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六百七十九話 怪物の三姉妹

「そう言えば……こんな状況で言うのもなんだけど、何でレイとフォンセは無事だったんだ? 一旦全体を見渡したメドゥーサに二人も見られた筈だよな?」


 毒蛇が襲い来る中、それをかわしたライがレイとフォンセに石化しなかった理由を訊ねていた。今の状況で訊ねるのは変だと理解しているライだが、どうしても気になったのだろう。

 ライならば魔王(元)が宿っているので無意識でも自分に不都合な異能は無効化される。しかし二人は意図的に行動を起こさなければ防げない。気になるのも当然だ。

 再び迫る毒蛇を斬り伏せ魔術で焼き払いながら二人は返した。


「ああ。私も魔王の血が宿っているからな。生死に関わる異能なら意識が薄い状態でも無効化出来るようになっている……らしい」


「私は……ご先祖様の剣を構えていたから。多分それで石化の光が消えたんだと思う」


「へえ……」


 毒蛇を破壊しつつ、レイとフォンセの言葉に納得した。

 しかしどうやらフォンセは魔王の力に近付いているらしい。"終末の日(ラグナロク)"で成長したのもあるが、そこからの数ヵ月で更なる成長を遂げていたようだ。

 そしてレイは勇者の剣があるので構えるだけでそういった力を斬り伏せたらしい。納得はしているがイマイチ信じられない。だが、目の前で起こったのが事実。二人とも着実に強くなっているのだろう。


「……ッ。蛇じゃ敵わない……!」


 黄金の翼を広げ、空に飛び立つメドゥーサは上空で毒蛇の毒を纏めて猛毒の液体を森に振り撒く。


「それも無意味だ!」

「「私たちが行く!」」


 それをライは拳の風圧で消し去り、レイが鞘に納めたままの剣を持ちながらフォンセにかかえられてメドゥーサの近くへ移動し、そのまま側頭部に剣を叩き付けた。


「やあ!」

「……ッ!」


 剣の打撃を受けたメドゥーサは勢いよく落下し、開けた場所に粉塵を舞い上げる。

 瞬く間に周囲の粉塵が晴れ、ライ、レイ、リヤンの三人は落下地点のクレーターを囲うようにメドゥーサを見下ろしていた。


「何故、何故邪魔をするの!! 私"たち"はただ、平穏に暮らしたいだけなのに……!!」


「……"たち"?」


 あの一撃を受けてもなお意識のあるメドゥーサは流石だろう。しかし実力差があり過ぎた。強さ関係無く石化させる光も無意味な今、メドゥーサは完全に命を諦めているようだ。

 しかし呟いた気になる言葉。ライはある程度の警戒をしつつも、メドゥーサに向けて言葉を発する。


「待ってくれって言っただろ? まあ確かにさっきの俺に敵意はあったけど、話し合いで解決出来るならそれに越した事は無い。虫のいい話かもしれないけど、何でこの森に来たのか詳しく教えてくれないか?」


