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七百八話 ライvs鍛冶の神

 少し再生させた場所から移動したライたちは、ライたち五人とヘパイストスが向き合う形でひらけた場所に立っていた。

 軽く身体を動かして状態を確認し、ライが一人前に出る。話し合いなどは此処に来る途中行い、結果として言い出したライが相手をするという形になった。当然と言えば当然である。


「それで、一人で参加する以外に他のルールとかはないのか? 人数制限以外無ければ俺が有利だけど」


「自信があるようだな。その問いに答えるならYESだ。あくまで恩義を返す為の勝負。あれこれ指示を出すのも無粋だろう」


「そうか。分かりやすくて良いや」


 特にルールなどもない。なので互いに構えたら後は始めるだけである。

 ライは魔王の力を纏わずに構え、ヘパイストスは何処からか槍を取り出して構える。


「槍……いつの間に取り出したんだ? まあいいけど」


「さて、何処からでも来るが良い。それか、私から向かうか?」


「じゃあ同時に行こうか」

「心得た」


 ──刹那、瓦礫の山が包む大地を踏み砕き、ライとヘパイストスが一気に肉迫した。

 それと同時にライは拳を放ち、それをヘパイストスが槍で受け止める。


「……ッ!」

「そらっ!」


 それを受け、槍は折れなかったが予想以上に重かったのかヘパイストスが後退る。ライはそこに回し蹴りを放ち、ヘパイストスの身体を瓦礫の方に吹き飛ばした。

 飛ばされてそのまま瓦礫を崩し、辺りに砂塵を舞い上げる。その砂塵の中から複数の弾丸が放たれた。


「また何時の間に……」


 音速を超える複数の弾丸をその場で身体を反らしてかわし、ヘパイストスの能力を考える。

 しかし思考の間を与えず、今度は剣を片手に握り締めたヘパイストスがライに向けて斬り掛かった。


「ハァッ……!」

「っと……!」


 その剣を足で受け止め、そのまま足で弾く。

 今までけしかけられた物は槍に弾丸に剣。そしてヘパイストスは鍛冶と炎を司る神。本物ではなくとも、今はこのヘパイストスが本物。能力を受け継いだのは確かだろう。

 それらの事柄を合わせた結果、ライは明確にヘパイストスの能力を理解した。


「成る程な。アンタは鍛冶の神……魔力の気配とかは感じなかったからよくは分からないけど──武器を創造する能力だな?」


「さあ、どうだろうな」


 ヘパイストスが剣を振り抜き、ライはバク転でそれをかわす。

 今までの攻撃などを照らし合わせる事で至った結論。それは近距離遠距離問わず、ありとあらゆる武器をその場で創造する能力と考えた。

 当然、ヘパイストスは自分の力を明かす性格ではないので答えなかったが、大凡おおよその推測は当たっているだろう。魔法や魔術とは違うので、純粋な人間の神としての力と考えるのが最も合理的かもしれない。

 返答しなかったヘパイストスは剣を放り、一瞬にして槍へと持ち替えてライにけしかける。


「ハッ……!」

「おっと」


 持ち替えた瞬間に放たれた突きを跳躍で躱し、槍の柄に足を掛けて立つ。

 ヘパイストスは槍を振り上げてライを払い、空中に飛ばされて自由が利かなくなったのを見計らい、落下するライ目掛けてより鋭い突きを打ち付けた。


「そう簡単に食らうかよ……!」

「フム、空中で移動したか」


 当然、それを容易く受ける程(ヤワ)なライではない。空中落下の途中に音速を超えた速度で空気を蹴り抜き、無理矢理方向転換して避けた。その後で着地して食らわないと告げる。

 魔術を使っても良かったが、呪文を言い終えるまで少し時間が掛かる。なので無言で済む空中を蹴るという手段に出たのだ。


「だが、まだまだ攻撃の手は止めぬぞ」


 一瞬でライの落下地点に目を付けたヘパイストスが蛇腹状の剣を取り出し、鞭のように払って斬り付ける。

 刹那、縦横無尽、軌道の読めない剣がライを狙う。無数の刃が周囲を切り裂き、瓦礫が切断される。それを全て見切りながらかわすライは蛇のように動き回る剣を見て言葉を発した。


