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七百七話 戦闘直後の小競り合い

 ──"スィデロ・ズィミウルギア・近隣の山"。


 ライたちから離れたヴァイス達は、ロキと共に山岳地帯に居た。と言うのも、ライの放った拳の衝撃を逃れてロキを連れてきたのだ。

 だが拘束しているという訳でもなく、ロキは自由体のままだった。


『私を連れるとは。無礼にも程があるな。一体どういう用件だ? 返答次第ではこの場で一戦交えるのもいとわぬぞ』


 ヴァイス達に半ば無理矢理連れて来られたロキ。見ての通り不機嫌な様子だった。

 それもそうだろう。自身のブランクを解消する為に始めた戦い。元々は攻め込んでいたヴァイス達に便乗する形だったが、邪魔をされるというのは本人からしても不服のようである。

 しかしそんなロキの言葉にヴァイスは、相変わらず淡々とした面持ちと言葉で返す。


「フフ、すまないね。ライ達の目がある以上、こうする他方法が思い付かなかったンだ。まあ、別にあの場で話しても良かったのだけれど、ゆっくりと話し合いたい気分だったからね」


『話し合いたい? フン、下らぬな。そんな面倒な事をせず、さっさと焼き消してくれよう……!』


 ヴァイスの意見には耳を貸さず、身体を炎に変換させて展開させる。

 それを見たグラオ、シュヴァルツ、ゾフルの三人は心無しか楽しそうにしていたが、ヴァイスが片手で制して言葉を続ける。


「まあ落ち着いてくれよ。私たちは、一応戦うつもりはないンだ。三人は元々好戦的なだけ。そうだね。これ以上焦らして言わないのも互いの関係を余計にこじらせるだけ。単刀直入に言おう。──ロキ。私たちと共に来ないか?」


『……!』


 ロキの勧誘。それがヴァイスの、ヴァイス達の狙いだった。

 それを言われたロキはピクリと反応を示して黙り込む。ロキが話すのを止めた様子を確認したヴァイスは更に続ける。


「どうやら君は特に目的もなく彷徨さまよっているだけのようだ。君の性格から本来の力を取り戻したら気儘きままな旅でも続けそうだけど、今のままだと取り戻すまで時間が掛かるだろう。だから、私たちと共に旅をし、世界中の街を使って君のブランクを解消させる。そしてこの世界からあの世、異世界。この世をより良い世界にしようじゃないか」


『……。長々と語ったが、要するに私を引き入れて共に世界を収めようという事か。お前の目的とは少し差違点があるかもしれないが、大凡おおよそはそんなところだろう』


「ああ、そうなるね。嘘吐きの君なら私の言葉が嘘じゃないという事も分かっているだろう?」


 ヴァイスの勧誘へ、要点だけ纏めて返すロキ。

 確かに少し差違点はあるが、ほとんど合っているとヴァイスは肯定して返答した。

 ヴァイスが始めた選別は、ヴァイスにとっての無能が蔓延はびこるこの世の中を変える為の行動。なのでロキは選別に合格したのだろう。

 全て本気の勧誘であるヴァイスは、ロキの返答を待つ。


『……。成る程、確かにお互いに利点があるな。お前達は自分の目的を遂げられ、私は力を取り戻せる』


 先ず放たれた言葉。中々に好感触のようで、ロキは更に続けた。


『良し、その案に乗ろう』



 ──刹那、展開した炎をヴァイス達六人に向けて放出した。



 放たれた炎は見る見るうちに燃え広がり、一瞬にして山を焼き尽くす大火事を引き起こした。

 真っ赤な焔が揺らめき、全体を包んだ炎。その炎の一つが人の形となり、言葉を発する。


『そう簡単にYESとは言えないな。共に旅をするという事はつまり、拘束されるという事。基本的な自由が保証されたとしても誰かに仕える時点で私の思うようには動けなくなる。違うか?』


「うン。そう言う解釈も出来るね。けど、具体的にやる事の見つからない完全な自由よりは誰かと共に行動を起こした方が良いと私は考えているよ。指示を出される方は身体を動かす事になるから苦労するように思われるけど、指示を出す方も具体的にやる事を提案しなければならないから大変なンだ」


