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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第四章 科学の街“イルム・アスリー”
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七十話 戦いは続く

「あ、フォンセちゃん!」


「……! ……キュリテか。どうやらそちらも無事だったようだな……あと"ちゃん"はせ」


 舞台となっている"イルム・アスリー"にて、フォンセとキュリテは比較的近くの場所に居た為に自分たちの勝負ゲームが終わって直ぐに合流できていた。


「……まあ、それは置いておくとして……となると……相手幹部の側近……最低二人は倒せたって事か……」


「そうだねー。まあ、残る敵は……三人未満……ってところかな? 結構時間も経っているからそれなりに勝負は決まっていると思うけどねー。あと気になったんだけど、フォンセちゃん火傷してない?」


  キュリテの様子を見たフォンセが呟くように言い、その言葉に同調して話すキュリテ。

 そしてキュリテはフォンセの火傷が気になっていた。何にせよ、もう戦っている者の方が少ない筈だ。フォンセもキュリテの言葉に頷いて返す。


「だろうな。そして顔の火傷は気にするな。……まあ、ライたちの誰かがやられている可能性もある。恐らくライは問題無いだろうが、危ないとしたらレイとリヤンだな……何とかして居場所が分かれば良いんだが……」


 それは火傷は気にしないでくれという事と、ライたちが無事かという事。キュリテとは合流する事が出来たフォンセだが、敵と戦っているだろうメンバー。それも、特にリヤンが気になっていた。

 ライとエマは戦闘に慣れており、レイもある程度の場数は踏んでいる。しかし、戦った事すら無いであろうリヤンが無事か心配だったのだ。


「……あ」

「……?」


 ──とそこまで考え、フォンセの脳内に一つのアイディアがよぎる。

 キュリテは肩を揺らしたフォンセを見、キョトンとした表情で小首を傾げる。そんなキュリテの横で、一か八か試す価値はあると考えたフォンセはキュリテに言う。


「……今更だけど……キュリテの"テレパシー"って……どれくらいの範囲に届くんだ……?」


「……!」


 それは、キュリテが使える超能力の一つ──"テレパシー"が届く範囲の事である。

 "テレパシー"を使い、ライ、レイ、リヤンの場所を特定して探り当てるという事を提案するフォンセ。それを聞いたキュリテはハッとする。


「確かに……。それなら直ぐに見つけられるかも……!」


 それは良いね。と、キュリテは意気揚々として"テレパシー"を使用する。


「「……………………」」


 "テレパシー"を使うに当たって「ムムム……」と集中しするキュリテに静まり返って息を飲むフォンセ。

 フォンセのひたいから汗がこぼれ、ピチャンと地面に落ちる。


「……!!」

「……?」


 次の刹那、キュリテは目を見開いて仲間たち数人の気配を察知した。その動きに対してピクリと反応しながらキョトンとした表情のフォンセ。


「見つけたよ。大丈夫。皆無事みたい! あ、でも……」


「……? どうかしたのか?」


 そんなキュリテは明るい声で言葉を発していたが、少し濁らせて話す。

 フォンセはそんなキュリテの様子が気になり、キュリテに聞き返す。


「うん……。多分レイちゃんだろうけど、今敵と鉢合わせているみたい……。後……ライ君の思考が見つからない……」


「敵……。それは幹部の側近の方か……? 後、ライはそういう体質だから気にする必要は無い。ライが負ける訳無いからな」


 キュリテはレイが敵と戦っていると言う。フォンセはその敵を幹部ではなく、その側近と推測してキュリテへ言った。

 そしてもう一つはライの思考だけが読めないという事。恐らく魔王の所為せいだろうが、それを知らないキュリテはライも心配の様子である。


「うん……その側近の名前くらいしか知らないけど一応教えとくね。……その名前はシャバハ。軽い態度をしているけど、何か底知れないモノを感じる人……」


 やはり名前は知っていたキュリテ。しかし、フォンセはもう一つ気になる事があった。それをキュリテに尋ねる。


「シャバハ……。……なあ、"テレパシー"を使ってその者の能力ちからは何か分かっていないか……?」


 それはシャバハが持つ能力の事。

 "テレパシー"を使えるキュリテならば幹部の側近が能力を教えたがら無くても知っているとフォンセは考えたのだ。

 キュリテは首を横に振って応える。


「ううん……。幹部とその側近は悪魔でこの街……いえ、この国をまもる為に存在しているから……不本意に相手の能力を探ってはいけ無いって言う暗黙の了解ルールがあるの……」


