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七百十三話 人間の国・対照的な街

 進み始めてから数時間。森を抜けたライたちの前に、開けた場所の景色が映り込んできた。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人はその景色を目の当たりにし、ライが第一声。


「此処が、人間の国四番目の街か……!」


 あるのは発展した建物がある街並み。賑わっており、かなり栄えているようだ。

 そして印象深かったのは建物の色。遠目から見て初めて分かるその色は、中央で分かれて暖色と寒色の建物になっているのだ。

 ライたちは今北東を向いている。その見ている方向から南と東の方向は赤や橙、黄色などの暖色が使われており、北と西の方向は青や紫、藍色などの寒色からなる建物が並んでいた。


「綺麗に分断されている街なんだな。一見二種類の色に統一されているように見えてカラフル。だけど、その配色に無駄がない。色同士が喧嘩していないから落ち着きもある」


「うん。今は昼間だからはっきり見れるけど、夜には別の景色が見えそうだね。そう言えば、お城も暖色と寒色の位置にあるみたい」


 そんな街並みを眺め、感想を話すライとレイ。

 街の景色は暖色と寒色で対照的なものだが、色同士の争いが無いので互いが絶妙に混ざり合う事で鮮やかな彩色へと変えていた。加えて昼と夜で変わりそうな街。中々面白いものである。

 二つある城は少し気掛かりだが、街を治める幹部クラスの誰かと魔族の国のマルスのような王が居るならおかしくはない。


「さて、行ってみるか。次の街に。あと数キロも無さそうだし」


「うん!」

「「ああ」」

「うん……」


 ライが言い、レイたちが頷いて返す。

 これにてライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は、人間の国四番目の街となる色合いが印象的な街に向かうのだった。



*****



「街中に入ると、また印象が変わってくるな。上から見たら対照的だったけど、此処で見ると景観が普通の街に見える。まあ、珍しい色合いなのは変わらないけど」


「ああ。しかし、寒色の方は日陰が多いみたいだな。色合いで錯覚しているんじゃなく、意図的に増やしてるみたいだ。私好みだがな」


 街の入り口にて、ライたちにはまた違った感想が生まれていた。

 上から見れば対照的ながら整った印象が受けられたが、この場で見れば少し色合いに特徴はあるが普通の街と何も変わらない。

 因みに日差しを嫌うエマは自然と日陰の方に目が行ったらしい。


「この街は──"ミナス・イリオス"か」


 そこでふと、近くにあった看板の文字を読む。この街此処は"ミナス・イリオス"というらしい。


「この賑わい……"スィデロ・ズィミウルギア"が崩壊した数日後でも恐怖や不安を感じていないのを見ると、この街には安心出来る何かが居る……つまり、幹部が居ると見て良さそうだな」


 暖色と寒色の建物が覆う街、"ミナス・イリオス"。この発展の仕方からして、恐らく此処に幹部クラスの主力が居ると踏んだ。

 元々城があったので予想はしていたが、住人達の様子を見て確信に変わったのである。


「まあ、皆が幸福な表情をしている。悪い街では無さそうだな。最も、幹部の街で悪い街は今までなかったがな」


「ふふ、そうだな。性格に違いはあれど、街の事を考えている幹部が大半だった。側近くらいか? 善からぬ事を考えて行動していたのは。まあ、私が言ってもどの口が言えると返されそうだが」


