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七百十二話 シンクロニシティ

「──今度こそ、これで、終わりだ……魔王ォ!!」


【クッハッハッハッハァッ!! 見事だ!! 勇者!! これでテメェが、完全に勝利を収めた!!】


 ──何処からか声が聞こえ……無の空間にも関わらず銀色に光輝く剣が形の無い漆黒の何かを切り裂いた……。

 それと共に高らかな笑い声が響き渡り……辺りは静まり返る……。

 あれ……? 何だろう……この声……。


「ついに、今度こそ……倒したんだな……魔王を!!!」


 拳を振り上げ、ガッツポーズを取る者──勇者、ノヴァ・ミール。

 勇者はたった今、世界を支配する魔王、ヴェリテ・エラトマを打ち倒し、完全なる勝利を収めたところだった。

 流石勇者だな。私の祖先を完全に倒すとは。……うん? 何だ、この声は……。


「──祝福しよう、勇者ノヴァ・ミール。お主の勇姿は未来永劫、この世界で語り続けられる事だろう」


「はっ。有難う御座います、王様!」


「ホッホ。世界を救った英雄、英傑、勇者。そのどれかと呼ばれる事になるお主が改める必要もあるまい」


「ハハ。そんな大層な名で呼ばれるのも考えようがありますね。けど、それなら"勇者"が一番しっくり来ます」


「ホッホッホ。そうかそうか!」

「勇者様……」


 ──唐突に場面が切り替わり、年老いた者の明るい声と勇者の声。そして勇者に思いをせるような者の綺麗な声が聞こえてきた。

 凄いなぁ……私もご先祖様に負けないよう頑張らなくちゃ! ……あれ?


 さて、これはなんだろうか。魔王。つまりアイツは倒された。それなら、意識もそこで途絶える筈。だが、俺はこの光景を見続けている。

 完全には消えていないのか? 今の俺に宿っているし、意識だけが残っていてもおかしくない。

 と言うか、回りからよく聞く親しい者の声も聞こえるような。


 ──俺(私)は、何も見えない空間にて勇者たちの声を聞いている。

 またもや場面が切り替わり、切り替わったような声音になり、何かの記憶が呼び覚まされる。


「はい、勇者様♪」


「オ、オイ……『スピカ』。皆が見ている。それに、お前は王女なんだから、立場的に俺と関わっちゃダメだろ……」


「えー、良いじゃん。私たち幼馴染なんだし、それに……世界を救った今の貴方に身分なんて関係無いよ♪」


 スピカと呼ばれた、声音とご先祖様の反応からして恐らく女性。どうやら王様の娘みたい。顔は見えないけど。あれ? それならもしかしてこの人……。けど、ご先祖様は凄く明るい人だなぁ。


 今の勇者たちは、どうやら魔王討伐の祝宴会として王様の城で食事を楽しんでいるらしい。全員が屈託の無い笑顔を浮かべている。

 私の先祖──魔王を打ち倒し、その魔王以上の力を持っていると知られているのにこの感激のされ様。力があると思わせない面持ちが凄いな……。


 楽しそうだけどこれは、束の間の平和なのかもしれない。この後勇者は幸福な人生を歩む……そのたった数年後、神と戦って何があったのか聖域に住んでいるらしいからな。

 まあ、それはあくまで御伽噺おときばなし。もう勇者という存在が消えている可能性もあるんだよな……。


 私の先祖が……何で世界を滅ぼそうとしたのか私には分からない……。

 先祖の日記帳……"神の日記(ゴッド・ダイアリー)"には"暇潰し"って書いてあったけど……本当にただの暇潰しで世界を滅ぼそうとしたのかな……。


「幼馴染ってそんな事関係無いだろ。俺たちは立場が────」


「ノヴァ。貴方ってそんなに立場とか気にしていなかったじゃない。だって────」



 ────私(俺)がそんな事を考えているうちに、急激に意識が遠退いた。



 いや、既に意識がないからこそ見えているこの光景。元の世界、現実に戻ろうとしているのだろうか。

 魔王(アイツ(祖先))を倒した事によって勇者(ご先祖様)が味わえた一時の幸福の記憶。しかしその幸福も神(先祖)によってもうすぐ消えてしまう。いや、これは既に終わったはなし。なのでもうこの光景の欠片は微塵も残っていない。

 しかしこの記憶から、まだ勇者には妻も何も居ないのだろう。まだ暫く、俺(私)たちの記憶にこの幸福な光景が残るかもしれない。



 ──……え? 俺(私)"たち(・・)"……?