 ──暗黙の了解ルール

 フォンセは初耳だが、その様な物があってもなんら不思議では無い。フォンセは横から口を出すような真似をせず、清聴を続けていた。そしてキュリテは言葉を続ける。


「私と戦ったチエーニちゃんと、他の人達は私の超能力を知っていたらしいけど……私を嫌っていたチエーニちゃんですら私以外の前ではそれを明かさなかった。多分他の人達が気付いていない可能性を配慮してだと思う」


「……そうか……」


 キュリテの話が終わり、フォンセは何かを考える素振りを見せる。何を考えているのか定かでは無いが、重要そうな事というのはキュリテにも窺えた。そして暫く、フォンセはその口を開く。


「……なら、そう易々と超能力を使えないな……。場所を教えてくれ。"空間移動"を使ってそこへ向かう」


「え?」


 それはレイの場所へ向かう為、キュリテの超能力では無くフォンセの魔術を使うということ。

 暗黙の了解ルールがあるのなら今までのように超能力を簡単に使えないとフォンセは考えたのだ。

 キュリテは慌ててフォンセに返す。


「いやいや、別にそこまで気にする事じゃないよ? 私が超能力を使えなかったら私の存在価値が無に等しくなっちゃうから!」


 キュリテはフォンセに気を使わせてしまったと慌てているのだ。超能力の無いキュリテの存在価値はさておき、気を使わなくても良いという事である。


「ふふ……まあ、キュリテの超能力に頼りっぱなしだったんだ。少しくらい私にも活躍させてくれないか?」


「ええ……。……でも……フォンセちゃんがそう言うなら……うん……」


 フッと笑って話すフォンセに、渋々承諾するキュリテ。

 何はともあれ、返事は貰った。フォンセは魔力も少し回復している為、早速魔術を使うとした。


 ──次の刹那、


「「…………!?」」


 フォンセとキュリテは同時にその場を飛び退いた。先程まで二人が居た場所には何かが通り過ぎ、剣で斬られたような亀裂が入る。


「敵……。……幹部やその側近では無いようだな……」


「……うん。けど、さっき"テレパシー"を使った時にあんな気配は無かった……。多分だけど……誰かが連れてきたモノだと思う……」


 跳躍して瓦礫の上に登ったフォンセとキュリテは何が攻めてきたのかとそれを一瞥する。


「馬に乗った騎士……? ……! いや、何かがおかしい……! あれは……」


「……? ……あ!」


 そして、それの様子を見たフォンセは驚愕。という程でも無いが、驚いたような表情で"それ"のおかしな点に気付く。

 フォンセの言葉にキュリテもそれを見、おかしな点にキュリテも気付いた。


「「馬と騎士の首が無い……!」」


 首の無い、馬に乗った騎士。それはもはや、生きているようには見えない。

 それはまさに、


「……首無し馬に乗った首の無い騎士……"デュラハン"か……!」



 ──"デュラハン"とは、フォンセとキュリテが言ったように、首無し馬にまたがった首無し騎士だ。


 その容姿は中世時代の騎士のような姿で、片手に手綱、腰に剣と鞭、もう片手に自分の首を持っている。


 デュラハンはその姿を見られるのを嫌い、姿を見られてしまえば首無し馬で何処までも追い掛け、鞭で姿を見た者の目を潰すと謂われる。


