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七百十八話 エマたちと月の女神・ライたちと太陽神

 ライたちとアポロンが出会っていた頃、エマ、フォンセ、リヤンの三人は朝なので人通りが少ない寒色側の街を歩いていた。

 大体の様子は昨日のうちに見ている。一応夜の寒色側もアルテミスの城に行くまでに見て回る事が出来たので、今は本当にただブラついているだけと言った雰囲気だ。

 やる事も無いので仕方ない事である。


「退屈だな……。いや、まあ街の景色を見るだけでも悪くない気分ではあるが……やはり少し物足りない」


「ああ。相変わらず昼間の……というより朝の此方側は大きな動きがない。私からすれば日差しを避けられるから構わないが、景観を見るだけというのも限度があるな」


「……」


 昨日のうちに殆どは見終えた。加えて朝開いている店も少ないので情報を集める事も出来ない現状。エマたちは退屈していた。

 ただ歩いているだけでもそれなりには楽しめるが、数時間歩き続けるとなれば面倒臭さが勝つのが必然。何らかの行動を起こすべきか考える。


「……。仕方無い、此方から仕掛けてみるか」


「ああ。そうだな。このまま歩き続けても逆に問題だ。向こうから強い気配を感じたし、もう始めていると考えればその方が先に進めるだろう」


「うん……」


 唐突に、支離滅裂な事を話す三人。だが三人からすれば全く持って論点がずれていない。

 エマ、フォンセ、リヤンの三人は後ろ。ではなく、上を見上げて言葉を続けた。


「付いてきているのだろう? 何か言いたい事があるなら出て来て話したらどうだ」


「ああ。私たちは比較的穏便に済ませるつもりはある。まあ、行動次第だがな」


「……うん」


 返事はない。しかし三人はしかと理解していた。

 そもそも背後などのように在り来たりな死角ではなく、少し変化の付けた上を見上げたのもその要因だ。勿論それがフェイクの可能性もあるが、エマは片手をかざした。


「ハッタリではない事を、今から証明するとしよう」


 ──刹那、突如として空を暗雲が覆い、一筋の稲光と共に一つの建物へいかづちが降り注いだ。

 その直後に空気と大地を揺らす程の振動が起こり、ゴロゴロという轟音が鳴り響いた。

 次の瞬間、その落下地点から人影が姿を現し、一瞬にしてエマたちの前に誰かが姿を見せる。


「結構真剣に気配を消していたのですがね。バレてしまいましたか」


「ふっ、すまないな。今のこの街では気配の数が圧倒的に少ない……だから、どんなに小さな気配にも敏感になってしまうんだ。そんな敏感な私の身体に感じた一つの気配……それが跡を付いて来れば、誰でも付けられていると分かる」


 いかづちが直撃した? にもかかわらず、衣服が少し焦げた程度。殆ど無傷な青い髪を揺らす者──アルテミスがそこに立っていた。

 現在のこの街は人の数が少ない。なのでそんな数少ない気配の一つが自分たちの跡を付けていたので気付いたらしい。


「そうですか。それはちょっとしたミスを冒してしまいましたね。反省すべき点です。有り難う御座いました」


「いや待て」


 それだけ告げ、去ろうとするアルテミスをエマが引き留める。上にはリヤン。正面にはフォンセが立っており、自然とアルテミスを逃がさぬ体勢が形成されていた。

 まだ逃げ道は幾つか残っているが、この状況で少しでも隙を見せればやられるのは目に見えている。なのでアルテミスは諦めてエマたちに向き直った。


「一つだけ聞こう。何故尾行する?」


 向き直った瞬間、単刀直入にアルテミスへ質問をするエマ。

 何故尾行するのか。それが分かれば少なくとも現在の疑問は大体解決する。なので最も適切な質問だった。


「アナタ達が最近この国を騒がせる侵略者達の一つではないのかと思いました」


 この三人が相手では言い訳しても無駄。嘘も何もかも簡単に見破られる。尾行がバレた時点でそれは確立される事実。なのでアルテミスはそう返答した。

 エマたち、つまりライたち全員を疑っている。それを聞いたエマは「やはりか」と呟き、更に言葉を続ける。


「そうか。なら仕方無い。貴様に嘘が通じないのは見て分かるからな。私たちもこう返そう。──その侵略者の一つで間違いない。貴様が"侵略者達の一つ"と言った事からして、既にある程度の情報は入っているのだろう。もう一つの組織が私たちの仲間では無い事も話しておく」


