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七百四話 悪神との再会

「ん?」

「あっ」

「む?」

「おっ」

「あ……」


「おや?」

「ハッ!」

「あらら」

「クク……」

「おやおや」


「へえ……」

「フム……」


 火柱の立ち上った場所にライが着いた時、丁度レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とヴァイス、シュヴァルツ、マギア、ゾフル、ハリーフの五人がやって来た。それから少し遅れてグラオ、ヘパイストスも到着する。

 そんな十二人を、その場に居た火柱の根元が迎えるように言葉を発する。


『ほう? 何人かが勢揃いだ。知った気配が入ってきたと思ったら……一人を除いて全員知った気配ではないか』


「やっぱりアンタか。ロキ……!」


 悪神ロキ。

 ライが侵入した時に知った気配を感じた。その少し後が現在の状況である。

 ライもライで大凡おおよその検討は付いていたらしく、火柱の原因がロキであると理解していた。


「ロキ……確か、いつの間にか"終末の日(ラグナロク)"に参加していた悪神か。この世界に来ていたンだね」


「ヴァイスが気付かねェのって珍しいな。俺は気付いたぜ?」


「気付いたというか、あの者達の話を横から聞いただけですよね」


「堅ェ事言うなよ。たまには俺も頭脳派になりてェんだ」


「やれやれ」


 ライとロキの一方で、ヴァイス、シュヴァルツ、ハリーフの三人が呑気に話していた。

 ロキ自体は何度か見ており、今更分析する事も無い。本気のロキはイマイチ分からないが、厄介な存在であるがそこまで気に留めているという訳ではないようだ。


「と言うか、皆お揃いで此処に来るとはね。やっぱり巨大な火柱はどうしても気になっちゃうんだね」


「それは貴様達もだろう。まあ、私たちも含めて基本的に興味半分だろうがな」


「もう。グラオもエマも、ヴァイスたちもライ君達もみんなして勝手なんだから」


「貴様が言えた言葉か?」


 周りを見やり、楽しそうに笑って話すグラオと呆れるようなエマ。そしてマギアは楽観的に見ていた。

 他の者たちもその様な節があり、対して問題視していない。ロキを前にしてもこの態度を取れるライたちとヴァイス達。ロキとヘパイストスは呆れたようにため息を吐く。


『私の事はもう無視か。まあ構わないが、とても悲しいな』


「……。構わないというのは本心で、とても悲しいというのは嘘か。どっちにせよ、お前達は全員が楽観し過ぎている」


 今の状況など気にも留めていない者たちを前に、流石のロキも呆れたという事だろう。

 元々八つ当たりが目的なので気にはしていないみたいだが、先が思いやられそうである。


『まあいい。私の知った顔が此処に来たんだ。"世界樹ユグドラシル"の時と同様、ブランク解消に付き合って貰うぞ』


 火柱の中にて更なる炎を展開し、ライたちとヴァイス達に向き直るロキ。

 ロキは"世界樹ユグドラシル"にて行われた"終末の日(ラグナロク)"でもブランク解消の為に参加した。今回もそれと同じような感覚なのだろう。

 急激に強まった熱を前にしたライたちとヴァイス達は余裕を少し残しつつ構え直す。ヘパイストスは始めから警戒していたので既に構えていた。


『こういう時、私の炎が広範囲で良かったと思うな』


 次の瞬間、展開した炎を渦のように巻き付け、それを一気に放出した。

 渦巻く炎の先端がライたちとヴァイス達、ヘパイストスを狙い、ライはレイたちの前に移動して炎へ向けた拳を振り抜く。


「そらっ!」


 そして、風圧のみで炎を打ち砕いた。

 砕かれた炎は赤い光の粒子となって消え去り、拳によって生じた衝撃波がロキを狙う。


「まあ、これくらいなら簡単に防げる。"洪水ファヤダーン"」

「そうだな。"空間破壊スペース・ディストラクション"!」

「そうだねぇ。"ウォーター"♪」

「ハッ、俺は防ぐ必要もないな」

「やれやれ。炎と雷その物になれるゾフルは楽で良いですね。私は避けますか。"浮遊槍(エアイム・ハルバ)"」


 ヴァイス、シュヴァルツ、グラオ、マギアの四人は各々(おのおの)のやり方で炎を防ぎ、ヴァイスの放った洪水の災害魔術とマギアの水魔術がロキに向かって進む。そもそも行動を起こさなくとも良いゾフルは身体を自然に変換させて流動し、炎を砕く術の無いハリーフは自身の槍魔術に乗ってそれをかわした。


「見たところ普通の炎だな。温度もそれ程無いか」


 そしてヘパイストスは何処からか盾を取り出して炎を防いだ。それはただの盾ではなく炎に耐性のある盾であり、ロキの小手調べで放たれた数百度から千度くらいしかない炎なら簡単に防げた。

