六十八話 ライvsゼッル・決着
──次の刹那、大地が消し飛んだ。
地面は粉砕し、瓦礫と砂が空中に舞い上がる。それらは暫く空中を漂い、風に吹かれて消え去った。
その場にはもう建物と呼べる代物は無くなっており、廃墟と化していた。
それなりの広さを誇る科学の街──"イルム・アスリー"だったが、今の姿は見るも無惨な物となってしまっていた。
「オ────」
「ダ────」
「「──ラァッ!!」」
瞬間、辺りに爆発音のような激しい音が広がり、二つが生み出した熱と衝撃でクレーターが出来上がる過程と共に"イルム・アスリー"が大きく砕け散る。
ライとゼッルは街の事など全く気にしていなかった。
「ほ────」
「オ────」
「「──ラァッ!!」」
続いて回し蹴りを放つ二人、その衝撃でまだ空中を漂っていた岩石と瓦礫の欠片は一斉に吹き飛ぶ。
「"風"!!」
ゼッルは跳躍し、両掌から風を放出する。
その風は空気を巻き込み、ライへ向かって一直線に突き進む。
大地を浮き上げながらライへ向かう風は、風というよりさながら大砲のようだ。
「オラッ!」
そして、ライはそれに向かって蹴りを放ち、それによって生じた爆風で風の大砲を打ち消す。
「"雷"!!」
空中から地面に着地したゼッルは両手を突き出し、雷を放つ。数種類のエレメントを結合させて雷を創り出したのだ。
「ほらよっとォ!」
そして、ライは雷を……『砕いた』。雷に向けて拳を放ち、その衝撃で雷砕いたのである。
「チッ、テメェには雷も効かねえのかよ……」
雷すらをも砕くライに向け、驚きを通り越して苦笑を浮かべるゼッル。
四大エレメントが一つも効かず、エレメントの配合術すら効かないのだ。呆れてしまうのも無理は無いだろう。
「ああ、何度も言うが……魔法・魔術、その他全ての異能は効かない体質? 性質? 特性? なんでね……(魔王が……な)」
ゼッルの反応を見たライは自分の力で魔術を砕いた訳では無いが、一応自分がやったという風な感じでゼッルに言った。
魔王(元)の事を明かすのは大きなリスクが生じる。なので何時も通りそれは伏せているのだ。
「さあ、もう知ってるだろ? さっきからアンタの魔術を破壊しているからな。俺に勝つ為にはその身一つで戦わなきゃな?」
挑発するように軽薄な笑みを浮かべてゼッルへ告げるライ。ゼッルもライへ向け、笑って返す。
「ッハハ……ああそうだな……。まあ……小細工くらいはさせてくれや……──"煙"!!」
そして、魔術で煙を創り出して姿を眩ませた。辺りは真っ白な煙に包まれ視界が意味をなさなくなる。五感のうちの視覚を封じられたのだ。
耳を済ませばザザッと地面を走る音は聞こえるが、姿が見えない。
「煙幕……的な奴か……」
ライはその煙を見渡してゼッルを探す。視界は真っ白で何も見えない状態。下手に動けば相手に位置を教えているようなモノ。なので闇雲に動く事は賢い選択ではない。
ゼッルは動いているようだが、この煙幕はゼッルが放ったモノ。ライの動きを読み、何かしらの罠を仕掛けている可能性も低くは無いだろう。
なのでライは──
「……まあ……煙を消せば全くもって問題無いな……」
──掌を軽く薙ぎ……『煙を全て消し去った』。
「そう来ると思ったぜ?」
刹那、それを予測していたかのようなゼッルはライの背後へ回り込んでおり、それを聞いたライは、
「ああ、俺もだ」
即座に後ろ回し蹴りを放った。
無論、相手の思考を読まなくては戦いにならない。なのでライもある程度は予想していたのである。
「だろうな……」
ゼッルはそれをしゃがんで避ける。ライの回し蹴りによって再び大きく砂埃が舞い上がった。
何はともあれ、ライは回し蹴りの反動? で隙だらけである。
そしてゼッルはそんなライに向けて両手を構えた。
