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六百六十八話 ライvsレクス(再)

「俺の力を見せてやる!」


 仰々しく両手を広げ、周囲にいかづちを迸らせる。それらは雨のように降り注ぎ、ライ以外の全てを感電させて焼き尽くす。


「力を見せるって……文字通りた見せるだけかよ。味方の兵士巻き込んでんぞ」


「ハッハッハ! 俺は有言実行をするタイプだからな! 先ずはこの力を身に染みさせて教えてやろうって訳だ!」


 地獄の黒い紅空から無数に降る雷。

 ライは味方が巻き添え食らって感電していると告げるが、仲間の事など微塵も考えていないレクスは構わず雷を落とす。

 ライの味方も巻き込まれているのでのんびりと眺めている訳にもいかないだろう。敵兵の足止めで忙しい他の主力たちを余所よそに、敗北覚悟でライは大地を踏み込んだ。


「身に染みさせる前に、何とか事が済むと良いんだけど」


「フッ、来るか。良いだろう。まだ物足りないからな。悪魔を取り込み過ぎたのか、妙にたぎってしょうがねえ。話し方も今の方が良さそうだ」


「話し方については聞いていないけどな」


 第五宇宙速度。即ちライは全速力でレクスに突っ込む。敵の強さは言わずもがな、少なくともこの地獄では最強だ。なので始めから全力で挑むつもりである。


「行くぞ……!」


 近寄った瞬間拳と全身に力を込め、惑星を崩壊させる程に全力でその拳を打ち付けた。



 ──瞬間、とてつもない轟音が辺りに響き渡り、生じた爆風によって地獄の空から全ての雲が消え、広範囲に衝撃波を散らした。



 地形を変えるどころか世界を変えるレベルで放たれた拳。常人どころか主力クラス以外は影も形も無くなる程の破壊力だが、


「ハッハ……これがテメェの全力か。やっぱ前に会った時は大した力を使ってなかったんじゃねえか!」


「あらら……ノーダメージ……。無傷か……。かなりマズいよな……これ……」


 軽薄な態度でレクスの懐にある拳を見るライは、本気で困り果てていた。確かに直撃はしたが、見ての通り無傷。惑星を砕く程の力は強者にも確実とまではいかないがそれなりのダメージを与える威力を秘めている。

 しかしそれを受けたレクスが無傷でライの前に立っているので、状況の悪さは恐らく今までの体験で三本の指に入るものだ。


「ハッ、お返しだ」

「欲しくないけどな……ッ!」


 レクスが攻撃の体勢に入った瞬間、ライは飛び退く。しかしレクスの攻撃に追い付けず、裏拳を頬に受けて勢いよく吹き飛んだ。

 山や鉄、針を超えて突き進み、血の池を溢れさせながら停止する。そのまま不健康そうな血の池地獄に落ち、その血を少し飲んでしまった。慌てて陸地に上がり、飲んだ血を吐くライ。その血液の中には自身の血液も混ざっていただろうが、そんな事を気にしている暇は無さそうだ。


「おう、旨かったか? 血の池の味は」


「ああ……酷いものだったよ。俺の仲間に吸血鬼が居るんだけど、その吸血鬼ですら遠慮するレベルの血だ」


「だろうな。ドロドロで不健康。最悪の味だぜ、この血の池は」


 目の前に立っていたレクスによって腹部を蹴られ、新たな血を吐きながら飛んできた方向を戻される。しかし完全には進めず、血の池の上でレクスは回し蹴りを放ってライを血の池へと落とした。


「他の奴の苦痛の表情を見るのは好きだぜ。だから、もう少し苦しんでいな!」


 もう聞こえていないのだろうが、今までやられた分も返しているつもりなのか嘲笑いながら落下地点を見る。

 今度は手加減したのか、血の池の更に下までは落ちないように工夫されていた。しかし深いので、戻るにしてもかなりキツイだろう。


「ついでに、感電させてやるか」


 バアルの稲妻ヤグルシを片手に持ち、それを血の池に投げ落とす。他の亡者や亡者に罰を与える獄卒も居るが構わず、血の池地獄は電流血の池地獄に昇格した。

 吐く程に不健康で気持ち悪い血の池。そこに半永久的に流れる電流が加わり、身体が思うように動けなくなる。泳いで端まで行かなきゃならない血の池だが、その苦痛は更に増加していた。


「ガホッ……ゲホッ……ブハッ……! 殺す気かよ」


「ああ」


 第五宇宙速度で血の池から上がり、飛び出して陸地に降り立つライは痺れる身体を何とか動かし、飲んでしまった不味い血を吐いていた。

 そんなライの言葉に即答で返すレクス。どうやらライが何処に姿を現すか予想していたらしい。

 ライは物理的な攻撃には耐性があるので普通なら死んでいるダメージでも耐えられていたが、血の池の窒息やヤグルシによる雷撃は少々手厳しいようである。


「と言う割りには待っててくれるんだな。そんなに暇潰しがしたいもんかねぇ……」


「ハッハ。今の俺にゃ、もう敵と呼べる奴らは居ないからな。生かしてやってるんだ。感謝の一つでもしろよ。何なら、泣いて願うなら俺の手下にしてやっても良いぜ?」


「それは嫌だな」

「じゃあ死ね」


 飛び退き、後を追う。刹那にレクスは追い付いたがライは不敵に笑い、炎魔術を放ってレクスの身体を焼き払った。

 当然ダメージは無いのだろうが、悪魔で目眩ましが目的だ。


「ハッ、小賢しい真似を」

「そうでもしなきゃ、アンタに一矢報いる事も叶わないからな!」


 姿を消した瞬間、レクスの背後から蹴りを放つ。惑星破壊程の威力は無いが、その蹴りを受けたレクスは吹き飛んだ。恐らくわざと受けたのだろう。圧倒的な実力差を前に、ライがどう動くのかを見てみたい心境のようだ。

