表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
730/982

七百二十一話 太陽神の力と月の女神の力

 力を解放した瞬間、アポロンは相変わらずの軽薄な笑みを浮かべて小型太陽を複数創り出す。


「また太陽か。簡単に考えるなら、さっきの数倍の数、燃え盛る矢が来るかな?」


「ハハ。ご名答……」


 笑顔を一変、笑みを消したその瞬間に複数の太陽から大量の矢を一斉に放出する。

 ライとレイから見た前方が目映い光を生み出し、次の刹那に凄まじい熱気が二人を襲った。


「ハッ、まだまだだ!」


 その熱に対して拳を放ち、太陽の矢を消し去るライ。同時にレイが飛び出し、アポロンに向けて勇者の剣を振り下ろした。


「やあ!」

「相変わらず良い連携だ」

「……っ」


 その剣に対して熱気を放ち、衝撃波で弾き飛ばす。

 弾かれたレイは空中で回転して着地し、刹那の時眼前に迫ったアポロンの拳を剣の腹で受け止める。しかしその力が強く、吹き飛ばされて荒れ地にある岩に激突した。


「オラァ!」

「背後から、読めていたよ……!」

「……なっ」


 レイを弾き飛ばしたアポロンに向けてライが飛び出し、拳を打ち付ける。しかしアポロンは未来を見ていたかのような動きでライの攻撃をかわし、カウンターのようにライの腹部へ逆に拳を叩き付けた。

 その一撃にも星を揺るがす破壊力が秘められていたが物理的な攻撃に強いライは天空に舞い上がるがダメージは無く、下方に居るアポロンへ視線を向けた。


「後ろだよ」

「……っ。当然速いな」


 直接見れば簡単に避けられるが、天空に舞い上がった事で一瞬アポロンを見失った。それによって背後を取られたライは直後先程までのアポロンと同等大地に落下した。


「……っ。ライ……!」

「させないよ」

「……!」


 岩に激突した事で全身を強く打ったレイは岩から抜け出し、ライの落下した方向を見て心配する。が、そんなレイ目掛けて天空から太陽の矢が無数に放たれた。

 その矢に反応を示したレイは勇者の剣を振るっていなし、全てを一薙ぎで防ぐ。まだ幾つかの余波はあったが、自分に当たるものは無かった。


「防いだみたいだね。君は彼らの中では一番常人に近い存在だけど、何か特別な気配は感じる。容赦はしないよ」


「別に、それでも構わない……!」

「度胸もあるみたいだ」

「……!」


 レイの力を見、称賛しつつレイの返答に答えるよう背後に回り込んで拳を放つアポロン。レイはまた剣の腹で受け止め、今度は踏ん張りを利かせて吹き飛ぶのは何とか数十メートルで耐えた。


「やるね」

「……っ」


 だが次の瞬間に少し離れたレイ目掛けて太陽の矢が放たれる。

 目映い光を発する太陽の矢。勇者の剣を巧みに使ってそれらを防いだレイは光によって見失ったアポロンを視界に収めようとするが、既に姿は無く、また背後から声が掛かった。


「けれど、同時に複数の事柄を相手にするのは慣れていないみたいだね。一つの処理に手間取っているから、こうも簡単に隙を突ける」


「……ッ!」


 アポロンは声を掛かると同時にレイの身体を蹴り飛ばし、荒れ地を削る勢いで直進させる。

 少し飛んで地面に転がり、身体中が小さな傷だらけになったレイが直ぐ様立ち上がってアポロンに視線を向けた。


態々(わざわざ)ダメージが少ない鎧を狙うなんて。優しいんですね、アポロンさん……!」


「女の子を傷付けるのはナンセンスだからね。まあ、それなりのダメージを与えて意識は失って貰うつもりだけど……あまり傷付ける訳にもいかないでしょうよ」


 レイは自分のダメージを考え、アポロンが気を使っている事を理解して話す。

 確かにレイに対して、先程からまともなダメージは無い。剣で受けれるような攻撃や態々(わざわざ)鎧を狙った攻撃など、ギリギリでダメージを和らげられる場所しか狙っていないのだ。

