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七百三十一話 過去から続くしがらみ

「これって、チーム同士の抗争とか以前の問題だよな。多分」


「うん。だって行方不明って言うのはおかしいよ。」


 羊皮紙に書かれた行方不明者の情報を見たライたちはそれについて話し合う。

 行方不明になるだけならばおかしくないかもしれない。大抵の場合は街の外部で迷っているか既に亡き者になっているかの二択だからだ。

 しかしこの羊皮紙に書かれている事の場合、"昨晩から行方不明者が続出"の一文にはどうしても違和感が生まれる。つまり要するに、それは昨晩以外は行方不明になった事例が少ないという事になるからだ。

 となると考えられる線は、


「何者かによって意図的に消されたか……さらわれた……という事か。昨日からならそれは街の者じゃなく、外から来た存在の仕業って可能性も高いな」


「そして外から来た存在でそんな事をするような人物には心当たりがあるな。同じ事をしている別人の可能性もあるが……」


「どちらにせよ、今回の出来事はこの治安のあまり良くない街でも非日常的な事って認識で良さそうだな。そうなると此方としても警戒せざるを得ないか」


 ライが言い放ち、エマとフォンセが同調するように続ける。

 ライたちの推測では行方不明は他の存在による意図的なものであり、何かの目的があって行われているとの事。その様な事を起こす存在に心当たりしかないライたちはまたもや嫌な予感がしているが、別人の線もあるので"取り敢えず警戒はしよう"。という結論に至った。


「まあ、本当にこの街に来ているなら、出会う事になるだろうからな。昨晩からって事は、少なくともまだ今日は起こっていないって事になる。今はまだ朝方に近いけど、向こうからしても夜の方が行動しやすいのかもしれないな」


「けど、もしも私たちに思い当たりのある人物が犯人なら……人間の国に来てから鉢合わせになる頻度が高いね」


「それ程向こうが順調に事を運んでいるって解釈も出来るな。本当にその者達かはさておいて……何にせよ、俺たちにとってもあまり都合の良い事じゃないな」


 もしライたちの知っている者達が今回の事件を引き起こしているなら、ライたちと同じように向こうも目的に向けた調子が良いのかもしれないという事になる。

 何故なら一つの街を挟んで直ぐに出会う結果となっているからだ。いや、それだけでは少し端折り過ぎだろう。要するに向こうの進行状況は分からないが、ライたちのように気を使わずガンガン侵略行為をおこなっているなら向こうの方が目的へ向けた行動が進んでいるのかもしれない。ライたちが街を行き来するまでに掛かる時間で複数の街を破壊するならそれも有り得るからである。

 鉢合う時間が短いという事は、(イコール)残っている街が減ってきているという事。幹部や主力の街を除いた多くの街は既に破壊済みという可能性も考えられた。


「……。もしもその犯人がそいつらだった場合……何時もは向こうから先手を打たれて攻められているから、今回は逆に此方から攻めるという手も考えられるな」


 結論は出たがそれらの存在についてもう少し考える。

 今までは突如として現れたその者達を追い払う形で事を済ませていたので街への直接的な被害は出てしまっていた。しかし今はもしかしたらその存在が居るかもしれないという可能性だけが出ており、互いに鉢合わせていない。

 ライたちも羊皮紙を見るまで気付かなかったその者達は、向こうからしてもライたちの存在に気付いていないかもしれない。それなら今までと違い、此方から不意を突いてけしかけるというのも悪くない作戦だろう。


「……。確かに、いざという時はその考えを行動に移してみるのも良いかもしれない。もしも本当にその者達だった場合はな。しかし、事件が起きているだけで何の情報もないのは気になるところだ」


「ああ。手違いでそいつらとは全く関係の無い者達を倒したりしたら大変だからな。その辺をちゃんと確かめなくちゃいけないや」


 無論、当然人違いの可能性も考慮しており、本当にただの行方不明という線も片隅には留めている。行方不明の時点で大きな問題だが、知っている者達によって行方不明にされたとなれば世界に影響する大きな問題となりうる。なので気に掛けているのだ。

