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七百三話 火柱の元へ

 ──"人間の国・スィデロ・ズィミウルギア・火柱の中"。


『……お……前……!』


『フフ……やはり懐に忍び込むなら下手したてに出て正直に話した方が良いのだな。お陰で街を焼き払う事が出来た。少しは苛立ちも収まるというもの』


 周囲が真っ赤な炎に包まれ、灼熱の街と化した人間の国幹部の街"スィデロ・ズィミウルギア"にて、サイクロプスが膝を着いてロキを睨んでいた。

 そのサイクロプスを足蹴にし、ロキは不敵に笑いながら言葉をつづっていた。


『……味方……だと……言って……いなかったか……!?』


『ああ。言ったさ。誰の味方でもない。私の味方は私だけだ』


 片手に渦巻く炎を纏い、振り解いて巨人のサイクロプスを見下ろすロキ。

 確かにロキは自分を味方だと告げた。だが、本人が言うように誰のとは言っていない。自分の味方は自分だけだと割り切って行動を起こしていたのだろう。

 そう、ロキは自分が本物のロキじゃないと言った事以外に何の嘘も吐いていないのだ。


『まあそれはどうでもいいだろう。聞かれる前に答えておくが、私は特に目的があってこの街を焼いている訳ではない。此処に来る前、少し嫌な事があってな。まあそれは数ヵ月前から続いていた事で、今日ようやく解決したんだが、どうも気が晴れない。だからただの憂さ晴らしでこの街を焼いているという訳だ。元々何かの争いが起こっていた。だから私一人が手を出しても良いと判断した』


『……そんな……勝手な……!』


 ロキが街を襲う理由。それはただの憂さ晴らしだった。

 ロキはつい先程まで封印(嫌な事)があった。なのでその八つ当たりとの事。サイクロプス達人間の国の主力からすれば迷惑極まりないが、悪神らしいと言えばらしい事である。


『勝手なのは生まれつきだ。今更その性格を変えろというのが無理な話……まあ、嘘吐きと言われていた私が正直に話していたんだ。それだけでかなりの成長だとは思わないか?』


『そのほとんどが本音のように聞こえるだけで……根本的な素性は明らかになっていなかったがな……!』


『それを言われると辛いものがある。ガラスのハートなんだ。穏便に済ましてくれ』


『嘘吐きが……!』


 サイクロプスが立ち上がり、巨人な金槌でロキの身体を押し潰した。その衝撃が周囲に伝わり、燃え尽きている街中を大きく振動させて崩れ掛けていた建物を崩す。

 確かな破壊力の秘められた金槌。それを受けたロキはというと、


『マヌケめ。私は火に神格が宿った存在。即ち火その物だ。鍛冶を行うお前なら知っているだろう。一部の者を除いて火を砕く事も斬る事も不可能。火を消せる水ですら少量では逆に蒸発する……物理的な力では私に勝てない』


