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七百二話 突然の事態

『…………』


「あ、ありがとうございます。サイクロプスさん……!」

「うえーん! 怖かったよぉ!」


 無言で瓦礫を退かし、街の住人を救出するサイクロプス。

 ライたちとヴァイス達。そしてヘパイストスが戦っている時、サイクロプスはヘパイストスの邪魔にならぬよう、自分に出来る事、瓦礫の撤去作業を中心におこなっていた。

 住人はサイクロプスに感謝の言葉を述べて安全地帯に向かう。荒れ果てている今のこの街に安全な場所が無くとも、"スィデロ・ズィミウルギア"の兵士達が集まり住人を保護している所を避難所と定めて行動を起こしていた。

 ちょっとした街なら一体で落とせる生物兵器の兵士達は至るところに居るが、ヴァイスの命令で選別する為に殺人は行わない。街の兵士達も何とかいなす程度は出来るので比較的な安全地帯はギリギリ形成されているという事だ。


『この街で同じ巨人族に会えるとはな。その単眼……そして腕に持つ金槌やら鍛冶に使う諸々の小道具……お前、サイクロプスか? 折角の機会……どうだ、私と組まないか?』


『……!』


 街の住人達を救出するサイクロプスに向け、歩み寄ってくる足音と声があった。

 サイクロプスは警戒を高めてそちらを見やり、金槌を強く握る。

 巨人のサイクロプスが持てば鍛冶用の道具も強力な武器となる。作業道具で戦うのはあまり気が進んでいない様子だが、やむを得ない時はそれで迎え撃とうと構えているのだろう。


『そう警戒するな。と言っても無理な話か。しかし案ずるな、私は味方だ。見たところ、此処は発展した街があったらしい。私も火を司っている存在でね、この破壊が気になって寄ってみたんだ。何があった?』


『…………』


 口八丁手八丁で警戒しているサイクロプスを宥める。その者は自分の存在を"明かし"、火に縁のある者であると自分から説明した。

 そして本人曰く、どうやら"味方"であるらしい。

 その軽薄な態度からしてとても信じ難い言動だが、他の者が居るなら救援を求めたいのも事実。サイクロプスは握り締めた金槌から力を抜き、巨腕を下ろす。


『どうやら信じてくれたようだな。私としても有り難い事だ。感謝しよう』


『……』


 サイクロプスは信じた訳ではない。手助けが欲しいからこそ、敵意を向けていないこの者に仕方無く従っているのだ。

 何処か胡散臭く、とてもじゃないが信じられない存在。しかし敵意が無く、嘘も吐いていない。

 この者は確かに巨人族の血を引いており、火に縁がある。そしてこの街が気になったので寄り、協力はその者にとって有り難い事で、味方であるという事は全てが事実だった。


『……名は?』

『ロキ』

『……ッ!』


 初めて開いた口から名を聞き、呆気からんと答えたロキにサイクロプスは驚愕の表情を浮かべる。

 それもそうだろう。悪神ロキの話は様々な伝承に伝わっている程。幹部や側近のような上層部が知らない筈が無い名だからだ。

 改めて警戒を高め、下ろした金槌を再び構えた。ロキはその様子を楽しそうに笑い、言葉を続ける。


『待て待て。そう構えるな。お前も知っているだろう? 同じ名を持つ存在はこの世に何人も居るという事を。私もその一人で、本来のロキの性格に合わないんだ』


『……』


 それは嘘である。

 ロキは本物のロキで変わりない。だが、この世にはロキの言うように同じ名を持つ神々や悪魔は存在する。その一人であるヘパイストスの存在を知っているサイクロプスからすればそれが逆に仇となった。