そして両手をパンッと打ち付け──
「──"爆発"!!」
──回転している途中のライへ向け、その近くで爆発を起こす。
耳を劈く爆音が鼓膜を大きく揺らし、下手したら鼓膜が破れそうだ。
人によっては爆発ではなく、その音で死んでしまう事もあるだろう。
「いきなり大爆発かよ……」
ライは苦笑を浮かべて爆風を消し飛ばし、しゃがんでいるゼッルに踵落としを放つ。
「不意を突くには爆発の方がダメージデカいだろ? …………お前以外はな……?」
その踵落としをかわしたゼッルは距離を取り、立ち上がってライに向き直る。
ゼッルに避けられてしまい、空を切って大地にぶつかったライの踵落としは、地面に大きなクレーターを造り出す。
「……」
ライはそのまま流れるように地面を踏み込んで蹴り砕き、加速してゼッルとの距離を詰める。
「オラァ!」
「……ッと……!」
そして拳を放つ。ゼッルはそれを受け止め、ライへ蹴り返す。
「…………!」
ヒュッとゼッルの風を切った蹴りをライは紙一重で躱し、それによって肩の近くに来たゼッルの足を掴み──
「ほらよっ!」
「……ッ!」
──腕を振るい、そのまま投げ飛ばした。投げ飛ばされたゼッルは大地を抉り、空気を巻き込みながら吹き飛ぶ。
そのまま加速し続け、建物を砕いて風穴を空けながら進み遠方で粉塵を巻き上げる。
「よし……っと……!」
その方向を確認し、ゼッルのあとを追うライ。
投げ飛ばしておいて自分で追うというのもあれだが、気にする事は無いだろう。要はダメージを与えられれば良いのだから。
「クソ……! ポイポイポイポイと……俺は何回投げ飛ばされたんだ?」
「あ、ワリ。数えてなかった」
更地から吹き飛び、建物を砕きながら様々な建物がある場所まで来たゼッルだが、ライは直ぐに追い付いていた。
ゼッルは仰向けで愚痴を言い、それに返すライは茶化すように話す。
「今のはただの愚痴だ。数をいちいち聞く訳無えだろ」
そんなライを見たゼッルは両手を頭の上にある地面へ着け、跳ね起きをして立ち上がった。
「ったく……テメェはの身体は不死身の肉体か何かか……? 俺は見ての通りボロボロ……っつー程では無いにしろ、それなりにダメージを負っているぞ? 対するお前は無傷に等しい。……強いて言えば泥や砂で汚れているくらいだ」
そして全くダメージを受けていないかのようなライに対し、苦笑を浮かべて話す。
ゼッル自身は吹き飛ばされ建物を砕きながら此処まで来たので中々にダメージを負っているが、ライはダメージを受けていないように見えたのだ。
「オイオイ? 俺だって全くの無傷って訳じゃねえぞ? それなりに疲れている」
その言葉に対してライは、自分もそれなりに疲労が蓄積しているとアピールする。ゼッルは肩を竦め、ライへ言葉を続けた。
「疲れているだけの状態を無傷って言わずして何て言うつもりだよ……。テメェは本当に頑丈過ぎるからな……」
「へえ? そうかい。それは悪かったな(ま、俺だけの力じゃないけど……)」
内心を隠すように軽薄な態度でゼッルへ話すライ。
自分の力では無く、魔王(元)の力で魔術などが効かないのだが、ライもライで思うところはあるらしい。
「さあ、続きと行こうか?」
気を取り直し、戦いに集中しようと考えるライはゼッルにクイッ、と手を動かして挑発するように言う。
「ッハハ……ああ、そうだな……。愚痴を呟いても意味無え……さっさと勝負を決めなきゃな……!」
挑発に対し、敢えて答えるかのようにザッと構えるゼッル。ライも構えてゼッルの様子を窺う。
「「………………!!」」
──刹那、二人は大地を踏み砕き、それと同時に加速する。その二人が進む速度は、もはや音速を超越していた。