 何故なら、先ずそれが向こうの兵士補充に繋がるので兵力が上がる。そしてその兵士が世界中に解き放たれてしまえば、世界に混乱が広がるのは目に見えている。そうなればライたちの予想する者達も行動に出るだろう。その結果、人間の国を含めて世界中を巻き込んだ前の疑似"終末の日(ラグナロク)"よりも大規模な戦争が起こってしまう。

 だからこそ、その可能性があるならばとライたちは先にけしかけようかと考えているのだ。


「他にめぼしい情報は……」


 それからライは他の情報が無いか羊皮紙を眺める。此処に居る幹部の存在も気になっているが、この街や人間の国にとっては常識的な幹部については書かれていなかった。

 同じ人間の国でも奴隷として闘技場にて外部からの情報を遮断された状態で戦闘を行っていたフォンセやずっと一人だったエマ。そして国その物が違く同じく一人だったリヤンはさておき、考えてみればライの住んでいた街やレイの住んでいた街に情報が入らないのは不思議である。


「何で俺やレイの街には……幹部や主力どころか支配者の情報が入って来なかったんだろうな」


「言われてみればそうだね……街で生活する以上、外部からの支援も必要だと思うし……何で私たちは知らなかったんだろう……」


 疑問が疑問を生み出す。ライの知る者達については一旦保留したが、改めて考えてみれば幹部や支配者という常識的な存在を知らないのはおかしいとしか言えない事柄である。

 ライとレイは新たに生まれた疑問について思考する。


「俺たちが知らないって事は……街の皆も知らなかったのか? 街(ぐる)みで俺たちを騙そうって魂胆も無さそうだし」


「うん。私のお祖父ちゃんやお父さんにお母さんも支配者について話していなかった……郊外だから伝わっていなかったって思っていたけど……私たちの祖先からして何か理由があるのかも……」


 ライの祖先は魔王の側近であるカリーブ・セイブルとその夫。レイの祖先は勇者であるノヴァ・ミールにその妻にして姫君であったスピカ・ミール。

 そんなライたちの街同士の距離はほんの数十キロ。そして魔王の子孫であるフォンセや神の子孫であるリヤンはおそらくその存在も知られていないだろう。

 魔王の血縁者や関係者が死刑にされたのでフォンセの存在に気付いていた者は極僅かかもしれない。リヤンの存在はそもそもかつての神が残した子供がリヤンなので数千年前の者達が炙り出す事も出来なかった筈。

 それらを纏めた結果、


「俺の祖先は代々──勇者の(・・・)子孫達(・・・)()見張られ(・・・・)ていた(・・・)……?」


「……っ」


 ライの祖先とレイの祖先。つまりライとレイよりも前の代に居た、魔王の側近の子孫と勇者の子孫は──互いの位置を見張り、牽制し合っていたという結論に至った。

 近過ぎず通過ぎない数十キロ、五〇~六〇キロ前後の距離。

 居場所を掴めていないフォンセや存在その物が知られていないリヤンは兎も角、ライとレイの祖先はその様な関係にあったとしても何ら不思議では無いのだ。


「支配者や幹部の存在が俺たちに伝わっていないのは……その存在が見張りを行うに当たって邪魔だったから……なのか? 別に伝わっていてもおかしくないけど……何か違和感があるな……」


「魔王再来のようにならない為に、もしもの時に備えてその街でだけ行動を起こすから……支配者や幹部の存在は知っていても現在が誰なのかを伝える暇はなかった……のかな? 今の支配者や幹部とかつての支配者や幹部は力以外殆ど同じだけど、何年前に代わったんだろう……」


 おそらく人間の国の支配者が代わったのは最近。本当に数十年程度かもしれない。なので同姓同名の者が力を受け継いで次世代の支配者や幹部になるとは考えなかったのかもしれない。

 それならライとレイが現在の支配者や幹部の存在について知らないのも頷ける。


「もしかして……俺とレイって出会っちゃ駄目な存在だったのか……?」


「ご先祖様の関係が私たちの予想通りなら……そうなるのかも……」


 人間の国"ポレモス・フレニティダ"のベンチにて、ライとレイの間に気まずい沈黙が流れる。

 あくまで推測の範囲内だが、そうとしか考えられない。見張られる立場のライと見張る立場のレイは、果たして直接出会っても良かったのだろうか。そんな疑問が右往左往して沈黙は更に長くなった。