 曰く、レイが女性だからとの事。あくまで意識は奪う程度のダメージを与えるつもりのようだが、目立つ場所に傷などは付けさせぬよう調整しているらしい。

 今までの敵と比べていささか甘いところがあるが、その甘さがレイには許せなかった。


「あまり私を舐めないで下さい……! 私だってやれるからね……!」


「舐めてなどいないさ。女性に優しくするのは当然だろう?」


「なら、一々背後に回り込むのも止めて貰えませんか?」


「それは無理だね。倒さなくちゃならない。君は侵略者だ」


 再び背後に回り込んだアポロンが片手に太陽を創り、レイに構える。それからするに次はその太陽を矢のように放つのではなく直接叩き付けるらしい。

 それを察したレイは飛び退くがまた背後に回り込まれてしまい、アポロンは小さな太陽をレイ目掛けて振り下ろした。


「俺もまだ居るぞ!」

「まあ、邪魔が入るのは見えていたけどね」


 その腕目掛け、ライの蹴りが直撃する。小型太陽はその勢いで数キロ先に吹き飛ばされ、次の瞬間に円形の巨大爆発が巻き起こった。

 甘さはあるがその時は容赦しない表れ。あれを直撃していれば、今のレイなら死ぬ事は無いかもしれないが確実に強大なダメージを受けていた事だろう。


「アンタ、やっぱり甘いんだな。俺が来るのを分かってて俺の攻撃を受けた。さっきの小型太陽。元々当てるつもりは無かっただろ?」


「さあ、どうだろうね」


 アポロンは先程、"邪魔が入るのは見えていた"と言った。

 つまり、ライが加入するのは分かっていたという事。にもかかわらずレイ目掛けて小型太陽を振り下ろしたとなると、邪魔される前提で仕掛けていたという事になる。

 ただの脅し。当てるつもりはなかったらしい。


「少しは力を引き出したみたいだけど、やっぱり完全な本気って訳じゃないな。俺たちには降参するつもりが無いぞ?」


「それが厄介。僕は君達をあまり傷付けたくない。けど、君達は構わず仕掛けてくる。はてさて、一体どうするべきか」


「だから、力尽くで止めるしかないだろ」

「やっぱりそうなるよね? ……はあ……仕方無いか……」


 確かに力は上がった。威圧感も本物。しかし甘さで攻撃に隙がある。それを止めさせる為、ライは率直に告げた。

 アポロンはそれを理解しているのか、渋々ながらも力を引き出す。


「しょうがない。"そう言う事"なら、"こういう事"にしなくちゃならないって訳だもんね」


「ああ、そう言う事だ」

「分かったよ。じゃあ──死なないように気を付けてくれ……!」


 威圧感と熱気が更に増し、周囲が大きく振動する。ような錯覚を覚える。だが、アポロンによって世界が揺れているのは事実だろう。

 ライとレイとアポロン。此方の戦いは、最終局面に持ち込まれた。



*****



「はあ!」

「──"サンダー"!」

「やあ!」


「貫きなさい……──"光の矢(フォス・ヴェロス)"……!」


 ライとレイ。アポロンが戦闘を織り成す中、"ミナス・イリオス"の寒色側廃墟区では依然としてエマ、フォンセ、リヤンとアルテミスによる四人の戦いが続いていた。

 今まで無言で光の矢を放っていたアルテミスがその名を口に出しているのを見ると、それなりに力を込めているという事だろう。

 三人の放った雷に対してアルテミスは光の矢一つで対抗し、互いに相殺する。一瞬の瞬きと共にそれらが散り、周囲に閃光がほとばしった。


「互いに本気ではないが、いや、本気ではないからこそ、私たち三人のいかづちと貴様一人の光の矢が互角とはな。中々に面倒な相手だ」


「ふふ。けど、本気のベクトルが違うじゃないですか。熟練された技を持つ貴女に巧みな力を持つ御二人。それだけでも十分脅威的ですが、特に御二方は底知れぬ力を感じます。例えるなら、御二人の現在使っている力は薄皮のようなもの。本来の力となれば奥底に眠るものがあるように窺えますね」


