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七百二十三話 ライ、レイと太陽神

 力を更に高めたアポロンはライとレイ目掛け、高熱の球体を軽く放った。

 その刹那、途中で急加速して直進する。ライとレイはそれを紙一重でかわし、背後に向かった光球は直後に爆発を起こして半径数キロを消し飛ばした。


「この威力……まだまだ本気じゃないみたいだな。本気なら本物の太陽のようなエネルギーを放る事も可能だろ?」


「まあ、出来なくはないね。一応太陽を司っているから、僕自身が太陽その物みたいなものだ。それを自分で言うと結構恥ずかしいけど」


 半径数キロを消し飛ばす高熱の光球。だが、その程度ではまだ力を出していない事が分かる。

 ライの推測通り、本気なら本物の太陽を生み出す事も可能のようだ。それは太陽神というより創造神の役目の気もするが、基本的に先代の力を受け継ぎ、そこから精進して成長する事が出来る今のオリュンポス十二神は先代の神々よりも力が強いという事だろう。


「その様子、本気なら太陽どころか宇宙に大きな影響を与える事も可能そうだな」


「ハハ。まあ、僕たち神々なら既に大きな影響を与えていると思うよ。特にゼウスさんは人間の国のみならず、全宇宙の現支配者だし」


 アポロンの底はまだ見えない。本人のなるべく戦いたくないという意思がそれ程までに強いのだ。

 だが、それなりの攻撃を放ってはいるので戦う意思も当然あると分かる。となれば本気を出させるのが一先ずの目標だろう。相手が力を出し切る前に倒すのも一つの作戦になるが、それでは意味が無い。本気のアポロンを倒さなくては幹部全てに勝ったと言えないからである。


「力を見たいけど、なんかそれだと力尽くの侵略みたいで嫌だな」

「そもそも侵略しなければ良いんじゃないか?」

「いや、そういう訳にはいかない」


 互いに交わし、ライが荒れ地を蹴り砕き、光の速度でアポロンに向かう。それをアポロンは横に避け、裏拳をライに叩き込む体勢となった。

 だがライはその場で身を捻ってそれをかわし、そこから流れるように回し蹴りを放つ。それも避けられ、小さな太陽を形成。しかしその隙をレイは見逃さず、勇者の剣からなる斬撃をアポロンに飛ばした。


「やっぱりと言うべきか、強者二人の相手は難しいね。此方から仕掛けられるのは最小限のものだけになってしまう。そして攻撃は簡単に避けられるときた」


「アンタも割かし簡単に避けていないか? まともな攻撃を当てた記憶がさっきまでで止まっている」


「まあ、避ける事には本気になっても良いからね。僕としても街を征服される訳にはいかない」


「まだ征服はしないさ。全ての幹部と支配者を倒した後で、改めて人間の国の征服を宣言するつもりだ」


「大きく出たね。夢は大きい方が良いけど、そう言う夢は考えようだね」


 斬撃を避けたアポロンが複数の太陽をライの周りへ付け、熱で包んで破裂させる。しかしライは破裂する前に小さな太陽を砕き、アポロンの肩に手を付けて跳躍。そのまま背後に回り込んで突くような蹴りを放った。

 それをアポロンは一瞥も向けずにかわし、再び裏拳を放つ。それをライがしゃがんで避け、アポロンの足に自分の足を掛けてバランスを奪う。少しフラついたのを見計らい、腹部に向けて拳を叩き込む。それを崩れた体勢でアポロンが受け止め、互いに弾かれ距離を置いた。


「そこっ!」

「油断の隙もない」


 距離を置いた瞬間に再び勇者の剣からなる斬撃が放たれ、それを軽く避けるアポロン。避けると同時にライが飛び出し、一気に距離を詰めて振り抜くように拳を打ち付けた。


「此方も厄介だね」


 その拳を受け止め、少し後退するがこらえるアポロン。ライの拳からなる衝撃で背後が大きく粉砕したが今更だろう。


「けど、直接触れたらダメージを受けるように変えれば良いのかもしれないね……!」


「……っ。熱いな……!」


 そんなアポロンは受け止めた瞬間に熱を込め、全身を数万度の高温に変える。

 その様な力があったのかは疑問だが、どうやら直接身体を温めているのではなく太陽の力を身体に宿して己の身体を触媒としながら熱を放出しているようだ。

 数万度ともなれば常人なら触れるだけで大きな影響が被るが、ライは少し熱がる程度で問題無さそうである。

 恐らくライ自身の物理的な力を無効化する能力と魔王の全ての異能を無効化する能力の働きにより、身体から高温を発するアポロンにも触れられるのだろう。


「"熱い"の一言で済まされるのも問題がある気がするけど……まあ、一応はダメージを負っているのかな? それなら良いや」


「ハッ、そうでもないぜ? 数万度ならそれ以上の温度を体験した事もあるからな」


「一体君は何処を旅して来たんだ……」

「まあ、色んな所を旅しているな。この半年で」


 地獄。それも地獄最下層の業火に比べれば、今のアポロンが放出している温度は涼しいくらいである。

 そこの炎は豆程の大きさの炎を地上に持ってくるだけで地上全てを焼き尽くせる炎が蔓延する地獄の十倍の熱さがあった。それは弱体化していたとはいえ、魔物の国の支配者でもキツイものだった。

