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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第四章 科学の街“イルム・アスリー”
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六十七話 リヤンvsジュヌード・決着

(ここは……?)


 完全に明るくなったリヤンの視界。

 リヤンは何故自分が仰向けで倒れているのか、一瞬理解出来なかった。


「……! あ、そうだ……!」


 そして、リヤンは自分が倒れている理由を思い出して起き上がる。


「──ッ!?」


 ズキッ、気が付くと同時にリヤンの身体へ強烈な激痛が走る。

 先程までは意識が戻ったばかりで痛みや思考が鈍かったが、今は何がどうしてこうなったか完全に思い出した。

 しかし、身体に走る痛みによって思わず涙目になってしまうリヤン。だが、どういう訳か折れた筈の首には違和感が無くなっていた。

 それでも身体中が強烈に痛むので何とか身体を起こす事は出来たが、それ以上動かすのは難しそうだ。


「よう? 起きたか?」


「…………!!?」


 そして、直ぐ近くからジュヌードの声がする。声の方向から瓦礫の上だ。リヤンは痛む身体でそちらを見、ジュヌードを睨み付ける。


「ククク……言ったろ? 遊びながら殺す……ってな? ……だから……『先にそいつらをやっちまったよ』……?」


「…………え?」


 リヤンはジュヌードの言葉を聞き、辺りを見渡す。

 そこには──


『グルル……』

『ヒヒィン……』

『クゥーン……』

『グオオ……』

『…………』


 ──フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグ、イフリート、タキシムが見るに絶えない姿で横たわっていた。


「……ッ!? ……み、皆……!!」


 その光景を見た瞬間、リヤンの目から涙が零れ落ちる。

 恐らくフェンリルたちは、気絶しているリヤンを庇う為にボロボロになるまで戦ったのだろう。


「まあ、トドメは刺してねェ……トドメを刺すなら……『お前が起きてからの方が面白ェ』だろ……?」


「………………ッ!!」


 ジュヌードが言い放った言葉に、大きく反応したリヤンは痛みを忘れたかのように立ち上がる。


「お? どうした? イラついたか? ククク……もっと寝ていろよ……これからが面白ェんだからよォ……」


 そんなリヤンを一瞥し馬鹿にするようジュヌードはゲラゲラと品無くあざわらう。


「……私は……貴方を倒す方法を見つけた……! だからもう、貴方にやられない……!」


 それを無視するリヤンはジュヌードの方を向き、力強く言い放った。それを聞いたジュヌードはピクリと反応し、瓦礫の上から飛び降りる。


「……ほう? 俺を倒す……? ……やられない……? ククク……笑わせてくれるなよ。テメェはそこに転がっている幻獣ものが無けりゃ満足に戦闘を行えねェだろ?」


 飄々とした、余裕の態度を見せるジュヌード。リヤンは気にする事無くフェンリルたちに近付く。


「お別れの挨拶でもしてくるのか?」


 クックッとわらいながらリヤンに言うジュヌード。

 リヤンはまたジュヌードを無視し、フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグ、イフリート、タキシムに耳打ちをする。


「……? 何だ……? そいつらと意思疏通出来るのか……?」


 その様子を見たジュヌードは呟くように言う。その表情には少し笑みが無くなり、疑問に思うようなモノとなっていた。

 リヤンはジュヌードの方を振り向き、ジュヌードに向けて言葉をつづる。


「この子たちは……本当の意味で私の家族……。……だから、この子たちの力を借りて貴方を倒す……!」


「……家族ゥ? そんな薄汚ェ狼と馬と何かと犬がか? 笑わせるな! 所詮そいつらは使い勝手の良い道具だ!」


 リヤンの言葉に返すジュヌード。色々言っているが、リヤンは敢えて言い返さなかった。


「……貴方は家族によって倒される……!」



 ──次の刹那、リヤンの身体に何かが纏わり付く。



 それは煙のような、白い炎のようなモノで明るい光を放っていた。


「……? 何だ……? それは……?」


 飄々とし、軽薄な笑みを浮かべていた態度を一変し、訝しげなな表情を浮かべるジュヌード。リヤンはスッと目を細め、その質問に返した。


「……これは、私のご先祖様が創り出した、この子たちが持つ奇跡の炎……!」


 それと同時にゴウッと燃え上がり、辺りは目映い光に包み込まれる。

 その光は先程の隕石とは非にならず、優しく、神でも降臨するのではないかのような神々しい光だった。


「……まさか……、『幻獣・魔物の力を纏っているのか』……!?」


「私の家族だから出来る……!」



 そう、リヤンは──フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグ、イフリート、タキシムの力を纏ったのだ。



