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六百九十一話 レイvs大地の女神

「見つけましたよ。レイ!」

「……デメテル……さん……!」


 ライとヘルメスが交戦する中、レイとデメテルが出会っていた。

 レイの周りにはデメテルの部下である兵士達が倒れており、レイの手には鞘に収まった状態の剣。その事から、レイは剣を鞘に収めたまま兵士達を打ち倒したという事が窺えられた。兵士達も意識を失い傷付いてはいるが、致命傷になる傷は無い。その慈悲にデメテルは奥歯を噛む。


「やはり優しいのですね。レイ。私の部下を殺さずに生かして下さるとは」


「当たり前だよ。侵略者って言っても、殺戮集団じゃないから。……まあ、時と場合次第ではね……」


 時と場合次第では。その先に続く言葉は言わなかった。後は察してくれという雰囲気を醸し出している事からそう言う事なのだろう。

 デメテルもデメテルでその手の行動には理解がある。特にレイの様な性格の者の行動はよく分かっているつもりだ。故に、敢えて黙認した。


「そうですか。しかし、今回の戦いに置いてそれとこれは別問題。容赦はしません」


「……うん、分かったよ。デメテルさん!」


 デメテルが周りに植物を展開させ、何時でもレイを拘束出来る態勢となる。対するレイもデメテルが相手では鞘に収まったままの剣では勝てない事を知っている。

 故に、勇者の剣を鞘から抜いて体勢を組み立てた。


「「行きます!」」


 互いに構え、レイが駆け出す。デメテルは後方へ飛び退き、植物を操って樹の槍をけしかける。それらを勇者の剣の一薙ぎで斬り捨て、一気に距離を詰め寄った。


「かなりの威力を誇る剣……いえ、レイさん自身の力も相まってこの威力を生み出している訳ですか」


「やあ!」


 横に薙ぎ、樹ごとデメテルを狙う。デメテルはそれを避け、レイの剣について考察しつつ行動を起こす。

 レイの剣は、レイが旅立った当初から森一つを一薙ぎで消し去る力を秘めていた。だが、デメテルの力は自然の森よりも圧倒的な強度を誇る。それこそ、山河を一刀両断する力でも足りない程だ。

 なので当初よりも遥かに強大な力となっているのはレイ自身にも言える事だった。いや寧ろ、剣を操るレイが強くなればなる程にその威力も飛躍的に上昇している。勇者の剣の強さはレイの強さに比例しているという事だ。


