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七百五話 十三人の乱戦

「君との戦いは有意義な時間になると思う。けれど、もう少し役者を増やすとしようか」


『『『…………』』』


 続く戦闘が再開された瞬間、ヘパイストスの前に立つヴァイスは生物兵器の兵士達を何処からか出現させた。

 ヴァイスの言う有意義なという言葉は自分にとってという意味が含まれているが、生物兵器をけしかける事でより強い力を見ようとでも考えているのだろう。


「役者か。役者というよりただの操り人形。ただの傀儡だな。そんな傀儡に成り果てた者など私の相手にはならないぞ」


「酷い言い方をするじゃないか。この者達も元々は人間だったんだけどね。選別して使い道が無いって判断した人間を使い道のあるように改造した生物兵器。都合の良い存在をぞんざいに扱わないでくれ」


「その口振りからしてもぞんざいに扱っているのはお前の方だと思うがな」


 槍を振り回し、現れた生物兵器を振り払った後でヴァイスを突く。

 ヴァイスはその槍を避け、槍の柄を掴んで持ち上げ、ヘパイストスの身体を遠方に投げ飛ばした。しかしヘパイストスは空中で堪え、槍を地面に刺して勢いを止める。刹那にヴァイスが"テレポート"で背後から現れ、手刀を振り下ろした。


「ぐっ……!」

「怒りというものは良い。街を破壊されて憤慨したからこそ、先程の君よりも大きな隙が生まれている」


 通常なら首が飛ぶ程の手刀を受け、胴体と繋がっているままだが勢いに押されてヘパイストスの身体が吹き飛んだ。

 瓦礫の山と化した"スィデロ・ズィミウルギア"の街中を進み、一際大きな山に衝突して停止した。しかし即座に詰め寄り、ヴァイスを槍で突いた。が、それを避けられる。互いに顔が近付き、刹那に槍といつの間にか取り出していた如意金箍棒にょいきんこぼうが衝突して周りを大きく揺らす。


「やあ!」

「ハッ!」


 そして少しだけ離れた別の場所ではレイが勇者の剣を振るい、シュヴァルツが破壊魔術でそれを受けていた。

 様々な力を相応の力で受け流せる勇者の剣はシュヴァルツの破壊魔術をも切り裂き、左右に裂けた破壊魔術で空間が砕け散る。

 砕けた破壊のエネルギーは無視し、シュヴァルツに肉迫して切り伏せ、それを破壊の力で押さえたシュヴァルツが破壊を纏わぬ蹴りを放つ。


「……っ!」

「受けたか、よォ!」


 その蹴りを剣の腹で受けたレイは重い衝撃に押されて少し下がり、刹那に放たれた回し蹴りを掠る。通り抜けた空気と素の力による余波がレイの頭を少し切ったが問題無い。再び剣を振るってシュヴァルツを狙い、ギリギリでかわしたの頬を掠めて傷付けた。


「雷雲よ……! 感電させろ!」

「"サンダー"!」

「やあ……!」


「なら私も、"サンダー"!」

「ハッ、俺はそもそもが雷撃だぜ!」

「私だけ邪険にされている気分ですね。"槍の雨(ハルバ・マタル)"!」


 その一方で、エマ、フォンセ、リヤンとマギア、ゾフル、ハリーフの戦闘も続いていた。

 エマの呼び寄せたいかづちが降り注ぎ、フォンセとリヤン、マギアの雷魔術が周囲を閃光で埋め尽くす。雷にもなれるゾフルは片手を放ち、雷魔術は使えないハリーフがせめて近いものをと槍の雨を降らせた。

 此処は六人だけで戦っているようにも思えるが、近くのライ、グラオ、ロキも隙さえあれば自分の敵を狙うつもりである。要するに今は、安全な場所など何処にも存在していない状況だった。


各々(おのおの)で始めてしまっているか。だが、私は纏めて相手をすると言ったぞ』


 周りの様子を眺めたロキは更なる業火を生み出し、瓦礫ごと全てを焼き払う。

 周囲の温度は瞬く間に上昇し、一瞬にして数百度に達する。常人なら立つ事も難しくなる程の温度だが、ライたちにとっては問題無い。

 特に地獄の経験のあるライやゾフル、ハリーフは何ともないだろう。元より全員に影響は薄いのだが。


「なら、俺はそれに答えてやるよ」

「僕もね」


 炎の幕を突き抜け、ライとグラオがロキに迫る。無論、二人はお互いも敵と認識している。故に隙さえあれば相手を狙う事だろう。

 だが、一番手っ取り早いのは自分の敵を全て纏めて打ち倒す事であるとライ、グラオ、ロキの三人は全員が理解している事だった。


「アンタらを纏めて打ち倒す!」

「同じく!」

『フッ……周りで戦う者達も巻き添えだ……!』


 ヴァイス、ヘパイストス。レイ、シュヴァルツ。そしてエマ、フォンセ、リヤンにマギア、ゾフル、ハリーフ。その者たちを全員巻き込まんとばかりのロキは先程よりも更に巨大で灼熱の炎を放ち、ライとグラオが拳で互いとロキを狙った。

