤魔化せず、見事なまでに防がれた。

 ライの拳はアレスのてのひらに防がれ、その空いたライの脇腹へ差し込まれた蹴りを片足で受け止める。それによって衝撃波が引き起こされたが街の破壊を気にするライは力を抑えていたので互いに相殺されて被害は最小限にとどまった。


「流石の実力者だ! これなら槍を使っても良いかもしれねえ!」


 相殺された事で再び距離が置かれる。さかしそれがあった事でアレスは、まだ本気では無いにせよ背負っている槍を回転させて取り出し、ライたちとグラオ達に構え直った。


「まだ俺たちの強さを窺っていたのか。まあ、初対面だし当然か。となると、ようやくアンタの実力を見れるって訳だ」


「ハッハ! ようやくって言っても然程力は見せ合ってねえだろ? ま、どうでもいいか。そう言う事にして置くぜ!」


「やれやれ。好戦的な人だな。目的達成が遅くなっちゃうよ」


「貴方がそれを言うんだ……」


 本気では無いににしても、本領発揮なのは事実。熟練者なら数回ぶつかっただけ、もしくは一目見て相手の実力が分かる。おそらくアレスも出会った瞬間から大凡おおよその実力は分かっていた事だろう。

 何はともあれ、ライたちとグラオ達八人。その中に人間の国幹部のアレスが加わり九人による戦闘が"ポレモス・フレニティダ"の裏路地で続くのだった。

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