 炎となったロキと、燃え盛る轟炎の中で言葉を紡ぐヴァイス。

 どうやらロキは誰かの指示に従った行動を起こす事が気に食わないらしい。しかしやる事を示される方が楽であるとヴァイスは返す。

 因みにグラオ、シュヴァルツ、マギア、ゾフル、ハリーフの五人も自分の周囲だけは開けさせており、ダメージなく行動出来ていた。


『楽や楽じゃないの問題ではない。私は誰かに従うのが嫌なだけだ。他人が好む者は否定したくなる性格なのでな。大多数が肯定しても私はそれを阻み続ける』


「それも自由さ。そもそも、指示に従うのが好きな者が大半を占めている訳ではないだろう。私は無能が収める世界が気に入らないだけだからね。支配者や幹部、一部の王族貴族は優秀だから当然残す。特定の者を縛るつもりはない。寧ろ、私の行動を否定する者の方が多い。より良い世界にしようと考えているのに世知辛い世の中だ」


 誰にも従いたく無い、そして肯定を否定したい性格のロキと自分のやる事を他の者達に否定されて肩を落とすヴァイス。

 こうして見れば互いの利害は一致しているが、イマイチ噛み合わない。二人の性格からして当然と言えば当然だが、難しいものである。


『まあどちらにせよ、私はお前達と共に行動する気はない。此処でお前達を討ち仕留めて力を高める方が有意義な時間となる』


「やれやれ。交渉は無駄か。それならそれでいい。ライ達や他の幹部や側近達と同等、力尽くで選別をしよう」


『フッ、来るが良い。先程の戦闘では存分に戦えなかったからな……!』


 交渉決裂。それは=力尽くに繋がる。

 その言葉に乗り気で返すロキと喜色の表情に変わるグラオ、シュヴァルツ、ゾフル。グラオ達も物足りなかったらしく、ロキがその気になるのを望んでいたようだ。

 ライたちから離れたヴァイス達とロキ。彼らの戦いがひっそりと始まろうとしていた。



*****



 ──"スィデロ・ズィミウルギア・跡地"。


 ヴァイス達との戦闘によって幹部の街"スィデロ・ズィミウルギア"が壊滅していた。

 現在、そんな悲惨な目に遭った街では瓦礫の撤去作業と復興作業が行われている。

 ヴァイス達が消えた事で住人がさらわれている可能性を懸念していたが、どうやらその心配はなかった。迅速な避難もあり、サイクロプスを含めて街の住人達は全員が無事のようだ。

 だが、科学などの技術が中心に発展したこの街。街その物が崩壊している現状、一つ一つの作業が少しばかり大変そうである。


「"創造クリエイション"」

「えい……」


 なので街の復興作業はライたちも手伝っていた。

 フォンセやリヤンは一見簡単そうに魔術をもちいて建物を造っているが、本来なら魔法や魔術で建物を形成するのも並みの魔法使いや魔術師ではかなり大変な事。建物の創造魔法や創造魔術は側近以上の実力があって初めて上手くいく力であり、例え魔法・魔術が発展した街でも一筋縄ではいかない。

 ヴァイス達が来た原因でもあるのでそうとは思えないが、この場にフォンセたちが居合わせたのは不幸中の幸いというものである。最も、ライたちが来なければより戦力の揃った状態で後々攻めて来ていたのだろうが。

 因みに魔法・魔術を得意としないライやそもそも魔法・魔術を使えないレイ、エマの三人は自力で瓦礫の撤去作業をおこなっている。力仕事は得意なので楽に指定場所に運べるようだ。