ライは魔王の脚力、ゼッルは加速魔術。それぞれが成す自身の速度を上げる術を使っているのだ。
「「ほーら……」」
ライとゼッルは互いに脚を後ろへ持っていき、
「「よっとォ!!」」
そのまま回転して蹴りを放った。二つの脚はぶつかり合い、それによって周りの建物が吹き飛んで消え去る。
「オイオイ……俺の街を完全に破壊する気か? 流石に支配者が気付くだろ……俺も破壊している一人だが……」
「そうか? まあ、支配者に気付かれてもそれは別に良いな。街が消えたら再生の手伝いくらいはしてやるよ」
互いに脚を合わせた状態で静止して話すライとゼッル。それだけ交わし、直ぐに二人はその場から飛び退いた。そして跳躍の衝撃で残りの建物も塵と化す。
レイ、フォンセ、リヤン、キュリテとジュヌード、スキアー、チエーニの戦いもそれなりに街を破壊していたが、それらとは比べ物にならない勢いで"イルム・アスリー"が砕けていく。
「……つーか……もう壊れていない所を探す方が難しいんじゃね? それくらい酷い有り様だな……。今までも何人かお前みたいな奴が居たけど……これ程被害が出た事は無かったぞ?」
肩を竦ませ、ゼッルが苦笑を浮かべた呆れ顔でライに言う。今までも街に攻めて来た者は居るらしいが、今回の被害がゼッルの知る限り最大級の被害との事。
ライは辺りを一瞥し、砕けた街を眺めたあとゼッルに返す。
「そうなのか? ……まあ、勝負が中々決まらねえし、長引けば長引くほど被害が多くなるのは必然的だしな。仕方の無い事だろ」
うんうん。と腕を組み、頷いてゼッルへ話すライ。ライとゼッルクラスの者が戦えばその余波だけで大きな被害を被る。当然だろう。一挙一動が地殻変動、天変地異を引き起こす程の実力なのだから。
「まあ……そうだよな……!」
そしてゼッルはライに向けて返すと同時に片手を突き出し、灼熱の炎を放った。その炎は空気を焦がし、熱がライの肌に感じる程のモノである。
「……! またか」
それを確認したライは直ぐに手で扇ぎ、その炎を消し去った。炎は火の粉を散らして風に吹かれて消え去り、地面に落ちた欠片もライによって踏み消される。
「ハハ、悪いな。これくらいしか思い浮かばなくて……よ!」
次の瞬間、ゼッルはライの近くまで来ていた。ライが炎を消している間にゼッルはライの近くへ来ていたのだ。そんなゼッルは炎の加速で速度を上げた回し蹴りをライへ繰り出す。
「……それは嘘だろ」
「ああ。まあな」
そしてライもゼッルに対して攻撃を放った。ライとゼッル、二人の二つは再びぶつかり合い、それを受けて舞い上がった粉塵が辺りに広がる。それから暫く、その後地面に降り注いだ。
「まあ確かに……戦闘において一番手っ取り早い方法はこれだけどな?」
「……だろ?」
ライが言い、ゼッルが返し、大地が粉々に粉砕される。
一瞬でそれらの事柄が起こり、一瞬でそれらの事柄が収まったのだ。最早それは、常人では目で追う事の出来ないであろう鬩ぎ合いだった。
刹那の時間に起こった出来事により舞い落ちる砂埃。それ降り続ける様子を眺めていたライは、
「……だが……その方法が幾ら手っ取り早くとも……長引くのは頂けない気がしてな……そろそろ勝負を終わらせるべきだと俺は思うな……アンタはどうだ……?」
唐突にゼッルへ向かって言う。
ライよ言った言葉、"そろそろ勝負を終わらせる"。これが意味する事はつまり──
「確かにな……これ以上続くと街を再生させるのに時間が掛かりそうだし、戦闘の行方が分からねえ……。そろそろ決着をつけても良さそうだな……?」
──そう、そのままの意味。今行っている戦闘を終わらせるという事だ。
ライもゼッルも味方の誰がやられ、敵の誰がやられているか分からない。
つまり二人は、今の勝負をさっさと終わらせて味方の元へ向かった方が良いという考えなのである。