 範囲は広いがライたちやヴァイス達。ヘパイストスにとって然程さほど脅威にならないらしい。

 ライの拳の衝撃波。ヴァイスとマギアの魔術は他の炎も消し去ってロキの元に進む。


『フム、この程度なら直接手を下さずとも防げるか。だが、その分お前達の力も大したモノではないな』


 正面から迫る洪水魔術と水魔術を炎で蒸発させ、衝撃波は自身を炎に変えて流動させる。

 これは炎を消す為だけに放った、魔王の力が宿っていない衝撃波。なのでロキもかわす事が出来たのだ。

 遅れて二つの水を蒸発させた事で生じる水蒸気が舞い上がり、周囲を白く染める。刹那にロキは、先程よりは温度の高い簡単な炎を再び展開させた。


『さて、爆発せよ』


 水蒸気と水気が高温の炎に触れ、一気に蒸発する事で生じる水蒸気爆発を引き起こす。

 その爆発は"スィデロ・ズィミウルギア"の街中を一気に駆け巡り、轟音と共に巨大な爆炎が周囲を飲み込んだ。


「まあ、こんな事だろうと思ったよ。今更この程度の爆発で負傷する俺たちでもない」


『だろうな。あくまで視界を奪う事が目的だ。既にお前の背後から炎の槍が迫っている』


「そうかい!」


 爆発から無傷で現れたライは拳を天に振り上げ、上から(・・・)迫っていた(・・・・・)炎の槍(・・・)を打ち砕いた。

 ──Lie()。ロキの得意技の一つである。

 今の状況で平然と嘘を吐けるロキ。ライはロキの嘘と本音を見極め、この状況だからこそ嘘を吐いたと理解したのだ。


『フム、バレたか。なら次は……左右から攻めるぞ』


「……!」


 そしてロキは地面から火柱を立ち上げてけしかけた。

 炎に焼かれたライはまだ魔王の力を宿していない。それでも自発的に力は発動するが、火柱と共に突き刺さる抉れた大地の欠片が問題だった。

 今のライなら大抵の物理的な攻撃を無効化出来る。しかしまだまだ未熟なライには多少の痛みがあるのだ。傷は一つも付いていないが。


「次は本音を話したかと考えたけど、俺もまだまだだな。嘘がバレた後でまた嘘を吐くなんてな」


『私は正直者だ。吐く言葉が全て嘘なら、行う行動は全て正直という事になる。相手は私の言葉と逆に動けば良いだけだからな』


 当然全ての嘘が嘘であるか、本当であるかを見抜ける訳ではない。

 常人なら嘘を吐く事で幾つかの動揺や言動に違和感を感じる事もある。しかしロキにとって嘘は日常。自然と相手へ挨拶するように、自然と口走れる嘘はロキの能力と言っても過言では無いだろう。


「君達だけで盛り上がらないでくれよ。嫉妬しちゃうじゃないか」


 次の瞬間、グラオが落下するようにライとロキ諸とも巻き込む拳を放った。

 二人はそれをかわし、周囲の建物がその衝撃で崩落する。天空や他の場所にまで影響は及び、周りを囲んでいた火柱と空を浮かぶ雲が霧散した。


「グラオ……!」

「君との戦いも途中だからね。此処からは纏めて相手をしてあげるよ」

『混沌の神、カオスか』


「何っ!?」


 グラオを睨み付けるライと、さも楽しそうに話すグラオ。

 ロキはその姿を見て呟くように話す。のだが、その言葉に反応を示したのはヘパイストスの方だった。


「原初の神が何故この街に居る……!」

「あー、そりゃ当然の反応だな」


 と言うのも、カオスの存在は世界中に知れ渡っている。その存在が近くに居るのを知ったら基本的に冷静沈着なヘパイストスが驚愕するのも当然だろう。

 特に人間の国の旧幹部や旧支配者。つまり本来の神々はカオスと同郷。本来のヘーパイストスではないので驚愕したと言っても直ぐに落ち着けるが、先代が会っていたらどうなるのか想像に難しくはない。


