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七百話 侵略者・数度目の戦闘

 ライたちが外に出た時、既に街中には惨状が広がっていた。

 発展していた街の建物は半数が崩されており、整備された道の至るところに血痕が付着している。歯切れの悪い悲鳴と叫喚が街中を木霊こだまし、何処からか銃声や大砲の音が響き渡っていた。

 見ての通り悲惨な状態。既に一緒に出てきたヘパイストスとサイクロプスはおらず、ライたちも心当たりしかない首謀者を探す為に気配を探る。


「ちょっとちょっと。ライ達。僕は無視するのかい? 一応ヴァイスたちの中でも随一の主力なんだけど」


 そこに、ヘパイストスの部屋で無視されたのが腑に落ちない様子のグラオが慌てて飛び出してきた。

 確かにグラオは原初の神にして全宇宙の創造者。今は基本的に戦闘にしか興味はないが、神としてのプライドも一応少しは持ち合わせている。完全にスルーされるのは思うところがあるのだろう。


「だってアンタはまだ街に被害を出していないからな。そりゃ他の街には色々やっているんだろうけど、今は無害なアンタより目先の問題が重要だ」


 そう、グラオは自分達の存在を説明しに来ただけ。他の街は兎も角、この"スィデロ・ズィミウルギア"には被害を出していない。

 勿論他の街の事も許せないが、まだ完全に被害が広がっていない現状、護れる者達を護る事の方が重要であるとライは判断したのだ。

 なのでグラオはこんな結論に至った。


「じゃあ、僕が実害を出させれば良いのか」

「確かにそれなら俺たちが動かなきゃな」


 ──刹那、光の速度で二人が正面衝突を起こした。

 それによってヘパイストスの城は崩壊し、大地が抉れて爆発的な衝撃を引き起こす。


「おっと、城まで巻き込んじゃったよ。幸い? 兵士達は全員が街の救援に行ったから人の被害は無かったけど、後で謝らなきゃ」


「今の感覚……。へえ、ライは素の力で此処まで上達したんだね。旅立ちの当初から見てきた僕からすれば、感慨深いものがあるよ」


「抜かせ」


 互いに空中で弾き飛ばし、二人は大地を砕く勢いで着地した。

 着地の衝撃で地面を擦って数百メートル離れ、粉塵が舞い上がる。ライとグラオは刹那に動きだ出し、正面から光の速度ですれ違い、お互いにすれ違い様、回し蹴りを放った。

 その衝撃で轟音と共に大地が大きく揺れ、ヘパイストスの城が浮き上がる。瞬間的に二人の姿は消え去り、空中で一瞬何かが動いたなと思った時何かが勢いよく落下して砂塵を舞い上げた。

 落下してきた者は、言わずもがなである。


「ライ!」


「レイ! エマ! フォンセ! リヤン! レイたちは街の方に行ってヘパイストス達の手助けをしてくれ! 俺はグラオを足止めする!」


「う、うん! 分かった!」


 運良くレイたちの近くに落下出来たライはレイたち四人に指示を出す。既に居ないヘパイストスとサイクロプスの事を考え、レイたちも前線に立った方が良いと判断したようだ。

 人間の国の幹部であるヘパイストスは敵だが、それよりも因縁深い敵が目の前まで来ている。要するに、敵の敵は味方という考えである。


「あーあ。折角主力の大半が残っていたのに……逃げられちゃったよ」


 ライの指示通りこの場を離れたレイたち。グラオはそんなレイたちを見てガッカリしたように肩を落とす。レイたちの実力も認めているらしく、楽しみが減ったというのがつまらないのだろう。

 そんなグラオのガッカリした言葉にライは笑って返す。


「いいや。逃げたんじゃないさ。別の場所におもむいたんだ。アンタらの数は恐らく六人……だから、これくらいが丁度良い」


「これくらい……君達がヘパイストスとサイクロプスに味方するなら七人か。まあ、確かに一人の差は大した事無いかも。サイクロプスは巨人だし、その自慢の力で街の人々の救助を優先するかもしれないし、実質六人と六人だね」