 当然無傷だった。

 それもその筈。ライなどのような力を持つ者はこの世でも極めて稀少。相手が悪くなければ、魔法使いや魔術師を含めてロキを倒す事など不可能に近い所業なのだから。

 しかし倒せなかった事ではなく、サイクロプスは別の言葉を気に掛ける。


『一部の者……貴様に物理的な攻撃が効かずとも、それを実行出来る者は存在しているという事か……!』


『おっと、口を滑らせてしまったか。これはうっかりしていた』


態々(わざわざ)口に出して言ったという事は……それも嘘か……!』


 ロキの嘲笑うかのような言葉と態度にいきどおり、金槌を横に薙いで周囲の建物ごとロキを巻き込んでけしかける。

 それを受けたロキは揺らめくほむらとなって無傷でいなし、己の炎を周囲に展開してサイクロプスの身体を包み込んだ。


『結構話すようになったな。先程までは本当に無口だった。しかし、声に出したところでお前の攻撃を私に通す事は出来ない』


『……ッ!』


 包み込んだ後、炎をサイクロプスの身体に貫通させて焼き抜いた。

 実体の無い炎が貫通するというのもおかしな話だが、身体の一部であるこの炎は敵の攻撃を無効化し、自分は一方的に攻撃出来るという中々の力である。


『やはり普通はこうなる筈なんだが……。やはりあの少年少女が特異という事か。分かっていた事だが、この程度では勝てないな』


『…………』


『再び無口になった……いや、私がさせたのだったな。たった今』


 炎の身体を解き、サイクロプスの身体から消し去る。

 だが今回のロキもあくまで腕試しだ。暫く封印されていたので"終末の日(ラグナロク)"の時と同等、ブランク解消の為に戦っただけなのだ。


『……? たった今、誰かが炎の結界に入ってきたな。この感覚……何処かで……フム、気になるな』


 此処はロキが創った炎の結界。なのでロキは誰かが侵入して来たのかなどを分かっているのだ。

 しかし何処かで感じた事のある気配という事は分かったが、それが誰なのかは分からないらしい。なのでロキは姿を炎に変えて消え、周囲に紛れてこの場を去る。

 この場には倒れるサイクロプスと幾多の瓦礫。パチパチと小さな音の響く炎のみが残った。



*****



「何だろうね。この炎。かなり熱いけど、何処から発生したんだろう?」


「さあな。このような炎を出せる貴様が知らないなら、別の誰かの仕業という事だろう。フォンセやリヤンの感覚とも違う。炎の神であるヘパイストス達はどうか分からないが、第三者が加入したみたいだな」


 サイクロプスが倒れた頃、周りで生物兵器とスケルトン達が仲間同士で争い、戦火の立ち上る場所に居るエマとマギアが立ち上る火柱から何かを感じていた。

 それもその筈。そもそも何もない所から火柱が立ち上るというのがおかしな話だ。なので何らかの要因が加わってこの火柱が立ったのは容易に想像出来る事である。


「ふぅん? 確かにそうみたいだね。この街の人達が殺されなきゃ良いけど。ヴァイスの選別もまだ終わっていないし」


「つまり、成る程。貴様らはまだ殺生をおこなっていなかったのか。意外だな。既に何人もの住人を殺しているのかと思ったぞ」


「まあね。けど、いずれは死と同義になるかもね。選別でヴァイスに選ばれなかったら生物兵器一直線だもん」


「……。別に人間の味方ではないが、気分が悪くなるな。まあ、人間を餌にしていた私が言えた義理じゃないが」


 火柱を見たマギアはこの街の者達が無事かどうか懸念していた。と言ってもこの街の住人の命などは大した事と思っていないが、ヴァイスの選別対象者が減るのが一番の懸念のようだ。

 それを聞いたエマは人間が食料である自分が言うのもおかしいと述べつつ、少し嫌な気分になっていた。


「アハハ。エマは優しいね。種族の違う人間に感情移入出来るなんて。確かに私も私のお気に入りの前ならそんな気分にもなるけど、何も関係無い人達には正直興味ないかなぁ」


「そうだろうな。元より貴様が自身をリッチに変えたのは自分の為。膨大な知恵と力を得るという目的のな。お気に入りなどと定めてはいるが、所詮は物としてしか見ていないのだろう?」