「「……」」


 フォンセとリヤンは答えない。しかし、此処まで的確に力を見抜くアルテミスには内心少し驚きがあった。

 職業柄と言うべきか何と言うべきか、相手を見抜く力にも長けているようだ。だがリヤンからは初めて会った時も神々しさを感じた。思ったよりも力を隠し通せていないのかもしれない。


「さあ、どうだろうな。力を隠しているのは同じ。仮に今の私たちが使う力が薄皮なら、お前に勝つ事は出来ないんじゃないか?」


「そうかもしれませんね。報告では魔王を連れる少年と魔王の子孫。そしてヴァンパイアにゼウス様に仕える──クラルテさんの親戚……と聞いておりましたが」


「……!?」


 アルテミスがフォンセの言葉に返す途中、大きな反応を示したのはリヤンだった。

 大人しいリヤンにしては珍しく大きな反応。エマとフォンセは何かを察し、アルテミスは相変わらず穏やかな口調で言葉を続ける。


「その反応……雰囲気も少し似ていますね。やはりリヤンさん。貴女がクラルテさんの親戚でしたか」


「……っ」


 報告にある通り、アルテミスはその事を知っていた。リヤンは赤子の時以来まだ見ぬクラルテを思って口を噤み、アルテミスが更に続ける。


「野暮な事はしませんよ。詳しく教えて欲しいと考えているかもしれませんが、会うならば捕まった後にゼウス様の城で会うか、私から逃れて会うのが良いです。おそらく、たった一人の親戚なのですよね?」


「……」


 捕まった後で出会うか、アルテミスから逃げた後で出会うか。その選択肢にはアルテミスを倒すというものは無く、あくまで勝利し得ないという事柄のみを述べていた。

 だがリヤンは詳しく知りたい反面、確かにアルテミスの言うように自分で確かめるべきなのかもしれないと心に決める。同時に身構え、言葉を発した。


「じゃあ……貴女を倒した後……この国を先に進んで会う……!」


「そうですか。道のりは長そうですね。それに、ほぼ不可能に近い選択です。けれど、貴女がそれを選ぶなら相応の行動を起こさなくてはなりませんよ」


 会話を終わらせて光の矢を束ね、天空に放つ。次の瞬間、隕石の如き光を纏った光速の半分の速度を持つ矢が一気に降り注いだ。

 昼間にもかかわらず周囲は瞬く間に光に埋め尽くされ、エマ、フォンセ、リヤンの三人を巻き込む。


「"流星の矢(メテオーロ・ヴェロス)"……!」


「これ一つ一つに山一つは粉砕する力が秘められていると見て良さそうだな。まあ、そうなると周りを巻き込むから多少の調整はされているのだろうが」


「ああ。どちらにせよ、厄介極まりない事に変わりはない。"暴風ハリケーン"!」


「うん……!」


 降り注ぐ流星の矢に向けて、エマが竜巻を放ちフォンセが風魔術で強化。リヤンが更に力を加え、天空を覆い尽くす程の矢が同じく天空を覆い尽くす程の竜巻によって薙ぎ払われた。

