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六百七十四話 地獄の戦争・終戦

「フム、ようやく破壊出来たか。本来の力より遥かに劣る今の力では面倒じゃった」


「……」


 見つけ出したテュポーンの閉じ込められている岩。ライとレクスの戦いでも砕けなかったのは流石だが、ライがそれの近くに来た瞬間テュポーンの手によって砕かれているのが目に映った。

 カラカラと音を立てて崩れ落ちる岩の破片。暫く固定されていたのか、テュポーンは身体を動かして筋肉をほぐす。そのままライとエラトマに視線を向ける。


「その様子、倒したようじゃな。自称の王を」


「ああ。少し手古摺てこずったけど、この通りちゃんと拘束もしている。後はバアルたちに任せて、俺たちは帰るだけだ。まあ、帰る為の装置が完成しているか分からないけどな」


 他の悪魔との決着はほとんどバアルたちに丸投げだが、レクスにモートという厄介な者達は倒した。モートの事は知らない筈だが、探索中に城の中でモートの死体を見たのでモートの件も済んでいると理解したのである。

 要するに、ライたちのやるべき事は全てが終わったという事だ。

 となると後の懸念は元の世界。というより現世。アナトが現世に帰る為に色々と準備が必要と言っていたのでそれだけが問題だった。

 対してエラトマがクッと笑って言葉を続ける。


【クク。その事なら問題ねえよ。何が起きるか分からなかった地獄。俺は兎も角、お前たちには念が必要だからな。だからこそ俺も手伝っていた。要するにもう完成してるだろうよ】


 曰く、エラトマがアナトの手伝いをしていたので現世に戻る為の準備は問題無いとの事。それを聞いたライは一先ず安堵する。体感では数ヵ月の地獄生活。体感時間で暫く会っていないのでレイたちは無事なのかという焦りもあるのだろう。


「そうか、良かった。例え問題を解決しても帰れなかったら意味が無いからな。ルシファーたちにも、必要以上の手は貸さないって言っているし嘘になるところだった」


【ハッハ。俺は抜かりねえからな。万全を期して相応の準備をしているんだよ】


 ケラケラと軽薄に笑い、自画自賛するエラトマ。しかし助かったのは事実なのでライは何も言わなかった。

 そこに、静聴していたテュポーンが言葉を発する。


「となると問題は全て解決した。此処に長居は無用、さっさと帰る方が良いだろう」


「ああ、そうだな。エラトマが離れてから無限地獄の環境にも適応しなくなった。結構キツイや、この環境」


 エラトマ。つまり魔王の力が無くなった事により、無限地獄の環境がライにとってかなり劣悪なものとなっていた。

 無限地獄が何度も再生を繰り返した事で少し弱まっている。なので何とか耐えられているが、それでもキツイものがあるのだろう。


【ハッ、ならさっさと戻るか。この場所も、体感時間なら地獄で一番居たからな。この景色にも飽きてきていた頃だ】


 無限地獄にて、ライ、エラトマ、テュポーンの三人はレクスを連れて移動する。数分間落ちていたエラトマは無限地獄にも飽きているらしい。

 何はともあれ、ライたちは戦場へと戻るのだった。



*****



 ──"地獄・モート。現レクスの拠点"。


 ライたちが戻ってきた時、戦場の様子は収まりつつあるようだった。ライ、エラトマ、テュポーン、バアル、ルシファー、アマイモンの主力が居なくなったとは言え、敵は昨日今日で力を手に入れたばかりの亡者達。戦闘慣れしている他の主力や悪魔たちならば触れなければどうとでも出来るのだ。


「どうやら此方こっちも片付きつつあるようだな。まあ、敵が敵。バアルたちが居なくても何とかなるか」


 戻った瞬間に亡者達がライに迫る。しかし亡者達は気にせずいなし、状況確認を先決させる。まずはバアルたちの確認。バアルたちの居るであろう場所を探す為に亡者達を仕留めつつ大地を駆ける。


「そのバアルとやらも既に戻っておるだろう。ならば、後はこの群れを成している亡者共を消し去れば良いだけじゃ」


「極論だけど、確かにその通りだな。行く手を阻むなら、正面から突破した方が良さそうだ」


【クク……まだまだ楽しめそうだ……!】


 立ち塞がる亡者達に向け、一気に三人は駆け出した。

 ライは正面の亡者を殴り付け、山を砕きながら遥か彼方へ吹き飛んだ。テュポーンは腕だけ本来の姿に戻した巨腕を広げて薙ぎ払い、エラトマが軽く蹴り付けて消滅させる。見れば亡者達の暴走を止める為に獄卒達も加わっており、戦況は益々(ますます)此方側が有利なものとなっていた。


「けど、どうやって戦争を終わらせるかだな。レクスに心から忠誠を誓っている兵士も少ないだろうし、大将を討ち取った事を教えても今度は他の亡者が自分自身で名乗り出るかもしれない」


