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七百二十二話 エマ、フォンセ、リヤンと月の女神・決着

「その力、御見せしてください」


 力を込めたエマ、フォンセ、リヤンの三人とアルテミス。

 アルテミスがエマたちの力を見定める為に先程よりも力の込められた光の矢で各々(おのおの)の方向へ先手を打ち、三人はその場から飛び退くようにかわした。

 既にエマ、リヤンの傷は癒えており、フォンセに刺さっていた光の矢も消えている。それでもヴァンパイアのエマとヴァンパイアの再生力を持つリヤンのように自動的に再生はしないが、多少の応急措置は済ませてあるようだ。


「この程度の矢なら、魔王としての魔術は使わなくとも十分そうだな。"連鎖爆発チェイン・エクスプロージョン"!」


 フォンセが放たれた光の矢に爆発魔術を放ち、エマとリヤンの方に向かった矢も消し去る。それによって空は爆炎の暗雲に包み込まれ、更に視界が黒く染まった。

 そんな黒煙を通り抜け、エマとリヤンがアルテミスにけしかける。


「成る程。一先ずフォンセさんに見えていた奥底の力は魔王の魔術という事ですか。しかし、それならリヤンさんは何の力なのでしょう。勇者? 神? それとも別の何か?」


 フォンセの言葉を聞いたアルテミスはフォンセから感じられた力を魔王のものと理解する。

 しかしリヤンの力は見抜き切れないらしく、まだ考察の途中のようだ。


「余所見をするな!」

「相手にしてくれないと……怒るよ……!」


「安心してください。貴女達からは一目足りとも離すつもりはありませんから」


 そのように思考するアルテミスに向け、さえぎるように声を掛けたエマとリヤンが力任せに拳を放つ。

 アルテミスは軽く見切ってかわし、すれ違うように光の矢を複数放って二人の身体を貫いた。


「驚異的な回復力のある貴女達には、少し心が痛みますが直接貫くのが良いと判断しました」


「ああ、別に構わないさ。私は身体が文字通りボロボロになる事には慣れている」


「私も平気……痛いけど、我慢するから……!」


 エマとリヤン。アルテミスが狙った二人の身体は手足のみならず腹部に胸、首元に頭。

 リヤンに対しては首元と頭を狙っていないが、今までのように動きを止めるのに必要な場所だけを狙った訳ではないその攻撃はアルテミスが本気になった証拠でもあった。


「やはり平気な様子。それならばもう少し全力に近い力を使いましょう……!」


 光を束ね、更に太い光の矢を形成する。それだけなら先程も何回かやっているが、込められた力がそれの比にならない程強く、目映い光を放っていた。

 あれが直撃すれば大陸一つは軽く消え去る力は秘められている事だろう。そしてその事からするに全力なら惑星や恒星、もしくは太陽系くらいなら破壊出来る力を持っているかもしれない。


「"光の矢(フォス・ヴェロス)"!」


 言葉は通常の矢と変わらない。しかしその威力は絶大だった。

 速度も光速の半分から第六宇宙速度。つまり光の速度へと上がっており、投げた瞬間に大地へ着弾してもおかしくない加速だ。


「光速なら、私が見切れる。"魔王の盾(サタン・シールド)"!」


 投擲された瞬間、光の速度で迫る矢を魔王の守護魔術で防ぐフォンセ。

 魔王の力を解放した今のフォンセなら簡単ではないにせよ、光速の攻撃を防ぐ事も可能だ。


「速いですね。しかも、あの禍々しい気配と魔力……間違いなく、かつて世界を支配していた魔王の力……!」


「今だ!」

「えい……!」


「……っ」


 魔王の力に震撼する途中、エマとリヤンがアルテミスへいかづちを落とした。

 アルテミスはそれを避けたが掠めて感電し、一瞬動きが停止する。数億ボルトの電流を受けても行動は可能だろうが一瞬は怯むらしい。例えるなら常人が静電気を受けたようなものだろう。

 パチッという破裂音と共に一瞬の、しかし嫌な痛みが走るその感覚。雷も言わば静電気なので当然の反応だ。


「一瞬の怯みは私にとって大きな隙となる。"魔王の雷(サタン・サンダー)"!」


「……ッ!」


 怯んだアルテミスに向け、下からいかづちを放った。

 大地に放てば世界が崩壊する可能性のある魔王の力。なのでフォンセは上に目掛けて放ったのだろう。それなら数秒後に遥か彼方の空間が消えるくらいの被害で済むからである。


「雷速も光速も遥かに超越する速度の雷とは……。何とも危険極まりない雷撃……!」


「それを半裸の防御力が皆無の状態で直撃して簡単な焦げ目が付く程度で済んだお前も大概だがな。やはり銀河系を砕けるくらいの力を使わなくてはならないか……。この星への被害が心配だ」