 そしてデュラハンという者は……実は悪戯好きな精霊なのである。

 その悪戯の内容は人の家にノックして入り、タライ一杯の血を浴びせるというモノ。


 デュラハンにとっては悪戯なのだが、デュラハンが訪れた家からは必ず死人が出るという。


 悪戯好きな姿を見られる事を嫌う精霊、それがデュラハンだ。



 そして、フォンセとキュリテはその姿を目撃してしまった。姿が見られる事を嫌うデュラハンの姿を。

 これが意味することはつまり、


「……戦わざるを得ないな……」

「……そうだね。今回のデュラハンは悪戯が目的じゃないみたいだし……」


 自分たちの勝負が終わっても、全体的な戦闘は終わらない。

 フォンセとキュリテは互いに魔力を込め、デュラハンに向き直った。



*****



 ──その刹那、轟音と共に落下した瓦礫が吹き飛んだ。思わず顔を覆うレイ。その瓦礫からは──


「さあ、第二ラウンドといきますか?」


 ──『切断された脚がくっ付いた状態』のシャバハが出てきた。


「……脚が……戻っている……」


 一歩後退り、距離を取るレイ。先程レイはシャバハの脚を確かに切断した。だがしかし、その脚を再生させたシャバハが現れたのだから当然だろう。そんなレイの反応を見たシャバハは不敵な笑みを浮かべ、軽薄な態度で話す。


「脚が戻ったくらいで驚くなよ。お前だって瀕死の重体からブンブン剣を振り回せるまで回復しているじゃねェか。まあ、俺はそれを見ていないから知らねェけどな?」


 フッフッフと笑いながら言葉を続けるシャバハ。レイはその言葉に耳を貸さず、剣を握り直してシャバハへ向ける。


「オイオイ……今更だが刃物を人に向けるってのはどうなんだ?」


「そんなの……知らないよ……!」


 大地を踏み込み、シャバハへ向けて力強く剣を振るうレイ。それによって生じ放たれた斬撃は真っ直ぐシャバハに向かって突き進む。


「まあ、勝負ゲームとあっちゃしゃーない。俺もそろそろ……能力? とやらを使いますかァ……」


 次の刹那、シャバハの周りに禍々しい渦が巻き起こった。

 その渦に吸い込まれるよう入っていった斬撃はシャバハを『すり抜けて』行く。


「……!? 斬撃が……!?」


 レイは驚愕の表情を浮かべてシャバハを見る。放った斬撃がすり抜けた。それは普通の魔族であるシャバハではあり得ない事だからだ。


「フッハッハッ! 何驚いてんだよ? 俺は、ただ単に斬撃をすり抜け『させた』だけだぜ?」


 驚愕するレイに対し、何も驚く事はしてねェだろ? と、笑うシャバハ。レイはシャバハの言葉に疑問を浮かべ、聞き返すように言う。


「斬撃を……すり抜けさせた……?」


「おっと……。ちょっと話過ぎたか……? ……まあ、良いか。それならそれでもな。ほら、大分ヒントを与えたぜ? 俺の能力がまだ分からねェのか?」


 シャバハは能力を理解していないレイを嘲笑いながら話す。

 そんなシャバハを無視し、レイは思考を高速で回転させていた。


(……能力のヒント? ……あの人が見せたものって言うなら……"誰かから話を聞いた"という証言・"脚が戻った"という再生? "攻撃をすり抜けた"という……無効化……?)