「……」


 ライには戦うつもりはあったので先程脅した事もあって自分が悪いと理解している。だが、訳ありなら戦う事を前提とした考えも切り捨てなくてはならないだろう。

 なのでライは優しく語りかける。しかしメドゥーサは宝石のような眼に小さな水滴を流したまま、ライを見るだけだった。


「メドゥーサ。大丈夫ですか? やはり此処も人間達の手が回っていましたか」


「私たちに安息の地は無いという事か。嫌な世の中だな」


「……! 新手か……」


 メドゥーサを見下ろしている時、空から二つの声が掛かる。メドゥーサが居るならとライも予想はしていたが、本当に居たようだ。

 つまり、これでゴルゴーンの三姉妹が揃ったという事だ。


「アンタらは……"ステンノー"と"エウリュアレー"だな?」


「へえ。私たちを知っているのか」

「いえ、恐らく書物などに書かれた文献から知ったのでしょう。御姉様」



 ──"ステンノー"とは、ゴルゴーン三姉妹の長女である怪物だ。


 かつては美しいゴルゴーン三姉妹だったがメドゥーサが怪物にされた時に抗議した事で怪物にされたとされる。


 不死であり、月の女神と謂われている。


 不死である月の女神にして、ゴルゴーン三姉妹の長女。それがステンノーだ。



 ──そして"エウリュアレー"とは、ゴルゴーン三姉妹の次女である怪物だ。


 ステンノーと同等に抗議し、同じく怪物に変えられた存在である。


 此方も不死であり、月の女神である。


 不死である月の女神にして、ゴルゴーン三姉妹の次女。それがエウリュアレーだ。



「しかし、妹に手を出されたのなら黙っている訳にもいくまい。石化の力が効かないのを踏まえれば、やはり髪の毒蛇をけしかける他あるまい」


「そうですね。見るからにメドゥーサがやられている様子ですし」


 その見た目はメドゥーサと同様に毒蛇からなる髪と石化させる眼。ゴルゴーン三姉妹故に同じような姿に変えられたのだろう。

 しかし話を聞くような雰囲気でも無い。誤解を晴らしたいところだが、今の状況で誤解と言うには少々無理があるかもしれない。なのでライ、レイ、フォンセの三人は戦意を喪失しているメドゥーサから姉二人に構えた。


「話を聞いてくれ……っていうのは無理な相談か。確かにこの様子じゃ俺たちが悪者だ」


 先に脅したのはライたち。手を出したというのならメドゥーサの石化が先だが、メドゥーサを追い詰めているこの状況ではどんな言い訳も意味を成さないだろう。

 なので手加減はしつつも、この場は収めようと行動を起こした。

 刹那、ステンノーとエウリュアレーの毒蛇が文字通り蛇行してライたちに迫る。無数に迫るそれらをライ、レイ、フォンセは各々(おのおの)の行動でかわし、跳躍して上空の二人に肉迫した。


「アンタらに恨みは無いけど、何もしないでやられるのは癪だ。攻めさせて貰う!」


「速いな。しかし、見切れぬ速度ではない」


 ライの速度は亜音速。音速よりも少し遅い程度の速度である。なのでステンノーは軽くかわして毒蛇の髪を乱れさせる。

 ライは空中で無理矢理方向転換しながらそれらを避け、近付くモノは正面から砕く。


「俺の本気は、もっと速いぜ?」

「……!」


 そして、再びステンノーに迫った瞬間己の速度を上げ、空気を蹴って第一宇宙速度でステンノーの背後に回り込む。

 本気には程遠い速度だがステンノーは反応し切れず、ライは回し蹴りでステンノーの身体を大地に落下させた。


「御姉様!」

「余所見している暇は無いぞ!」

「……!」


 その様子に反応を示したエウリュアレーをフォンセは見落とさず、声を掛けて振り向かせる。エウリュアレーの前にはフォンセのてのひらが向けられていた。


「"衝撃インパクト"!」

「……ッ!」


 刹那、無数の魔力が衝撃波となってエウリュアレーの頭から全身を貫き、眼や鼻。耳に口などあらゆる場所から出血したエウリュアレーが落下する。

 エウリュアレーは不死。通常なら即死する程の破壊力があるフォンセの衝撃魔術でも死ぬ事は無いだろう。しかし苦痛はある筈。なので確かなダメージは与えられていた。


「やった! 二人とも!」


 それらは空中での出来事。なので地上にはメドゥーサを見張っているレイが居る。

 レイはライとフォンセによる確かな手応えに小さく喜んでいた。


「……御姉様方……! 私も戦うわ!」

「……!」


 そして、戦意喪失していたメドゥーサが動き出す。クレーターの中心から起き上がり、背を向けているレイを睨み付けた。

 レイは咄嗟に勇者の剣を構えて石化を逃れ、改めてメドゥーサに向き直る。


「また戦うんだ……。出来る事なら、ゆっくり話したいんだけどね……」


「フフ……さっきは三人が相手だったから負け掛けたけど……御姉様達が戦っているのに見過ごす事なんて出来ないじゃない……!」


 メドゥーサは姉二人と違って不死ではない。なのでレイは出来るなら戦いたくないのだが、姉が来た事で失っていた戦意を取り戻したメドゥーサはる気のようだ。

 やはり親しい者が来ればそれだけで希望になるのだろう。


「さっきまでとは……確かに違うね。逆に今は戦いたそう……」


「怪物だからね。人だった名残で変に涙なども出ちゃうけど……基本的には好戦的よ!」


 告げ、髪の毒蛇を一斉にレイへと放った。それをレイは体勢を低くして避けながら進み、鞘に納めたままの剣を振るうった。

 その剣を青銅の腕で止めたメドゥーサは睨み付け、石化の光を放つ。それもかわしたレイは天叢雲剣あまのむらくものつるぎを鞘に納めたまま振るい、メドゥーサの身体へ打ち付けた。