 何かの違和感を再び覚え、周囲が白く染まる。

 さあ、朝だ。目的の為に、その一日を再び始めようか────



*****



「「…………」」

「「…………」」


 ──人間の国幹部、ヘパイストスの居た街"スィデロ・ズィミウルギア"を旅立ってから三日が過ぎていた。

 その四日目の朝、ライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人は、朧気おぼろげな記憶に何かが映る奇妙な感覚で全員が同じタイミングで目覚めた。

 暫くして少し目を瞑り、ゆっくりと起き上がって一言。


「おはよう、みんな」

「うん、おはよう」

「ああ、おはよう」

「……。おはよう……」


 朝の挨拶を交わした。

 同時に四人が身支度を整え、テントの中から外に出る。暖かな木漏れ日が差し込む森の中、周りが森だからなのか夏特有の暑さも感じられなかった。


「おはよう。ライ、レイ、フォンセ、リヤン。今日は一緒に目が覚めたんだな」


 テントの外では日差しが当たらぬよう日傘を差し、日陰になっている葉が生い茂る木に座るエマが居た。

 エマは心地好い風を感じており、美しい金髪を靡かせる。

 ライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人はエマの方を見やり、


「おはよう、エマ」

「おはよー」

「ふっ、おはよう」

「おはよう……」


 挨拶を交わす。

 この半年間、朝目覚めた時は必ず挨拶をしているライたち。それは習慣となっており、挨拶をする事で気持ちを旅の方向に切り替えているのだろう。

 エマは木の上から飛び降り、軽く笑う。


「ふふ。それにしても、おかしな事もあるんだな。四人とも、寝言を言っていたぞ。何を言っていたかはよく聞き取れなかったが、同じような事を言っていたな」


「「「「……え?」」」」


 その言葉に、ライたち全員が素っ頓狂な声を出してキョトンとする。

 そして四人は顔を見合わせ、昨夜、もしくは今朝見た夢の内容を思い出す。


「もしかして……レイたち……居た?」

「あ……ライも?」

「成る程……」

「えーと……」


「……?」


 鮮明には覚えていないが、大凡おおよその事は分かる。

 一人状況が分からぬエマは小首を傾げていたが、ライたちに共通する何かが寝ているうちにあったという事は理解しているようだ。

 それについて、朝食の前にライたちはエマへ軽く説明した。


「……ふむ、つまり四人が同じ夢を見ていた可能性がある……という事か。記憶が曖昧で詳しくは覚えていないらしいが、映像……ではなく声は覚えているか」


「ああ。こんな偶然があるんだな」


 夢の内容、その概要を聞いたエマは軽く笑いながら話す。信じていない訳ではなく、ライの言うようにこんな偶然があるのかと面白いから笑っているのだ。

 全ては偶然。そんなライとエマにレイが一言。


「本当に偶然なのかな……」


 勇者の剣を見、偶然ではないかもしれないと呟く。

 それに対して此方にも心当たりがあったのか、ライは頷いて返す。


「……。ああ。勇者の、お伽噺以外の過去……それが正史なら、有り得ない事じゃないとは俺も考えているよ。だって、その勇者の血縁者や魔王や神と関わりのある者たちが此処に揃っているんだからな」


 そう、自分で言った事だが、ライからしても偶然で片付けるには少し惜しいと考えているようだ。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人もライたちが偶然見ただけではないと薄々感じており、考えるようにその場で竦む。