 尾行する時点で疑いはある。そして今行ったアルテミスに対する威圧からして、隠し通す事がほぼ不可能なのはエマたちも同じ事。それならば正直に話すのが最適だ。

 それを聞いたアルテミスはため息を吐く。


「……。そうですか。薄々気付いていた事ですけど、かなり残念です。共に星を見た仲。お風呂に入った仲。そんなアナタ達を──捕らえる事になるとは……!」


 その刹那、アルテミスが光から矢を作り出してエマたち三人を狙うよう一気に放出した。

 それを三人は各々(おのおの)の動きでかわし、アルテミスに向き直る。


「武器は元々あったものではなく、魔力……とは少し違う、その光の力で生み出しているのか。となると弾数は無制限……厄介だな」


「強いて上げるならその力が尽きるまで。人数からしても私たちが有利だが、油断は出来ないな」


「うん……!」


 アルテミスの矢。それを見たエマたちが武器や戦い方を推測する。

 何も知らぬ未知の存在が相手だった場合、どんなに小さな事でもその力を知る必要がある。なのでこの様な技を見逃す訳にはいかない。

 まだ牽制の段階だが、エマたちは確かにヒントを読み取った。


「頭の回転が早いようですね。しかし、侵略を目論むならそれなりの頭脳が必要なのは当然。となると、此方としても長期戦は避けたいところです……」


 エマたちの言葉を聞き、腕力や魔力のような力以外の部分を見極める。

 その結果、長期戦は不利になると判断して迅速な行動を起こした。


「少し本気になれば、私の矢は必中ですので」


「「「……ッ!」」」


 刹那、次に放たれた光の矢がエマたちの身体を貫いた。

 貫かれた箇所は腕や足のように中枢とは違う場所だが、確実に動きを止めるのが狙いのようだ。


「……ッ! 何故当たった……!?」


 因みにこれだけ言えば、エマたち三人は矢が飛んできた瞬間に避けた。避けると同時に身体に刺さったのである。

 それを疑問に思うフォンセだが、光の矢による一撃で手足の自由が無くなりその場に伏せてしまう。リヤンも同様。いずれは起き上がれるだろうが、少なくとも今残ったのはヴァンパイアの再生力があるエマのみだった。


「あら、貴女には然程聞いていないのでしょうか。なるべく傷付けたくないので急所は外したのですけど……」


「ふふ。ちょっと特殊な体質でな。今度は此方から行かせて貰う……!」


 踏み込み、アルテミスに向けて加速するエマ。どうやらエマがヴァンパイアである事はバレていないらしい。

 それでもほとんどの情報はアルテミスに入っていると見て良さそうだが、今のエマが傘を差していない事からしてもエマではなく別の誰かがヴァンパイアであると考えているのかもしれない。伝達係のヘルメスがどのような報告をしたかは分からないが、それなら反って好都合だ。


「はっ!」

「……っ」


 直接拳を打ち込み、かわしたアルテミスの背後にあった建物の壁に巨大な亀裂を入れる。

 これくらいの攻撃は例え直撃しても大したダメージは無さそうだが、亀裂から生じる音は威嚇にも使える。ライたちに比べて力が弱いからこそ様々な方法でけしかけるのが一番の戦法であるとエマは理解しているのだ。


