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六百九十三話 光速領域の戦い

 レイとデメテルの戦闘に決着が付いた時、ライとヘルメスは光に近い速度でせめぎ合いを織り成していた。

 亜光速で街を駆け抜け、拳とハルパーがぶつかり合う。だがライもハルパーの刃には触れておらず、曲がっている峰のみを狙う。ダメージを負うかは分からないが、念の為にである。


「やはり速いな。少し力を上げたつもりだが……簡単に追い付けるか」


「ああ。俺もそこそこやるって自負しているからな」


 街中を駆け抜け、田畑と川を越えて攻防を繰り返す。その一撃一撃には周囲を砕く衝撃波が纏われているが、住人の事を考えている二人は田畑などは荒らさないように注意している。注意しつつ走りながら常に戦っているという状況だ。

 街を抜け、ヘルメスのハルパーとライの拳に足。加えて二人の拳と足が衝突する。それが一瞬にして離れ、次の瞬間には数キロ先でのせめぎ合いが行われていた。


「確かにやるな。そこそこと謙遜しているが、十分な力を秘めている」


「いや、俺は(・・)そこそこだ」


「成る程、そういう事か」


 ヘルメスはライの言葉の意味を理解し、ハルパーを薙いだ。それをライはしゃがんでかわし、そのままヘルメスに向けて蹴りを放つ。

 その蹴りはヘルメスの顔の横を通り、体勢を変えたヘルメスが回し蹴りで牽制する。その蹴りは腕で受け、もう片腕で足を掴んで川の方へ投げ飛ばした。それによって直後に水面が溢れ、大きな水飛沫が上がった。


「追撃は重要だ。"落石(フォーリング・ロック)"!」


 土魔術を使い、ヘルメスの落ちた川に岩を落とす。川は更に溢れ、氾濫して周りの草原を濡らした。この場所は街からは離れており、川も少し溢れるだけなら大した影響は無いだろう。


「やれやれ。抜け目無いな。だが、私との距離を離した事は決して賢明な判断では無いぞ」


 川の水に濡れ、ヘルメスが立ち上がった瞬間にその場から消え去るように移動する。ライはその動きを見切っており、逃げた訳ではないという事を分かっていた。

 横を一瞥するとハルパーを持ったヘルメスが来ており、ライの脇腹を斬り付ける。それをライは避け、流れるように回し蹴りへと移行しヘルメスはその蹴りをかわした。

 躱されたライは回し蹴りの体勢のまま倒れ込み、片手を地に着けて片手で跳躍。そのまま空中で体勢を変え、爪先で蹴りを放ってヘルメスが片腕で受け止める。受け止めた瞬間に足を引いてライに放ち、空中で縦に回転したライがそれを避けて刹那に二人の距離が縮まり拳とハルパーが衝突した。


「この速度には追い付けるか」

「お互い様にな……!」


 一瞬だけ言葉を交わし、弾くと同時に距離を置いて次の瞬間に詰め寄る。まだお互いに確実な一撃は入っておらず、亜光速によるせめぎ合いがずっと続いている状態だ。余計な破壊もしておらず、周りを見れば川や草原。森などが中心の場所に出ていた。

 場所が広いので二人の攻防も存分に行える。互いの敵を視界に収めて追い、一撃放っては離脱。一撃放っては離脱のヒット&アウェイ戦法で戦闘を行う。


「そらっ!」

「フン……!」


 ライが拳を放ち、ヘルメスがハルパーでいなして防ぐ。同時に蹴りを放って敵を狙い、その蹴りを二人が避ける。次に体勢を低くして亜光速で向かい、すれ違うようにけしかける。そしてかわされた。

 今回の戦闘に置いて、速度は互いに同じくらいのものである。なので五分五分に思えるが、ライとヘルメスには身長と武器の有無によるリーチの差がある。ライの身長は年相応。まだまだ成長期なのでヘルメスより小さい。しかしそれだけなら純粋な力で補えるものだ。

 問題はハルパーによるリーチの差である。戦闘開始直後からの問題だが、僅か数十センチの刀剣だとしても大体同速の戦闘では大きな問題となる。特に一撃一撃が不死を殺せる威力であるハルパーは要注意だ。まだそれを受けていないのでライに無効化出来るかは分からないが、警戒するに越した事は無いだろう。


「互いに攻撃が当たらなくて埒が明かないな。伝達係である以上、私は被弾する訳にもいかないが」


「俺はアンタのハルパーを警戒している。そしてアンタは俺の力その物を警戒している……当たらなくて当然さ」


 互いが互いに警戒しているからこそ、精々掠る程度のダメージしか与えられていないのは当然の事。しかしそれが理由で戦闘時間が長引いては意味が無いだろう。

 だが、いきなり全力を出しては"エザフォス・アグロス"の街が多大なる被害を受けてしまう。"世界樹ユグドラシル"や地獄のように辺りへ与える被害が少ないなら露知らず、此処では流石に問題があるだろう。以前には街を砕く事もあったが、半年の旅で色々と学んだのだ。まあ、森などは何回は破壊してしまっているが。


