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六百九十二話 レイvs大地の女神・決着

「"大地の槍(ギー・ロンヒ)"!」

「……!」


 力を解放した瞬間、大地を操って無数の槍を造り出したデメテルがレイを狙う。大地が割れるように突起し、足元から鋭利な大地が剥き出しとなる。

 それらをレイは跳躍してかわし、突起した部分を踏み越えて三角跳びの要領でデメテルに迫る。


「やあ!」

「"大地の守護(ギー・フィラクス)"!」


 迫ると同時に剣を斬り付け、それをデメテルは大地で防ぐ。その大地は切断されたが、樹よりも幾分頑丈な大地の護り。次の行動に移る時間は残っており、デメテルはレイに手をかざした。


「"貫通の槍ディーズディーシー・ロンヒ"!」


「はっ!」


 周りに散った欠片ごと槍へと変換させ、レイに向けて一斉に放つ。それを覚醒しているレイは読んでいたように全て斬り防ぎ、更に迫る。

 しかしデメテルもただではやられるつもりも無く、足元に周囲と粉々になった欠片を更に槍へと変えてけしかけた。

 その数の多さは流石に面倒だったのか、レイは思わず距離を置く。そこに目掛け、デメテルは更なる行動へと移った。


「"樹と大地の槍デンドロン・ギー・ロンヒ"!」


 木々と大地の合わせ技である。

 一気に変化した木々と大地で攻め行き、巧みに避けるレイを狙う。先程から槍という戦法で来ているが、神々は様々な形の槍を使う事が多い。なのでその力をもちいているのだろう。


「数が多い……!」


 だがレイはそれらをも見切り、勇者の剣と天叢雲剣あまのむらくものつるぎで斬り伏せていなす。

 デメテルのけしかけた数は軽く万を越えているが、覚醒途中のレイにとって死角は薄い。故に攻撃を全て防ぐ所業もこなしていた。


「疲労の色はまだ見えませんね。しかし、着実に蓄積している筈……まだまだ攻めます!」


「私もまだまだ攻めるよ!」


 上下前後左右に斜め。全方向から来る樹と大地の槍。レイは護りに徹せず、樹と大地を踏み締めて一気に駆ける。時折迫る攻撃は二本の刀剣をもちいて防ぎ、再び距離を詰めたがデメテルはそこから跳躍した離れ、近くにあった建物の上に乗る。

 屋根から樹と大地を操り、下方に迫るレイを牽制した。


「やあっ!」


 それに対して二本の刀剣を振るい、全てを切り捨てる。欠片を踏みつけ、人とは思えない程の跳躍力を見せて屋根のデメテルに切り込んだ。


「遠距離から攻めるのはあまり得策では無さそうですね。私、近接戦も苦手ではありませんよ?」


「そう!」


 ことごとく防がれる自分の技を見て、遠距離からの攻めは良くないと判断したデメテルが近接戦闘に切り替える。

 樹と大地を合わせ、強靭な槍を形成。それへ更に力を込めて、レイの刀剣に対応出来る力を得た。


「けど、貴女より私の方が得物の扱いには慣れているよ!」


「フフ……私も幹部ですから。あまり舐めないで下さい」


 上から剣を振り下ろし、デメテルがそれを受け止める。その衝撃で屋根が砕け、そのまま建物が崩れて砂塵と粉塵を舞い上げる。

 そんな瓦礫の山の中からレイとデメテルが向かい合う形で姿を見せた。


「ごめんなさい。デメテルさん。建物一つが崩れちゃいました」


「いいえ。気にしなくても大丈夫ですよ。この辺りに住んでいた住民の皆さんは安全な場所に避難して居ます。この辺の建物には既におりません。なので、今後の修繕費諸々はて置きこの地区なら幾ら壊しても問題ありません」


「街の一角が壊れても良いの?」


「住民達の命が何よりですから」


 ニコやかに笑い、樹と大地からなる槍を構える。

 住民がおらずとも街が壊れるのは問題だろう。しかし、デメテルは住民が無事なら大丈夫という考えを持っている。その寛大さを素直に称賛しつつ、レイも構え直す。まだ集中力が消えていない事から、今回の覚醒はもう少し続きそうだ。


「じゃあ、攻めるよ!」

「宣言しなくてもよろしいですのに」


 瓦礫を踏み越え、デメテルに肉迫する。刹那に勇者の剣と天叢雲剣を振り下ろした。

 しかしデメテルは槍の腹で受け止め、その衝撃で足元に亀裂が入る。槍を押してレイを弾き、片手で回転させて背面越しに死角から突きを放った。


「……っ」

「揺らぎましたね。やはり、貴女が相手なら近接戦の方が良いみたいだす」


 この一撃で手応えを感じ、更に畳み掛けるよう追撃する。

 高速で槍を突き、それをかわすレイ。だがデメテルはレイが躱した方向に薙ぎ、それをレイは飛び退いて避けた。それを読んでいたかのように背後から樹と大地を放ち、レイは身体を回転させてそれらを斬り伏せる。その隙を突いて槍を突き、レイは勇者の剣で受け止めた。それによって火花が飛び、レイの身体が少し押される。