 それによって生じた世界を揺るがす衝撃が崩壊した"スィデロ・ズィミウルギア"の街を飲み込み、近くにあった山々と上空にあった雲を全て吹き飛ばす。


「見境無しか。まあ構わない。今の私ならこれくらいの余波は簡単に受け止められる」

「……っ。とてつもないエネルギーだ……!」


「本気ではないとは言え、やはりライと互角か。本人も本気でない事を考えると厄介な存在だな。グラオ・カオス」

「ああ。面倒なものだな、こうも強敵が集まるとは」

「……っ!」


「あらら。凄い風圧と衝撃。まだ選別は終わっていないけど、街の皆は無事かなぁ」

「気にしても仕方ねェだろ。死んだらその程度の雑魚だったー事だからな。元より選別で合格にゃ選ばれねェよ」

「そうですね。これくらいで死ぬのならその程度の存在です」


 主力三人のぶつかり合いで響き渡った衝撃を受け、戦闘を中断して耐える者たち。と言ってもほぼ全員が余裕を持って耐えている。

 あくまで粉塵と風圧で遮断された視界情報や今の一撃で広がった強過ぎる気配をやり過ごす為に耐えているのだろう。


『フフ、私を楽しませてみよ。このくらいじゃブランク解消にならぬ。折角これ程の役者が揃っているというのに、各々(おのおの)が自分の定めた敵とだけ戦うのは味気が無いだろう』


「一理あるね。ライの仲間達やヘパイストスとは僕も戦いたい」


「俺は別にそう思わないけどな。アンタらと戦ったとしても、俺の目的には関係無いからな。ただ単に、その目的を邪魔する障害を排除している作業に過ぎない」


 力を試す為に楽しみたいロキと楽しむグラオ。そして人間の国の幹部以外には興味を持たないライ。

 成り行きでグラオやロキと戦う事にはなっているが、ライは何とかしてヘパイストスを自分の目的遂行の為に言いくるめたいと考えている。

 つまり今のライは自分の目的の為に、グラオやロキのように邪魔な存在を退かしているだけだった。


「先ずはロキを倒す事が先決かな……!」

「オイオイ、俺は無視するのか?」


 衝撃が収まったのを見計らい、レイは先ずライの手伝いをする為に勇者の剣を握り締めて駆け出し、戦闘の途中で中断されるのを良く思わないシュヴァルツがそれを追う形となる。

 背後から足止めの為に放たれる破壊魔術を剣でいなし、近くにまで寄ったところで斬撃を放つ。


『っと、この斬撃は危険だ』

「自分の身が危ない時は正直に言うんだな」

「ハハハ。僕もまともに受けたらダメージを負いそうだ」


 狙われたロキとグラオは斬撃をかわし、その隙を突いてライがロキに回し蹴りを打ち込む。それをロキは身体を炎に変え、自身を分断して避け、下方のレイに灼熱の業火を放出する。


「今……!」

「"破壊ブレイク"! ……なにっ?」


 その炎を正面に捉え、体勢を低くして横に飛び退くよう駆け抜ける。その背後からはシュヴァルツが来ており、そのシュヴァルツのレイを狙った破壊魔術によって炎は砕かれた。

 元々レイの力だけでも切断出来る炎だが、レイの狙いはシュヴァルツの視界を奪う事。故に右から回り込んでシュヴァルツの身体を捉えた。


「やあ!」

「チッ……!」


 舌打ちして何とか身を翻すシュヴァルツだが勇者の剣が掠る。そこから天叢雲剣あまのむらくものつるぎで斬り込み、シュヴァルツを更に追撃する。

 予想外の攻撃をギリギリでかわした事によって思わず足を取られたシュヴァルツが体勢を崩す。その隙を突き、レイは勇者の剣を振るうった。


「はあ!」

「……ッ! "破壊ブレイク"!」


 その剣が迫ったシュヴァルツは剣ではなく地面に破壊魔術を使い、大地を砕いて陥没させる。それによって少し身体が低くなり、剣の直撃は避ける。

 だが確かな手応えはあり、シュヴァルツは肩を負傷していた。


『……ッ!』

「え!?」


 そしてシュヴァルツの相手をしている時、上から物凄い勢いでロキが降ってきた。おそらくライかグラオがロキの身体を吹き飛ばしたのだろう。

 その疑問に答えるよう、上から今度はライとグラオの二人が落ちてくる。


「レイ。大丈夫か?」

「あ、うん。平気。ライは?」

「ああ。俺も問題無い」


 レイの前に立ち、グラオとロキから遠避けるように構えるライ。

 レイの無事を確認した後でレイに聞かれた質問へ返答し、この場にライ、レイ、グラオ、シュヴァルツ、ロキの六人が揃った。六人にとって目の前の三、四人は敵。なので何時でも動けるよう臨戦態勢に入る。