「そういう事だ。アンタらの中に一対一サシの戦闘を望まない者が居たら別だけどな。兎に角、都合の良い数合わせは完了したって事だ」


 数はお互いにほぼ同じ。実際には幹部一人の差はかなりあるが、グラオはそれもまあ問題無いと考えているようだ。

 なのでグラオは構わず体勢を立て直す。元々数撃食らっただけでほんの少しでも疲労する程にヤワな存在でもない。体勢はバッチリと言ったところだろう。


「まあ、それなら別にいいや。他の皆とも戦ってみたかったけど、僕と釣り合うのは君くらいだからね。ライ」


「遠慮しておきたいな。俺はアンタと同類じゃないから」


「冷たいな。まあそれもいい。僕は僕が楽しめれば良いからね」


 会話を終わらせ、再び光の領域に到達してせめぎ合う。

 ライとグラオの何度目か分からない戦闘が久方振りに始まった。



*****



『…………』


 コロコロと、"スィデロ・ズィミウルギア"を見渡せる丘の上に一つの"入れ物"が転がっていた。


『…………』


 その入れ物は不自然な動きで止まり、"スィデロ・ズィミウルギア"の街並みを見下ろすように停止し続ける。

 至るところから煙が出ており、火事の建物も多数存在するこの街。傍から見てもかなり酷い状態。街の者からすれば言葉で表現する事すら烏滸おこがましい状態だろう。


『…………』


 そして再びコロコロと、暫く停止していた入れ物が丘の斜面を転がり出す。

 その斜面は真っ直ぐ"スィデロ・ズィミウルギア"の街へと続いており、加速して勢いそのまま丘から空へと飛び出して舞い上がった。同時に着地、そのまま入れ物にヒビのような亀裂が入る。


『…………』


 そしてヒビのような亀裂から一瞬覗き込んだ、全てを憎むような赤い目。

 その目は閉じられ、亀裂の入った入れ物の周りに炎が展開された。その炎は見る見るうちに燃え広がり、"スィデロ・ズィミウルギア"の街に紛れて近辺を焼き払う。

 メラメラと一頻ひとしきり燃え盛ったその後、未だに燃え続ける炎は人の形を形成し、徐々にその肉体を生み出した。


『フム……良いものだな。私の身体が私の思い通りに動くというのは。半端な力で不完全に封印されたからこそ狭く、窮屈だったこの入れ物からようやく抜け出せた』


 そこから現れたのは赤い髪を揺らし、入れ物から赤い目を覗かせていた者──一度ルミエたちによって封印された悪神、ロキ。

 ロキは片手に先程まで自分の入っていたという入れ物を持っており、忌々しくその入れ物を睨み付けて焼き砕く。刹那に蒸発してロキの周りには何も無くなった。先程の丘までもが。


『……まあ、不完全だったからこそ苦痛は多かったが脱出は出来た。そういう意味では感謝するとしよう。この恨みは今後晴らすとして……此処は何処だ? 少なくとも"世界樹ユグドラシル"ではないのは確か。火の気配を感じたが……ただ街が火の海になっているだけ。実にくだらないな』


 長い独り言を呟き、周りを見渡して確認する。

 どうやらロキは自身が火の化身なので火などような気配を感じる事が出来るらしく、それを辿ったらこの場所で封印が解けたらしい。

 ルミエたちも必死の封印だったので注意深く封印出来ず、ロキが数週間振りに目覚めたという訳だ。封印もそうだが、この者は中々に精神力も高かった。

 ロキの伝承では、ロキは昔、毒の降る洞窟で永遠と思える程の時間拷問を受けた事がある。なので高い精神力が身に付いたという事だ。


『フムフム……まあ、丁度良い暇潰しと憂さ晴らしになるだろう。折角燃え盛っている街……私の手でさっさと焼き払うか』


 封印された事で募った苛立ち。それを晴らすべく、ロキはライたちとヴァイス達の居る"スィデロ・ズィミウルギア"の街に向かう。次の瞬間に炎となって消え去った。

 白、灰、黒。三色髪の侵略者が引き起こした大きな争いによって多大なる被害を受けてる途中の"スィデロ・ズィミウルギア"。そこに、誰にも歓迎されぬ存在の悪神ロキが舞い降りた。



*****



 ライとグラオが戦っている最中、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は街を奔走して住人達の救助活動をおこなっていた。

 燃え広がる炎を水魔術で消し去り、崩れ落ちそうな建物はやむを得ず剣をもちいて切り伏せる。ヴァンパイアの怪力で瓦礫を退け、幻獣と魔物の力。そして癒しの力で住人の傷を癒す。

 自分たちに出来る事はしっかりとやる。当たり前の事だが、救助活動を行うに当たってとても重要な事である。


「思った以上に悲惨だな。私たちが城に入ってから数十分……それこそ、事が起きるまで二、三十分くらいしか経っていないんじゃないか? 城は広いが、それなりの速さで移動していたからな。たったそれだけの短時間でこの有り様だ」