「蛇腹剣……珍しい武器だな。上手く操れなければ反動で自分が傷付くのに、ちゃんと狙いを付けて的確な一撃を放っている」


 蛇腹剣。前述したように鞭のような剣であり、剣にしては遠距離まで届かせる事の出来る武器だ。

 その利点は読みにくい軌道とリーチ。驚異的な身体能力と未来予知染みた反射神経を持つライは何とか躱せているが、常人は一瞬にしてバラバラになってしまうだろう。

 しかし蛇腹剣は操るにも相当の技術力が要る操作難易度の高い武器。それを手足のように動かせるヘパイストスは、本人は謙遜しているがかなりの実力の持ち主なのは間違いなかった。


「全て避けるか。何とも優れた反射神経と身体能力を持っている。このやり方ではまともな一撃を与えるのに時間が掛かりそうだ」


「……!」


 蛇腹剣を仕舞い、刹那に取り出した大鎚がライの頭上から振り下ろされる。次の瞬間にはライの立っていた場所から大きく大地が陥没し、地震のような振動が引き起こされて周りの瓦礫が消し飛び粉塵がまい上る。

 そして大鎚の下からは、金属の木殺し面。つまり大鎚の平らな部分を片手に押さえ、足元から陥没しているが無傷のライが姿を現した。


「斬撃・銃撃・打撃。全部の武器を造れるみたいだな。流石に伝承に出てくるような武器類は工房で精魂込めて造らなきゃならないんだろうけど、基本的な武器は全てが創造可能か……!」


「さあ、それも分からぬな。恩義はあるが教える義理はない。さて、次だ」


 大鎚を構え直し片手で担ぐヘパイストス。

 数十tはありそうな大鎚を軽々と振り回せるのは流石だが、やろうと思えばライにも出来る。事実、先程は大鎚の一撃を確実に抑え込んだ。なので然程さほど危険視はしていない様子だ。

 だが、油断しているという訳ではない。様々な武器を使える以上、対魔族用の武器も出てくるかもしれない。警戒は緩めていなかった。


「お前が警戒している、魔族用の弾丸を使うとしよう」


「……っ」


 その警戒は即座に必要となった。

 ライたちの情報は伝えられている。なのでライが人間ではなく魔族である事も知られているのだ。

 幹部クラスは基本的に平等主義者なので差別はしないが、街の住人は違うかもしれない。この場には人も少ないのでヘパイストスが今言った言葉は届いていないのだろうが、行動のしやすさ云々を考えて肝が冷える言葉だった。

 しかしその言葉を気にしている暇はない。またもや何処からか武器、次は機関銃を取り出し、全てに魔族用の弾丸を込めて一気に乱射した。


「……っと! ……ッ!」


 弾丸を込めたのは取り出した瞬間。つまり始めから入っている状態だった。幾千万を超える数の音速を超えた弾丸は、流石のライもさばき切れず幾つか受けてしまった。

 肉体的な特殊能力で物理的な攻撃の効きにくいライでも、対魔族用の弾は辛いものがあるのだろう。それが原因で避ける以外に防ぐ術が乏しいのも問題だ。

 そもそもどんな物質が魔族にとって危険なのか分からないが、兎に角避け切るのは至難の技である。


「今のところ私が優勢みたいだな……と言いたいが、私も数撃食らっている。しかし五分五分とも言い難い現在。難しいところだ」


「ハッ、そうかよ……!」


 機関銃を連射しつつ、現在の優位を呟くヘパイストス。しかし一概に優勢とも言えないので悩んでいた。

 だがそんな事はライに関係無い。加えてその場で避け続けるのも無意味だろう。ライは返しつつ弾丸の軌道を見切って避け、一気に加速してヘパイストスに肉迫した。


「当然弾丸よりは速いか。色々と便利な科学技術のもこう簡単に抜けられると落ち込むものだ」


「ハッ。俺にダメージを与えられたんだ。その辺は誇って良いんじゃないか?」


「傷一つ無くて何がダメージだ。多少の痛みはあれど、ピンピンしてるじゃないか」


 ヘパイストスに迫って蹴りを放つライと、その蹴りを見切ってかわすヘパイストス。躱した瞬間に機関銃を消し去って剣を取り出し、そのまま横に薙いでけしかける。

 だがその斬撃をライはしゃがんで避け、跳躍と同時に蹴りを放ってヘパイストスの顎を打ち抜いた。


「……ッ!」

「そこっ!」


 刹那に体勢を変え、回し蹴りを放つ。その回し蹴りを脇腹に受けたヘパイストスは吐血して吹き飛び、再び瓦礫の山を崩す勢いで突っ込んだ。


「そらよっと!」


 そこへ畳み掛けるようライが近くの瓦礫を投石し、超高速の弾丸と化した瓦礫が更に瓦礫を破壊する。それによって生じた砂塵から飛び出したヘパイストスが片手に蛇腹剣を持ち、鞭のように打ち斬り付けたが、ライはその斬撃を即座にかわして空を切った斬撃がそのまま足元の大地を切り刻んだ。