 今まで行った幹部の街は、何らかの悪行を望むのは側近のみで幹部たちに国家転覆などを目論むやからは居なかった。

 やはり幹部になるには力のみならず、信頼と実績が必要なのだろう。なのでこの街にも安定した"街"という一つの形が形成されていた。


「さて、此処からまた分かれるか? 他の街と同等、かなり広い街だからな。せめて二手には分かれたいところだ」


 街の入り口で立ち竦んで居ては他の者達の迷惑となる。なのでライたちは端により、近くのベンチに座って今後の行動について考えていた。

 と言っても今まで通り何手かに分かれて街の探索と宿探しを行うだけなのだが、全員が好奇心旺盛なライたち五人。返事は当然、


「うん。私も街を詳しく見てみたい。賛成だよ!」


「ああ。二つに分かれるような色を塗られている街……。興味深い。ただ観光用に景観を目立つようにするとかの理由じゃなく、別の理由がありそうだ」


「そうだな。私もこの街の景色は気になる。敢えて対になる色をしているなら、それは理由がありそうだ」


「賛成……」


 満場一致である。

 人一倍好奇心旺盛なライ。広い世界を見てみたいレイ。退屈凌ぎを探していたエマ。そして狭い世界に居たフォンセとリヤン。

 そんなライたちにとって、新しい街というものは興味の塊。好奇心を刺激する集合体なのだ。


「じゃあ、早速分かれるか。適当にクジか何かでも作るとしよう」


「うん。この街にも魔力の気配は感じるし、少しの魔術なら使っても大丈夫そうだね」


 微量の魔力は感じる。なのでクジを作る程度の魔力なら放っても大丈夫そうだ。

 そして魔術で簡単に作ったチーム分けのクジを引いた結果、暖色の建物が並ぶ場所にはライとレイ。寒色の建物が並ぶ場所にはエマとフォンセ、リヤンのチームになった。



*****



 ──"ミナス・イリオス・暖色側"。


 南東に位置する暖色が中心の街中を、ライとレイは興味深そうに歩いていた。

 此処には活気があり、街の配色から心なしか温かな気分になる。夏なので暑さに拍車が掛かっている気もするが、周りの雰囲気から悪くない感覚だった。


「おう、坊っちゃんに嬢ちゃん! デートかい? 良かったらこの店に寄ってかないか?」


「デ、デートって、そういう訳じゃ……ううん、そうとも言えるんだけど、やっぱり違いますから!」


「飯は食ったか!? アンタら、細いな。食って食って力付けろよ!」


「ハハ、十分ですよ。力は。まだ足りないかもしれませんが」


 歩いていると、気さくな者達から声を掛けられる。こう言った光景は大体の街であったが、これから征服をする事を考えると胸が痛むものである。

 しかし全ての幹部と一人の支配者を倒すまで征服はしない。なのでまだ普通に過ごしてて良いだろう。


「此処も明るい街だな。皆が笑顔で接客や職を全うしているよ」


「うん。皆元気だね。私も楽しくなってきちゃうよ♪」


 この街の第一印象は、明るい街。

 そもそも暗い街は魔族の国にあった"ウェフダー・マカーン"くらいであり、基本的な街は明るい。なのでこの街も他の街と同等、裏表の無い街なのかもしれない。


「気になるのは……暖色と寒色以外に目立った特徴が無い所だな。"エザフォス・アグロス"のように自然が豊富って訳じゃなければ、"スィデロ・ズィミウルギア"みたいに技術が発展している訳じゃない。普通の街だ」


「この二つの配色が特徴なのかな。けど、何の為に分けているんだろう。二つあったお城も気になるし、イマイチ特徴が掴めないや」


 しかしライとレイは、特徴らしい特徴が無いこの街を気に掛けていた。

 余計なお世話かもしれないが、街というものは一見同じに見えて一つ一つに違いがあるものだ。

 "ミナス・イリオス"の特徴と言えば暖色と寒色の二つに分かれた建物。一方は暖色、一方は寒色。その構造は特注の色付き煉瓦レンガからなるもので、態々(わざわざ)色違いの煉瓦を用意しているのも疑問だ。

 国境の街のように人があまり寄り付かない環境や街の経営が難しいので街興しの為に観光名所を作っているならまだ分かる。

 だが、この街は栄えていない訳ではない。それでも観光名所が必要なのかもしれない。また違う理由があるかもしれない。しかしこのままでは何の為の配色か分からない。それが疑問だった。


