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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第四章 科学の街“イルム・アスリー”
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七十二話 終盤戦

 ──シャバハが放った黒い矢のような、槍のような呪術によって辺りの建物は砕け、粉砕し、瓦礫の山と化す。

 それはさながら大きな爆撃でも受けたかの光景だった。辺りは土煙や砂埃によって視界が悪い状態だ。


「あの攻撃を受けても砕けないあの剣は頑丈だな……剣を見る限り、やっぱアイツは勇者の子孫か……衰退しちまったもんだなァ……」


 シャバハは先程までレイが居た場所の近くに置いてある剣を眺めて呟き、ため息を吐く。

 視界が悪くとも剣が放つ反射の光は目立つものである。そしてその場所に『先程までいなかった者』の姿を捉え、今度は別の意味でため息を吐いて話す。


「……オイオイ……おたくはどちら様ですかァ……? 一対一の真剣勝負に水を差さないでくれや……」


「一対一? オイオイオイオイ……冗談キツイぜ幹部の側近さん……? 一対多数の間違いだろ……その変な渦……おかしくね? つーか、俺の事くらい知っているだろ……。見たこと無い顔で今のこの場所に居るって事はよ? 普通に考えて参加者の一人だろ」


「……え? ……え?」


 空中から落ちたレイの目の前に立つ男がシャバハへ返す。レイは何故か矢のような、槍ようなモノによるダメージを受けていない自分に対して混乱していた。


「フフフ……まあ、確かに知っているな……ライ……だっけ?」


「……名前まで知っていたか……何かしらの技で知った……いや、あの禍々しい渦を見りゃ……まあ、呪術系の技を扱う……呪術師か陰陽師おんみょうじか……死霊人卿ネクロマンサーか……そのどれかだろうな。さしずめ、幽霊や亡霊に名前でも聞いた……ってところか」


 シャバハが放った黒い矢のような、槍のような技は目の前に現れた者──ライが消し飛ばしたのだろう。

 ライはシャバハが放っている禍々しい渦を一瞥し、シャバハの能力を推測する。


「フフフ……まだまだガキのくせして……よくもまあ、頭が回るもんだ。……ガキはガキらしくしろよ?」


 シャバハはライの推測を聞き、渦だけで自分の能力を惜しいところまで当てている事に対して一目を置くように笑う。

 惜しいところまで。と言うのは、ネクロマンサーの他にも術者の選択肢が出ているからである。


「ハッ、悪いな。生憎子供らしくしている暇が無いんでね……」


 ライはシャバハの言葉に笑って返すと同時に、然り気無く片手をシャバハの目に映らないよう後ろに回す。座り込んでいるレイはそれに気付き、ライを見上げる。


「……ライ……」


「ああ、まあそういう事だ……悪いな」


 レイの声はライの"それ"を見、心配している様子。ライはシャバハに聞こえないような小声で、シャバハの方を見ながらレイに返す。


「……? 成る程……そういう事か……」


 そんな二人のやり取り。それが意味する事にシャバハは一瞬気付かなかったが、チラリと横を一瞥してライへ向き直り話す。


「フフフ……それで隠せるとでも思っていたのか? テメェ……腕が砕けているな……?」


 ライの方を見て笑いながら言葉を続けるシャバハ。

 そう、ライはゼッルとの戦闘に置いて星を破壊する魔術を破壊して腕が砕けた。レイの不安そうな表情はそれからなるものだったのだ。


「ハッ、何を言うかと思えば……。驚くとでも思ったか? どうせ何処かに情報を教えてくれる幽霊かお化けでもいるんだろ? ……まあ、ネクロマンサーとはそういう者だからな。霊を操ってあらゆる情報を収集する。それを利用し、戦闘から日常生活まであらゆる事に有効活用する……。人と場合によっちゃ、神みたいに扱われるかもな?」


 そんなシャバハの様子を見、皮肉を織り交えた表情と声音で話すライ。そう、シャバハがレイやリヤン、そしてライの名前を知っていたのは情報集めの幽霊・亡霊から聞いていたのだろう。