 魔王の雷を見て驚愕するアルテミスと銀河系は砕ける前提として、自分の住む惑星への被害を悩むフォンセ。

 共に次元の違うレベルでの話だが支離滅裂ではない。会話は成立していた。


「やれやれ。このレベルになると私は足手纏いになってしまうな。リヤン。お前はどうする?」


 魔王の力を使うフォンセと神としての本質を少しずつ見せてきているアルテミス。ただのヴァンパイアであるエマはその戦いに付いて行けず、まだ神の力を使っていないリヤンに訊ねた。

 リヤンが神の力を解放すれば、それと同時に前線に立って直接仕掛けるという役割を変更するつもりなのだろう。


「ええと……まだバレていないみたいだから……もう少し隠しておく……」


 それを聞いたリヤンは、アルテミスにそれはバレていないので神の力は隠すとの事。確かにホイホイ情報を与えるのは得策じゃない。加えて魔王の力を纏う今のフォンセは支配者にも匹敵する力を持っている。

 リヤンの考え通り、下手に手は下さず頃合いを図るのが一番の考えだろう。


「ふふ、そうか。なら暫くはリヤンと同じフィールドにたてるな。フォンセ! サポートは任せろ!」


「ああ、頼んだ!」


 エマはその考えに同意し、フォンセは頼もしい二人を信頼するように頷いて返した。

 会話を終わらせてまだ痺れの取れない様子であるアルテミスに視線を向ける。そして手を翳し、この隙を突いて追撃した。


「悪いが続けさせて貰う。"魔王の槍(サタン・ランス)"!」


 次の刹那、魔力からなる槍を創り出し、動きがほんの少し鈍くなっているアルテミスへ放った。

 その槍も光を超越して進み、光の影響が及ばず真の闇に包まれる。だが、漆黒の闇は魔王本来の魔術からなるもの。光を超えたとしても現在の色は本来の色なのかもしれない。


「……っ。"無数の光の矢アナリフミトス・フォス・ヴェロス"!」


 光を超えたものを見切れるアルテミスは、光を超えた光の矢を複数一斉放射した。

 アルテミスの矢は光を超えても光を放っており、その閃光が瞬くように見える。

 元々光を超えられるライたちの姿もそれを追える者には見えるので、この世界ではあまり関係の無い事なのかもしれない。

 光を超えた魔王の槍とアルテミスの矢。それらは放たれた直後に衝突して強大な衝撃波を放ち、上空の暗雲を全て吹き飛ばして廃墟区の建物を大きく粉砕した。

 その衝撃は留まる事を知らず、このままではこの星から数光年は消し飛んでしまうかもしれない。フォンセとアルテミスは衝突の最中に手を翳し、更に力を使った。


「"魔王の消失サタン・ディサペアレンス"」

「解除します!」


 力をもちいて、強大な複数の力を消し去る。それもあって廃墟区が完全に消滅する程度の被害で済んだようだ。

 前述したようにこのままぶつかり続ければ世界は崩壊し、この惑星から数光年先まで星一つ残らない惨状になっていた事だろう。やはり女神と魔王が衝突すれば甚大な犠牲が出るらしい。


「消し飛んだか。折角の日影だったのだが、傘を差さなくてはならなくなったのが面倒だな」


「"神の守護ガーディアン・オブ・ゴッド"……。エマ……大丈夫……?」

「ああ、リヤンのお陰で助かったよ」


 その一方で衝突に巻き込まれる形となったエマとリヤン。二人はリヤンが衝撃を塞ぐ神の守護壁を貼ったので無事だった。この距離ならアルテミスへ声も届いていないだろう。神の力を使えるという事にも恐らく気付かれていない筈だ。

 そこ横に居るエマは影が無くなった事で傘を差す羽目になったが、この廃墟区が消し飛ぶのは想定の範囲内。気にせずアルテミスへ向き直り、サポートすべく行動に移る。


「ハァッ!」

「やあ……!」


「……! また来ましたか……!」


 アルテミスからして、エマとリヤンのサポートは大したダメージにはならないと思われるが中々厄介なものになっている。

 二人に気を取られる事で魔王の魔術を使うフォンセに隙を作る事になるからだ。

 それなら相手にしなければ良いだろう。だが、それでも二人がかなりの力を有している事に変わりはない。ダメージが少なくとも受けているという事実も揺るがないからである。

 加えてフォンセの魔術とぶつかり合った先程の疲労も残っている。強大な力が衝突すれば放った者に疲労が残るのも当然。フォンセには休む間もほんの少しあるが、それすら与えられないアルテミスが今は圧倒的に不利だろう。


「……っ。纏めて吹き飛ばすと、街に被害が……このままでは私が不利……」


 エマとリヤンの攻撃を避けつつ思考する。動きながら他の行動をするのも中々の苦行だが、そこから何かを見出だせなければアルテミスの敗北はその瞬間に決まる。

 二人の攻撃をいなすアルテミスに向け、フォンセが飛び出した。


「多勢に無勢……少し卑怯な気がして本当に悪いが、ケリを着けさせて貰う。"魔王の衝撃(サタン・インパクト)"!」


「……ッ!」


 思考に気を取られて動きが鈍くなり、手痛い一撃を受けるアルテミス。

 魔力からなる衝撃波が身体を通り抜け、真っ赤な鮮血が噴き出す。今の攻撃は数光年を吹き飛ばせる力を圧縮した衝撃波。女神であるアルテミスにもかなりのダメージが入った事だろう。