「人間にしては中々の力ですが……やはり神である私に純粋な力では敵わないようですね。しかし貴女の剣術はかなり高いレベルにあります。短い経験と磨き上げた技術だけで神々とも渡り合える程の」


「そう……!」


 レイの顔を見つめ、素直に称賛するデメテル。

 レイの実力はデメテルから見ても高い位置にあるらしく、神々(自分達)と素の力で渡り合えると思える程だ。

 だが、ほんの十数年の鍛練。その十数年がどの様な過ごし方であってもデメテルとの経験の差は出てきてしまう。そこを突かれ、次の瞬間に槍の柄がレイの脇腹に叩き付けられて吹き飛ばされた。


「……ッ!」


 堪らず血を吐き、瓦礫の山に激突する。

 血を吐いたという事は内臓が傷付いたのだろう。その激痛は常人なら動いていられない程のものだ。

 しかしレイの身体は限りなく常人に近いが常人とは掛け離れている。そんな矛盾した肉体を持つレイは瓦礫の中から立ち上がって口に溜まった血を地面に吐き捨てた。


「……。身体の構造は人間その物ですけど、その強度は私たちに近いものがありますね……貴女、本当にただの人間なのでしょうか。そもそも、魔王を連れるライたちの中で一番普通な存在なのがおかしい……」


(魔王……デメテルさんは魔王の存在を知っている……? けど、勇者の事は知らないみたい……じゃあ、神様の事は?)


 デメテルの言葉から、レイは少し考える。

 何故魔王の事を知っているのか。何故勇者の事は知らないのか。神の事は知っているのかなどの疑問だ。

 それを知ったところで意味は無いが、決してレイに無関係ではない事柄。純粋に気になるのだろう。


(考えていても意味が無い……このままだと、やられちゃうから……!)


 勇者の剣と天叢雲剣を再び構え、数十メートル先のデメテルに向き直る。

 分からない事を考え、今やらなくてはいけない事をおろそかにしては意味が無い。なので目の前に居る敵のみに集中し、再び意識を活性化させる。

 それによってまるで水の中に居るような静かな感覚が取り戻され、呼吸が穏やかなものとなる。痛みは感じるが、集中する事によってその痛みすら徐々に消え行く。


「……。はあぁぁぁ!」

「余計な事を考えている暇はありませんね」


 一呼吸置き、感覚が研ぎ澄まされた瞬間に斬り掛かる。そんなレイを見たデメテルも思考を止め、目の前の敵に集中して槍を振るうった。

 その瞬間、剣と槍の衝突で周りの瓦礫が消し飛んだ。勇者の剣が槍に押さえられてもレイには天叢雲剣がある。なので懐からけしかけ、デメテルに向けて天叢雲剣を振り上げた。


「……ッ」


 天叢雲剣の一撃でデメテルの身体が傷付き、ボロボロの衣服が更に切れる。しかし衣服の下に見える肌はあまり大きく傷付いた様子は無かった。

 確実にダメージは入っているのだろうが、表面的な傷は見えない。それ程までに身体が頑丈なのか別の理由があるのか謎である。


「やあっ!」


 だがその事は気にせず、勘八入れずに勇者の剣でデメテルの身体を切り裂く。今度は出血し、デメテルに表面的な傷が生まれた。そして刹那に肌の色と同じ植物で隠れる。

 この事からするに、どうやら斬られた箇所を植物で塞いでいるようだ。恐らく薬草のような効果がある植物で、包帯や傷薬などと同じような役割を担っているのだろう。


「鋭い動きです……!」

「おっと……!」


 斬られた事で仰け反ったデメテルは勢いよく槍を薙ぎ、体勢を無理矢理起こしつつレイに仕掛けた。レイは跳躍して避け、避けた方向にデメテルが追撃する。


「ハァ!」

「やあ!」


 直進し、槍を突く。レイは瓦礫を踏み台に更に跳躍して屋根の上に登った。

 下方から屋根を砕いて槍が突き刺さるがそれを見切ってかわし、屋根から屋根へと移動して"エザフォス・アグロス"の街を駆ける。デメテルもその後を追うように屋根へと登り、遠距離からなる植物や大地をもちいて嗾け、レイの逃げ場を狭める。


「"樹と大地の壁デンドロン・ギー・トイコス"。……急に逃げ腰体勢になりましたね。一体何が狙いですか?」


「別に……ただ見晴らしの良い場所で戦おうかなって考えただけだよ……!」


「フム、それは嘘ですね。恐らく……地上よりも足場の少ない屋根なら私の樹と大地を操る力も届きにくいと判断したのでしょう。自分の弱点は当然把握していますよ」


「アハハ……完璧にバレちゃってる……」


 レイが屋根へと来た理由は、デメテルの言うように物が少ない此処ならば自由に樹や大地を操れないと考えたから。

 実際その通りらしいのでそこまでは狙い通りだが、完全に読まれているという事に対して少し思うところがあるようだ。考えを読まれるというのはそれだけ自分を不利にしてしまう事になる。当然の反応だ。