 知らない者からすれば、その嘘が本当に聞こえてしまうからだ。

 信じられないながらも存在を知っているサイクロプスは本当であると信じてしまい、再び武器を下ろした。


『分かってくれるのは嬉しいものだ。同じ巨人族同士、仲良くしようじゃないか』


『……』


 打って変わり、爽やかな笑顔を向けて話すロキ。それが胡散臭さに益々(ますます)拍車を掛けていた。

 この笑顔は、心の底から浮かべた笑顔である事に変わりない。だが例えるなら、さながら考えていた悪戯イタズラが見事に成功したような笑顔。

 故にサイクロプスは完全にはその警戒を解かず、ロキと共に街中を進んで行動を起こしていた。



*****



 至るところで激しい戦闘が続く中、ヘパイストスの城ではライとグラオによって際立って激しい戦いが行われていた。

 光の速度でせめぎ合い、空中で攻防を繰り返す。地上で戦ったら大きな被害が周囲に及んでしまう。なのでライはなるべく地上では戦わないように調整しているのだ。


「場が整ってきたみたいだね。彼方あちら此方こちらから強い気配を感じるよ」


「何で楽しそうなんだよ……いや、まあアンタの性格から大体の事は分かるけど」


 そんな戦闘の途中、周囲の気配を探ったグラオが楽しそうに眺める。

 向かい合っていたライはそれを見て呆れ、グラオの性格からして分かり切っていた事だと諦めた。


「ハハ。分かっているじゃないか。まあ、僕もまだまだ楽しみ足りない。魔王を纏わずともこの力……君の素にはまだ上の段階がありそうだ。完璧な君とも何時かは戦いたいね」


「俺はアンタとり飽きているけどな。足止めは必要だから仕方無いけど」


 グラオと戦うのは仕方無い事。敵の主力を分断させる為にもだ。

 なのでライはさっさと会話を終わらせ、再びグラオに向けて構えた。


「それは良いね。飽きてまでってくれるなんて。僕としても嬉しいよ」


 刹那、数度目となる光の衝突が巻き起こる。同じ光の速度でも力は調整出来るので周囲に大きな影響は与えないが、その衝撃を調整しなくてはこの星が消え去っていた事だろう。

 同時に体勢を変え、ライに向けて回し蹴りが放たれる。それをライは両手で受け止めるが、受け止めた瞬間に差し込むような蹴りを受けて落下した。


「そらっ!」

「……!」


 落下した瞬間にグラオも落下して空中から拳を放ち、ライは地面を転がってそれをかわす。

 先程までライの居た場所には小さなクレーターが出来ており、そのクレーターは底が見えなかった。

 それを見て、手加減しつつある程度の力を一点に込めたという事が分かりライは立ち上がって構え直す。


「よっと!」

「避けるのはやっぱ性に合わないな……!」


 大地を踏み込み、光の速度に加速して眼前に迫ったグラオを正面から受け止める。

 拳を受けてライの身体は勢いよく背後に下がったがダメージは無く、その場で堪えて再び眼前に迫ったグラオを正面から迎え撃った。


「オラァ!」

「っと……!」


 光の速度そのままで追撃したグラオを殴り付け、グラオは勢いを止めずに受ける。

 それによって二人の身体が弾き飛ばされ、ライは森の方向。グラオは城の方向に吹き飛んでそれらを粉砕した。


「やるね。流石だよ、ライ」

「もう来たか……!」


 崩れた城の瓦礫を退け、加速して拳を放つ。それを受け止めたライは踏ん張りを利かせ、背後に衝撃が伝わって山を抉った。

 そのままグラオの拳を握り、勢いを乗せて遠方へと放り投げる。次の瞬間に轟音が周囲へと響き渡った。


「まだまだ……!」


 放り投げた方向は城より少し右側。つまり城に直撃はしていない。轟音は城の向こう側にある山が砕けた音だろう。

 ライは一瞬にして更地になった山へと向かい、そこの中心に向けて拳を放った。

 放たれた拳の圧は衝撃波となって崩れ落ちた山を狙い、更に巨大なクレーターを形成する。その中からグラオが飛び出し、ライ目掛けて光速の蹴りを打ち付けた。


「おっと……!」

「あらら。外しちゃったか」


 その蹴りは紙一重でかわし、すれ違い様にお互いの顔を見やって着地。そのまま振り向くように相手の様子をうかがった。

 そして刹那に行動へと移転し、光の速度で何度目かになるせめぎ合いの攻防を織り成す。


「そらっ……!」

「ほらっ!」


 ライがグラオの顔目掛けて肘を曲げた弧を描くような拳を放ち、それをグラオはその場でしゃがんでかわす。躱した瞬間にライの腹部へ膝蹴りが放たれ、ライは身を捻っていなす。

