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六百六十九話 ライとテュポーンvsレクス

 ライも加わり、更に白熱。それ以上、地獄の世界を砕かんばかりの勢いとなって世界を揺らしていた。


「オラァ!」

「オラァ!」


 ライとレクスがぶつかり合い、大気を揺らして大地を抉る。光を超えた速度で動く度に惑星以上の広範囲が消え去り、更なる破壊を引き起こす。

 一秒間で三十万キロ進む光。それ以上の速度が為に、一秒だけで複数の惑星並みの距離を移動していた。


「フッ……!」

「ハッ……!」


 移動した先にテュポーンの巨腕が来ており、それを回し蹴りで弾き飛ばす。片方を弾いてももう片方が現れ、それを弾いても戻った来た片方が狙う。遂にはてのひらを叩き付けられ、レクスの身体は急降下して焦熱地獄に落ちた。

 その後を追うよう、ライとテュポーンも光を超えて突き進む。


「……っ。暑いな、この地獄……」

「そうじゃな。しかし、死ぬ程の熱さではない」


 地上に持っていけば豆粒程の大きさで全てを焼き尽くす程という焦熱地獄の炎。それに囲まれているライとテュポーンは、暑いながらも問題無く行動出来ていた。

 元々物理的な力に強いライ。魔力からなる炎では無いので、耐える事は出来ているようだ。そしてテュポーンは素で耐える。ライやエラトマ、レクスのような特殊体質でも無いテュポーンが耐えられるのもかなりのものだろう。

 因みにこの炎はライとエラトマ。二人が耐えられるものである。物理的な攻撃の効かないライの特性と魔法・魔術のような異能の効かないエラトマの特性が通じるという事は、つまり此処の炎は物理的な異能という、摩訶不思議な炎のようである。


「また落とされちまった。だが、強化されたばかりの俺でも苦戦する相手……。ハッハ……好都合! テメェらを追い越したその時、文句無しに俺が最強の王になれる!」


「そう言や、王になるってのが目的だったな。アンタ。王になったとして地獄を纏める事が出来るのか?」


「さあな。ただ単に、俺は全ての生き物から崇められたいだけだ。地獄の事は獄卒とか手下とか、適当な奴に任せる」


 どうやら王となり、周りからちやほやされたいだけらしい。罰を与えたり指揮を執ったりなどは他の者に任せ、自分はふんぞり返るのが目的のようだ。

 レクスと似たような事を目的としているライだが、やはり根本的に違う。ライは世界征服の暁には世界を見直し、俗に言う平和を手に入れるのが目的。世界を統一して動かすのは容易な事では無いが、ただ偉くなりたいだけのレクスとは大きく違っていた。


「フン、国も地獄もどうでもよかろう。さっさと続きと行こうではないか。余は退屈じゃ」


「ハハ……テュポーンも一応国を収める支配者だけど……自由人で行動はレクスに似ているかもな」


「フッ……そんな事はどうでもいい。面倒な事をしたくないのは大抵の者には共通する。洗脳でもされていれば別だがな」


 世界や国、支配などは割りとどうでも良さそうなテュポーン。ライは苦笑を浮かべながらレクスに構え、テュポーンも力を込めて構え直した。

 その一方で、レクスは魔力を込めて二人に向き合う。


「ハッ、確かにただの話し合いは退屈だな。正面から打ちのめすか!」


 ヤグルシを構え、焦熱地獄全域にいかづちを迸らせる。炎と雷は融合して更なる力となり、雷の炎が揺らめく中光の柱が周りに降り注いで消滅させた。

 先ずは邪魔な炎を消し去り、強化し、ライとテュポーンに不利な環境を創ろうという魂胆なのだろう。

 一変して変わり果てた焦熱地獄の中心で、レクスは大地を盛り上げた。


「潰れろ!」


 そして放った、土魔術からなる波。その質量は現世の海を超越しており、周りのモノを砕きながらライとテュポーンに迫った。


「フン、この程度か」


 それをテュポーンは片手を薙いで消し去り、巨腕を伸ばしてレクスにけしかける。未来を読んだレクスはそれを避け、光といかづちで牽制。その隙間を抜け、ライはレクスに拳を向けた。


