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六百七十七話 人間の国での行動

 "───・───"。


 此処は人間の国にある、最も栄えている街"───・───"。そう、支配者の街である。

 極寒の魔族の国。暖かな幻獣の国。肌寒い魔物の国と違い、蝉時雨の降り注ぐ暑い気候の街だった。

 その街並みは白亜の建物が多く、全てが神殿のような見た目。人間の国の支配者、"人神"が居るに相応しい景観である。

 白亜の宮殿や建物に色鮮やかな花々。青々と茂った木々に止まる騒がしい求愛行動の声もまた一興という雰囲気が漂っていた。


「──クラルテ。どうやら君の姪がこの国に入ったようだ」


「……!」


 此処は白亜の街にある巨大な白亜の城。

 そこの一室にて、宝石などで美しい装飾の施された椅子に座って空を見上げていた人間の国の支配者、"人神"が呟くようにメイド──リヤンの母親の妹であるクラルテ・フロマに話した。

 それを聞いたクラルテは見て分かるように動揺し、手に持っていたトレイを震わせる。その様子を一瞥した人神はフッと息を吐くように笑い、言葉を続ける。


「安心するが良い。君の姪であるリヤン・フロマとその仲間達。魔王の側近の子孫であるライ・セイブルと勇者の子孫レイ・ミール。ヴァンパイアのエマ・ルージュ。魔王の子孫であるフォンセ・アステリの存在には我以外誰も気付いていない。こころよく魔物の国との国境付近の街に受け入れられた」


「……」


「どうやら安心したようだな。口に出さずとも、考えている事は理解出来る。しかし、さてどうしたものか。この国を征服されるのは少し厄介なところだ」


 何も言わぬクラルテの意思を理解し、フッと笑う支配者。しかしライたちの目的も知っているようで、この国を征服される事はあまりよく思っていないようだ。

 まあ、自分の国が征服されて喜ばしい者などそうそう居ないだろう。

 支配者の人神は言葉を続ける。


「フム。我が直々に出向いても良いが……少し面倒だな。うん。こんな事をしなくとも行動は全て分かるが、部下を見張りに付かせるとするか」


 ライたちの動きは全て知っていると言う支配者は、別に見張りが居なくとも良い。だが、自分がずっと監視しているのも面倒臭いので部下に見張り役を任せるらしい。

 その言葉を聞いたのか、一人の青年が支配者の前に姿を現していた。

 静謐せいひつな目付きをしており、纏まった金の髪を持つ者。支配者はその者に向けて指示を出す。


「話は聞いていたな? なら、特に指定はしない。何時も通り、自分のやり方で見張りを頼む」


「ハッ。アナタ様の仰せのままに……」


 ──刹那、城の中で疾風が吹き抜けた。それと同時に青年の姿が消え去り、渦巻く風が徐々に弱まって収まる。

 どうやらこの城の見張りや伝達係として仕えている者のようだ。見ての通りかなりの実力を秘めており、もう気配すら感じない程の距離に移動していた。

 最も、何処に居ようと支配者に居場所は筒抜けなのだが。


「けれど……随分な者達だな。かつてこの世界で起きた神話の関係者が揃い踏み……優秀な血縁に強大な力。本当にこんな世界程度軽く落とせるだけの者達だ。特に勇者の子孫……その者だけは我が相手でもキツイかもしれないな。結果はどうとでも変えられるが」


 椅子から立ち上がり、窓枠に手を掛けて遠くを見つめる。

 支配者が一番警戒しているのはライでもエマでもフォンセでもリヤンでも無く、勇者の子孫であるレイ。全てを見通しており結果なども自由に出来ると豪語する支配者ですらよく分からない存在のようだ。


「クラルテ。もう下がって良い。数日後には君と君の姪は出会う……その時の為に色々と準備をしたらどうだ? 我は優しいんだ。自分のメイドの頼み事や願いなら、大抵の事は叶えてやろう」


「……いえ、御構い無く」


 ペコリと一礼し、トレイを持って下がるクラルテ。

 遠慮している訳では無く、リヤンの存在をかなり気にしているので支配者の言葉に返す言葉が思い付かないのだろう。

 支配者は小さく笑い、窓から入り込む熱の混ざった風を感じる。それによって美しい髪が揺れていた。

 人間の国"───・───"。そこでの穏やかな一日が、依然として穏やかなまま静かに続く。



*****



 ──"人間の国・セルバ・シノロ"。


「……」


 ──昨日さくじつ"セルバ・シノロ"の宿に泊まったライは、宿の寝室で目覚めた。

 近くではレイ、フォンセ、リヤンの三人が寝息を立てており、エマが窓枠に座ってカーテンの隙間から外の様子を見ていた。


「お、起きたか。ライ。おはよう」

「ああ、おはよう。エマ」


 そして、ライに気付いたエマは何時も通り挨拶を交わす。それに返すライ。

 最近大きな争い続きだった為、その反動か"世界樹ユグドラシル"が終わってからこの様に穏やかな朝を迎えるのが此処数ヵ月で毎日だ。悪い事では無く、リラックスも出来ているのだが、征服する最後の国に入ったのでこれから気を引き締めていかなくてはならないだろう。