 それから数分後、ライが言葉を発した。


「……まあ、偶然にしても偶然じゃないにしても、答えは分からないし"こんな事もあるんだな"。で済ませて良いか。朝食の準備に取り掛かろう」


「うん、そうだね。聞けば今までも夢を見ていたみたいだし、今後の夢次第で何か分かるかも」


「ふっ、そうだな。祖先の事を知れたし、勇者や神についても気になる」


「うん……」


「私からしても興味深いな。見張りをする手前、眠れないから次に見たら夢の内容を教えてくれ」


 話は此処で切り上げ、朝食の準備を行う。分からぬ事を追求するのは悪くないが、答えの無い事柄に対しては考えない方が良いだろう。

 元より少し曖昧な夢の内容。それならまた次に見る時考えても良いかもしれない。

 人間の国に来て数週間。ライたちは次の街を目指す、そして空腹を満たす為、一先ずは朝食を作るのだった。



*****



 ──"───・───"。


 支配者の街"───・───"。そこにあるゼウスの城ではゼウスに仕えるメイド、リヤンの母親の妹であるクラルテ・フロマが豪華絢爛な渡り廊下を歩いていた。

 その表情は陰鬱で、何処か優れない面持ち。通り掛かる他のメイドや執事にはニコやかな笑顔を向けるが、通り過ぎた瞬間に再び暗い表情となる。


「リヤン……どうしてこの国に来てしまったの……貴女が来たら、死んじゃうかもしれない……私は、貴女が生きていてくれるだけで良いのに……」


 そして、誰にも聞こえないよう、ボソリと小さく呟いた。

 そう、クラルテが人間の国に行く際、かつて世界を滅ぼそうとした神の子孫である事を隠す為に魔族の国の森にリヤンを置いてきた。そうしなくては酷い差別と虐待を受けるのは目に見えているからである。

 全知全能で既に全てを知っているゼウスやそれに仕える幹部達はそれなりに寛大だが、他の者達は一部を除いてそうではない。再び世界を滅ぼす危険因子が目覚めてしまうかもしれない。クラルテにはその偏見で殺された知り合いが何人も居るからだ。

 人々にとって今の神は支配者。かつての神というものは、お伽噺で知るような極悪人という印象しかないのである。


「姉の残した唯一の、姉が生きた証。リヤン、貴女こそが姉の証明……ううん、リヤンはリヤン……姉の形見じゃなくて、今を生きる確かな存在ね」


 この国、いや、この世界は光と闇がはっきりと分かれている。夜の宵闇よりも遥かにドス暗い闇と、そこそこの光。

 そんな闇に飲まれぬよう、人間の国の支配者のメイドという高い位置にいたクラルテ。この位置ならリヤンに関する何らかの情報が直ぐ手に入るからだ。

 だからこそリヤンが人間の国に入った事をゼウスから聞いた。もしリヤンが此処まで来るなら、相応の覚悟は決めている。だが、来て欲しくないという気持ちが高かった。しかし成長した姿を見たいという気持ちもあり、半々と言ったところだろう。


「考えていても仕方無いわね……あの子は強い。無事を願って、私は私の仕事をしなきゃ……!」


 グッと小さく握り拳を作り、気合いを入れ直す。少し遠いが、クラルテの知る限り唯一の血の繋がりがある姪の事は心配だ。が、今はメイドとしての職を全うとするのがクラルテの役目。

 人間の国支配者の街。今日も一日、奉仕を勤めるのだった。



*****



 ──人間の国"スィデロ・ズィミウルギア"からそれなりに離れた森の中で朝食を終えたライたちは、後片付けと身嗜みを改め、諸々の準備を済ませていた。

 既にテントも畳んでおり、焚き火も始末した。残しておくと森が火事になる可能性もあるのでその辺の抜かりはない。


「よし、準備は整えたな。三日間進んだから、そろそろ次の街が見えてきてもおかしくない筈だ」


「うん。それでも数時間は掛かるんだろうけど、今日も好調だから平気だよ!」


「ああ。森は良い。日差しも葉が隠してくれるからな。まあ、河によって反射する光がある森は御免だがな」


「既に幹部は二人倒した……が、オリュンポス十二神なら最低十二人。主力の数がそれ以上の可能性を考えれば、まだまだ序盤だな」


「うん……」


 準備は終えた。何時でも先に進める状態になっている。

 特に不安も無く、起きた時には昇り始めだった太陽も少し上に進んでいる。となるとそろそろ頃合いだろう。


「じゃあ、行くか。次の街を目指して」

「うん!」

「「ああ」」

「うん……」


 ライの言葉に返し、五人は歩き始める。

 今朝は夢の事など色々あったが、それはまだ保留だ。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は、次の街を目指して森の中を進むのだった。

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