「……ッ。ただの人間にしてはかなりの力ね……!」


「一応、"ただ"の人間って訳じゃないからね……!」


 勇者の剣を薙いで距離を置き、詰め寄りながら天叢雲剣を振るって毒蛇を砕く。

 次々と放たれる攻撃を次々と避けていき、腕を振り上げて持ち替えた天叢雲剣の柄でメドゥーサの顎を殴り上げた後、勇者の剣を横に薙いでその身体を近くの木に叩き付けた。


「……ッ!」

「ハァッ!」

「ゲホッ……!」


 再び天叢雲剣あまのむらくものつるぎを持ち替え、交差させた勇者の剣と天叢雲剣の二つを使って木に叩き付けられたメドゥーサの身体を斬り付ける。

 それによって木々は砕け、吐血したメドゥーサが数百メートル飛ばされた。


「なんて力……人智を越えているわ……」


「うん。普通の人間じゃなくなったから。けど、人間の国の上層部は私クラスならゴロゴロ居ると思うよ」


「知ってるわよ。じゃなきゃ追われないわ。けど少なくとも、貴女も常人レベルでは無いようね……」


 吹き飛ばされた先にて、二つの剣を構えた状態で立ち竦むレイ。メドゥーサが事を起こそうものならいつでも行動を起こせる状態になっていた。

 兎も角、本などに出ているゴルゴーン三姉妹も勝てない相手では無さそうだ。


「どうやらレイとフォンセも問題無さそうだな。アンタ達。メドゥーサを傷付けた事は謝る。話を聞かせてくれないか? 自分で言うのもアレだけど……俺たちは全員支配者クラスの実力を秘めている」


 ほぼ圧倒しているライたち。元々ライたちには支配者クラスの実力者が多数居る。なので有名な怪物だとしても今のライたちの相手にはならないのだろう。

 しかし自分たちに非がある事を理解しつつ、話を聞こうという体勢のライに向けてステンノーは言葉を発した。


「……。どうやらその様だな。悔しいが、私たちではお前達には勝てないらしい。エウリュアレー。メドゥーサ。一旦集まってくれ」


「「…………」」


 クレーターの中心に落ちていたエウリュアレーと木を背後に伏せていたメドゥーサがステンノーの言葉に従って近付く。

 レイとフォンセも構えを解き、不意の石化に気を付けながらその後を追った。



*****



「先ず改めて名乗らせて貰おう。私の名はステンノー。エウリュアレーとメドゥーサの姉をしている」


「私はエウリュアレー。メドゥーサちゃんの姉と御姉様の妹をしています」


「私はメドゥーサ。邪魔者を石にしているわ」


 正座をし、各々(おのおの)で自己紹介をする三姉妹。既にエマとリヤンの石化を解除させており、ゴルゴーン三姉妹は三人が揃っていた。因みに色々と面倒なので石にさせた他の参加者は解除していない。事が済んだら解除させる予定である。

 因みに今はレイ、エマ、リヤンが石になるを避ける為にゴルゴーン三姉妹は目を隠している。これなら問題無く話せるだろう。

 ある程度準備が整ったところで、ライはゴルゴーン三姉妹に訊ねた。


「早速質問だけど……何でアンタらは此処の森に来たんだ? 弱い魔物はアンタらが来た事で人間の国に近付き過ぎて迷惑を掛けているらしい。この森にはアンタら以上の力のある魔物も多い。決して安全って訳じゃ無いぞ?」


「ああ、知っている。私たちも基本的に人間や他の種族とは関わり合いにならないよう生活していたんだがな……。私とエウリュアレーは兎も角、メドゥーサは死ぬ。だから、問題を起こして命を奪われたら元も子も無いだろう?」