「……ん……おはよーライ……エマ……フォンセ……リヤン……」

「ああ……おはよう……皆」

「…………。おはよう……」


 そして次に、何時も通りレイたちが遅れて目覚める。このやり取りも恒例だ。

 それから暫く経って完全に目の覚めたライたち四人。四人は寝室の付近におり、各々(おのおの)で楽な体勢となっていた。

 ライとレイは自分のベッドの上に腰掛け、エマはカーテンの閉められた窓枠で座る。フォンセは部屋にあるテーブル近くの椅子に座り、リヤンはちょこんとフォンセの近くに座っていた。


「さて。これから人間の国を進む訳なんだけど、どうしようか」


 全員が話し合える体勢になったところで、これからの行動について訊ねるライ。

 来たのは良いが、どの様な行動に出るべきか。それを考えていた。

 行く行くは征服する国だが、いきなり攻め込むやり方は本人からして望んでいない。それはもう既に周知の事だが、だからといってこのまま宿でのんびりとしている訳にもいかないだろう。


「一先ずは旅の準備が一番良いかもな。と言っても必要な物は大体揃っているが、この国でどんな事が起きているのか、情報収集が良いと思う」


 エマが挙手し、一つの提案をする。

 旅の準備は基本的に魔法や魔術で何とかなる。なのでする事は食料調達とペルーダ戦で集まった金貨も減って来たので資金集めくらいだ。しかしこの国の情報はよく知らない。だからこそ情報収集を勧めていた。


「情報収集か。確かにそうかもな。魔物の国では外界の情報は入って来ないし、今人間の国で何が起きているのか調べるのは悪くなさそうだ」


 その事に一理あると同意するライ。

 幻獣の国に続いて魔物の国を旅してきたライたち。幻獣の国は兎も角、魔物の国で人間の国の情報はあまり入って来ない。なので情報収集は悪くない線を付いていた。


「じゃあ、何処で調べる? この街に情報を集めやすい場所はあるかな」


「基本的に考えれば人の集まる酒場だが……今はまだ朝。開店しているかも怪しいな。それに、私たちの年齢では人間の国の法に触れて酒場に入れない可能性もある」


「ギルド的な場所があれば良いけど……朝から営業しているかどうか」


 悪く言うつもりはないが、この街は小さな街。魔物の国に隣接するのでもっと発展していても良いのだが、やはり危険な場所に集まる者は少ないのだろう。

 なのでパッと思い付く人の集まりやすそうな場所も営業しているのか分からず、ライたちは困り果てていた。そこに、ずっと静かにしていたリヤンが挙手する。


「えーと……こんな紙を見つけたけど……」

「……?」


 そこには、一枚の紙が握られていた。いつの間に見つけたのか定かでは無いが、昨日この街で貰ったらしい。

 その紙には、気合いの入った達筆な文字でこう書かれていた。



『魔の森にて暴れる魔物続出。討伐者求む!


"依頼内容"

最近街の近隣にある森の魔物が活発に行動している。どうにかして討伐して欲しい。

参加者は腕の立つ者なら誰でも構わない。ハンター、冒険者、騎士etc.


報酬・金貨十枚

  ・希少鉱石

  ・薬草複数

  ・魔物の素材


依頼主"セルバ・シノロ"の町民共々。』



*****



 ──"魔の森・入り口"。


 ライたちは、紙に書かれていた指定場所に来ていた。何の情報も無い以上、此処に来るのが一番手っ取り早いからだ。

 此処ならば大きな街とこの街を行き来する狩人ハンターや腕の立つ者達が居るかもしれない。魔物の国の者に知り合いは多いが、基本的にテュポーンは指揮に関わらないので暴れ回っている魔物も多いとの事。

 時折テュポーンや魔物の国の幹部達にすら勝負を挑む魔物がおり、その魔物は正面から粉砕する事も屡々(しばしば)あるらしい。世界最強を謳われる人間の国近隣を荒らす魔物もその類いらしく、邪魔なら討伐しても良いとライたちも言われていた。