「オラァ!」

「おっと、テメェの未来は読んでなかった」


 未来予知は多様に使える。しかし一人に集中したら他の未来が疎かになってしまうので読めなかった者の分は自分の反射神経のみで避けているのだ。

 先程のライとテュポーンのように防御と攻撃を分ける。対象が別々に行動をするのではなく全ての厄災が自分に降り掛かるならばそれを予知して避ける事も可能だが、まだ慣れ切ってはいないレクス。いずれは何百人の未来を見てその全てをいなす事も実行出来るようになるが未来予知を上手く扱い切れていなかった。


「アンタの未来予知……この場で起こる先の未来じゃなくて、悪魔で対象者に起こる未来しか見れないのか」


「みたいだな。本当は違うかもしれないが、悪魔で今の俺は対象者の未来しか見えない」


 拳を受け、弾き飛ばされて炎を突き抜ける。

 どうやらレクスの未来予知は本来の未来予知と違い、対象者の未来のみを見るモノらしい。

 簡単に言えば、明日世界が滅亡するとする。今のレクスは滅亡する世界では無く、滅亡を体験する者の姿しか見えないという事だ。周りの景色などはほとんど見えず、対象者が消え去ったのを確認するしか出来ないという事である。

 日常では使いにくい未来予知だが、戦闘に置いては真価を発揮する。地形を使った戦闘を行う者は主力クラスに少なく、自身の力で挑むので裏の裏の裏を読めるという好都合の未来予知だった。


「フッ……!」

「っと……!」


 突き抜けた炎の向こうから、テュポーンの巨腕が放たれる。それをレクスは反射神経のみで避け、上から来たライの拳を両手で受け止めた。その重さで大地が沈み、波打ち波紋が広がるようにクレーターが造り出される。完全には沈まず堪えたレクスに、再びテュポーンの巨腕が弾幕のように降り注ぐ。


「やっぱ二人が相手だと面倒だな……!」


 なるべく手に入れたばかりのバアル、ルシファー、アマイモンの力を使いたい雰囲気のレクスだが、ライとテュポーンの連続攻撃にそれだけで対処するのは至難の技。

 なので未来予知と瞬間移動を巧みに扱い、全ての攻撃を避けて二人を視野に収める。同時に踏み込み、跳躍して空から焦熱地獄に全てを消し去る光を雨のように降り注がせた。それによって焦熱地獄の広範囲が消え去り、大焦熱地獄へと広範囲が落下する。


「……っ。滅茶苦茶するな……! 次は更に暑そう……いや、熱そうだ……!」


「フッ、流石の主も光の柱はかわしたか。しかし大地その物を落とすとはな。より苦痛のある場所で戦おうということか」


 落下しつつ、光から逃れたライとテュポーンは既に大焦熱地獄の熱を感じていた。

 焦熱地獄の十倍の苦痛を与える大焦熱地獄。流石のライも今度ばかりはマズそうだ。


「せめて……! "水と氷の部屋ウォーター・アイスルーム"……!」


 テュポーンは問題無いだろう。しかしライは問題がある。なので力の上がった魔術をもちいて熱を防ぐ壁を自身の周りに造り出した。

 氷で表面を覆い、内側に水を張る事で温度の急上昇を抑える壁。魔王の七割に匹敵する今のライでなければ使えない技である。


「ほう? 魔術というものには色々な使い方があるのだな。魔術など使わなくとも何とかなるから知らなかった」


「ハハ……一応アンタもフォンセとかの魔術を見ていた筈なんだけどな。俺なんかまだまだだ」


 ライの応用を見、感心するテュポーン。ライは自分よりも上手く魔術を使えるフォンセの事を言い、自身の力を謙遜する。

 しかし魔術の扱いはフォンセの方が圧倒的に上である事は変わらない。力が上がっているとはいえ、フォンセのように大陸一つを生み出す事は出来ないからだ。


「ハッハ……耐えたか、テメェら。だがその魔力の気配……。フム、ガキ。テメェは素の状態で此処に立つのは難しいらしいな」


「ああ。アンタが知っているかは分からないけど、此処って大焦熱地獄だろ? 多分さっきの場所が焦熱地獄だろうからな。彼処あそこの十倍の苦痛……常人ならどんな熱対策をしても一瞬で消滅する熱さだ」