「けど、実際に届きにくくなるなら万々歳だね……!」


「元より、貴女にその力は効きにくい。構いませんよ。どちらでも」


 屋根を蹴り、加速してデメテルに向かう。当然二つの刀剣を構えており、一気に詰め寄って剣を振り下ろした。振り下ろした剣は防がれるが先程のように死角から刀を振り上げる。しかしそれも読まれており、デメテルは槍を回した衝撃でレイの身体を弾き飛ばす。

 弾かれたレイは屋根を転がって数十メートル吹き飛ばされ、瓦に掴まって落下を防ぐ。

 別に落下しても大丈夫だが、地上では樹と大地の力も利用されるので何とか屋根からは離れたくないのだ。

 最も、デメテル本人は気にしていないらしいが。


「……。一気に畳み掛ける……! そして、勝負を決めます!」

「ええ。来なさい」


 このまま耐えたとして、覚醒が終わってしまえば疲労が増える。それも時間の問題。なのでレイは一気に攻める事で決着を付ける事にした。


「はあ━━っ!」

「……」


 迫ると同時に剣を振り下ろし、それを槍で受ける。それによって足元の屋根が砕け、砕けきる前にレイは距離を置く。そのまま落下したら地上に行ってしまうからだ。

 距離を置かれたデメテルは槍を構えてそのまま突き、レイは剣でいなす。いなした瞬間に刀で切り込み、跳躍して避けたデメテルは距離を詰め寄られぬように樹と大地を槍のように伸ばして牽制。届きにくくなると言っても届かない訳では無い。やり方は色々あるという事だろう。


「……っはあ!」

「……」


 それらを全て斬り落とし、踏み込んで攻め寄る。剣を突き、デメテルが身を捻ってそれをかわす。

 躱しながら槍を振り回し、連鎖させるように連続で突きを放つ。そのどれも一級の威力を秘めており、一突きで大抵の者は意識を失う。もしくは即死するだろう。一撃一撃が音速を超えており、音を超えた事で発する衝撃音が一突きのたびに響き渡る。

 言うなれば、全てが一撃必殺の槍という事だ。

 だがレイなら仮に受けても問題無い。そして避ける事も出来ている。しかし避ける度に新たな突きが放たれ、衝撃波を纏った槍がレイに迫る。それらも見切ってかわしているが、集中力の限界が近い事も相まって避け続けるだけという訳にもいかない。しかし攻め入る隙を見せない程の速度と威力。ただ突いて薙いで吹き飛ばすだけでなく、全てに的確な狙いがあった。


「狙いが付けにくい……けど!」

「……!?」


 全てを見切りながら、レイは動きを停止した。それによって一突き一突きが必殺の槍の連撃を一瞬で数十回受ける。対するデメテルは驚愕の面持ちで思わず槍を止めた。

 通常なら今の攻撃で全身の骨が粉々になる。例え砕けていなくとも、肉体に多大なるダメージがいったのは間違いないだろう。その証拠に禍々しい色のアザが付き、吐血して目を腫らす。レイの肉体が常人離れする程に強固だからこそこの程度で済んだ筈だが、先ず間違い無く意識は朦朧としている筈だ。

 涙も流れ、おびただしい量の血が足元に血溜まりを形成した。


「隙を……見せた……!」

「しまっ……!?」


 反応するが時既に遅し。レイは駆け抜け、デメテルの身体を勇者の剣と天叢雲剣で切り裂く。それによってレイに負けず劣らずの出血が起こり、意識が一気に遠退いた。

 通常の刃物では大した事無いが、今回は勝手が違う。操り切れていないとはいえ、かつて魔王と神を討ち仕留めた勇者の剣があるのだから。

 遠退く意識の中、デメテルはレイを一瞥して途切れ途切れに言葉をつづる。


「その剣……何やら……特別な……剣のようですね……私の……槍……よりも……遥かに強大な……力……」


「……。私の……御先祖様……勇者の剣……!」


「……っ! ……。……成る程……凄まじい……気力の……筈……です……」


 屋根の上にて、デメテルが倒れる。どうやら意識を失ったようだ。一瞬驚愕したが、レイの行動から納得して動かなくなった。


「…………」


 対するレイは倒れたデメテルを一瞥し、スッと目を細めて微笑み、自分も意識を失ってその場に倒れる。

 レイとデメテルの戦闘。それは先にデメテルが倒れたが、両成敗の形で幕を降ろす。エマたち三人を捕らえた幹部の一人は倒れたが、まだもう一人残っている。

 残る戦いは、ライとヘルメスのみとなった。

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