 そんな地獄の業火を体験した事のあるライからすれば、口では熱いと言っているがアポロンの熱は涼しい程なのかもしれない。


「半年。それで世界を渡り歩けるなら、それなりの速度で歩いているようにも思えるけど……まあ、君の速度なら一瞬で世界を見る事も可能か」


「見るだけならな。行動を起こさなくちゃならないから、そんな簡単な話じゃないさ」


 世界を見るだけなら、ライは簡単に世界一周。もしくは何百何千周。それ以上の周回も出来る。しかしそれでは世界征服の目的を達成出来ない。なので半年掛けて世界を巡っているのだ。

 突然攻めて国を落とすやり方はしない。幹部と出会い、自分たちを侵略者だと分からせた上で戦うのがライのスタイル。ライは会話を終わらせ、アポロンから距離を置いて構えた。


「さて、無駄話をしている暇はない。侵略者の旅の軌跡には興味もないだろ?」


「興味が無いって事も無いけど、話をしている暇じゃないのはそうだね。君達との争い……けては通れない道か」


 力を込め、ライは自身の全力、魔王の七割に匹敵する力を使った。アポロンもアポロンで腹を括り、力を込め直す。

 辺りの空気は既に変わり切っている。同時にライとアポロンは互いに加速して光の速度を超えた。


「オラァ!」

「……」


 ライが拳を打ち付け、アポロンがそれを紙一重で避ける。同時に回し蹴りを放ってライは腕で受け止め、周囲に砂塵が舞い上がった。

 次の瞬間共に腕と足を弾き、ライが体勢を低くして足元を蹴り飛ばす。それを避けたアポロンは空中で体勢を変え、小さな赤い光球を創り出して下方のライへ打ち付けた。

 それをかわしたライだが熱の余波は凄まじく、そこから数十キロが蒸発する。爆炎に等しい衝撃波が伝わり、天空の雲を全て消し飛ばした。


「ライ……!」

「……!」


 遠方からそれを見ていたレイはライの名を呼び、爆炎を切り裂いて近寄る。

 アポロンはレイの方向を見やり、行動を起こそうとするが足元が消し飛んで空中に舞い上がった。


「やっぱ、厄介なものだな。その力。避けても破裂するから意味が無いや」


「その破裂付近に居て無傷の君も君だけどね」


 当然、それは足元から飛び出したライである。

 強大な熱エネルギーの近くに居ても大したダメージは負っていないその様子を見て肩を落とすアポロン。

 そして舞い上がった隙を突き、レイが勇者の剣を横に薙いだ。


「やあ!」


「……っ。成る程ね。近付いた理由は彼の身を案じた訳じゃなく、僕に確実な一撃を与える為か。当然心配もしているみたいだけど」


 空中に上がった事で周りを巻き込む心配も無くなった。つまり、心置き無く剣を振るえるという事である。

 今までは勇者の剣に慣らしていくのと、その剣の強さが分かっているからこそ本気では振り払えなかった。だが、空中ならそれらの問題は全て解決している。

 それらの事柄が合わさった一撃は確かにアポロンへダメージを与えたようだ。


「どうやってその剣の持つ力を調整しているのかは分からないけど、随分と使いこなせているようだね。慣れ親しんだ武器は強い。その武器自体が元々強ければ敵無し。末恐ろしいものだよ」


 切られた箇所を治療しながら着地し、近くのライと中距離に立つレイへ注意を払う。

 まだ力の底は互いに見ていない。分かるのは本人たちだけである。

 だからこそアポロンは少し焦りを見せる。本気なら良い勝負が出来るだろう。しかし、魔王を連れる少年という伝達を聞いていたがまだその魔王を使っていない現状。それはライが今よりも更に強くなる事の表れだからだ。


「さて、どうするか……」

「相手の力は分かっていない……」


 対するライとレイの二人も、互いの場所は違えど同じ事で悩んでいた。

 ライはまだ奥の手として魔王の力を宿すのもあり。しかしその破壊範囲は、今のライなら恐らく一割纏うだけでも一挙一動で銀河系を破壊し兼ねない。三割纏えば宇宙が砕ける可能性もある。

 レイもレイで、まだヘパイストスに言われた事がよく分かっていない状態。全ての伝承の武器を遥かに超越した力を宿すと言われたが、今(おこな)っている事は何も分からないので手始めに慣らしているというだけ。その力の底は、現在の持ち主であるレイにも理解し切れない程だった。