「けど、それが私の敗北する理由にはなりません……!」


「……!」


 生き物のように動く木々がレイを狙う。上下左右斜めとあらゆる方向からけしかける木々。植物も生き物であるが、この様な動きをする植物はそうそう無いだろう。

 レイは勇者の剣を薙いでそれらを斬り伏せるが、デメテルの力からなる木々。その破片も動いてレイを狙う。


「じゃあ、二つ!」

「……!」


 迫り来る木々に向け、勇者の剣のみならず天叢雲剣あまのむらくものつるぎを取り出して横に一閃。森を一薙ぎで砂漠に変える天叢雲剣はデメテルの植物にも有効だった。

 レイは勇者の剣に天叢雲剣の二刀流となって構え、植物や木々を切り裂きながらデメテルに迫る。


「天叢雲剣……!? あれは人間の国にある、一つの国の国宝の筈……! 何故貴女がそんなものを……!?」


「人間の国にある国……? よく分からないけど、この剣は戦利品ですよ。八岐大蛇ヤマタノオロチを倒した時のね……!」


八岐大蛇ヤマタノオロチを倒した……? いえ、確か八岐大蛇ヤマタノオロチはその国の神が倒した筈……」


 天叢雲剣の存在に驚愕するデメテル。どうやら人間の国にある、別の国の物らしいがレイの言った事を聞いて益々(ますます)疑問が増えたような顔となる。

 レイはよく分からないままだが、確かに天叢雲剣があるのはおかしいと話した事もあった。なのでその疑問はもっともなのかもしれない。


「どうやら貴女には他にも色々と聞いた方が良さそうですね。レイ」


「……っ」


 少々取り乱したが、この世に起こらない事は無い。そう割り切ったデメテルは平常心を取り戻してレイに構える。その気迫は先程までと比にならず、思わずレイも後退る。

 しかしグッと力を込め、デメテルに向けて構え直した。


「聞くと言っても、私もよく分かりませんよ」

「それは捕らえた後で聞きましょう」


 樹が迫り、それを切り落とす。刹那に無数の植物が現れ、レイは舞でも舞っているかのように滑らかな動きでそれらをいなし、一歩踏み込んでデメテルに斬撃を飛ばした。

 当然それは避けられるが、一歩踏み込んだ手前そのまま駆け出し、左右から挟むように剣と刀を振り切る。


「"樹の檻(デンドロン・クルヴィ)"」

「……! やあっ!」


 デメテルは跳躍してそれをかわし、上と下から全方位を囲む木々の檻を創造してレイを閉じ込める。それをレイは一瞬で切り裂き、脱出して更に距離を詰めた。


「……っ。"樹の拘束デンドロン・シンクラティシ"!」


 対し、近寄るレイに向けて樹の拘束術を放つ。樹はレイを絡め取るように迫り、レイは拘束されぬよう機敏に動いて逃れる。

 正面から来るものを跳躍でかわし、その樹の上に立つ。左右から来るものをその場でしゃがんで避け、更に攻め来る樹を背面飛びで避けた後、両手の刀剣をもちいて周りの木々を切り裂く。流れるように優雅な動きで避けたレイはそのまま着地し、デメテルの眼前に迫った。


「はあっ!」

「"樹の守護デンドロン・フィラクス"!」


 そのまま斬り付けるが、デメテルは樹の守護をもちいてそれを防ぐ。しかし即座に切り裂かれ、デメテルの顔を掠った。その切り口から鮮血が流れ、自身の血を一瞥した後距離を置いて分析する。


「どうやら私の樹と貴女の剣は相性が悪いみたいです。どんなに護ろうと、一瞬で切り裂かれてしまいます」


 物理的な拳や足。遠距離からの魔法・魔術と違い、出した瞬間に切り裂かれる剣。ライのような一部を除けば拳や足で砕かれる事は少なく、炎を受けても暫く形が残るので次の行動まで猶予がある。

 しかし刀剣の場合、通常の刀剣は兎も角レイの持つ刀剣となると即座に斬られて考える時間も少なくなってしまう。デメテルはそれを問題視する。


「どうやら、私の天敵になりうる存在は貴女のようですね。レイ」


「天敵……」


 デメテルの天敵、それはレイであるとデメテルは分析の結果理解した。天敵という言葉を聞き、レイはデメテルに告げる。


「天敵なら、貴女にとっては最悪の相性でも私にとっては最高の相性って事だね……!」


「ええ。そうなりますね」


 相性の良い相手。それは好都合な存在である。デメテルもレイを天敵と認めている事から、レイから見た自分の立場を分かっている。

 だが、相性の良し悪し程度ではそこまで大きく戦況は変わらないだろう。それ程の実力を秘めているからこそ、人間の国の幹部という立ち位置に居るのだから。


「なので、手の内を見せ切る前に貴女も捕らえましょう」


「貴女……"も"? て事は……誰かが捕まったって事……!?」


 デメテルの言葉を聞き、嫌な考えがレイの脳裏をよぎる。その反応を見、デメテルは言葉を続けた。


「ええ。エマ、フォンセ、リヤンの三人を捕らえました。いずれも強敵でしたが、この通り私は無事です。さて、貴女も降伏してください」


「……っ」


 あの三人が捕まった。その事はレイにとって衝撃的だった。しかし、だからと言って諦める訳にもいかない。

 デメテルは貴女"も"降伏してくださいと言ったが、恐らくエマたちは降伏した訳では無いだろう。デメテルは揺さぶりを掛けてレイをあまり傷付けぬ方向へといざなっている。それを理解しているからこそ、レイも退く訳にはいかなかった。


「まだまだ……! 三人が捕まったとしても、まだライと私が居る! 貴女一人、なんて事は無い!」


「私一人……フフ、他にも居ますよ。幹部という存在がもう一人」


「……! それでも、丁度二人と二人になるよね……!」


「退きませんか。なら、仕方ありません」


 このままでは絶対に退かないだろう。レイ自身も絶対に退くつもりはない。デメテルは会話を終わらせ、数メートル前に立つレイに向けて再び樹を操った。


「樹しか使えないの? 貴女、一応大地の女神だよね……」


 先程から行うそれを見て、大地の女神という割りには樹しか使わない事を疑問に思うレイ。デメテルはピクリと反応を示し、頷いて言葉を返した。


「はい。私は大地を操る事も可能です。けれど、幾分調整が難しいので勢い余ってあやめてしまう可能性もあります。なので比較的安全に捕縛を完了出来る植物のみで戦っているのです」


「今はまだ大地の力を使う気は無いみたいだね……!」


 デメテルは大地の女神故に、大地を操る事も可能。しかしそれは威力が強過ぎるので使わないらしい。

 聞かれたからと言って、態々(わざわざ)自分の能力を明かした事もその証拠だ。これから使うのなら自分が不利になる情報は与えない。穏やかなデメテルも幹部としてそのくらいの事はわきまえている。本当に植物のみでレイを捕縛しようと考えているようだ。