 これは、神の子孫という可能性が高いリヤンだらこそ成せる技。

 かつて神によって産み出された幻獣・魔物。それはつまり、神の一部という事だ。その力をリヤンはその身に纏う事が出来るのである。


「……クク……ククク……そうか、生き物を操るのみならず、それを己の力とする……とんだ化けもん能力じゃねェか……」


 その様子がおかしくなり、思わず笑みを溢すジュヌード。次の瞬間にジュヌードは笑みを消し去ってリヤンの方を睨み付け、言葉を続ける。


「……だが……所詮は五匹纏めて掛かってきても俺に勝てなかった力……! なら、お前がそれを纏おうと、俺に勝てる訳のねェろうがァ!!!」


 刹那、大地を大きく踏み砕き、粉塵を巻き上げながら一気に速度を上げてリヤンに向かうジュヌード。

 リヤンはそれを確認し、


「この子たちの力は……、貴方程度に負けない……!!」


 身を捻って避ける。


「ククク……そうか。お前は俺を見切る事が出来るんだったな……まあ、どうでも良いか?」


 勢いがそのままでリヤンを通り過ぎたジュヌードはリヤンの言葉には返さず、自分の事を話す。

 そして再び姿を消すような速度で動き、リヤンとの距離を詰めた。


「どうせテメェを殺すんだからなァ!!」

「貴女の動きは見えている……!」


 その時、そんなジュヌードに向かって炎を繰り出すリヤン。

 フェンリルとイフリートの炎だ。ブラックドッグも炎を出せると謂われているが、今のリヤンにはブラックドッグの炎を出せないので恐らくブラックドッグの炎では無いようだ。

 しかしそんな噂が広がっているので、中には炎を出せる個体もいるのだろう。


「だーッ! クソッ!!」


 それはさておき、リヤンが放出した炎はジュヌードを捉えた。

 ジュヌードはもがいて炎から抜け出し、後ろで倒れているタキシムに手をかざす。


「テメェが一番弱ってんな……それなら今のアイツはテメェを支配していない筈だ……力は借りているようだけどな……だが、俺はテメェが弱って射ようが構わねェ……さあ、俺の為に戦え!!」


 ジュヌードが考えている事、それは先程リヤンのめいをタキシムだが今は操られていないという事である。

 一度リヤンも気絶した為、リヤンの術が途切れたのだろう。だが、ジュヌードの術も途切れている。なのでジュヌードは再び操ったのだ。


『…………!』


 大地を蹴り、操られたタキシムはリヤンの元へ向かう。


「……タキシム……キシム……」


 そしてリヤンはそんなタキシムの方を見、名前を付けたあとタキシムへ微笑んで話す。


「……そうだね……。キシムは……怨みを持って死んじゃった人なんだよね……なら……」


 リヤンは微笑みながらタキシムへてのひらを向け、一言。


「大丈夫。アナタはわたしが安息の地に連れていってあげるから……」


 リヤンは、タキシムへ安息の地に連れて行くと約束した。


『…………!?』


 そして、それを聞いたタキシムの身体が光出す。



 ──タキシムは絶対に祓うことが出来ない亡霊、そのタキシムを成仏させるには、神があの世へ連れていく必要がある。



 そう、神の子孫であるリヤンの言葉によりタキシムは長い長い呪縛から──ようやく抜け出せたのだ。


『……………………』


 タキシムは何も言わなかったが、その表情には確かな安らぎがあった。

 タキシムを動かしていた"怨み"という感情は、リヤンによって払われたのだ。


「何ィ!? タキシムが成仏しただと!? それが出来るのは……神のみ……!! つまり、つまりあの女には……!!」


 ジュヌードは成仏したタキシムを見て驚愕の表情を浮かべる。そして、ようやくリヤンが持つ底力に気付いた。


「勇者に殺された筈の神が……復活したのか……? それとも輪廻転生がヤツにも作用したのか……? どちらにせよ……アイツを生かしていたら……世界を滅ぼそうとするかもしれねェ……!! ……ぶっちゃけ世界はどうでも良いが……『いずれ俺が支配する』夢を……!!」


 そう、ジュヌードは前ののゾフルのように……『自分が世界を支配したい』タイプの者なのだ。

 幹部の側近には上を狙う者が居る事がある。必ずという訳では無いが、そういった思考の持ち主が現れるのだ。


「────ッ!!! させるかあああァァァァァァッッッ!!!!!」


 勝手に思考を奔らせ、自分に被害が及ぶと考えたジュヌードは、叫び声をあげながら自分の為にリヤンへ向かう。


「……!!」


 その迫力に思わず肩が竦ませてしまうリヤンだが、勇気を出してジュヌードへ構える。


「神も仏も居ねェ!! 血で血を洗うような……!! かつて魔王が支配していた世界の方が面白ェ筈だァ!! 殺しという娯楽の為に!! テメェをなぶり殺し……!! 惨殺……!! 虐殺……!! あらゆる方法で殺してやらァァァァァァ!!!!!」