「他の人に聞いてみる?」

「ああ、そうしようか。街の事は街の人に聞くのが一番良いしな。問題は……」

「その事について触れていいのか、かな?」

「ハハ。その通りだ」


 疑問は街の住人に聞くのが一番。それはライとレイも分かっている。

 しかし、一見何でもないように思える事が禁忌の可能性もあるのでその辺りは慎重に行動しなくてはならない。二人もよく分かっていた。


「じゃあ、遠回しに聞いてみるか」

「うん、そうだね!」


 此処に居る者達は忙しそう。なのでライとレイは詳しく知っていそうで、今のうちだけでも話を聞けそうな者を探すのだった。



*****



 ──"ミナス・イリオス・寒色側"。


 北西に位置する寒色が中心の街中は、エマ、フォンセ、リヤンの三人が探索していた。

 周囲には日が当たらず、こじんまりとした環境は夏の気候である人間の国にしては涼しく感じる。人々に活気は無く、周りが寒色に包まれた静かな空間が形成されていた。


「入り口付近と比べて随分静かな場所だな。此処は」


「ああ。体調が悪い訳ではなく、元より静かな者達が集まっているらしい」


「静かだね……」


 此処に居る者達は、数が少ない。視界の範囲だけでも数人程度が関の山だ。

 気配を辿ればそれはりの人数は居るが、その殆どが建物の中。つまり自宅に居る。しかも何かをしているという気配でもなく、まるで就寝でもしているかのように静かだ。この時間に全員が昼寝を義務付けられているのか分からないが、何とも不思議な感覚である。


「日差しが当たらないのは私からして丁度良いが……こうも静かだと昼なのに夜のような感覚が芽生える。昼夜が逆転した世界にでも迷い込んだのだろうか」


「ふっ、そうかもしれないな。静かな空間は嫌いじゃない。案外落ち着くものだ」


「うん……」


 まるで、昼間ながら夜のような感覚。エマとフォンセ、リヤンはその感覚も嫌いではなく、人通りの少ない穏やかな昼間の道を進んでいた。

 差し込む日差しは建物の影に隠れて居るので少なく、周りの景観から落ち着きのある空間が生み出される。


「だけど……このままだと探索のしようが無いんじゃないかな……人通りが少ないし……お店も開いてないお店が多いよ……」


「ふむ、問題はそこなんだな。一部を除いた店は開いていない。その一部も年齢制限でもありそうな店や大人びた酒場くらいだ。私は大人の姿になれば入れそうだが、大人びているフォンセは兎も角、見た目が幼いリヤンは入れるかどうか」


「酒場なら大丈夫だとは思うが……あまり気は進まないな」


 開いている店の大半は、全体的に大人向けのものが多いのが気掛かりだった。

 見た目を自由に変えられるエマや大人っぽい見た目のフォンセは兎も角、見た目が幼く人見知りのリヤンは子供に見られてしまうかもしれない。

 まあ年齢からして最年少のライに次ぐ十六、七なので実際子供である。十七、八歳のフォンセも魔族から見れば子供だが、人間の国ならギリギリ規定に達している。なので酒場などに入れるかの不安要素はリヤンくらいである。

 そしてフォンセの気が進まない理由は、他にもあった。


「リヤンが悪い大人に絡まれたりしないだろうか……。人間の国では、まだ人々が様々な行動をしている筈の時間にもかかわらず、唯一開いている店。酒を飲んで酔っている者も居そうだ」


「そうだな。それが不安だ。そもそも、何故昼間なのに他の店がやっていないのかも気になる」


 気掛かりなのは保護者的な目線から見たリヤンについて。というより、妹のような存在なのかもしれない。

 それなりに頭が回るのは血筋もあるのだろうが、それでもこの年まで幻獣・魔物と暮らしていたリヤン。この世界の事については知らない事が多い。なので汚い世界を見せたくないのが心境だろう。


「えーと……私のせいで困っているなら……別にエマとフォンセの好きにして良いよ……私はよく分からないから……」


「いや、リヤンが原因になりそうな事は何一つとして困っていない。困っているのはこの酒場にどんな者が居るかについてだ。色々と不安要素が多い。……ふむ、一旦街を見るだけにして、保留にしておくか」


「ああ、そうしよう。一通り街を見た後でライたちと合流して、また別の時間にでも来るのが良いかもしれない」


 リヤンが何らかの責任を感じてしまう前に訂正を加えるフォンセと、その言葉に同調するエマ。もしかしたら昼間には活動していない組織なのかもしれない。街の警備なども考えればそれは普通にあり得る。

 なので今はこの周辺を見て回るだけにするつもりのようだ。


「え……でも……」

「ふふ、そう案ずるな。リヤンは私たちが護るさ」

「ああ。取り敢えず有言実行……街を見て回ろう」

「あ……ちょっと……」


 リヤンの腕を掴み、不敵な笑みを浮かべて寒色側の街を進むエマとフォンセ。リヤンは成す術無く二人に連れられ、そのまま街の探索を続ける。

 ライとレイ。エマとフォンセとリヤン。中心から左右に分かれるよう、二つの配色が施された奇妙な街の探索はもう暫く続きそうである。

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