個人的な勝負に勝とうと、全体の戦闘は終わりを告げないのだから。
「……じゃ、俺が仕切るが……互いに出せる最大の攻撃をぶつけようか?」
「ああ、分かった。(まあ、魔王の力を最大にしたら世界がヤバいからな……五割くらいで勘弁してくれや……)」
シメになりうる事、それは互いの最強技をぶつけ合うという事。ゼッルがその事を提案したのだ。ライは頷いてゼッルの言葉に返したが、本気を出す事はまだ出来ない為全力は出さないと魔王(元)に告げる。
【オーケー、オーケー! 前までは五割も出せなかったんだ。俺は全然構わねえぜ!】
ライとゼッル。ライと魔王(元)。全者の利害が一致し、ライとゼッルは十メートルほど距離を取る。
ライとゼッルは向かい合い、互いに両手をフリーにして何時でも行動できるような体勢になった。
「じゃあ……」
「……やるか」
ザア、と風が吹き抜け、ライとゼッルの髪がフワリと揺れる。辺りには砂や塵が舞い上がり、それが風にまかれて消え去った。
カラカラと建物の欠片が転がり、瓦礫の山からカツンという音が響いた。
「「………………!!」」
次の刹那、ライの身体全体に漆黒の渦が纏わり付いてライを包み込んだ。ライの身体では血が熱くなり闘争心が駆り立てられ、ゼッルの両手には大量の魔力が生み出された。
──そして両者が纏った力。先にに動き出したのはゼッルの方だった。
「"魔王の魔術"……────」
【……お、あの技使えるのか?】
ゼッルが魔術を唱えてる途中であるその時、何の前触れもなくそれを聞いた魔王(元)が言う。
(……? 何だ……? 知っているのか?)
それを疑問に思ったライは魔王(元)に尋ねた。魔王(元)の反応から、今ゼッルが行おうとしている事が何かを知っているようだったからだ。そんな魔王(元)は笑っているかのような声音でライに返す。
【ククク……ああ、よく知っている。……つーか……『俺の技』だ。……俺がまだ現役だった頃に暇潰しで近くの惑星を破壊する遊びをしていてな。俺の出身も魔族の国だからよ。恐らく俺の技が伝わっていたんだろ】
(……へえ?)
魔王(元)は、昔に使っていた自分の技が伝わっていたと言う。確かに此処は魔族の国で、そこ出身の世界を支配していた魔王(元)の技なら伝わっていてもなんら不思議ではない。
寧ろ伝わっていない方が不自然だろう。なのでライは魔王(元)へ最も気になった事を尋ねる。
(じゃ、あの技の威力は知っている訳か。……ならお前……惑星を破壊しながら暇潰しをしていたって言ったが……同じ星を砕く力でいうと、いつぞやのシュヴァルツとどっちが高い?)
それはその技の威力の事だ。
魔王の力は、魔王(元)を纏っていなくとも、大抵の技は無効化する。それこそ、即死術や自分の意識に干渉する技だとしてもだ。
言ってしまえば、殴る・蹴る・叩く・撃つ・斬る以外の技は効かないという事。それに加え、魔法・魔術で創られた剣や刀、銃弾ならばそれも無効化する。
そんな魔王の力だが、自分の力を上回る者の攻撃や星を砕く一撃となれば流石にダメージを受けてしまうのだ。
それでもライが致命傷にならない大怪我をする程度だがそれはさておき、今ゼッルが繰り出そうとしている技が星を砕くレベルあればライがダメージを受けてしまう為、魔王(元)に同じ星を砕く技としてシュヴァルツが使った技とどちらの破壊力が高いのか聞いたのだ。
【そうだな……。まあ、アイツが俺の技をどれ程再現しているかによるが……基本的には俺の技の方が他の星を砕く系統の技より強いだろうな。全盛期ならその気になれば多元宇宙を含めた全宇宙を軽く崩壊させる事も容易に出来たし。やらなかったけどな。流石に】
(……………………へえ?)