「シュヴァルツ。やられちゃったの?」


「ハッ、んな訳ねェだろ。ちょっとダメージを負っただけだ。そう言うテメェも落とされてんじゃねェかよ?」


「ハハ。互いの拳が重いからね。一撃一撃がダメージが少なくても身体は流れに逆らえないんだ。見たところ、と言うか知っての通り、あの剣には特別な力が宿っている。よくまあ、この程度の傷で済んだよ」


「何度かは戦っているからな」


 臨戦態勢に入りつつ、軽く揶揄からかうように話すグラオと返すシュヴァルツ。

 ライとレイにとってグラオとシュヴァルツ、ロキが強敵であるように、二人にとっても同じ。なのである程度やられるのは仕方無いと考えているようだ。

 戦闘好きの二人だからこそ、幾らかのダメージは想定の範囲内である。


「ハァ!」

「"土の槌(ランド・ハンマー)"!」

「やあ……!」


「"土の守り(ランド・ガード)"♪」

「そらよっと!」

「"無数の槍アダド・ラー・ニハイィ・ハルバ"!」


 そこに、別の場所で戦っていたエマ、フォンセ、リヤンとマギア、ゾフル、ハリーフの六人がせめぎ合いながらライたちの近くに来ていた。

 エマが天候のいかづちを無数に放ち、フォンセが長方形の巨大な土塊を拳のように放つ。リヤンが遠距離の得意な幻獣・魔物の力でけしかけ、マギアが土魔術でそれを防いだ。ゾフルがエマのいかづちに自分のいかづちをぶつけ、ハリーフが多数の槍魔術を嗾ける。

 どうやら戦闘の流れで移動している時、自然と身体が運ばれてしまったのだろう。

 この様子だとこの辺り一帯に移動を繰り返しているのかもしれない。


「……ッ!」

「フム、やはりそれ程強くない……世界最強の国の幹部もこの程度なのかい? それなら拍子抜けもいいところなンだけど。有意義な時間を過ごせるかもしれないという言葉を訂正しなくてはならなくなる」


 一方ではヴァイスがヘパイストスを再び吹き飛ばし、瓦礫の山を突き抜けてライたちの直ぐ近くで衝突を起こす。その衝撃で瓦礫が天空に舞い上がった。

 どうやらヘパイストスは苦戦を強いられているらしく、押され気味のようだ。

 何はともあれ、此処に再び全員が揃った。


「改めて主力達が揃ったようだし、僕もそろそろこの戦いを終わらせようかな……」


「それはいい。私としても大した力は得られないようだからね。さっさと終わらせて選別を開始するとしようか」


「ハッ、良いぜ。乗ってやるよ。この傷の仮は返したいからな……!」


「もう、本当に戦いが好きなんだから。けど、エマ達と出会って半年……そろそろエマ達を私の仲間に率いれたいね」


「クク……上等だ。いい加減小競り合うのは飽きてきたところだからよ……!」

「やれやれ。好戦的ですね。私も含めて」


 グラオの言葉を筆頭に、ヴァイス、シュヴァルツ、マギア、ゾフル、ハリーフの五人が己に力を込める。

 この街に来た元々の理由が幹部の実力を見てみる為という事と、罠を突破した者達の確認。街の破壊ももう終えており、見せしめとしても十分だろう。なので一気に畳み掛けるつもりらしい。


「それなら、俺たちも相応の力で迎え撃つか。まだ戦いは終わらなそうだけどな……! (魔王、久々の出番だ……!)」

【クク、待ってたぜ!】


「うん。けど、決着は付ける……! これ以上他の街を壊されるのは、私自身人間の国の住人としても許せないから……!」


「ふふ。なら人間の国に暫く住んでいた私も手を貸そう」


「この国自体にロクな思い出はないが、良い思い出も少しはある。その思い出の一つであるレイたちには手を貸すつもりだ」


「頑張る……!」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人もヴァイス達に続くよう構え、ライは魔王の力を宿した。

 戦闘意欲が高まり、血がたぎる。そのまま漆黒の渦が現れ、力がみなぎった。

 レイたちも各々(おのおの)で構えを取り、力を込めて向き直る。


「このままやられる訳にはいかないな。確かに戦闘は苦手だが、此方こちらとしても幹部の誇りがある。退けぬさ……!」


『カッコいいではないか。憧れるぞ。そう言うの』

「また下らぬ嘘を……!」


 ヴァイスに吹き飛ばされたヘパイストスが立ち上がって武器を取り出し、ロキが嘘をきながら炎を広げる。

 ライたち五人とヴァイス達六人。そしてヘパイストスにロキと、サイクロプスを除いた"スィデロ・ズィミウルギア"に集った主力たちの戦いが終局を迎えようとしていた。

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