 目に鼻や口から血を流すアルテミスは小さく笑い、言葉を続けた。


「いいえ。お気になさらず……私もそろそろ終わらせようと考えておりました故。この距離(・・・・)なら(・・)貴女達全員(・・・・・)()連れて(・・・)行けます(・・・・)……!」


「……!」

「「……!」」


 ──気付いた瞬間、"ミナス・イリオス"寒色側の廃墟区からエマたちは別の場所、宇宙のような所に来ていた。

 遠方には星が流れ、無機質な足場が全体を覆う。この感覚、以前にも九尾の狐によって移動させられた場所にも似ていた。


「空間転移……そんな事も出来たのかお前……」


「ええ。少し疲れるので滅多に使いませんが、あと一撃で終わらせるつもりなので使いました」


「あと一撃だと……?」

「言葉の通りです」


 エマがふと上を見ると、巨大な黒い光の矢が形成されていた。全体が黒く、一部が白く輝いている空に浮かぶ月を彷彿とさせるそれには確かな力が秘められており、後一撃で終わらせるというのも本心だろう。

 フォンセの言うように空間転移をおこなったのはそれによる被害を抑える為。そうしなくては元の世界が崩壊するのは目に見えて明らかだからである。


「なら、私たちも相応の力をぶつけるか」

「ああ。まあ、フォンセ一人で十分とも思えるがな」

「ふふ、何を言う。あの矢……今までのモノと比較にならない。正真正銘本気の全力だ……」

「……っ。頑張る……」


 アルテミスの本気。恐らくやろうと思えば始めからあの矢を使う事も出来たのだろう。しかし本当に追い詰められるまで使わないとは、アルテミスの優しさが滲み出ていた。

 だが、それならエマたちも同じ事。特にリヤンは神の力を使っていない。

 三人と一人は力を込め、互いに向けて一気に力を解放した。


「"魔王の処刑サタン・エグゼキューション"!」

「"神の粛清(パージ・オブ・ゴッド)"……!」

「はあ!」


「"月の女神の矢メーン・デア・ヴェロス"!」


 そして放たれた、四つの攻撃。

 フォンセが魔王の魔力を放出した漆黒の刃。リヤンが神の力を誇示するようないかづち。エマが暴風雨に落雷と様々な悪天候。

 最後にアルテミスが、世界を終わらせる事も可能な黒く白い光の矢。これらが地上で放たれていれば、確実に自分たちの住む惑星から銀河系が消滅していた事だろう。


 ──アルテミスの創り出した空間にて衝突し合う世界崩壊を容易く引き起こせる攻撃。

 次の刹那にそれらが瞬き、一つの閃光と共にその空間が消失した。



*****



「……! もう……戻ってきたのか……。……ッ!?」

「ああ、そのようだな」

「倒した……のかな……。……っ」


 次に気付いた時、エマたちは廃墟区跡地に立っていた。

 その姿はボロボロになっており、廃墟区に戻ってきたと理解した瞬間にフォンセ、リヤンが吐血して膝を着く。見れば身体中が傷だらけ。肉は抉れて真っ赤な鮮血が緩やかに、大量に流れており、内臓もかなり傷付いている事だろう。本来なら痛みで立てない筈だ。

 エマは腕と片足、片目が取れている。そんな悲惨な見た目の割りに一番平気そうなのは不死身のヴァンパイアだからこそだろう。

 そしてふと視線を向けると、目の前には同じくボロボロになっているアルテミスが膝を着いて苦しそうに呼吸していた。


「どうやら……私がやられてしまったようですね……もう戦う気力が御座いません……けど、貴女達はまだ余裕がありそうで……」


「余裕? そんなものある訳無いだろう。私は特有の再生力があるが……二人は違う。まあ、リヤンもそのうち治るだろうがな。ともあれ、私たちも満身創痍だ」


 再生途中の無い腕を向け、動く事すらままならない様子の二人に視線を向ける。

 思った以上にダメージは酷く、仮にアルテミスが立ち上がった場合降伏するしかない状態。直ぐ様戦闘に以降出来るのはエマだけだろう。

 しかしアルテミスは立ち上がる様子もなく、更に続ける。


「いえ……それは私も同じ事……寧ろ、貴女が動ける分私の方が不利な状態。……。不本意ですが……私の負けです……」


「……。そうか。なら、この勝利は受け取っておくとしよう。ライの目的の為にも必要だからな」


 敗北を認めるアルテミス。エマは少し口を噤み、肩を落としてその言葉を受け取っておく事にした。

 目的を達成する為にも勝利という結果は重要。なのでこの戦いは、一先ずエマたちの勝利という事だろう。

 エマ、フォンセ、リヤンとアルテミスの織り成した"ミナス・イリオス"寒色側の廃墟区。改めて、そこでの勝負はエマたちが勝利を収めるのだった。

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