相変わらずの態度で答える魔王(元)に対してライは、ならその魔王を倒した勇者って何者だよ? と内心で思う。
が、それを魔王(元)には言わなかった。そもそも、魔王(元)にはライの考えている事が筒抜けなので言わずとも考えるだけで伝わってしまうのだが、魔王(元)が気にしていないのでまあそれは良いだろう。
【まあ、それはそれとして。……要するに再現度で威力が分かるが、基本的には俺の技の方が上……って事だ】
(オーケー……。……こりゃまた腕一本は覚悟しなきゃな……)
そして魔王(元)とライの話が終わる。結構な時間話していたようにも思える会話だが、先程はライと魔王(元)のみに干渉出来る空間の為、現実の時間でいうと一秒も経過していない。次の刹那には、ゼッルがその技を放出した。
「"星破壊"!!!」
──それは形の無い、黒い光線。
形は無くともその光線に集まるエネルギーは計り知れないモノがあった。
速度は第五宇宙速度を超越しており、亜光速。という奴だろう。
「成る程……これは……」
ライはそれを見て高速で思考を奔らせる。通常の者ならば亜光速で近付いてくる物体? を前には為す術無く射抜かれるだろう。
しかし、魔王の力を五割纏っているライには亜光速を前にしても尚、少しは考える余裕があった。
(さて……どうするか……避けたら避けたで星が砕ける可能性がある。……殴り付けたとしても……シュヴァルツの攻撃で腕一本が砕けたんだ……それ以上の破壊力となると……身体の半分が砕けるかもしれないな……今回はあの湖もないし……やっぱ避けた方が良いか……?)
思考を巡らせるライ。
今回の攻撃を受けてしまえば気を失ってしまう可能性が高く、最悪死に至るだろう。
だからと言って避けたとしてもこの世界に多大なる影響を及ぼしてしまうかもしれない。
(……となると……片腕を犠牲にして軌道をずらし……あの黒い光線を宇宙に放つ……ってのが一番合理的? で、特に影響を及ぼさない可能性があるな……良し)
色々と起こりうる可能性を考えていたライの思考はある結論に辿り着く。なのでライはその光線を──
(……まあ、それも面倒だし……いっその事……『直接殴ってその破壊エネルギーを消し飛ばすか』……)
──避ける訳でも、宇宙に放つ訳でも無く──『直接殴り消す』事に決めた。
「…………」
そう決めたライは体勢を低くして光線を視野に入れる。ただただ黒く、光を吸収する漆黒の光線。無論、その光線は止まる事無くライに向かって突き進む。
ライは片腕の拳へ握力を全て注ぎ込む程強く握り締め、低くした体勢を捻り──
「オッッラアアアァァァッッッ!!!」
叫び声と共に、光線へ拳を放った。
当たり前と言うべきか、それによって今までの攻撃とは比にならない程の衝撃と轟音と高熱が"イルム・アスリー"の街全体に大きく伝わる。
星を砕く光線と全てを砕く魔王の力がぶつかり合い、その衝撃は大地を粉砕して砂埃と土煙が空中に舞い上げる。
それによって生じた岩石と粉塵が空中を漂い、少し経ったあと熱と衝撃に追われて気化した。
*****
──それからその場は暫く静まり返っていたが、その少し後に起こっていた視界を無くす程の煙が晴れてくる。
そこには──
「…………」
「…………」
──その衝撃によってボロボロになっているライとゼッルが居た。
星を砕く光線を殴り付けたライはまたもや片腕が爆ぜており、赤黒い血が滴っている。一部の指があらぬ方向を向いており、完全に折れているだろう。
対するゼッルは、ライが放った拳の衝撃により、頭、胴、手と足と、至るところから鮮血が流れていた。五体満足だったのは幸運と他言いようがない。
星を砕く光線が爆発しても尚、半径数キロ程度しか吹き飛ばなかった様子を見ると、打ち勝ったのは魔王の力だろう。
「…………!!」
「…………!!」
次の瞬間、互いにボロボロであるライとゼッルは互いを一瞥し、大地を踏み砕いて加速する。
「ダラァ!!」
「オラァ!!」
ゼッルが肉体強化した拳を放ち、ライは爆ぜた方の腕でそれを受け止める。
その衝撃でライとゼッルの拳から鮮血が噴き出し、更地だった場所に再び砂埃が舞う。
「これで────」
「────終わりだ!!」
その最後。二つの拳が激突し、轟音と共に粉塵が舞い上がり、次の瞬間にはそれが消え去った。
「…………どうやら……」
「……決まったみたいだな…………」
ヒュウと静かに風が吹き、バタン。と力尽きて静かに倒れる──ゼッル。
そしてその瞬間、片腕の犠牲のみで事なきを得たライはゼッルとの対決に勝利したのだった。