「……。けど、うん。此処なら力を更に上昇させても良いかもしれないな。矛盾しているけど、力を上げて力を抑えれば余計な破壊も少ない」


「フム……興味深い。新たな情報収集に繋がる」


 魔王は纏わず、自分自身の力を更に上昇させるライ。現在は魔王の六割に匹敵する力だろう。

 強化に繋がるのならば普通ヘルメスがそれを阻止した方が良い。だが、ヘルメスからすればあくまで逃走と情報収集が目的。なので何時でも逃げられるという余裕があり、ついでに力を調べられるならその方が良いと判断したようだ。


「じゃあ、お望み通り見せてやるよ」

「お前が自分で言うまで望んだつもりはないがな。あくまでついでだ」

「なら、俺もついでに倒すか」


 ──刹那、亜光速から光速へと移行したライがその速度でヘルメスに迫る。ヘルメスはその速度も捉え、ライと並走するように駆ける。一瞬で数万キロ先に行き、一秒後には三〇万キロ進んでせめぎ合う。

 場所は宇宙に到達していた。


「宇宙での行動は……当然可能か」


「あの世に行くには宇宙を越えなくてはならないからな。宇宙での行動くらい出来なくては伝達係も務まらない世界だ」


 ヘルメスも宇宙行動可能。現世とあの世まで行き来する伝達係なので当然である。因みにライは意識せずとも宇宙での行動が可能になっていた。

 前は魔王の力を必要としたが、宇宙に存在する物質は異能と物理の両方を兼ね備えている。なので強化された今のライなら行動も可能なのだ。


「だが、何故お前が宇宙空間での行動を可能なのかは分からないがな。魔力の気配も感じない」


「ハハ。俺(魔王の方だけど)は何となく世界の事柄が都合良く進むんだとさ。大抵の疑問はそれで解決だ」


「便利なものだな」


 光の速度で進み、自分たちの住む惑星の周りを何千何万周もしながら戦闘を行う。先程よりも遥かに素早い動きで攻防を繰り返し、拳と拳。拳とハルパー。足と足。足とハルパーが何度か衝突して数万キロに及ぶ衝撃波を生み出した。

 それから数秒後には先程居た街付近に戻っており、近くの森に巨大なクレーターを形成していた。


「結局は地上に戻っての戦闘か」

「宇宙ってのも色々と面倒だからな」


 着地した瞬間に加速し、光の速度で正面からぶつかり合う。

 ぶつかり合うと言っても先程と同様、まともな一撃は入っていない。ライが拳を放ってヘルメスは紙一重でかわし、死角から斬り込まれたハルパーを手で柄を握って受け止める。そのままハルパーを引いてヘルメスの身体を寄せ、膝蹴りを打ち付けた。だがそれも避けられ、ライの握るハルパーを軸に空中へと舞ってエリアルツイストの蹴りを放った。そしてそれも躱す。

 本来なら光の速度で動けば大陸が砕けるか惑星が崩壊する。しかし二人はその手の調整も出来ているらしく、移動による破壊は少なかった。


「成る程な。豪語するように力を上げながら力を抑えられるか」


「アンタも、余計な衝撃を出さないように調整出来ているみたいで何よりだ」


 光の速度で移動しつつ、会話を行いながら交差する。音速を超えているのに会話が成り立つのは不思議だが、常識などというものが存在しないこの世界。ライたちにとってそれは普通なのだろう。

 互いに弾いて距離を置き、ライは停止して思案する。


(……。さて、ハルパーを警戒して仕掛けないのは問題だな……まだハルパーの攻撃が俺に通るって決まった訳じゃないんだ。ダメージが入っても耐えられるし、支配者クラスの破壊力がなけりゃ俺の身体は砕けない……仮に支配者クラスの破壊力でも生きてれば再生も可能……)


 その思案はハルパーの対処について。

 ダメージを負うかもしれないと警戒しているのだが、警戒し過ぎて攻撃が疎かになっていると自分自身で分かっている。しかしそれを止められないのは、やはり精神的な弱さから来ているのかもしれない。

 最近は大きなダメージを負っていない。地獄が最後として、数ヵ月前にも及ぶ。なので今のように警戒してしまうのかもしれない。それならダメージ覚悟でけしかけ、感覚を取り戻すのは悪い事では無いだろう。

 それらを纏めた結果、ライが至った結論は──


(受けないに越した事は無い。ただ単に、攻撃を少し本気で仕掛けた方が良いか)