「……。一ついいか?」

「うん? 別に良いけど、早く街を回復しなきゃならないから手短にな」


 そして、そんなライたちに訊ねるヘパイストス。ライたちは作業を一時的に中断してヘパイストスの言葉に耳を貸した。

 許可を得たヘパイストスは言葉を続ける。


「何故手伝う? お前達は侵略者だ。街を早く再生し、恩を売る事で私と戦おうと考えているのなら乗らないぞ。感謝はすれど、それとこれの話は別だからな」


 ヘパイストスの懸念。それは街を直す事でライたちが勝負を挑むのでは無いだろうかという事。

 確かに侵略者であるライたちがこの様な行動に出たら怪しまれるのも頷ける。だが、ライは呆気からんと言葉を綴った。


「だって、困っている人が居たら助けるのは当たり前じゃないか。当たり前の事に恩を着せて征服しようとする侵略と俺の考える侵略は別だからな」


「……!」


 当たり前。ライにとってはそう考えているようだ。

 別段正義の味方という訳では無く、嘘を吐く事もある。相手の嘘も時折肯定する。肯定した上で正面から叩き潰す。そんな侵略者のライだが、自分で街の破壊を呼び起こして再生させ、恩を着せるというやり方をするつもりはない。何故なら、それは力に物を言わせた侵略と同義だからだ。


「なら、お前達に利点が無いではないか。魔力や体力を消費してまで街を再生させ、別の方法で私と勝負をしようと言うのか。理解出来ぬ」


 だがそのやり方を理解するのが難しい様子のヘパイストス。確かに利点は少ないだろう。

 多方面から感謝されるという利点はあるが、征服を実行したらその評価が真逆になる可能性は大いにある。なのに街を再生させるのは矛盾しているだろう。

 それに対して、ライは笑って返した。


「ハハ。利点の有無は関係無いさ。仮に俺が征服した場合、征服を終えた街が残っていなければ意味がないからな。どうしても何かの行動に利点が必要というなら、住人の住める街が残っているのが利点だ」


「……」


 復興の利点。それは評価などではなく、街が有るか無いか。

 世界征服を目論む手前、世間から良い評価はされないだろう。お伽噺の悪役が高確率で世界を狙うように、かつての魔王の所業もあり世界を手中に収めるというのは悪い印象が強く反映されているこの世界。なのでライの目論見がおおやけになった時点で評価は下がるのが普通だ。

 にもかかわらず復興作業を行うライたちに向け、ヘパイストスは口を開く。


「成る程。見返りは求めないか。その心意気は素直に称賛に値出来る。が、先程も言ったようにそれと勝負は別物だ。……しかし、私たちの立場としても恩義はある。見返りを求めずとも、恩義を返す義務はあるだろう。武器や金銭を授けるつもりだが、それらを受け取らない場合……条件付きなら勝負を受けてやらぬ事も無い」


「条件?」


 あくまで勝負をするつもりは無いが、幹部としても礼はしたい。なので武器か金銭をくれるらしい。

 しかし何やら条件を付けた状態なら勝負も受け入れるとの事。ただ、条件を付けて勝負を挑むのは街を助けられた身では上から出る事も出来ない。なので判断をライたちに委ねるらしい。

 流石は幹部と言うべきだろうか。恩を返す故に上からは申さず、相手の好みで礼を出来る。抜かりないやり方だ。

 そんな、ライが気になる条件をヘパイストスは頷いて説明する。


「ああ。と言っても礼をすると言う大前提がある以上、それ程厳しい条件は与えない。勝負を受けると言ったが、要するにお前達の誰か一人と私のみで戦うという事だ。戦闘はあまり得意ではないが、"スィデロ・ズィミウルギア"の街全体ではなくまだ余裕のある私のみが戦おう」


「成る程な」


 条件は一対一の戦闘。街がこの有り様なのでゲームなどを用意する事も出来ず、純粋な決闘のみとなった。

 それならライからすれば願ってもいない事。納得しつつ頷いて返す。


「じゃあそれで良い。一番手っ取り早くてこれ以上にない条件だからな。金銭や武器には今のところ困っていない。その条件を受けるよ」


「心得た。ならば着いて来い。街は崩壊しているが、お前達が再生させた此処を荒らす訳にもいかないだろう。瓦礫の山はまだまだある。そこで戦うとしよう」


 ライからすれば、その方が都合が良い。なので断る理由はなかった。

 それならばとヘパイストスは一旦その場を離れ、ライたちを広い場所に連れ出す。本人は乗り気では無かったが、礼と言う建前の元、条件付きでライたちとヘパイストスの戦闘が始まろうとしていた。

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