 つまり要するに、ライの懸念は破壊範囲。レイの懸念は剣の力その物という事である。


「……」

「……」

「……」


 ライとレイとアポロン。三人は三人共通の考えにより、お互い動き出せず臨戦態勢のまま相手を窺う形となる。

 例えるなら小さな虫一匹が乗っただけで切れる糸のようなもの。何かの切っ掛けがあれば一斉に動き出すが、何の切っ掛けも無ければ数分間は向き合ったまま動かない事も有り得る状況。

 だが、そんな状況でも変わらぬ事が一つ。どちらにどう転んでも三人に降り掛かるプレッシャーはとてつもないものという事だ。


(この状況で攻めるなら……ううん。攻めなくちゃいけないなら中距離に居る私……けど、隙が無い……)


 向き合う中、恐らく一番離れた位置に居るレイが思案する。

 この位置だからこそ与えられる影響は少ない。レイが追い付けば勇者の剣でアポロンの攻撃を全て切り伏せる事も可能だろう。

 しかし、それには大きなリスクも伴う。今のアポロンに隙が無いのもその要因の一つであり、集中し切っていない今のままで光速以上の速度を見抜けない事も一つ。加えてアポロンなら今から自分の足元に小さな太陽を落とすだけで広範囲を消滅させる事も可能。この程度の距離の差など当てにならず、仕掛けた瞬間に返り討ちに遭う可能性も考慮しなくてはならない。


「仕掛けて来ないなら、僕から行くよ?」


 そしてその沈黙と緊張を破ったのは意外にもアポロンの方だった。

 それだけ告げたアポロンは先程から何度も形成している小型の太陽を創り、地面に叩き付けて大爆発を引き起こす。それによって視界は消え去るが、ライとレイがその爆炎を砕く。その爆炎の隙間から無数の矢が放たれた。


「成る程な。爆発はカモフラージュか」


 放たれた太陽の矢に向け、拳を突き出して風圧で消し去るライ。

 アポロンが仕掛けた理由は視界を消し去る術があったから。それならば攻撃と同時に生まれる隙も隠せる。だがライとレイには気配も見えるのでアポロンが何処に移動したかも見抜いた。


「そこだ!」

「おっと……」


 ライは爆発によって生じた足元の土塊を蹴り上げ、片手に掴んで投石する。土塊は刹那に光を超え、その衝撃で前方が先程以上に深く大きく粉砕した。

 それを避けたアポロンに向けてレイは近寄り、勇者の剣を直接仕掛ける。


「今度は遠距離からの攻撃じゃないのかい?」


「近距離、中距離、遠距離。全て試してみなくちゃ完全に使い切れないからね……!」


「フム、まだ使いこなせてはいないのか。それにしても十分な力を秘めているように見えるけど」


 アポロンは片手に力と熱を込め、太陽の剣を創り出してレイの剣を受け止める。

 熱の光球を創り出せる事から大体分かっていたが、どうやら熱を操り太陽のエネルギーを持つ物質は形問わずに創れるらしい。

 やはり太陽神というより創造神に近い気もするが、伝承を誇張された存在である現在の神々。芸術の神という側面から創造能力も備わっているのかもしれない。


「やあ!」

「よっと!」


 勇者の剣と太陽の剣が互いに弾かれ、二人は距離が離れる。刹那にその距離を詰め、再び二つの剣が衝突した。

 一撃一撃で鉄と鉄がぶつかり合うような金属音は響くが火花は散らず、小さな火の粉が周囲に散る。二人は同時に左右へ斬り伏せ、互いに少し下がって相手を見やる。


「そこだっ!」

「まあ、この隙は突くよね。当然」


 少し下がった事で生まれた隙。それを突いたライが空中からかかととしを放ち、アポロンが太陽エネルギーを凝縮させた盾を創ってそれを防ぐ。ライの踵落としが当たった太陽の盾は砕け、アポロンが勢いよく後退して距離を置く。

 同時に三人は向き合い、再び互いを窺うように停止した。


「やっぱり、もう少し本気にならなくちゃならないって事か」


「さっきからそればっかりだな。何時になったら本当の力を見せてくれるんだ?」


「そうだね……──今かな?」


 その言葉の通り、周囲の雰囲気が変わった。否、景色その物。場所その物が変化したのだ。


「……! 空間転移……! アンタも出来るのか」


「まあ、一応神だからね。少し疲れるからあまり使わないけど」


 ライたちとアポロンは知らぬが、アポロンはアルテミスと同じような事を言う。

 どうやら神クラスとなれば世界を移転、反転、変化させる事は容易く無いにせよ割りと行える所業のようだ。

 ライとレイ、アポロンの戦闘。三人の戦いは、"ミナス・イリオス"の暖色側から近辺の荒れ地。そしてアポロンの創り出した空間へと、変わりに変わって続くのだった。

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