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六百七十八話 魔の森の怪物

 ──"魔の森・内部"。


 昨日も通った森の中。そこの少し違うルートにてライたちは進んでいた。

 人間の国の者達も魔物の国への道に工夫はしていたらしく、正面から入らずとも森の道に出るルートがあるようだ。道理で昨日、見張りの者にかなり警戒された事だと妙に納得した。

 魔物の国に直接手を下す訳ではなく、悪魔で人間の国に近付き危害を与える魔物を討伐する。身を守る為と大きな争いに発展させない為のやり方として、最良では無いにせよ確かに良い方法ではあった。


「あちこちから銃声や人の声が聞こえるな。狩りはもう始まっているみたいだ」


「うん。殺伐としているね……」


 森の中を歩くライたちに届く音。それは銃声や悲鳴、怒号など様々。しかしどれも良い気分にはならなかった。

 ライたちは辺りを見渡しながら警戒を高め、慎重に進む。今更この森で警戒しなくても良いのだが、やはり周りの空気というものは自然とその方向へ運んでしまうらしい。


『キシャーッ!』

「……! ワームか!」


 歩いている時、突然茂みから姿を現したワーム。何度か見た事のある魔物だが、人間達が森に入ってきた事で気性も荒くなっているようだ。

 しかしワームならば大した相手では無い。吐かれる炎や毒を一瞬でかわし、れ違い際に回し蹴りを放って意識を刈り取った。


「ああ、悪い。リヤン。様子を見る前に倒しちゃったよ」


「ううん。大丈夫。様子は一目で分かったから。けど、心を通わせる暇が無いくらいに気が立っていた……人間が入ってきただけでそうはならないと思うんだけど……」


 魔物の様子を見てから仕掛けると言っていた矢先、つい癖でリヤンが行動に移るよりも前に倒してしまったライは謝罪する。

 しかしリヤン曰く、人間の有無程度ではそんなに変化しない筈のワームの気性が異常に荒かったとの事。それを聞いたライは辺りを見渡し、呟くように話す。


「……。成る程。なら、別の要因が居るって事だな……棲み家を何者かに荒らされて人間の国の近隣に来てしまった……合点はいく」


 人間の有無では大きく変わらない。ならば人間よりも大きな存在によって何かがあるという事だろう。

 昨日の時点では平穏では無いにせよ特に問題も無かった。ならばライたちが宿に居るうちに何かがあったと見て良さそうだ。

 一先ずライたちは倒したワームを荷台に積み、先に進む。大抵の魔物なら何とかなるが、幹部クラスの実力を持つ魔物が居た場合はどうするかを考えていた。下手に力を見せて人間の国の者達に警戒させてしまったら元も子もないからだ。


「……。だからと言って……多過ぎないか?」

「うん……」

「ああ、みたいだな」

「その様だな……」

「う、うん……」


 少し進み、開けた場所に出た瞬間オークとゴブリンの群れが現れた。そしてライたちを見た瞬間に飛び掛かってくる。やはりこの魔物達も気性が荒くなっているようだ。

 個々では大した事の無い魔物だが、群れを成し繁殖力の高い魔物達。要するに、これ全てを手加減しながら相手取るのはかなり面倒という事だ。やむを得ず、殺生をする可能性も考慮しなくてはならなかった。


「取り敢えず……一応依頼だし片付けるか」

「うん。乱戦なら慣れている方だもんね」

「ふふ。そうだな」

「ああ。早いところ根源を見つけるか」

「うん……。可哀想だけど……倒す……」


 多くの戦争をおこなってきた力がライたちにはある。なので乱戦も苦手では無い。面倒ではあるが、何とかなるレベルだ。

 その瞬間、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は大地を踏み締めて駆け出した。


「取り敢えず、纏めて仕留めるか」


 一瞬で懐に入り込み、蹴り上げて一匹のオークを天高く舞い上げた。

 刹那に消え去り、消え去るように見える。目に見えない速度で周りのオークとゴブリンを打ち倒していく。瞬く間に周りの二種族は意識を失い、始めに蹴り上げた一匹が落下する頃にライの周りに居た者は全滅していた。


「剣を使うと……斬っちゃうんだよね……」


 一方でレイは鞘に納まったままの剣を振るい、その衝撃で周りのオークとゴブリンを吹き飛ばす。同時に天叢雲剣あまのむらくものつるぎを取り出し、それも鞘に納めたままで薙いだ。

 そして、全てを舞い上げる旋風が巻き起こって辺りを散らした。


「私自身が戦うのは面倒だ。貴様ら、私の傀儡くぐつとなりて互いに潰し合え」


『『『…………』』』

『『『…………』』』


 催眠を使ってオークとゴブリンを操り、同士討ちを高みの見物で見守るエマ。木に座って優雅に漂い、時折近付く者は操る天候をもちいて感電死させた。なるべく殺さない事がライたちの考えだが、例え死させても強制的に生き返らせる術を持つエマには関係無かった。