 なので幽霊・亡霊がライの砕けた腕を見た事でシャバハにそれが分かったのだ。


「フフフ……ククク……ハハハ……! 流石だな……! 流石だ小僧……! 全てを見抜いた……! これは中々楽しめそうだ!」


 そこまで言われたシャバハは流石にライを認めざるを得なかった。

 しかし、見破られた事への敗北感など微塵も感じておらず、むしろ出会って数分で見抜かれた事への高揚感に溢れている様子である。


「「…………」」


 そんな様子見たライとレイは警戒を解いてないが、若干引いていた。強敵を前にする事で楽しくなるのは魔族の本質だが、シャバハの高笑いが少し気になったのだ。


「おっと……わりィな……。この街はご覧の通り娯楽が少ない街でね……。喧嘩くらいしかする事が無い。その喧嘩相手がお前とあっちゃ楽しみじゃない訳が無いだろ?」


 若干引いているライとレイに対し、笑いながら言葉を続けるシャバハ。ライはそれを聞き、フッと笑ってシャバハへ返す。


「そうか。それは残念だったな……俺は生憎……片腕が使い物にならねえ。……だから、アンタの相手をするのは俺じゃねえ。俺は後ろでサポートに回る……」


「…………?」


 ピクリと反応するシャバハはライの後ろへ目をやる。

 そこには、


「…………!」


 落ちていた剣を拾い、シャバハへ向けてその刃を向ける──レイが立っていた。


「ほーう? テメェがやるのか? まあ別に良い……。勇者の子孫が弱くちゃ……その血を此処で絶やさなけりゃ、勇者さんに失礼だからな?」


 ゴォッと禍々しい渦が再び発生し、シャバハを取り囲む。その渦の放つ禍々(まがまが)しさは心なしか声でも聞こえてきそうな様子だ。

 そしてそんな渦を──


「オラァ!」



 ────ライが『砕いた』。



「…………は?」


 それを見たシャバハはポカンとし、目を丸くしてそれを見る。己の放った渦が意図も簡単に砕かれたのだ。無理もないだろう。


「やあッ!」


 そして次の瞬間、呆気に取られている様子のシャバハへ向けて剣を放つレイ。


「チィ……ッ!」


 ハッとしたシャバハはそれを避け──


「ほらよッ!」

「ガッ……!?」


 ──ライによって蹴りを食らわせられる。


「テメ……手出しはしねェんじゃ……」


 シャバハ何とか踏ん張り、ライに話が違うぞと訴える。ライはクッと笑って二言。


「ああ、俺は サポートだ。……だから、アンタを弱らせるだけ弱らせておくのさ……!」


 そのままシャバハ蹴り抜くライ。シャバハは踏ん張り切れずに瓦礫を貫通して吹き飛んで行き、瓦礫の山に突っ込んだ。

 それによって瓦礫の山が吹き飛び、辺りに大きな粉塵を起こす。


「……やるじゃねェか……テメェ……魔法・魔術・呪術とかが効か無ェ体質だって?」


 瓦礫から起き上がり、ライに話すシャバハ。恐らく情報集めの幽霊か何かに聞いたのだろう。ならば魔王(元)の事は気付いていない筈だ。シャバハは口元の血を拭い、口角を吊り上げて続ける。


「まさかそんな奴が居るとはな……にわかには信じ難いが……ウチの幹部もそれで勝てなかったのか……だが、星を破壊するレベルの攻撃ならダメージを受ける……」


 淡々と推測をつづるシャバハ。ライはそれを聞き、頷いて返す。


「ああそうだ。……つーか何だ? アンタのところにいる情報屋ゆうれいは複数いるのか? それを知った情報屋ぼうれいは俺の戦いも見ていたという事だろ?  恐らくだが……レイとリヤン。フォンセとキュリテの事も知っているんだろ?」


 ライはシャバハの言葉を聞き、あちこちの情報が分かっている事からシャバハに情報を与えているモノは複数いると推測する。シャバハはライに頷いて返す。


「ああ。全員名前と能力を知っている……まあ、そこにいる勇者の子孫は能力ってよりは物理メインだがな。要するに、お前のサポートがあっても俺を斬れるか分からねェって事だ」