「えー。そんな事無いよー。多分ね。それに、私はお気に入りを大事にするから安心して捕まって♪」


「どんな理屈だ。断る。しかし、火柱は気になるな。マギア。お前の相手は一旦取り止めだ」


「え!? ちょっとエマ!」


 街の住人については特に何とも思っていないマギア。エマはその事も理解しているので軽く流し、生物兵器の兵士達とスケルトンを一気にマギアへけしかけた。

 不可思議な火柱。街を囲むように立ち上るそれは見るからにただ事ではない以上、エマとしても放って置けなかった。

 標的を移されたマギアは慌ててエマを呼び止めるが、時既に遅し。傘を持ち、霧となって消え去っていた。


「あちゃー。逃げられちゃった。私が住人に手を出さない事を分かったからかぁ」


『『『…………』』』


 拘束魔術で操られた生物兵器の兵士達とスケルトンを止め、エマが標的を変えた理由を考える。

 よって、少なくともヴァイス達は住人を殺さないのでヴァイス達でもヘパイストス達でも、当然ライたちでもない根元不明の謎の火柱を優先したという事を理解した。


「じゃ、私も行っちゃおーっと」


 スケルトンを全て消し去り、魔力に戻す。その後に生物兵器の催眠を解いて散りばめらせる。

 エマとマギアは立ち上った火柱の方向に向かうのだった。



*****



「オイオイ。こんな事聞いてねェぞ? ヴァイスの奴、何かしやがったのか?」


「いや、ヴァイスの仕業じゃあねェみてェだ。マギアの仕業でもねェ。自然に発生したのか?」


「何を呑気に話しているんですか。少なくとも、あの火柱は敵意剥き出しじゃありませんか」


 ライとグラオ。エマとマギアが火柱に気付いて向かう途中、此方の三人と三人も火柱の存在に気付いていた。この大きさなら当然だろう。

 しかしシュヴァルツとゾフルは呑気に呟き、呆れたハリーフがツッコミを入れる。その気になればこの火柱も砕けるので大して警戒もしていないのだ。


「凄い熱……けど、何処かで感じたような炎……」


「ああ。どちらにしてもロクなものでは無さそうだが、炎と聞くと思い当たる者も何人か居る。敵というくくりで絞れば更に限定されるぞ」


「うん……私にも真似できない炎……多分、この宇宙とは違う世界の誰かが創ったモノ……」


 リヤンの言葉に一同が息を飲む。

 この宇宙で生まれた大半の生物の力は見ただけで実行出来るようになる神の子孫、リヤン・フロマ。

 そのリヤンが真似できないとなれば、別の宇宙からの侵略者。もしくは侵入者。しかし感じた事のある気配という事を考えれば、おのずと答えは見えてくる。


「考えられる第一候補はロキ……封印が解かれたのか……!」


「そうみたい……。ルミエさんたちも封印した入れ物を無くしたって言っていた……!」


「……」


 フォンセが舌打ちし、レイが頷いて返す。リヤンは黙ったままだが、事の重要性を理解しているからこその沈黙だろう。

 そんな、レイたちの言葉を聞いたシュヴァルツ達も戦闘を中断して話し合う。


「ロキ? ああ、何か居たな。グラオが創った偽物の"世界樹ユグドラシル"に。そいつかこの世界に迷い込んで来たのか」


「迷い込んで来たってのは少し語弊がありそうだがな。異世界とも言えるあの世界から脱出するにゃ、この世界に来るしかねェし」


「そうですね。シュヴァルツさんの言うように、この世界に来るしか無かったから来たという線でしょうか」


 あの"世界樹ユグドラシル"で生き残っていれば、この世界に通ずる空間を通って来る事が出来る。それはどんな姿であってもだ。

 つまり何とかして動き出せたロキが、いつの間にかこの世界への空間を通ってきた線が一番可能性のある事だった。


「どうする? 放って置く訳にもいかないよね……」


「ああ。だが、コイツらも居る。コイツらも無視しては行けないからな……」


「じゃあ……ロキの元に誘導したら……?」


「「それだ!」」

「……!」


「「「…………?」」」


 ロキをどうするかについての行動を悩んでいた時、リヤンが何気無く放った一言にレイとフォンセが反応を示す。

 その反応の大きさにリヤンはビクリと肩を震わせ、シュヴァルツ達が小首を傾げてレイたちの方を見やる。

 決まったらさっさと行動に移るのが吉。レイ、フォンセ、リヤンの三人は目線で交わして丁度ちょうど此方こちらを向いたシュヴァルツ達に向き直った。


「悪いけど、一気に決めさせて貰うよ!」

「ああ。構わないよな? "衝撃波ショック・ウェーブ"!」

「えーと……や、やあ……!」


 向き直った瞬間、レイが勇者の剣と天叢雲剣あまのむらくものつるぎを振るい、斬撃を飛ばす。そしてフォンセが衝撃波を放ってけしかけ、リヤンがレイとフォンセに合わせて遠距離用の力を使ってシュヴァルツ達を狙う。