「さて、これからが本番だ……」

「フフ……随分と乱暴な女の子ですね……」


 互いに不敵な笑みを浮かべ、距離を置いて確認する。

 エマ、フォンセ、リヤンとアルテミス。尾行を見破り出会った四人の戦闘が、たった今始まった。



*****



「聞いた話だと、君達は既に二人の幹部を倒しているんだね。加えて他に一人の幹部と相対している」


「ああ。てか、そこまで知っているのに昨日は俺たちの事に気付かなかったんだな。ヘルメスもヘルメスで、あまり大した情報は伝えなかったのか」


「ハハ。割りと適当なところがあるからね。ヘルメスには。それこそ、味方にすら素性は明かさない。先代ヘルメースのその部分はしかと受け継いでいるみたいだ」


 まだ互いに相手の出方を窺っている段階。ライたちが幹部を倒した事はアポロンも知っているらしい。なのでそう簡単に行動を起こす事が出来ないのだろう。

 ライとレイもライとレイで、世界を照らす太陽の偉大さは理解している。それの化身とされる太陽神アポロンが相手ではそう簡単に動き出せるものじゃない。


「このまま睨み合い続けるかい? 裏通り付近は人通りが少ないけど、此処でずっとこうしているのも考えなくちゃならない」


「ああ、そうだな。けど、俺たちが戦うとなれば街に大きな被害がこうむる。それは俺の望みじゃないんだ」


「成る程。じゃあ、四日前にヘパイストスの街"スィデロ・ズィミウルギア"が崩壊したのはもう一つ……過激派組織の仕業という訳か」


「まあ、そうなるな。と言っても、俺たちがアンタらから見た侵略者という事実に変わりはない。だから、俺から仕掛けるとするよ」


 当然"スィデロ・ズィミウルギア"での情報は入ってきているらしい。

 デメテルの街"エザフォス・アグロス"を除けば次に近いのが此処、"ミナス・イリオス"。なのでそう言った情報は早いのだろう。

 だが、幹部の街の有り様と考えれば既にこの街のみならず人間の国全域に伝わっている筈。それならあまり気にする必要も無さそうだ。

 このまま睨み合っていても仕方無いのも事実。なのでライは自分たち以外の侵略者の存在を肯定し、一先ず自分から仕掛ける事にした。


「街はなるべく破壊しないように気を付ける」

「そうか。それは助かるよ」


 刹那、大地を踏み砕く勢いで加速したライが音速を超えてアポロンに肉迫した。

 なるべく破壊しない。つまり、少しは破壊する。それを踏まえた上での行動である。


「そこそこ速い。けど、君からしたら軽く前に前進する程度の動きか」


「ああ」


 ライが肉迫と同時に拳を放ち、それを避けつつその動きからライの力を推測するアポロン。別に拒否する理由もないライは肯定して返し、回し蹴りで牽制。

 それを跳躍で建物の上に逃れたアポロンに対し、レイが剣を振り下ろして斬撃を飛ばした。


「成る程ね。魔法や魔術とは別の方法で遠距離攻撃をするか。まあ、それを行える剣士はそこそこ居るからね。問題無く避けられるさ」


 飛んできた斬撃に対し、力量を測りつつかわすアポロン。そのまま下に落下して着地し、レイの方を見てそう告げた。

 その事を態々(わざわざ)口に出してそれを言うという事は、そんな攻撃は効かないと誇示しているのだろう。

 それを理解したレイは剣を握り絞め、その隣からライが一気に加速して眼前に迫る。


「おっと……」


「やっぱり、場所が場所だからかアンタは攻撃を仕掛けて来ないな。別に力の調整が出来ない訳じゃないんだろ?」


「まあね。けど、君もそうだろう。攻撃は仕掛けているけど、住人に気を使ってそこまで大きな音を立てたり大きな力を振るっていない。やはり穏健派なんだね」


 互いに力は出していない。例えるなら子供の戦闘ごっこのようなものだ。

 人にもよるが、ごっこ遊びならそこまで強く攻撃をしない。子供によってはわざとゆっくり見せて避けるシーンとかも入れたりする。場所が場所であるが為に、ライ、レイ、アポロンは全く本気を出さずにせめぎ合いを織り成しているのだ。

 それでも音の領域は抜け出している。ライたちのごっこ遊びだとこれ程までの高レベルな手抜きという事になるようだ。


「うーん、じゃあ場所を変えようか。この国ではそれなりに争いが続いている。場所によっては今も変わらない。だから、荒れ地なら幾らか当てはある」


「……。まるで、アンタも参加していたみたいな言い方だな?」


「ハハ。先代アポローンは参加していたみたいだよ」


 それだけ言い、アポロンがその場から姿を消した。幹部全員を倒す事が目標なライとレイはその跡を追う。


「レイ、行くぞ!」

「あ、ライ……!」


 レイを脇に抱え、アポロンを追うようにその場から消え去るライ。

 抱えられたレイは紅潮していたが、傍から見れば中々情けないので仕方無い事である。

 エマたちとアルテミスが寒色側で戦闘を行う中、ライとレイはアポロンと共に住人を巻き込まぬ場所に移動するのだった。

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