「……」


 レイを一瞥し、クッと喉を鳴らして笑うシャバハ。

 レイは剣を構え、シャバハと対峙する。そんなレイを一瞥し、ライはシャバハへ言う。


「ハッ、大丈夫だよ。……『俺が触れりゃアンタを無効化出来る』からな」


「ハハハハハ……そうかい。そりゃあ楽しみだ……!」



 ──次の刹那、ライとシャバハは大地を蹴り砕き、粉塵を巻き上げながら互いに向かって突き進む。



「オ───ラァ!」

「食いやがれェ!」


 そしてライの足とシャバハの放った呪術が生み出した黒い塊がぶつかり合う。その衝撃で一際大きな土煙が舞い上がり、砂埃が視界を無くす。


「……! はあぁッ!」


 レイはその土煙と砂埃が生み出す小さな隙間から狙いを定め、勇者の剣を振るう。

 放たれたその斬撃は──


「……ッ! ガハッ……!」


 ──見事シャバハへ命中し、シャバハの腹部を抉った。腹部を抉られた事により、シャバハは吐血して膝を着く。


「……テメェらァ!! 行けェェェ!!」


 立ち上がり、怨霊を放つシャバハ。それに加えて禍々しい渦が大量に生み出される。

 数的には圧倒的に勝っているシャバハ。その渦を操る事で近距離と遠方、そのどちらにも仕掛けられるのだろう。


「……ッ!」


 その、レイに向かって一斉に放たれた怨霊と渦は、


「俺がいるから問題無え!」


 ライの脚によって祓われた。シャバハの近くに居た筈のライだが、一瞬にしてレイの近くへ戻ったのだろう。


【ククク……随分と無茶するな……『俺を纏っていない状態』のお前が無茶すると俺の楽しみが減るだろ……】


 唐突に魔王(元)がライへ言う。魔王(元)は暴れたいらしいが、ライがそれを許可していない為自由に動けないのだ。

 それを聞いたライはため息を吐き、魔王(元)の言葉に返す。


(纏ってはいないが、無効化の力は借りている。つーか自動的に付いてくる。……俺は今片腕が砕けているんだ。お前を使ったら痛みの感覚が麻痺するが、その分俺の腕には大きな負担を掛けてしまう事になる。要するに、お前を使ったら嫌でも無茶しちまうんだよ)


 魔王の力を纏うと一時的に感覚が麻痺し、痛みが少なくなる。

 だが、その時に動いた分必ず怪我が悪化するから魔王(元)を纏わないと言うライ。魔王(元)はケッと吐き捨てるように言った。


【じゃあ、さっさとトドメ刺しちまえよ。俺が戦えねえんだし、次の街かどっかでさっさと俺を使ってくれよな?】


(ハイハイ……分かったよ。じゃあさっさとアイツを……レイに倒させるか……)


 魔王(元)との会話を終え、再び大地を蹴り砕いて加速するライ。ライはシャバハへ向け、一直線に向かいながらレイへ話す。


「レイ。さっきの一撃は確かに効いている。このまま行けば確実に倒せる……だが、俺はこんな状態だ。……あの渦の対処がおろそかになるかもしれないけど……トドメを刺せる攻撃が出来るか……?」


「え?」


 ライは勝負を終わらせる為にシャバハを倒したいが、自分の腕が砕けているので自分の力だけではそう簡単に決まらないと言う。

 なのでレイに手伝って貰おうと考えているのだが、ライの言葉にキョトン顔で返すレイ。

 そんなレイに対し、ライは言葉を続けて話す。


「何て言うか……一撃で気絶させたり……取り敢えずこの戦闘ゲームの勝利条件に当てはまるような事が出来ないかって事だ。相手を全滅させなくちゃ勝利にならないらしいからな」