 ──ダメージを受けても良いという考えで攻め行く事だった。

 攻撃を受けない方が良いので警戒はしつつ、受けたら受けたでしょうがない。簡単な方法である。


(じゃあ、行くか)


「どうした? 先程から黙り込んで」


「少し考えていた。てか、アンタも親切に待っていてくれたんだな」


「ああ。私の目的は情報収集だからな。様子を窺って思考の仕草からどの様な動きをするのか記憶に留めて置くつもりだ」


「教えてくれてありがとさん」

「私にとって不利にも有利にもならない情報だからな」


 思考を終えたライが踏み込み、ライの様子を探る為に敢えて黙っていたヘルメスが構える。刹那に光の速度、第六宇宙速度へと到達して拳を作り、ヘルメスの眼前に迫った。


「迷いがなくなった。先程思考していたのは自分の動きに対する事か」


「ああ」


 迷い。迷いと言われれば確かにそうかもしれない。必要以上の警戒が迷いへと繋がり、動きに粗が生まれたのは事実だ。

 なのでその粗が無くなった今、決着を付けるのもそう遅くないという事である。


「オラァ!」

「……!」


 刹那、先程と同等。しかし迷いは無く、光速でヘルメスに拳を放った。それをヘルメスは避け、ハルパーを振るう。ライは避けず、ハルパーの刃を正面から迎え撃つ。


「……斬れないな」

「成る程、俺の警戒は杞憂だったって訳か。いや、一応少し痛む。効きにくいが正しいか」


 不死をも殺すハルパーの刃。それを受けたライの感想は少し痛い。警戒は決して無駄じゃなかったが、やはり警戒し過ぎていたようだ。

 次の瞬間にライは体勢を低くし、ハルパーを弾いてヘルメスの脇腹に回し蹴りを放つ。それをヘルメスはかわし、躱した方向にライは裏拳を打ち付けた。


「……ッ」

「そらっ!」


 裏拳はヘルメスが咄嗟に腕でガードした。しかしダメージは入ったらしく少し怯む。その隙を突いて正面蹴りを放ち、ヘルメスの腹部を貫いた。本当に貫通した訳ではないがそれによってヘルメスが吐血し、ライは畳み掛けるように踵落としを放つ。

 瞬間、ヘルメスが前のめりに倒れ、ライの足元に巨大なクレーターを形成した。


「これが……本来の強さ……いや、これでも全力ではないか」


「俺の力としては全力に近いけどな。まあ、本当の全力だと一挙一動で銀河系が何個か消滅する。扱いにくいものだよ」


「そうか」


 それだけ告げてヘルメスは姿を眩まし、ライが背後に蹴りを放って迫っていたハルパーを防ぐ。防いだ瞬間既に姿は無く、次は正面。左右。上下。ありとあらゆる方向から攻めては防ぎの攻防を繰り返す。それを行うヘルメスは疾風怒濤の攻めを見せ、ライに付け入る隙を与えなかった。


「……! そこだ!」

「……ッ!」


 だが、全ての動きは見切れている。何十何百もの隙の無い攻撃を完全に見切って隙を見つけ出し、その脇腹に確実な一撃を差し込む事が出来た。

 それを受けて再び吐血したヘルメスはハルパーを放ってライの首を狙い、直撃したライの首から鮮血が流れる。刹那に移動してハルパーを拾い、追撃を仕掛けようと──


「これで、終わりだ!」

「そう、みたいだな……!」


 ──した瞬間、ヘルメスの顔面に重い拳が突き刺さった。それは惑星を粉砕する威力が込められており、何かを悟ったヘルメスは敗北を認めて殴り飛ばされる。そのまま森を突き抜け、宇宙まで行っただろうか。


「……。今日はこれくらいにしておこう。完全に敗北したが、有意義な時間だった」


「……。頑丈な身体だな」

「ギリギリでいなしたからな」

「そう言う問題じゃねえよ」


 そして背後から掛かった声。

 そこには確かなダメージは負っているが行動などを行うには問題無さそうな様子のヘルメスが居た。が、もう居ない。ライが振り向いた瞬間消えており、足元にはメモ帳の一ページが置かれていた。

 詳しい状態を見る事は叶わなかったが、どうやら小手調べではライが勝利したらしい。


「終わりか」


 ボソリと呟く。あっさりした終わりというのは何度も経験している。しかしこの妙な静寂には中々慣れないものである。


【結局俺の力使わなかったのかよ。つまらねェな】

(ハハ。そう言うなよ、魔王)


 その静寂を破る魔王(元)の声。ライは思考で返し、街の方へと向き直る。

 ライと幹部にして側近のヘルメスがおこなっていた超速の戦闘はライの勝利で終わりを迎える。街に残ったレイたちも心配だ。

 ライは軽く力を込め、音速以下の速度で戻るのだった。

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