「……。話についていけないな……。支配者や幹部の存在からそんな話になるとは思ってもいなかった……」


「ああ。私も言えた事じゃないが、祖先と祖先の関係は決して良好じゃなかった……その時既に生まれていたエマは兎も角、考えてみればとんでもないパーティになっているんだな……」


「まあ、私も勇者と敵対したりしたが……複雑な事情があるのだな。血というものは」


「……。…………」


 疑問が解決したらしたで、新たな問題が生じるこの関係。それはフォンセやリヤンにも言える事であり、エマは「複雑だな」という感想を述べるしか出来なかった。

 中々大変であるが、ライは思考を振り払って言葉を続けた。


「まあ、出会ったものはしょうがない。それに、今は仲間だ。過去のしがらみに俺たちが囚われちゃ先には進めないさ」


「……。……うん、そうだね……! 今は今、過去は過去だもん! それに、距離は近いけど私とライが行動していれば見張りの役目は果たせているよね!」


「ハハ。ああ、そうかもしれないな。俺が旅に出て一番最初に出会ったのはレイだったし、魔王の力が働いているならその時点で都合の悪い事じゃないと判断された事になる。結果としては俺が間違いを起こさないように見張られているのかもしれない。……まあ、世間から見たら世界征服が正しいって訳でも無いんだけど」


 過去のしがらみは関係ない。現在がそのまま未来に進むならこう言った道筋もありなのかもしれない。

 勇者と魔王と神。神話とされる世界的な存在が共に旅を続けているのも何かの縁なのだろう。ライに宿る魔王(元)の持つ力が働いている限り、宿い主にとって都合の良い事を引き起こす存在である。

 それならば余計な事を考えて関係が悪化するのを防ぐのが一番だ。


「じゃあ、レイ。これからも見張りとしてよろしくな」


「うん。ご先祖様たちが代々受け継いで来たこの役割、これからも果たすよ」


 ライとレイは改めて手を取り、互いの信頼を確認する。

 そこへエマ、フォンセ、リヤンも入って来た。


「ふふ、私もだ。私に祖先云々は関係していないが、今は仲間なのだからな。二人だけで親交を深めるのは納得出来ない」


「ああ。それに、魔王関係者として知られて見張られていたのなら、本来見張られるべき存在は私なのだろう。レイ。私の事も見張っていてくれよ?」


「えーと……よく分からないけど……私も見張って……」


「うん。勿論だよ!」


 三人のうち二人も神話の血縁者。なので二人は勇者の子孫であるレイに自分の見張りを依頼した。

 除け者にされるのが嫌なエマも入り、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンは改めて"ポレモス・フレニティダ"に視線を向ける。見れば周りに人の姿は無く、ライたちの声以外で響く音が無い状態だった。

 しかしそれなら好都合。そんな神話の存在がこの様な話をしているのを聞かれたら事が大きくなってしまう。つい勢い付いてしまったが、聞かれていないのは幸いだろう。


「さて、羊皮紙から大凡おおよその情報も得たし、そろそろ街の探索をしよう。今のところそれ程悪い治安でも無いな」


「うん。裏路地の方とかも怪しいね。あの人達が居るかもしれないから、警戒しなくちゃ」


「そうだな。先ずは怪しいところを調べてみるのが一つの手だろう」


 ライ、レイ、フォンセの順でそれだけ話、五人は"ポレモス・フレニティダ"その中央に向かって行く。信頼しているが為に改めて仲間に見張られる形となった五人。この先も絆は深まる事だろう。

 そんな中、少し距離を置いてライたちの背中を見ていたレイはボソリと一言。


「どうせなら……旅が終わってもずっと側で見張っていたいな……」


 その言葉は風に巻かれて消え去り、レイはライたちの、ライの背を少し眺めて小走りで四人の後を追う。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は、チームやグループの存在確認。そして行方不明の真相を探る為、"ポレモス・フレニティダ"を探索するのだった。

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