 キラキラ光る矢の欠片が周囲に降り注ぎ、エマ、フォンセ、リヤンとアルテミスが次の体勢へと移る。


「全てを防ぎましたか。流石です」


 移った瞬間、アルテミスが三人目掛けて光の矢を放つ。


「これくらいなら簡単に防げる」

「ああ。"ウィンド"!」

「私が攻める……!」


 エマとフォンセはその場を動かず、風をもちいてそれらを防ぐ。そこにリヤンが幻獣・魔物の力を纏って飛び出し、アルテミスの眼前へ迫った。


「正面から来ますか。中々の速度ですね」


 強化した腕力をもちいて拳を放ち、アルテミスに打ち付ける。しかしアルテミスはその動きを見切って避け、避けた方向にリヤンが回し蹴りを放った。

 だがそれも避けられてしまい、跳躍して距離を詰める。同時に風魔術で加速し、落下するようにアルテミスへ仕掛けた。


「はあ……!」

「純粋な肉体的力に魔術。そして……ふむ、巧みな技の数々。まだまだ未知の力がありそうですね」


 リヤンの落下をかわし、石造りの大地に拳を打ち付けてクレーターを生み出す。その衝撃で廃墟区が大きく揺れた。

 様々な幻獣や魔物の力。そして四大エレメントとは違う魔法・魔術が使える事を知らないアルテミスだが、底知れなさを推測したように何か別の力もあると理解しているようだ。


「ハァ!」

「"上昇気流アップドラフト"!」


「……!」


 リヤンの攻撃を避けたアルテミスへ、上下から風が襲い掛かる。

 エマが天候を操って下方に風を落とし、フォンセが上昇気流で持ち上げたのだ。

 それだけなら大したダメージにはならない。強いて苦痛を上げるなら呼吸がし辛くなる事くらいだろう。しかし月の女神であるアルテミスに呼吸はあまり関係無い。なので光を集め、二つの風を破壊した。


「やあ……!」

「成る程、一瞬でも動きを止めるのが目的でしたか」


 破壊した瞬間に飛び掛かるリヤン。アルテミスの身体へ抱き付くようにのし掛かり、その動きを止める。


「しかし、不用意に近付くものではありませんよ?」

「……ッ!」


 リヤンに抱き付かれたアルテミスは冷静に光の矢を創り出して肩と足を貫き、リヤンが離れるのを待つ。しかしリヤンは離れず、更に力を込めた。


「こんなもの……!」

「……!? 傷が……癒えている? まさか貴女もヴァン──」

「リヤンは純粋なヴァンパイアじゃないがな」

「……!」


 何かを言い掛けたアルテミスに向け、エマが頭上から拳を叩き付けて大地を陥没させた。同時にリヤンは離れ、魔術をもちいて下方のアルテミスを焼き払う。

 フォンセも便乗するように炎魔術を放ち、アルテミスを炎の牢に閉じ込めた。


「……っ。油断しました……!」


 光を集めて解放し、炎を内部から粉砕するアルテミス。同時に無数の矢を創り出し、近距離のエマ、リヤンと遠方のフォンセを貫いた。


「……ッ!」

「……ッ!」

「大丈夫か、二人とも……!」


 当然急所は外してあるが、それによって力無く落下するリヤンとその場に膝を着くフォンセ。

 リヤンの傷は直ぐに再生を始めるが、アルテミスは三人の隙を突いて天空から数本の矢を落とした。


「……っ。これは……!」

「手足の拘束か……!」

「……!」


 その一撃はエマたちの動きを止める為に放ったもの。光の矢は廃墟区の地面に突き刺さって三人を固定し、三人を地に縫い付けた。


「ええ。少々手荒になってしまいましたが、これで貴女達の拘束に成功しました。後は連れて帰るだけ──」


「ふっ、この程度なら、簡単に脱出できるさ……!」

「ああ。基本的に私の肉体は使い捨てだならな」

「抜けられる……!」


「……。やはりそうですよね」


 拘束に対し、フォンセは魔力を込めた一撃で石造りの道を粉砕して立ち上がり、エマは気にせず肉ごと削いで立ち上がる。リヤンも無理矢理引き抜き、再生しながら立ち上がった。

 アルテミスはそれを理解していたらしく、改めて三人に向き直る。そして暫し静寂が周りを囲み、無音を切り裂くように言葉を発した。


「やはり少しの本気では貴女達を抑える事も不可能に近い。此方としても、もう少し力を出した方が良いと判断しました……!」


 ──一変、周りの空気が変化した。

 それは錯覚などではなく、本当に空気の動きが変わったのだ。

 アルテミスは今までも、少しの本気で戦っていた。だがその枷も三人相手には無駄と判断し、更に力を上昇させたようだ。

 今の状態でも拘束させるだけなら実行して見せたアルテミス。その力が上乗せされるとなると、此方としても少し厄介である。


「そうか。なら、私たちもそれに応えよう……!」

「ああ。お前が相手では、このままじゃ駄目だと私も気付いた」

「うん……!」


 対する三人、エマ、フォンセ、リヤン。

 エマは身体に力を込めて同時に空模様を操り、フォンセが魔王の、リヤンが神の力を解放する。

 エマ、フォンセ、リヤンとアルテミスが行うこの戦闘。それも最終局面へと向かい、歩み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