 レクスは大焦熱地獄にある熱せられた鉄板の上に座り、クッと笑って話す。本来なら彼処に座るだけでかなりのダメージを負いそうなものだが、バアル、ルシファー、アマイモンを取り込んだ今のレクスには大した事は無いらしい。

 素の力や多種多様の魔法と魔術もさながら、その耐久力もかなりのものである。


「そう、その通りだ。此処はそういう地獄だからな。まあ、やり方はどうあれ耐えられてんなら問答無用で行くぜ?」


「どうせ耐えていなくても問答無用だろ?」


「耐えられなかったら生きてるテメェらは死ぬ。耐える事は大前提だよ」


「ハハ、成る程な」


 光の速度を超え、レクスに迫るライ。それをレクスは正面から受け止め、冷たい気配が一瞬漂う。同時に数回転してライを放り投げた。

 投げた瞬間にライの護りを破ろうと力を込めるが、左右から迫ったテュポーンの巨腕によってそれを阻止される。刹那、テュポーンの巨腕はレクスを素通りして回転。周囲に爆発的な旋風を引き起こした。


「何してんだ?」


「このまま不利な状況で存分に戦えないのは勿体無かろう。仮にライの熱対策の守護を破られても問題無いように変えた」


「成る程。相変わらずの化け物だ」


 テュポーンが巨腕から旋風を生み出した事により、周りの炎は渦巻きながら上層の大気と混ざり合って消滅する。燃やす為の燃料が尽きれば消えるのは必然だ。上の地獄は大焦熱地獄の炎に耐えられないからである。

 何はともあれ、相変わらずの熱さはあるが例えライの水と氷の部屋が消えても問題無い程度になった。


「助かるよ。あの状態でも持って数分だっただろうしな」


「フッ、礼はいい。さっさと参加しろ」

「ああ!」


 互いに数言だけ交わし、目の前のレクスに構える。そして二人は駆け出した。

 ライが光の速度を超えて直進し、テュポーンが動きで翻弄しつつ遠方からレクスにまで届く巨腕を放つ。同時に二人の未来を見るのは難しいレクスの力。この方法ならどちらかの攻撃は当たるかもしれない。


「ハッ、洒落臭え! 面倒だ、纏めて吹き飛ばしてやるよ!」


 直進するライと左右から攻めるテュポーンを前に、レクスは光の力を込めた。そしていかづちを混ぜ、土で山よりも巨大な壁を造る。逃げ場を完全に潰し、その中心に光の柱が創り出された。

 柱の中では土と炎が浮き上がり、吸い込まれるように消え去る。音も無く、無音の中で繰り広げられる破壊の連鎖。破壊によって生まれた物質は羅列し、形を変えて幾何学模様を描きながら消滅する。

 目映い光とは裏腹に、広がり続ける柱は数分間残り、音も無く消え去った。


「美しい光景だ。破壊の光の柱……"破壊の光柱エグジッティアム・ルークス・コルムナ"とでも名付けておくか?」


 立ち上ぼり、消滅した光の柱を前にレクスは仰々しい名を名付けた。

 しかしバアルの稲妻ヤグルシとルシファーの光が合わさった強力な技。触れるもの全てを消し去るこの力は大層な名に相応しい威力が秘められていた。


「さて、今の光の中で無事に済む訳は無いが……アイツらは幸運だからな。なんか都合の良い事が起きて助かってるかも知れねえ」


 何もなくなった大焦熱地獄の一部を見、呟くように話す。勝ったと思った時に何かが起こり、助かるという光景を何度か見ているレクス。それが相まり、より強い警戒心を宿していた。

 普通なら助かる筈が無くとも、ライたちは普通とは程遠い存在だからだ。


「流石、良い勘だな」

「……!」


 大地の下から声が掛かり、誰かの足がレクスの顎を蹴り上げた。それによって身体が浮いた瞬間、二つの巨腕がレクスの腹部に突き刺さる。そのまま遠方の山へと吹き飛んだ。

 しかし瞬間移動で即座にその場に戻り、自分に攻撃した者の姿を捉える。


「……。ハッ、やっぱ無事だったかテメェら。一体どうやった?」


「普通に避けただけだ。今の俺なら光をかわせる。だから、光の柱が形成されるよりも前にアンタが造った壁を砕いて外に出た。そして、隙を作る為に穴を掘って待機していたって訳だ」