「うん。それに、一気に破壊した感じじゃなくて一つ一つ破壊した感じ……この街も広いから時間は掛かる筈なんだけどね」


「ああ。短時間でこの破壊……ジワジワとダメージを与えて破壊するやり方に手慣れているな」


「うん……。ヒドい……」


 この街に安全な場所など存在しているのか分からないが、住人を安全な場所に避難させる。

 レイたちの事は住人には伝わっていないので、ちゃんと言う事を聞いてくれる。誰だって自分の命は惜しい。例え侵略者とバレていても言う事は聞いてくれたかもしれない。


「見つけたー! エマ! レイちゃん! フォンセちゃん! リヤンちゃーん!」


「「「…………!」」」

「騒がしいのが来たな……」


 街の救助活動の途中、街の雰囲気とは裏腹に賑やかな者が姿を現した。

 レイ、フォンセ、リヤンはそちらを向いて反応を示し、エマだけは声を聞いた瞬間にその者を理解して呆れながら頭を抱える。


「むぅ? 酷いなぁ。エマ。幼馴染の仲なのに~」


「幼馴染ではないだろう。マギア。少なくとも、貴様と初めて会った時既に私は百を越えていた」


「それ、何百年前の話? 数百年の仲なら私たちにとってはもう幼馴染みたいなもんじゃない」


「貴様の知識なら幼いという言葉の意味を知っているだろう。百歳の時点で人間・魔族・幻獣・魔物は"幼い"という事柄から掛け離れた存在になっている」


 その者、アンデッドの王リッチでもあるマギア・セーレ。

 マギアはエマと古くからの知り合いと言っているが、初めて会った時に少なくとも百歳は過ぎていたらしい。確かにそれなら幼馴染とは言わないだろう。


「つれないなぁ。まあいいや。最近はマシな人材が見つからないし、早速エマ達を連れていって良いかな?」


「何が早速だ。断るに決まっているだろう。貴様、一人で私たちとり合うつもりか?」


「一人じゃないよ。生物兵器とスケルトン達は居るからね♪」


 瞬間、レイたち四人を生物兵器の兵士達とスケルトンの群れが囲んだ。

 マギアと話している時既に下準備はしていたらしく、指示を出されたので集ったという事だろう。

 しかし所詮は主力以下の実力しかない者達。数は時に質を上回るが、今のレイたちにとってマギア以外は然程さほど脅威にならなかった。


「他の主力は居ないみたいだな。流石に放って置く訳にはいかない。レイ、フォンセ、リヤン。お前たちは他の主力を探してくれ」


「エマ……! うん。分かった!」

「気を付けろよ……!」

「気を付けて……!」


 なのでエマは他の主力を止める為に自分が残る。レイ、フォンセ、リヤンの三人は不安そうだったがエマが言うならと何人かの生物兵器と何体かのスケルトンを消し飛ばして街の中を進む。

 そんな三人をマギアは止めずに見送り、改めてエマに向き直った。


「結局一人になっちゃったね。エマ。私を含めて他の兵士達……戦況は圧倒的に私が有利だと思うけど?」


 今の状況、マギアを含めて数百人の生物兵器にスケルトン。マギアの言うように傍から見れば圧倒的に不利なのはエマの方だ。主力のマギアですら強敵なのに加えて他の兵士達が居るのだから当然だろう。

 しかしエマはその言葉を意に介さず、不敵に笑って返す。


「いや、一人じゃないさ。こんなに(・・・・)兵士達が(・・・・)居る(・・)じゃないか(・・・・・)……」


「ふうん? 成る程ね……」


 美しくも恐ろしい笑顔で笑ったエマが紅い眼を見開き、生物兵器の兵士達とスケルトンの群れを見やる。それによって何人かの生物兵器と何体かのスケルトンが止まり、刹那に近くに居た味方を打ち砕いた。

 ──そう、ヴァンパイアの持つ力、催眠である。

 意思を持たぬこの者達に催眠が掛かるのはおかしいかもしれないが、エマの催眠はあくまで敵を操る為のモノ。エマの指示によって動くので意識の有無は関係無い。

 それを理解したマギアは四大エレメントを展開して構える。


「今度こそエマを連れて行くからね。ライ君達のチームは皆捨てがたいけど、親友の貴女は一番のお気に入りなんだから」


「初耳だな。私と貴様がいつから親友になった」


 対するエマは天候を操り、マギアのエレメントに天候の力をぶつける。刹那に爆発的な衝撃が周囲を飲み込んだ。

 ライとグラオが戦い、ロキが"スィデロ・ズィミウルギア"に侵入した時、何度目かとなるエマとマギアも向き合った。

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