 充血した目が在らぬ方向を向いており、喉から血が出る程叫ぶジュヌード。

 神の危険性を知っているからか、まるで思考が停止しているようだ。

 何がそんなに彼を突き動かすのか知らないが、放って置いたらヤバいという事は決定事項なのでリヤンは今この場で何とかする事にした。


「そんな世界……! 間違ってる……! そんな世界より……ライが考える世界の方が絶対に良い……!!」


 リヤンは怯えながらジュヌードに言い、フェンリル、ユニコーン、ブラックドッグ、イフリートの力を使う。


「まずはユニの脚力!」


 刹那、大地を踏み砕いて跳躍するリヤン。ジュヌードは一旦止まり、上を見上げる。


「次に……ハウンドの速度……!」

「……!」


 そしてリヤンは空気を蹴り、一瞬にしてジュヌードの死角へ回り込んだ。ジュヌードはリヤンを見失い、辺りを探す。


「そして、イフリート……リートの魔術……! ──"元素エレメント"……!! ……じゃなくて……"元素オンスル"!!」


 続いてイフリートの四大エレメントを放つ。

 言い直したのはイフリートの出身地の言語を使った方が良いと考えたからである。


「…………!!」


 その魔術により、炎に焼かれ、水に貫通され、風に吹き飛ばされ、土に砕かれるジュヌード。


「最後は……フェンの力と……!!」


「…………ッ!!」


 そして最後にリヤンはフェンリルの力でジュヌードを殴り? 飛ばして吹き飛ばし──


「フェンの炎……!!」


「──ッ!! クソガアァァッッ────!!」



 ──轟炎で焼き払った。



 その炎は一瞬にしてここら一帯を焼き払い、木を、建物を、大地を、空気を焦がす。

 数千、数万度に上がる炎はそれらを気化させ、全てが消え去る。


「……ど……どう……?」


 力を多く使い、疲労ひろう困憊こんぱいしたリヤンは肩で息をしながら炎を眺める。

 その炎からは。


「て……テメェ……クソ……アマがァ……!」


 全身に大きな傷と火傷を負ったジュヌードが出てくる。


「……ま……まだ……?」


 普段から戦闘を行わないリヤンの疲労は計り知れないモノで、本人には戦う気力が残っていなかった。

 にもかかわらずジュヌードが現れた。ジュヌードの方がリヤンよりも大きなダメージを負っているのだろうが、連戦する気力がもう無いリヤンにとっては生き地獄である。


「ああ……まだ……だ……」


 そしてバタン。と、静かに倒れるジュヌード。

 やはりジュヌードも体力の限界だったのだろう。

 こうしてリヤンvsジュヌードの勝負は、リヤンの勝利で終わった。



*****



 ──"イルム・アスリー"、???


 ザアと風が吹き抜け、そこに居る者の長髪が揺れる。

 彼は男性なのだが、髪の毛を伸ばしているとはどういう了見だろうか?

 いや、普通に男性でも髪が伸びている者は沢山いるだろう。特別気にする事では無い。

 それはさておき、その者は風を感じる事が出来、辺りを見渡せて一望出来る場所に立っていた。


「フフフ……駄目な奴らだなァ……。"イルム・アスリー"幹部の側近一同がこんな様子じゃ……流石のゼッルさんも負けるかァ? まあ、相手が強敵ならその方が燃えるけどな……そろそろ俺も参加するか……? ……よし、そうだな。……確か……幹部の側近を倒す事が出来ずに寝転がっている奴が居たな……そこへ向かうか? 瀕死の奴を相手にしてもつまらないが……手柄はあって損は無い……」


 誰に言うのでも無く、呟くように話す謎の男性。

 その男はヒョイッと立ち上がり、飄々とした軽率な態度で口笛を吹きながら頭の後ろに手をやって"イルム・アスリー"を眺めるように歩く。

 空を見上げ、軽い欠伸あくびを一つ。


「あ……何処に転がっているのか分からねェや……。……まあ、のんびり行きますかァ……割りとダメージが大きい奴らが多いからなァ……。……二人を除いて……」


 風の吹くまま気の向くまま、悠々自適な自由人。

 ある意味ではこういう者の方がが大物かもしれない。

 今は悪魔でゲームのような物だが、それでも一応戦場だ。にもかかわらずのんびりと歩く男。


「うーん……何処に居るか分からねェな……気配は至るところからするが……。……北か南か東か西か……」


 その者は歩みを止め、風に髪を感じ、なびかせながら気配を探る。


「一番気配が多いのは南だな……一つの気配は普通で残り四つが弱い……さっき急に一つ消えたな……。……で、その次に多い……つーか大きいのは北にある気配……まあ、その二つはまだまだピンピンしいてやがるし、二人のリーダー様だろ。……東の気配は弱いのが一つに普通より少し低いのが一つ。……自分もダメージが少し受けたんだろうなァ……。西の気配は弱いのが一つに普通が一つ。割りと圧勝したのか? ……最後に……南に弱いのが一つ……あーあれが幹部の側近を倒さず、何か牛の化け物にやられた奴だな……よし、そこへ行くか」


 その男は行き先を決め、再び口笛を吹いて歩く。

 そして、ようやく"イルム・アスリー"に全ての参加者が出揃ったのだった。

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