「さて、消すか。"ファイア"!」


 火柱が立ち上ぼり、魔物達を焼き払う。これも多くのオークとゴブリンが死んでいるのだろうが、気にはしない。ある意味魔王の子孫としての本性が剥き出しになっているのだろう。

 燃えカスとなって落下する魔物達を前に、フォンセは退屈そうにため息を吐いた。


「ごめん……!」


 そしてリヤンは謝りつつ、幻獣・魔物の力をもちいて魔物達を打ちのめす。此方は殺していないが、暫くは目覚めない傷は与えられている事だろう。

 次々と群れを倒し、場を整理する五人。これなら報酬も多くなる事だ。ある程度倒し、つまり全滅させたところでライたちは森の奥へと進んでいく。



*****



「ハッハッハ! 僕が一番多くの魔物を討伐しているぞ!」


 ライたちが先に進む中、他の参加者達も次々と魔物を討伐していた。ライたちに絡んでいた者もその一人で、武器である矢を複数放って木の上から狙撃していた。

 どうやら隠密を得意とするタイプの狩人ハンターらしく、餌か何かで引き寄せた魔物を遠距離から討伐するやり方が手法のようだ。


「ハッ! そんなちまちまやるより、力で攻め落とした方が良いだろ!」


 その者の近くにて、力自慢が己の力でじ伏せる。頭を叩き付けて地面に小さな穴が空いた。そのまま蹴り飛ばし、後続の魔物達を吹き飛ばした。


「黙れ。力だけが取り柄の筋肉馬鹿が。こういうものはスムーズに解決するのが良いんだよ」


 力自慢を余所に、木の上から淡々と矢を放ち続ける。この程度の魔物達ならば簡単に勝てるらしく、テンポ良く次々と仕留めていた。


「どっちも遅い。此処は俺が纏めて撃ち抜いてやるよ!」


 そして全身武装した者が銃や機関銃を放ち、轟音と共に魔物を撃ち抜く。撃たれた魔物は即座に絶命し、三人によって多数の魔物が数を減らしていた。


「チッ、邪魔な奴らが次々と。此処は僕の狩り場だ!」


「ハッ。ヒョロヒョロ野郎は下がってな。魔法や魔術が使えるならその見た目でも問題無いが……弓矢だけがメインのテメェは力が無きゃ意味ねえだろ」


「弓矢に肉体。そんな古典的なやり方は弱い。やっぱ現代兵器をもちいた狩りが一番だろ」


 矢を放ち、拳で沈め、重火器で撃ち抜く。三人は更に進み、森の奥へと入っていく。派手な者は木から木へ飛び移り、力自慢と重火器を装備した者は地を行く。

 そして少し進み、三人は開けた場所に出た。


「「「……?」」」


 そして三人の目の前には、一人の女性が立っていた。後ろを向いており、ボサボサの髪がなびいている。

 此処は魔の森と呼ばれる、熟練の狩人ハンターにとっても命を落とす可能性のある危険な森。そんな森の奥に女性が一人で立っている事自体おかしいのだが、今は依頼の途中。なので三人はあまり違和感を覚えず女性に話し掛けた。


「君。こんなところで何してるの? 参加者の中に居たっけ? いや、居なかったよね。迷子なら、"魔の森"は危険極まりない。君も帰った方が身の為だ」


「見るからに弱そうな女だ。魔法を使えるならまだしも、一人で此処に居るのは危険だ。帰れ帰れ」


「運良く森の奥に来れたのか? だが、此処は俺の狩り場。別を当たれ」


 これは三人なりの優しさだろうか。危険なので帰れと女性に告げる。依頼を受けている者だとしても、女性が一人というのはかなり危ない事だろう。

 しかし女性は何も言わない。聞こえていないのか、敢えて聞こえないフリをしているのか定かでは無いが、中々に怪しいだろう。

 しかしそんな怪しさは意に介さず、三人は近付きつつ言葉を続ける。


「やれやれ。聞こえなかったのかな? この森は危険。優しさで言っているんだ。弱い者が死んでいくのは夢見が悪いからね」


「そうだな。コイツに同意するのは気に食わないが、死なれても困る。迷子ならさっさと帰る事だ」


「さっさと離れろよ」


 女性の近距離にまで来る三人。記憶を辿り、参加者の中に女性が居なかった事を踏まえて迷子と判断した三人は帰る事を促していた。


「大丈夫よ。私、強いから」

「「「…………」」」


 そして女性は振り向いた。刹那に言葉を失った三人は、そのまま止まって動かなくなる。女性はゆっくりと歩みを進め、更なる奥に向かう。

 女性が居なくなった直後、森を進んでいたライたちが姿を現した。


「……? なんだこれ?」


 ──そして再び開けた場所に来たライたちは、奇妙な石像の前に立っていた。

 何かを囲むように立っているそれらは、派手な者を始めとした他の参加者のような見た目をしている。誰かが造ったのか、何の為に。何が目的で。様々な疑問は思い浮かぶが、その石像の近くにある足跡からして、たった(・・・)()石に(・・)させられた(・・・・・)という事がうかがえた。