「あ、そう言えば教えてなかったね。僕の名前はグラオ・カオス。先代のヘーパイストスとも会った事はあるよ。その力を受け継いでいるなら、君も中々の実力者って事だね」


「何故アナタのような者が小悪党の手助けをしているのか分からないが、今が敵である以上、捕らえた後で諸々の事情を聞くとしよう」


 ライ、ロキ、グラオの戦線にヘパイストスも参戦する。

 一方のレイたち。ヴァイス達も自分の仲間以外の敵を前に攻め込む姿勢を見せていた。


「盛り上がっているけど、放って置けないから……! 斬るよ!」


ー訳なら、俺もテメェらを破壊するか! "破壊ブレイク"!」


 ロキとグラオを視界の直線上に入れたレイが勇者の剣を振るい、ライとロキ、ヘパイストスを巻き込む形の破壊を引き起こすシュヴァルツ。

 斬撃が直線的に進んで街を上から見た縦に切り裂き、破壊魔術が街全体を破壊する。その二つによって先程の水蒸気と違い、薄橙色の砂塵が舞い上がった。


『激しいな。炎をも切り裂く剣に炎をも砕く魔術。相手をするのは一苦労だ』


「俺の仲間の斬撃だからな。一苦労どころじゃないと思うぜ?」


「ハハ。賑やかでいいね!」

「カオス……こんな性格だったのか……」


 砂塵を焼き消し、姿を現したロキと炎と破壊魔術を砕いたライ。そして斬撃をいなしたグラオに破壊魔術から逃れたヘパイストスが姿を現す。

 全員無傷であり、砂埃による多少の汚れ以外に変わった部分は見当たらない状態だ。


『そう言えば今は私のブランク解消の途中だった。全員纏めて相手をするのは私も同じだ』


 思い出したかのように炎を展開させ、一気に周囲を焼き払う。ライたちとヴァイス達とヘパイストスは同様に防ぎ、ロキは周囲に散った炎に紛れて姿を消し去る。

 当然逃げた訳でも無く、隙をうかがって仕掛けようという魂胆なのだろう。


「面倒だね。うん、そうだね。纏めて吹き飛ばすとしようか」


 此処に来てから今まで、戦いには参加していなかったヴァイスが力を込めて拳を大地に打ち付ける。瞬間、"スィデロ・ズィミウルギア"の街一つが消え去る程の破壊が起こり、街全体を粉塵が飲み込んだ。


『チッ、街その物を消し去るか。見境なしだな』


「貴様……! 街にはまだ住人が居るのだぞ……!」


 それを見たヘパイストスはヴァイスを睨み付けて憤る。

 基本的に街には関わらないが幹部としての役割は理解しており、街の住人を護る事が努めであるとも分かっているからこその怒りだろう。

 だがそんなヘパイストスを横に、ヴァイスは軽く笑って言葉を返す。


「フフ。安心してくれても構わないよ。私もこの街の住人には用があってね。街は破壊したけど住人達が避難している場所は巻き込ンでいないつもりだよ」


 そう、ヴァイスは街の住人を選別するのが目的。なので街の崩壊を除いた被害は出ていないらしい。

 だが、街を破壊されて安心出来る訳もない。ヘパイストスは何処からか槍を取り出し、先端を向けてヴァイスに構えた。


「やはり危険だ。ロキも危険な存在だが、一番危険な者はお前と判断した」


「別に構わないけど、街の破壊に乗じてロキも姿を現したようだよ」


「他の者が相手取るだろう。お前を葬る事が先決だ」


 炎が消え去り、たまらず出てきたロキを無視し、ヘパイストスがヴァイスに槍を携えて肉迫する。

 そのやり取りの横で、ロキが声を荒げた。


『無視をするな! だが、まあいい。纏めて焼き尽くすだけよ……!』


 両腕を炎へと変え、ヴァイスとヘパイストスを中心に攻め込むロキ。何とか平静は取り持ったが、やはり炙り出された挙げ句邪険に扱われたのが納得出来ないのだろう。

 軽薄で嘘吐きのロキだが、多少なりともプライドはある。なので意識せずともヴァイスとヘパイストスを中心に狙ったのだろう。


「無視されてるのは俺たちも同じだけどな、ロキ!」


『……ッ!』


 だからこそこの一撃に繋がった。

 炎を二人目掛けて放つロキの隙を突いたライが魔王の力を纏って殴り付けたのだ。

 殴られたロキの頬からは焔が見えており、本来の炎が受ける筈も無い苦痛によって苦悶の表情を浮かべる。そして次の瞬間、ロキの身体は勢いよく大地に衝突して既に崩壊した街に巨大なクレーターが形成されていた。


『不意討ちか……!』


「ああ。文句は言わないでくれよ? 世間的に見れば俺たちも悪党……汚いなんて事は自分で分かっているからな」


『フッ、文句など言わないさ。不意討ちを嫌うのは正々堂々と戦いたいマヌケか、不意討ち程度でやられる自分が弱いと自覚している奴くらいだ』


 拳を受けたロキは焔と共に起き上がり、周囲に炎を広げて向き直る。

 ダメージはあるがたった一撃。常人や並大抵の者なら即死だがロキならば戦闘に置いて何の支障も無い程度のダメージだ。


「さて、私たちもそろそろ行こうか。傍観者も悪くないが、何もしないのは気が引ける」

「ああ。彼方にも暇な者達は何人か残っているからな」

「うん……。私も戦う……!」


「なら、私たちもそろそろやろっか♪」

「ああ。見てるだけってのはつまらねェからな」

「やれやれ。まあ一理ありますね」


 ライたちの戦闘を見ていたエマ、フォンセ、リヤンの三人が構え、マギア、ゾフル、ハリーフの三人も行動に移る。

 この六人は敵の攻撃を防いだくらいしか行動を起こしていないので動き出すつもりになったのだろう。

 ライ、レイとグラオ、シュヴァルツ。そしてロキ。

 ヴァイスとヘパイストス。

 エマ、フォンセ、リヤンとマギア、ゾフル、ハリーフ。

 計十三人の主力が人間の国"スィデロ・ズィミウルギア"で戦闘を続行するのだった。

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