 実際、エマ、フォンセ、リヤンの三人が捕まったのなら大地の力を使わずに捕らえたという事。その事からするにデメテルは予想よりも遥かに強敵だった。


「なら、お構い無しに攻めるよ!」

「構いませんよ」


 迫る木々を一瞬で切断し、デメテルの眼前に迫る。それをデメテルは複数の大樹で受け、斬られた樹の欠片も合わせて無数の樹がレイの拘束を試みる。その木々も斬り捨て、動く前の欠片を踏み越えて剣を振るった。


「やはり後隙が小さい……攻撃は何とか防げるとして、狙える範囲が狭くなってしまいますね。それに、欠片で一瞬視界が見えにくくなってしまいます……」


「範囲って……狙いは始めから私だけでしょ……まあ、デメテルさんが牽制を仕掛けたり目眩ましを行えないのは私にとって利点だけど……!」


 けしかける技は互いに防げる。しかし、行動の速さと自身の樹による視界の狭小。それらが相まりデメテルは戦いにくそうな様子だった。

 だが、地の利が相手にある街中の戦闘。そのチャンスにあやかるという事に越した事は無いだろう。


「けれど、ただ見ているだけでは何も起こりませんね。不利を承知でけしかけます!」


 当然、デメテルも不利という理由だけで諦めるような行動は起こさない。動きに幾つかの癖があれば、疲労も存在している。かなりの力を秘めているとしても、レイは人間だ。

 それらの事からするに、この勝負は体力の問題が大きく関与する事になりそうである。なのでデメテルは手っ取り早く相手を疲れさせる為、無数の木々を放出した。


「……っ。この量……多い……! けど、デメテルさんも疲れる筈……!」

「ええ。承知の上です。どちらの体力が持つか、尋常に勝負!」


 百、千を超える数の木々を切断していくレイ。流石に量が多く対象し切れない様子だが、二つの刀剣を振るう腕と全身の動きは止めなかった。

 正面の樹を剣で縦に切り裂き、左右の樹を横に薙いだ刀の一閃でいなす。下方や上方向と様々な方角から攻められるそれを防ぐだけでも大変だが、驚異的な動体視力と身体能力でそれら全てを受け流す。


(見える……次の場所が……身体が自然に動く……来た、いつものやつ……!)


「当たらない……!」


 そしてレイに起こった、時折起こる覚醒。今までは覚醒しても理解し切れなかったが、今回は自分が変わったと実感している様子だ。その動きの変化にデメテルも追い付けず、レイは瞬く間に数千の木々を文字通り切り抜けて懐に攻め入る。


勇者の剣(この剣)天叢雲剣あまのむらくものつるぎも、両刃刀です。峰打ちは出来ないから、堪えて下さい!」


「……ッ!」


 そのまま二つの剣を振るい、デメテルの身体を切り裂いた。強靭な肉体なので衣服は切れても両断はされなかったが、確かなダメージが入ったらしく斬られた箇所から出血する。

 元々両断するつもり。つまり殺すつもりは無い相手。生きている状態でダメージが入れば上々だろう。


「手応えあり。……やあ!」

「カハッ……!」


 確かな手応えを覚えたところで剣を持ち直し、柄の部分でデメテルの腹部を殴り付ける。それによって口から空気が漏れ、デメテルの身体は遠方へと飛ばされた。

 そこに向けて複数の斬撃を放ち、木々と大樹をバラバラに散らす。


「やったの……かな……」


 先程の攻撃に引き続き、手応えはあった。恐らくデメテルは死んでいないだろう。元々あやめるつもりもない。なのでせめて意識を失ってくれれば良いのだが、


「やられましたね。かなり痛く、意識を失うかと思いました」


「……やっぱりそうだよね……」


 そこまで甘い現実というものは存在しないのが世の常である。

 身体は傷だらけで衣服もボロボロ。所々に出血の痕が見え、傍から見れば満身創痍の状態だった。だが確かな闘志は宿っている。


「やはり……手加減は出来ないのでしょうか。前言を撤回するようで情けありませんが……大地の力を使いましょう……」


「始めから、その覚悟は出来ているよ……デメテルさん!」


 このままではマズイ。そう判断したデメテルは前言撤回して木々のみならず大地を操る。しかしレイは、デメテルのその力を使わないという言葉を聞いた時から既に覚悟は終えていた。万全ではないにせよ、やる気はたぎっている状態だ。

 ともあれ、レイとデメテルの戦い。その戦闘は最終局面へと差し掛かっていた。

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