 身を捻った身体に体重を乗せて回し蹴りを放ち、グラオは片手で受け止めた。そこから懐へと差し込み、顎目掛けて拳を振り上げる。それを紙一重で見切ったライが体勢を崩し、崩した状態でしゃがみ込んで横に蹴りを薙いだ。


「……!」

「今だ……!」


 ライの蹴りに足を取られたグラオは膝を着き、その瞬間にグラオの顔へ膝蹴りを打ち付ける。

 世界を揺るがす破壊力の膝蹴りを受けたグラオは仰け反り、ライは立ち上がると同時に跳躍して跳び蹴りを腹部に突き刺した。

 瞬間、その衝撃で数座の山を貫通して大気圏を抜け、星を飛び出す。


「宇宙にまで飛ばされたか」

「どうせすぐ戻る」

「まあ、そうだろうね」


 今のグラオが生活している星を見やり、特にダメージも慌てた様子も無く呟く。そこにライの声が掛かり、縦に回転して放った踵落としがグラオの脳天を打ち抜いた。

 その一撃でグラオは宇宙空間から落下し、隕石のように今の自分が住む星と激突した。


「短い宇宙旅行だったよ」

「創造者のアンタからすれば自分の家の庭を歩くのと同じだろ」

「まあね」


 グラオの落下地点には一際大きなクレーターが造られており、大したダメージを受けた様子のないグラオと落下させたライが向き合う。

 本来なら宇宙からの飛来物が及ぼす影響は多いが、恐らくこのクレーターは大丈夫だろう。近隣にある"スィデロ・ズィミウルギア"にちょっとした地震が起こった程度の破壊力である。

 しかし二人は全力から遥か遠い位置の力で戦っている事も相まって大した傷も無い。戦闘はこのまま続行という形だ。

 なのでグラオが立ち上がり、ライが距離を置いて構えた時──


「「……!」」


 ──"スィデロ・ズィミウルギア"の街から巨大な火柱が立ち上った。

 その熱気は凄まじく、数十キロ離れたライとグラオの現在位置にまで届く程。

 誰がどう見ても、ヘパイストスの街"スィデロ・ズィミウルギア"にて何かが起こったという事だろう。


「レイ、エマ、フォンセ、リヤン……!」

「あらら。ヴァイス達平気かな?」


 熱風に煽られて髪を揺らすライとグラオはその広範囲を巻き込む火柱から自分の仲間たちを心配する。

 グラオは口調とは裏腹に特に何とも思っていない態度だが、ライは違う。あれがただの火柱ではない事は読んで字の如く火を見るよりも明らか。

 街一つ覆わんとばかりの火柱。感覚からしてフォンセやリヤン、マギアの炎魔術とも違う。誰のモノかは分からないが、何かが起こっているのは分かる。


「……っ!」

「あ、ちょっと、ライ。行っちゃうのかい?」


 危険が分かればグラオなんかと戦っている暇は無い。

 戦わなくては街に実害を出すとも言っていたが、あの火柱の中では実害など関係無い。確実に大きな被害が及んでいる筈。なのでライは巨大な竜巻のような火柱の中へと光の速度で踏み込む。


「アンタに構っている暇がたった今無くなった!」


「あーあ、行っちゃったよ。退屈凌ぎに僕も行こうかな?」


 光の速度で"スィデロ・ズィミウルギア"に向かったライの背中を見届け、グラオは自分も行こうか考える。

 もう既にライは到着しているだろう。たった数十キロしか離れていないので光の速度なら一瞬だ。

 グラオは自分が行くか数秒考えた結果、この結論に至った。


「よし。行こう。トラブルが発生したならそのトラブルの度合いにも寄るけど、少なくとも穏やかな状況じゃなさそうだしね」


 当然行くという結論だ。

 火柱に敵意があるかどうかはて置き、あれ程の火柱を引き起こした存在はそこそこ強い筈。グラオはただ自分が楽しめれば良いのでそう言う事にした。

 ライとグラオの二人は戦闘を一時的に中断し、ライは味方を懸念して。グラオは自分が楽しむ為に火柱の立った"スィデロ・ズィミウルギア"の街へ向かうのだった。

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