「オイオイ……話ながらとは随分と余裕だな……俺って結構やる方だと思っていたんだがな……舐められたモノだ」


 ライが話を終え、丁度シャバハへ蹴りが当たる。その瞬間にレイは応えた。


「……。私の剣が当たれば……多分」

「じゃ、任せた……!!」


 レイの剣は森を切り裂く事が出来るほどの物だ。

 なので、直撃さえすればライの蹴りとレイの剣でダメージを受けたシャバハは確実に気を失うだろう。


「そう簡単にいったら……つまらねェだろ!?」


 シャバハはその会話を聞き、大量の禍々しい渦を発生させ、それをレイにけしかける。放たれた渦は真っ直ぐに突き進み、


「そうだな。そう簡単にレイがやられたらつまらない……いや、誰であれ仲間がやられるのは嫌だな……」


「うん。レイちゃんもフォンセちゃんも、ライくんにリヤンちゃんも傷付くのは見ていられないよ! あ、勿論エマお姉さまも」


 "空間移動"で現れたフォンセの魔術とキュリテの超能力によって吹き飛ばされた。


「……あん?」


 突然の出来事に固まるシャバハ。当然だ。放った渦が今度は別の者によって防がれたのだから。

 そしてその隙を突き、ライはシャバハの背後に回り込んだ。


「お前は見なくても良い!」


「……!」


 そしてそのままライに押さえ付けられ、レイの方に向き直されるシャバハ。


「テメ……」


 シャバハは背後に回り込んで自分を押さえ付けているライを睨み付け、ライはそんなシャバハを見て言葉を続ける。


「安心しな。トドメを刺すのは俺じゃないし、俺らは攻撃の妨害をするだけで直接的なダメージは与えない……まあ、最初の攻撃は目を瞑ってくれ」


「ハッ! 直接的なダメージは与えないだァ……? 抜かせ、俺は触れなくても攻撃出来るんだよ!」


 ライの言葉に聞き返しつつ、黒い矢のような槍のような呪術を放つシャバハ。

 どうやらシャバハの攻撃はシャバハが念じるだけで扱えるらしい。


「私も……! 戦う……!」


 そして、それはリヤンの魔術によって吹き飛ばされた。いや、一つ訂正しよう──リヤンが纏ったイフリートの魔術によって、だ。


「……! テメェは……そういや、伝説の子孫が二人いるんだな……この調子だと他にもいるかもしれねェ……」


「……伝説?」


 シャバハはリヤンを見てリヤンに話す。シャバハはリヤンが神の子孫という事も聞いているようだった。

 シャバハを押さえているライはそれを聞いて訝しげな表情をすし、そんなライに気付かずリヤンはシャバハへ言う。


「……私の前に……今は目の前の相手を見たらどうなの……? ……えーと……ば、バカ!」


 不慣れな挑発をし、レイの方向に視線誘導するリヤン。

 レイは剣を構えており、いつでも振るう事が出来る体勢に入っていた。


「……ッ! バカだと!? お前はガキか! ……とも言ってられねェな……少しイラッときた……」


 一応リヤンの言葉に返すシャバハだが、目の前に迫り来る驚異へ思考を移す。


「クソ……! だったら、テメェら全員も巻き添えだ!!」


 そして、シャバハは自分が持てる呪術を全て放出し、巨大な大渦を創り出し──


「一度言ってみたかったんだよ……! ──"霊魂の大渦ルーフ・キビーラ・ドゥール"!!」



 ──刹那、その大渦は回りを飲み込んだ。



 木々を、鉄塊を、瓦礫を、全てを飲み込み更に巨大化していく大渦。それはちょっとした竜巻の威力を遥かに凌駕しており、更に更に巨大化した。


「フォンセ! リヤン! キュリテ! 命令するようで嫌だが、あの大渦を任せても良いか? 俺が触れてなきゃコイツはすり抜けるからな……!」


「「「…………!」」」


  その大渦を見上げ、ライはフォンセたちに頼む。

 自分の力だけでは無く、フォンセ、リヤン、キュリテを信じて頼んだのだ。


「「「……任せて(ろ)!!」」」


 少し呆気に取られていたフォンセ、リヤン、キュリテだったが、三人は力強く頷いて返す。

 その返答を聞いたライは歯を剥き出しにしながらニッと笑い、シャバハを絞め直した。


「あの渦を止める……か。ハハハ……それは面白ェ……! やってみろォ!!」


 叫ぶシャバハ。フォンセたちが大渦を消し去る事に成功しようと、失敗しようと何にしろ、この技によってこの勝負ゲームが決まる筈である。

 魔族の街"イルム・アスリー"での戦いは、いよいよ終着へと近付いて行く。

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