 関わり合いにならないように生活していた。つまり、人間達と直接関わる事はしなかったらしい。確かにそれなら大きな問題も起こらない。ステンノーは質問の返答を続ける。


「それで質問の内容についてだが……元々は神殿で静かに暮らしていたんだ。そこに変な奴らが来てな。白と黒と灰色という奇妙な組み合わせの髪を持った奴に"これから選別するから君達は一旦出ていってくれ"……って言われてな。そんな理不尽な意見を飲み込む訳にもいかず、私たちは戦った。それで敗れ、メドゥーサを連れて神殿から安息の地を求めて此処に来たって訳だ。此処の森が危険だとしても、カオスやリッチの居る奴等を相手にするよりは安全だからな」


「ああ、成る程……」


 ステンノーの言葉を聞き、思いっきり聞き覚えのある者達の姿が脳裏に浮かんだライはため息を吐いて肩を落とす。

 聞き覚えというよりも見覚えのあるという表現が正しいかもしれないが、そこまでライは思考が回らなかった。


「その者達はかなり強かったのです。石化の光も避けられ、一瞬にして全身が砕かれていました。……恐らく今の貴方達よりも強いと思います」


「ええ。アナタ達も中々だけど……彼らには敵わないわ……!」


「いや、まあ全力を出せば勝てるかもしれないさ。けど……またアイツらか……」


 確かに先程見せた実力のライたちでは勝てないだろう。しかしあれはかなり手加減している状態なので、全力を出せば勝てるかもしれない。なのでそれは捨て置き、そんなヴァ○ス達の事を考えるライは頭を抱える。

 そんなライの言葉に小首を傾げ、今度はゴルゴーン三姉妹が質問する。


「知っているのか? その様子だと……仲間という訳では無さそうだが……」


「ああ。ある意味因縁の相手だ。何度か戦った事もある……まあ要するに敵だな」


 ヴ○イス達について簡単に説明するライ。色々と争う機会は多かったが、単刀直入に言って敵。となるとゴルゴーン三姉妹が自分達の棲み家から追い出されたのにはライたちにも責任が無い訳ではなくなった。

 と言うのも、ヴァイ○達にトドメを刺せなかった事で色んな国にて様々な問題が起こっているからだ。ライはゴルゴーン三姉妹に向けて言葉を続けた。


「取り敢えず、アンタらが大きな問題を起こさなければこの森に居ても俺たちは何もしない。代わりと言うかなんて言うか。無茶言うけど、この森に棲む魔物達を何とか人間の国に危害を加えないようになんとかしていてくれ。その間に俺たちは魔の森に問題が無いのを他の皆に説明して、その後アンタらを追い出した奴らを片付けておくから。色々と終わった後で帰れば良い」


「……! それは本当か!?」


「ああ、嘘はかないよ。どちらにせよ、俺の旅の目的を果たす為にそいつらとはケリを着けなくちゃならないからな」


 因縁がある相手なので、いずれは倒す予定。倒し終える事でゴルゴーン三姉妹の問題は解決するだろう。

 それまで"セルバ・シノロ"の者達や他の参加者に魔の森の問題を解決したと告げて手出しをさせないようにするとの事。その間にゴルゴーン三姉妹がこの森の魔物を抑えてくれれば万々歳。

 要するに、大体の問題は解決するという事だ。


「……っ。感謝する……! そして人間達に押し入られのは私たちも嫌だ。この森の魔物達を出来る範囲なら何とかしておこう」


「そうか。じゃあ、後数十分経ったらさっきメドゥーサが石にした三人を戻していてくれ。まだ暫くは騒がしくなると思うけど、直ぐに収まる」


「ああ」


 ゴルゴーン三姉妹との誤解は解けた。後は頃合いを見てこの依頼を達成すれば万事は解決するだろう。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人も考えはライと同じ。なので協力すると頷いていた。

 "セルバ・シノロ"近隣にある魔の森で起きた問題。それはライたちによって解決する事となった。それから数時間後、ライたちと他の参加者は依頼を終えて街に戻るのだった。

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