 バアルたちを探しつつ、亡者の兵士を相手取るライはこの戦争の終わらせ方を懸念していた。

 確かに口調では慕っているようだが、本当に忠誠を誓っている者は少ない。もしくは居ないだろう。なのでレクスの報告は敢えて保留し、バアルたちとどうするか詳しく話し合った後で終わらせた方が良いのかもしれない。


「まあ、掛かってくるのなら敵の気力が無くなるまで、身も心も完膚無きまでに粉砕すれば良いだけだと思うが……お主はそれを望まぬのだろう?」


「ああ。地獄は征服対象に入っていないからな。てか、そこまでボロボロにするつもりは地獄でも現世でも始めから無いさ」


 亡者を薙ぎ払いつつ、物騒な事を口走るテュポーン。確かに地獄で罰を受けても改心するどころか仕返し、復讐、報復。それらの行動しか起こさない亡者は絶望の底に叩き落としても良いかもしれない。

 だが、ライには始めからそこまでするつもりは無いので悪魔でバアルたちとの話し合い次第と考えていた。地獄を滅茶苦茶にしてもメリットは無いので的確な判断だろう。


「さて、気配からしてこの辺りに居る筈。さっさとこの戦争を終わらせる算段を付けよう」


 気配を辿り、ライたちはバアルたちの居るであろう近辺に到達した。後はより鮮明な気配の放たれている位置に行くだけ。

 ライたち三人はそこを目掛けて一気に駆け出した。



*****



「バアル、ルシファー、アマイモン。どうやらアンタらも復活したみたいだな」


 バアルたちを見つけたライは近寄り、その無事を確認していた。

 その言葉に対してバアルは頷いて返す。


「ああ、お前が我らを助けてくれたようだな。感謝する。……して、レクスを背負っているのを見ると、決着は付いたと見て良いか?」


「ああ。後はこの戦争を終わらせるだけだ」


 バアルたちが戻ってから数分。ライたちと合流するよりも前に状況は整理していたのだろう。なので話は早かった。

 しかしまだ戦争は終わっていない。他の亡者達が構わずに暴れ続けているからである。その事についてこの場に居る六人は早速話し合う。


矢張やはり完膚無きまでに叩き潰し、愚かな思考をへし折るのが良いだろう」


【いや、この地獄を砕いちまえば万事は解決よ】


「それは美しくないね。全員、私の奴隷にするというのはどうだろう?」


「少々面倒だが、止まるつもりが無いならそれらの答えを合わせ、完膚無きまでに叩き潰した後で隷属させるというのが良いと思うが」


「「お前たちの意見は全部却下だ」」


 飛び交う意見は物騒なモノばかり。この者たちよりは常識を持ち合わせているライとバアルはその返答に呆れていた。

 知っていた事だが、共通の敵が居なくなった今、彼らに協調性というものは存在していない。ギリギリ、エラトマとテュポーンの二人がライの言う事なら聞くくらいだろうか。

 何はともあれ、この戦争が終わったら新たな戦争が起こる地獄組みにとっては、己の利益になる案が一番良いのだろう。


「さて、どうする? 聞いた通りこんな感じだ」


「確かに分かっていた事だが……どうしようもないな。こう言っている我も自分に隷属させられるならそれを望んでいる部分がある」


 元の世界。というより現世に戻るライたちは関係無いが、このまま地獄で戦う予定のバアルたちはやはり利益を求めてしまう節があった。

 ルシファーやアマイモンのように直接的な事は言わないが、バアルも出来る事なら部下を増やしたいと望んでいるようだ。

 部下に引き入れるのでは無く、呪符や魔法・魔術で隷属という形にするのなら亡者達が暴れる事も無いからである。


「となると……やっぱり亡者達を元居た地獄に戻すのが吉……って事になるな。まあ、悪魔を取り込める事が知れ渡っているなら色々とやらなきゃならない事もありそうだけど」


「そうだな。まあ、記憶の一部を纏めて消すやり方ならある。残る問題は今回の件を知る、我を含めた他の悪魔がレクスと同じような行動を起こさないかどうかという事だな」


 色々と問題があるので、一先ずは亡者達の記憶消去が一番の方法という結論に至る。だがバアルは、自分を含めて力を高めた亡者を兵士として使う悪魔達が現れるのでは無いかと考えていた。

 反乱される可能性はあるが、強大な戦力は手に入る。戦争を起こす悪魔達全員がそれを見過ごす可能性は少ないだろう。


「まあ、それを実行するのは私を含めた大罪の悪魔や地獄の支配者。後は爵位を持つような、自分の軍隊を持つ者だけ……数にしたら数十人くらいじゃないかな」


「それでも少々多いと思うがな。だが、その数だけなら何とかやり方はありそうだ」


 今話し合った事を実行出来るだけの戦力があるのは大罪の悪魔や支配者。爵位を持つ大物だけ。なのでバアルたち三人なら何とか纏められそうだが、バアルたちの誰かがそれを実行しない保証は無い。