「石にする能力……成る程な。森の魔物達が暴れ回っている理由はその存在の所為か」


 魔物が暴れている理由に、他の強大な存在が現れたからと推測していたライたち。

 なのでライたち五人は、唯一止まっておらず奥に続く足跡へと視線を向けた。

 足跡の形からして人形ひとがたの存在という事が分かる。となると後は何の種族が居るのかという部分だけが問題だった。

 その存在によって魔の森に居る魔物達が迫害されているのならそれを止めた方が良い。そう判断したライたちはまだそんな遠くに行っていないであろう足跡を追っていった。



*****



「……! アイツか……?」


 後を追い、ボサボサ髪の女性が目の前に現れた。いや、現れたという言葉には語弊があるかもしれない。ライたちが後を追っていたので、追い付いたが正しいだろう。

 そしてその女性は恐らく参加者達を石像にした者で合っている。その証拠に先程の場所から続く足跡が女性の足元にあったからだ。


「……。どうやら、あの者みたいだな。で、どうする。ライ」


「まあ、行くしかないかもな。このまま此処に居ても始まらない……」


 エマがライに訊ね、それに返した言葉にレイたち三人も頷く。石にする力があるなら警戒しない訳にもいかないだろう。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は茂みに隠れながら移動し、その者を囲むように眺める。


「顔は髪に隠れていて見えない……石にしたのは魔法か魔術か……」


 女性の正面が見える範囲に隠れるライは女性の顔を確認しようとするが長い髪が邪魔なので顔を見る事は出来なかった。

 しかし魔力は感じるので、石化させる魔法か魔術を使ったと考えられる。ならば正面からは魔法や魔術を無効化出来るライ。左右と背後、その他死角からはレイたちで攻めるというやり方が現実的だ。

 ライたちは目配せで互いの確認を取り、五人は一気に飛び出した。


「……!」


 その瞬間、女性がライたちを見回すように視線を向ける。ライは構わず進み、女性の眼前に拳を向けて尋問するように質問した。


「突然現れて聞くのもなんだけど……アンタ、誰だ? 彼処にあった石像って……アンタが造ったんだよな?」


「……っ!?」


「何でそんなに驚いているんだよ……」


 眼前に突き付けられた拳と正面に立つライを見、驚愕の表情を浮かべる。その態度に思わず別の質問をするライ。

 確かに常人では追い付けないような速度で女性を捉えたが、この危険な森の奥に入れる程の実力を持つ女性が驚愕する程の事ではない。ライの疑問を余所に、女性は言葉を続ける。


「何故……何故貴方達三人は石にならないの……?」


「……!?」


 その言葉に反応を示し、思わず周りを見渡す。すると、右と死角から攻め込んだエマとリヤンが石像になっており、レイとフォンセが冷や汗を垂らしていた。

 ライは息を飲み、この女性が何をしたのか推測する。


(……っ。魔法や魔術を使った形跡は無い。ただ見ただけで……見ただけで……? それにこの髪……ボサボサに見えるけど……動いて……いや、生きている……!?)


 魔法と魔術の気配は無い。ライたちが飛び出した瞬間に、"見た"だけである。

 そしてもう一つ気になったのはボサボサの髪。それはただ無造作に整えられたのでは無く、生きているように動いていた。

 それらの事からライはハッとし、少し距離を置いて言葉を更につづった。


「アンタ……石化の怪物"メドゥーサ"か……!」



 ──"メドゥーサ"とは、見ただけで相手を石化させる力を持った怪物である。


 石化させる眼は宝石のような輝きを持ち、見惚れているうちに石化させられると謂われている。

 頭には無数の毒蛇を宿しており、その毒蛇はメドゥーサの意思で操れる。


 その見た目は前述のように宝石のような眼と毒蛇の髪。そして猪の牙、青銅からなる手。黄金の翼を持つとされる。


 元々は美しい美少女だったがとある女神によって醜い怪物の姿にさせられたと謂われている。


 見るだけで石化させる眼と毒蛇の髪。異形な見た目を持つ怪物、それがメドゥーサだ。



「怪物……そうね、私は傍から見れば怪物よ。この眼を見て石化しない理由は分からないけど、醜い姿を見られたのなら生かして返す訳にはいかない。折角手に入れた安息の地を守る為にも力付くで倒す……!!」


「ちょっと待て! 別に俺は……!」

「話は聞いてくれないようだな……!」

「うん……少し手荒になっちゃうかも……!」


 髪の毒蛇を逆立たせ、威嚇しながら宝石のような眼を光らせる。どうやら話を聞いてくれる状態では無いようだ。本来の棲み家を追われて此処に来たのかどうかは分からないが、一旦メドゥーサを沈める事が先決だろう。そうしなくてはエマとリヤンも戻らない。

 ライ、レイ、フォンセの三人は、一先ず詳しい話を聞く為にメドゥーサへと構えた。

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