 つまるところ、此処に居る者は完全に無法者。無闇に暴れ回っている魔物なので直接手を下すのが面倒なテュポーンに代わって片付けても構わないという事だ。


「狩りか。まあ、苦手では無いのかな。幹部クラスじゃなければ簡単に勝てる」


「うん。けど、リヤンは良いの? 魔物は基本的に友達なんでしょ?」


「うん……大丈夫。取り敢えず私が会ったら様子を見てみるから……」


「結構人が集まっているな。それなりの報酬も出るらしいから狩人ハンターにとっては旨い仕事なのだろう」


「まあ、必ずしも殺す必要は無いだろう。捕まえて引き渡せば良いらしい」


 報酬も出るらしいので、情報収集も兼ねて中々良い成果を得られそうだ。

 以前に似たような事でペルーダからの依頼も受けたが、今回は他の参加者も居る。依頼主が街その物であるという事から、依頼主が人を襲う為に化けたという可能性も少ないだろう。


「そう言えば、ペルーダの時以来だな。こんな感じで依頼を受けるのは。資金もあれで集まったし、直ぐに魔族の国に入ったから他の依頼を受ける機会もなかった」


 ふと、その事について思い出すライ。

 一応この世界では常人の立ち入る事が出来ない場所で様々な問題を解決する依頼があるのだが、ライたちは都合によりそれらを受ける機会は少なかった。なので開始を待つこの感覚は新鮮だ。


「そうなの……?」


「うん、そうだよ。リヤンはまだ居なかったけど、私たちの資金は前に受けた時手に入れたんだ。それで、それ以降はライの言うように色々積み重なったから受ける機会が無くなっちゃったの」


「へえ……そんな事があったんた……」


 リヤンへ依頼について話すレイ。リヤンはその事に興味津々だった。出会う以前の行動は気に掛かるものなのだろう。

 レイはニッコリと笑って言葉を続ける。


「でも、これでリヤンと一緒に依頼を受けられるね。そろそろ始まるよ」


「うん……。魔物は出来るだけ傷付けたくないけど……レイたちと一緒に依頼をするのは楽しみ……」


 リヤンも笑い、その近くでライ、エマ、フォンセが見守る。ともあれ、続々と人も揃ってきたのでそろそろ依頼も始まる頃合いだろう。


「へえ。君達も依頼を受けるんだ。女子供が受けて大丈夫かな? 依頼は簡単じゃないよ。"魔の森"は危険極まりない。帰った方が身の為だ」


 そこへ、何やら毳々(けばけば)しい派手な者が話し掛けてくる。持っている武器からして、恐らく冒険者ではなく狩人ハンターの一人だろう。

 ライたちを下に見ているような雰囲気だが、彼なりの親切心で注意をしているだけかもしれない。


「……」


 その者を見、ライは警戒を高める。この者自身に大きな力は感じないが、ライが気になっているのはライとフォンセ。そしてエマの種族についてだ。

 ライとフォンセは兎も角、色白の肌に美麗な金髪。紅い眼。日除けの傘と、ヴァンパイアの特徴丸出しのエマがバレるかもしれないという懸念だった。


「まあ、"魔の森"は危険極まりない。君達も帰った方が身の為だ」


(同じ事二回言ってるよ……)


 どうやら警戒する必要は無さそうだ。同じような事を二度言っているのがその証拠である。

 兎も角その者は何処かへ行った。何をしたかったのかイマイチ理解し兼ねるが、やはり親切心か気になるところである。

 その他にも様々な者が居る。力に自身有り気な者。剣士の格好をした者。魔法を使いそうな格好をした者。銃や機関銃と全身武装した者。全員特徴的だ。


《お集まりの皆様! これから魔の森への特殊ルートを解放します! 命の危機を感じたら即座に逃げて下さい! ──それでは、開始!》


 遠方から、全体に響き渡るような声が届く。どうやら開始のようだ。様々な格好をした者達は一斉に魔の森へと入って行き、瞬く間にライたちだけが残る。


「じゃあ、俺たちも行くか。情報収集はこらが終わってからだな」

「うん。緊張してきた……」


 周りが行ったのを確認し、ライたち五人も魔の森と言われる森の中に入っていく。魔物の国を征服したのでもうこの森はライたちの領土みたいなものである。

 情報収集はこれが終わり、全員の緊張が解けた後にゆっくりとする。それが最適だろう。

 何はともあれ、人間の国にて二度目となる依頼が始まった。

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