 シャバハが見せたヒントと言うのならそれら三つ。その三つを組み合わせ、確かな答えを探すレイ。そのヒントから推測できる事は、


「……アナタって……アンデッド……?」


「……お!」



 ──"アンデッド"。それは俗に言う幽霊、ゾンビ、ヴァンパイア。等と言った、死して尚生き続ける幻獣・魔物の一つ。


 誰かから聞いたと言うのは──レイには見えない"何か"。

 脚が戻ったというのは──ヴァンパイアが持つ再生能力。

 攻撃がすり抜けたというのは──幽霊や亡霊の性質。


 それらを纏めた結果、レイはシャバハが何らかのアンデッドであると推測したのだ。



 シャバハの反応を見る限り、レイの推測が当たったという訳では無いがいい線は行っているという事が分かるだろう。シャバハは再び笑い声を上げてレイに言う。


「ハッハッハ! あれだけのヒントでそこまで辿り着いたか! 褒めてやろう! だが、俺"は"アンデッドじゃない!」


「俺……"は"?」


 レイは再びシャバハの言動に疑問を覚える。俺"は"違うという事は、誰かはアンデッドと言うこと。

 その誰かは定かでは無い。しかし、シャバハに情報を与えていた誰かという事は確かな筈だ。


「まあ、三つのヒントでそこまで行ったんだ。放っておいても俺の能力を気付きそうだが……少し面倒だ。教えてやろう。俺の能力を……!」


「…………!」


 シャバハは能力を教えてくれるらしいが、恐らく教えたら直ぐにレイへ攻撃を仕掛けるつもりだろう。

 なのでレイは警戒を解かず、勇者の剣を構えたままでシャバハの言葉へ耳を貸す。


「……俺の能力は…………"死霊人卿ネクロマンサー"だ!」



 ──"死霊人卿ネクロマンサー"とは、死霊使い、死霊魔術師とも謂い、文字通り、読んで字の如く、死者の魂を扱う魔術師だ。


 死者を呼び出し、占いや死者の家族と会話をさせたり、"あの世"・"黄泉"・"冥界"・"ヘルヘイム"・"アヴァロン"から魂を連れ戻して死者蘇生を行う事も出来るという。


 そして、その魂をみずからに憑依させ、その者の能力を自分で扱う事を可能にする事も出来るらしい。


 魂を使い、あらゆる事を可能にする魔術師。それが死霊人卿ネクロマンサーだ。



「ネクロマンサー……! でも……ネクロマンサーに憑依させる力はあっても死者以外を回復させる能力は無いんじゃ……」


 そう、ネクロマンサーは悪魔で魂を操ってそれを自信の肉体か死者の肉体に憑依させる事が大部分の者。

 死者を蘇生する事は出来るが、死者以外を回復させる事は出来ないのだ。

 強い魔法・魔術じゃなければ死者を蘇らせる事は出来ないが、逆にネクロマンサーは死者しか蘇らせる事が出来ない。一概に同じ魔術といっても多種多様なのである。


「フフフ……そうだな。確かに切断された脚を再生させる事は出来ない。そもそも、死者であったとしても無くなっている部分までは回復させる事は出来ない。……だが、俺は違う!」


 バッと両手を広げ、高らかに笑いながら話すシャバハ。そしてそれに共鳴するようにシャバハを取り巻く禍々しい渦。即ち──"死霊"。


「俺のはネクロマンサー! だがそれは、普通のネクロマンサーでは無く、死霊の魂を具現化する事が出来る!」


「魂を……具現化……?」


 "魂の具現化"。シャバハはそれが出来るという。

 具現化とは形に現すという事。つまりシャバハは、普通触れる事が出来ない霊体に触れる事が出来るらしい。しかし、それをどう使って傷を治したのか疑問に思うところである。


「そんな事で傷を治すなんて……「出来る。俺にはな」……!」


 レイの言葉に被せるシャバハ。レイは突然の言葉に驚くが、シャバハは気にする事無く言葉を続ける。


「何も魂を全て具現化する必要は無い。ぶっちゃけその方が面倒だ。俺は魂の欠片を具現化し、傷口にそれをめて傷を埋める。傷に触れている状態で具現化した魂は綺麗にまってな……身長、体重を変える事無く傷を埋めてくれる。まあ、ある種の憑依術だな」


 理解が難しい出鱈目デタラメな説明をするシャバハ。

 にわかには信じ難いレイだが、今目の前で起こっている事は事実である。催眠術か何かかも知れないが、催眠術にしてはハッキリとし過ぎている。

 つまりシャバハが行っている事は、紛れもなく現実に起こっている事なのだ。


「長い説明になっちまった。……まあ、それはどうでも良い。……さあ、死霊人卿ネクロマンサーによる幽霊ゴースト興行ショーを楽しんで貰おうか!」


「…………」


 ゴオォォと、黒い風が通り過ぎる。死霊と魂が織り成す、冷たい霊魂のカーテン。

 今、レイvsシャバハの対決が再び始まろうとしていた。

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