 どちらにせよ、また面倒な事態が起こりそうな気配は残っていた。

 これを考えているうちにも大将の居ない亡者軍の進行は続く。一先ず今はそれを止める事も重要だろう。ライたちが悩み、中々動き出せずにいた時、何処からともなく地獄全域に響き渡るような声が聞こえた。


《ならばこの亡者達。ワシが預かるとしよう。ワシの目の届く範囲に置いておけば、下手な行動は起こしにくい筈だ》


「「【…………!】」」

「「「…………!」」」


 掛かったのは、地響きのような大声。

 地獄全域に届くよう話しているのでこの様な音量になってしまうのだろうが、威厳のある厳格な印象が深い声音だった。

 ライ、エラトマ、テュポーンとバアル、ルシファー、アマイモンの六人は辺りを見渡したが、声の主は見つからない。何処か遠くから話し掛けているのだろう。

 厳格な声の主は言葉を続ける。


《おっと、名乗り遅れたな。ワシの名は閻魔エンマ。俗に言う閻魔大王だ》


「なっ……!?」


 その者の名を聞いたライは言葉を失った。大抵の者なら知っている地獄の本当の王──閻魔大王。

 閻魔大王が直々にライたちへ話し掛けてきたのだから当然だ。いや、地獄全域なので厳密に言えばライたちだけではないが、今の言葉は少なくともライたちの悩みを解決させる為に放った言葉であった。

 閻魔大王の言葉には流石のバアルやルシファー、アマイモンも驚きを隠せない様子であるが、驚きながらもバアルが閻魔大王に向けて訊ねていた。


「閻魔大王か。預かると言っても、厳密にはどうするんだ? 地獄は広いが、管理下にあるのは八大地獄や小地獄の範囲だけ。必ず見落とす箇所も出てくるぞ」


 地獄の王である閻魔大王だが、地獄の全てを見通せる訳では無い。ライたちも行った、気配の感じなくなる洞窟も見渡せない部分の一つだ。

 そんな場所のように、広過ぎる地獄だからこそ必ず見落とす穴は出てくる。バアルはそれが気掛かりなのだろう。

 閻魔大王の声はバアルの質問に返した。


《そうだな。ワシの近くに隔離と監視用の地獄でも造るとしよう。取り込まれる危険性を考えて悪魔の出入りは禁止。今回関わった亡者達は──既に(・・)移動(・・)させた(・・・)


「……!?」


 その言葉に辺りを見渡し、先程よりも遥かに静まり返った戦場がライたちの目に映る。

 重火器による煙や剣や槍などは落ちているが、バアルとルシファー、アマイモン配下の悪魔たち以外の兵士の気配は無くなっていた。


《これで終わりだ。他にも聞きたい事はあったのだろうが、それを待たずに悪いな。野放しにしておくと被害の方が多くなりそうだったから済ませておいた》


 いつの間にか亡者達を消し去った閻魔大王。ライたちもだが、流石というか何と言うか、閻魔大王も大概異次元の存在という事だろう。

 そして声は消え去り、辺りには閑散とした空気が立ち込めていた。他の悪魔たちも忽然こつぜんと消えた亡者達を気に掛けているのか、その場から動かない。


「えーと……随分とあっさりだけど、これで良かったのか? レクスも居なくなってるし……」


「まあ、そうなんだろうな。先程までのレクスとやらは余たちを除いて最強だった。閻魔大王でも手が付けられない程にな。つまり、レクスを無力化出来た事で半永久的に幽閉する事が可能になったのだろう」


 面倒事を全て一人で解決した閻魔大王。かなりあっさりしたモノだったが、テュポーン曰くレクスの脅威が無くなったので実行に移せたのだろうとの事。

 先程までのレクスは閻魔大王をも遥かに凌駕した力を持っていた。なので隔離させる事も叶わなかったのだろう。しかしライが殆ど無力化させた事によって本当に封じる事が出来た。確かに辻褄は合っている。


「なら、これで戦争は終わったのか。少々味気無いが……終わったのなら私は自分の拠点に帰るとするか」


「そうだね。まあ、物事の終わりというのは存外あっさりとしているものさ。"生"も"死"も、起きた"事"も終わる時は一瞬さ。君たちも、一瞬を大切にすると良いよ」


 戦争が終わったのならば、長居をする必要も無い。故にルシファーとアマイモンはその場から一瞬で消え去った。ルシファーはライに一言だけ言い残して。

 そして残ったライ、エラトマ、テュポーン、バアルの四人。戦争が終わり、四人も味方の悪魔たちを連れ戻して自分たちの拠点に戻るのだった。

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