「成る程な。だが、今回はちゃんと教えるのか。戦術を教えるのは駄目なんじゃなかったか?」


「関係無い。子供の俺が言うのもなんだけど、子供騙しの手だからな」


 簡単に思い付く避け方。なのでライは隠さずに説明していた。

 光よりも速く動けて山をも砕く力。言葉にするのは簡単だが、実行は難しいだろう。それを実行出来る者は限られている。しかし消滅の光が出ているうちはレクスも近寄れないので、避け方も色々あった。


「そうかよ。だが、純粋な力では俺の方が上だ!」


「ああ、知っている……!」


 踏み込み、ライの眼前に迫る。それをライは見切ってかわし、横にずれながら拳を顎に掛けて振り上げる。しかしそれを避けられ、回し蹴りが側頭部に掛けて放たれた。しゃがんで躱したライは同時に後方へ跳躍して下がり、魔力を込めて土魔術からなる鎚を放った。そしてそれを正面から砕く。


「攻撃……じゃねえな。目眩ましか」

「ああ!」


 目眩ましをしたはいいが、目眩ましの意味が無いように正面から攻めるライ。傍から見れば馬鹿丸出しだが、レクスにはライの意図が見えていた。


「テメェが来ると見せて、別の場所からアイツが狙ってんだろ?」

「さあ、どうだろうな?」

「ハッ、当たりだろ!」


 土魔術の鎚を砕いて正面のライを受け止めつつ、左右から差し込まれる巨腕を避ける。

 そう、全てはレクスの予想通りだった。慎重なライだからこそ、闇雲に正面から来るというのは考えにくい。なので何か裏があると踏んだのだろう。

 その結果、ライの攻撃とテュポーンの攻撃を避け切ったという訳だ。


「ハッハ! 裏の裏は無かったか! だったらテメェとテメェの仲間のこの腕……纏めて吹き飛ばしてやる!」


 読みが当たり、嬉々としてライとテュポーンを引く。そのまま仕掛ける事により──二人の作戦が成功した。


【ハッ! 数百年……いや、数分振りだな、王様よォ!】

「……!?」


 突如としてエラトマが姿を現し、ライとテュポーンを掴むレクスの腹部を蹴り上げた。それによってレクスは吐血し、勢いよく空へ飛ばされる。最下層の地獄に居たからか、体感時間は割りと経過しているようだ。

 何が起きたから分からぬままに吹き飛ばされたレクスは空中で体勢を整え、瞬間移動をもちいて移動する。そしてライ、エラトマ、テュポーンを見渡せる位置に来た。


「な、何でテメェが来やがるんだ……!? 確かに下の地獄に……!」


【ああ、飽きたのと知った気配を感じたからな。邪魔な岩盤を砕いて上がってきた】


 レクスが訊ねた瞬間に呆気からんと答えるエラトマ。気配を感じただけで戻ってきたのはこの際置いておく。レクスの疑問はそこじゃないからだ。


「違う! 何でテメェが落ちてから会ってねえコイツらと連携出来るのかって事だよ!」


【クク……アイツがさっき下からテメェを攻撃しただろ? 不意を突くって目的だったが、そこで偶々(たまたま)鉢合わせたんだ。この世の中、何処だろうと俺の都合の良いように世界が回っているからな】


 レクスが気になったのは会っていない者同士の連携。曰く、先程ライが地面からレクスにけしかける前にエラトマと合流していたとの事。

 随分と都合の良い合流だが、自分に都合の良い事を引き起こすのも魔王エラトマの力。それが作用したので今に至るという事だ。


「……っ、そう言う事かよ……。……ハッ、構わねえ! 今の俺なら無問題! テメェら纏めて、ひざまずかせてやるよ!」


 閃光を迸らせ、いかづちを轟かせる。そして土を操り、毒を周囲に散らせて迅速に三人の未来を一瞬だけ読んで瞬間移動で移動した。

 今まで取り込んだ悪魔の力。レクスはそれをフルに活用し、ライたち三人に構える。この状況でも退かないのは、素直に称賛に値する事だ。

 ライ、エラトマ、テュポーンの三人が合流し、フルパワーのレクスが迎え撃つ。体感時間数ヵ月に及ぶ地獄の戦闘と生活も、終わりに向けて進んでいた。

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