「当たらぬか、なら……!」

「……!」


 周囲に刃を散りばめらせ、ライの周りに蛇腹剣の刃が落ちる。ピクリとも動かなくなった次の瞬間、腕を引いたヘパイストスによって蛇腹剣がライの身体を拘束した。

 本来なら拘束と同時にその肉体は切り刻まれるが、ライは刃が通りにくい体質。ただ拘束されるだけだった。

 しかし締め付ける力は強く、ヘパイストスが造り出した事もあってライの腕力を持ってしても中々千切れない強度を誇っていた。その気になれば簡単ではないにせよ千切れるが、今のライは魔王の三、四割に匹敵する力を使っている。拘束されたのは不本意だったが、それならばと、どの範囲の力でなら千切れないのかという事を確かめた実験も兼ねていた。


「中々頑丈な剣だな。素材は鉄よりも硬くて、金剛石ダイヤモンドよりも頑丈だ。まあ金剛石ダイヤなら加工が難しくて斬撃に強いだけで常人でも割れるけど」


「そうだな。一応神をやっているから、地上にある物質よりも強度な物は造り出せる。だが、お前もどうせ簡単に抜け出せるのだろ?」


「そうだな。とは言い切れないな。確かに抜け出せるけど、簡単じゃない」


 そう言い、ライの知らぬ物質からなる蛇腹剣を引き千切って脱出した。

 少なくとも鋼鉄や金剛石よりは頑丈な蛇腹剣やその他武器の素材。この様な物をその場で生み出せるヘパイストスに果たして鍛冶場が必要なのか疑問に思うところである。


「抜け出したか。だが、二手三手先の行動も考えている」


 ──刹那、ライの足元。つまり土の下から無数の槍や剣に針。左右からヘパイストスが持つ別の蛇腹剣。加えて至るところから撃ち出された銃弾など、その他の様々な武器類が飛び出してきた。

 元々カウンターを中心としたやり方で攻める慎重かつ抜け目無いヘパイストス。なにも考えず悠長に話していた訳ではなく、次の策を講じていたようだ。

 足元や左右から迫り来る武器類。それを見たライは不敵に笑い、


「ああ、知っている」


 全ての障害を正面から打ち砕いた。

 足元の剣や槍は踏み砕き、左右から来る蛇腹剣を引き千切り、銃弾を拳の風圧で消し飛ばす。

 魔王の力を纏わずとも、いや寧ろ魔王の力ではなくライの力だからこそ迫り来るそれらを正面から粉砕出来ていた。


「やはり特異体質のようだな。魔王の力で魔法や魔術、その他全ての異能を無効化出来るのは報告にあったが、拳や足のような物理的攻撃から剣や銃のような兵器も無効化出来るみたいだ。毒とかはどうだ?」


 ライの力を見やり、そのより深い部分を考察するヘパイストス。

 能力なので言わない方が良いかもしれないが、ヘパイストスが乗り気では無かったこの戦闘。そを受けてくれた礼も兼ねてライは一応答える事にした。


「分からないな。旅立った当初は多分無理だった。けど、今の俺なら毒とかのような物質も多分無効に出来る。旅の途中で出会ったヒュドラーの毒とかも、直接受けた訳じゃないけど何とか出来たしな。まあ、風圧で飛ばした感じだから飛沫くらいの微量な毒かな」


「成る程。しかし神をも殺すヒュドラーの毒の近くに居ても大丈夫だったとなれば、相応の耐性は持っている訳か。油断ならぬ相手だ」


 ヒュドラーの毒。直接触れずに風圧などで吹き飛ばしたが、近くで受けたのは事実。なのでヘパイストスはライの耐性が豪語するだけのものがあると理解した。

 理解すると同時に剣を取り出し、言葉を続ける。


「なら毒攻撃も意味が無さそうだ。対魔族用の鉄で加工した剣を使うとしよう」


「そんなものまであるのかよ……。いや、まあ対魔族用の銃弾があるならそういう技術があってもおかしくないけどな」


 次に取り出したのは対魔族用の剣。対魔族用の弾丸もあったのでそこまで気にはしない。武器と一概に言っても様々なものがあると分かったライは肩を落として構え直した。

 ライとヘパイストスの戦闘。一対一のこの戦いは、そう長くは続かないだろう。

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