「ハッ、いきなり来たか! 上等だ! "破壊ブレイク"!」

「何だかよく分からねェが、やるしかねェようだな!」

「何か、乗せられている気がしますけどね。"三つの槍(サラーサ・ハルバ)"!」


 対するシュヴァルツが破壊魔術を使って攻撃を破壊し、ゾフルが炎といかづちで嗾ける。腑に落ちない様子のハリーフも取り敢えずそれに乗り、複数の槍魔術を放った。

 それらが正面からぶつかり合って相殺され、辺りが粉塵に覆われる。


「今だ!」

「「……!」」


 フォンセが指示を出し、レイとリヤンが続くように街を駆ける。怪しまれぬように、しっかりと粉塵に紛れて逃走を図った。

 結果、狙い通りシュヴァルツ達三人は反応を示した。


「あん? 何処行くつもりだテメェら!」

「逃げんのか!? 待てやゴラァ!」

「まんまと罠に掛かってませんかね……」


 シュヴァルツが建物から飛び降り、地に着いた瞬間加速する。それにゾフルが雷速で続き、違和感を覚えるハリーフ。

 結果として、レイ、フォンセ、リヤンの三人とシュヴァルツ、ゾフル、ハリーフの三人も火柱の方向へと向かう事になった。



*****



「おや? 何だろうね、あの火柱。君の仕業じゃなさそうだけど」


「ああ、分からないな。街の環境からして火はよく使うが、あんな事は今までで一度も無かった」


 そして、ヴァイスとヘパイストスその者達も火柱の存在に気付いて空を見上げていた。

 二人に目立った外傷は無く、如意金箍棒にょいきんこぼうと巨大な金槌を構えて向き合っている状態。突然引き起こされた火柱にヴァイスは興味を持っていた。


「フム……興味深い。君の力をもう少し見ておきたい気分だけど、今回はこの辺で終わらせてあげるよ」


「逃がす訳が無いだろう」


 興味が引かれれば行動は迅速。

 ヘパイストスから視線を逸らし、火柱の方に歩もうとしたヴァイスをヘパイストスは巨大な金槌で薙いで吹き飛ばした。


「危ないな。当たったら死ンでしまうかもしれないじゃないか。私だったから簡単にかわせたけどね」


「好奇心は時として身を滅ぼす結果になる。戦闘の途中なら尚更だ。次は当て、お前を討ち仕留めよう」


 だが、ヴァイスは吹き飛んでいなかった。その近くにあった建物のみが崩落しており、ヴァイス自身は無傷のままでヘパイストスへつづる。

 しかし避けられる事は想定の範囲内だったのか、ヘパイストスは即座に構えて再び振るう体勢へと移行した。


「なら、君も来れば良い。私は先に正体不明の火柱が立ち上った場所に向かうとするよ」


「待て……!」


 移行した瞬間、不可視の移動術をもちいてヴァイスがこの場から霞のように消え去る。

 ヘパイストスは再び巨大な槌を振ろうとしたが、既にヴァイスの気配は完全に無くなっていた。もう火柱の元に向かったのだろう。


「……。フム、行くしかないみたいだな」


 金槌を何処かに仕舞い、剣と槍も消して歩み出す。ヘパイストス自身も火柱は気になっていた。敵であるヴァイスが向かったなら好都合という事だ。

 これにて、はからずもライたち五人とヴァイス達六人。そして人間の国幹部のヘパイストスが火柱の場所に集おうとしていた。全員が集うのも時間の問題だろう。

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