 吹き飛んだ事によって血の池を弾みながら進み、遠方にて粉塵が舞い上がる。そしてライは、その粉塵を見ながら立ち竦んで考えていた。


「さて、何となく吹き飛ばしたけどどうするか……。逃げるか?」


 逃げ腰な思考。今回に限っては適切な判断だが、どうせ直ぐに追い付かれるだろう。せめて他の主力たちが居る戦場に戻れれば良いのだが、どうやらそういう訳にもいかなそうである。


「ハッハ! 次は俺の番だ!」

「いつからターン制になったんだよ……」


 ツッコミを入れる隙はあったが、身体の反応は遅い。よって、ライの身体は再びレクスの重い拳に吹き飛ばされた。

 軽く放たれたその一撃でも惑星粉砕の威力は秘められている。ライの全力=レクスの軽い攻撃という方程式が作られていた。

 吹き飛ばされたライは勢いが止まらず、何故か既に砕かれている山々を抜けて一際大きな山に衝突してようやく停止した。

 果たしてどれ程の距離飛ばされたのか、頭から血が流れ、身体中の骨が砕けている激痛の状態では考えるのもかなり難しい事だった。


(あー……駄目だ……頭が回らない……。視界は何か常に回っているけど……えーと……何をしてたんだっけ……)


 カラカラと、ライは自身の造った土塊と共に大地に落下した。地に伏せて身体が動かず、頭も回らない。見ての通り瀕死の状態であるライは、その意識が徐々に消え失せていく。

 レクスが来ようと来まいと、遅かれ早かれその命は尽きてしまう事だろう。


「……」


 そしてその意識は、


「……いや、まだだ……!」


 次の瞬間に覚醒した。

 追い詰められ、死に近付いたライ。しかし此処で倒れる訳にもいかず、無理矢理意識を引き戻した。

 意識が戻った事で激痛は更に強まり、動くだけで死にそうな痛みが全身を駆け巡る。齢十四、五のライにとっては泣きたい程の痛みだが、それを堪えて立ち上がった。


「クハハ……起きたか。おはよう。死にかけた感想はどうだ?」


「ハハ……そうだな……少なくとも、今よりは楽だった。まあ、現世でやり残した事は色々あるし、のんびりと死んでいる暇は無いんでな」


「ハッハッハ! 良い根性だ! 気に入った! やっぱテメェ俺の手下になれ! 今なら幹部の地位もやるよ!」


「言っただろ……それは嫌だってな……!」


 何故か分からないが、ライはレクスに気に入られたらしい。根性のある者は誰でも良いのかもしれないが、やはりライは敵の立場である者に気に入られる事が多い。しかし今回は確実に倒さなくてはならない敵。気に入られても意味が無い。

 なのでライは力を込め──第六宇宙速度でレクスに迫った。


「……!」

「オラァ!!」


 第六宇宙速度。光の速度で迫られたレクスは第五宇宙速度との速度差に反応し切れず一撃を顔に受ける。そこから更に力を込め、その身体を吹き飛ばした。

 今度はわざとではなく、確かにライの力で吹き飛ばせたようだ。


「行けるかもしれないな……今なら……!」


 そしてライは──光を超えた。

 光を超えた速度で吹き飛ぶレクスに追い付き、上から拳を叩き付けて地に落とす。そこから連打を食らわせ、惑星複数個分の範囲をクレーターに変えた。


「……ッ! 成る程……俺と似たようなタイプか。強敵を前にすると力が上がる……そして、感情の昂りが作用する……!」


「説明、ありがとさん!」

「どういたしまして!」


 造られたクレーターの中から姿を見せたレクスが正面からライとぶつかり合い、巨大な衝撃を散らす。

 しかしまだ実力には差があり、ライが押し負けてしまった。同時に腹部へと蹴りを放たれ、ライの身体は吹き飛ぶ。何とか身体を動かして勢いを殺そうとするが、とある変化に気付いた。


(……っ。身体が……動かないな……これ……!)


 たった数撃で身体が動かなくなってしまったようだ。しかし、それも当然なのかもしれない。

 元々瀕死の状態から無理矢理意識を取り戻して覚醒した力。それには当然制限があり、使用するたびに掛かる負荷が半端ではないのだ。

 全ての理不尽を詰め込み運にも万物にも作用する魔王の能力と違い、ライだけでは上手くいかないものである。


「……。随分としてやれたようじゃな、ライ。奴はお主程の者が苦戦する相手だったか?」


「……!」


 光を超えて吹き飛ぶ中、一つの衝撃と共にライの動きが止まった。辺りには砂塵が生まれ、その砂塵が遅れてきた風圧で消し飛ぶ。

 どうやらかかえられた体勢となっているライは、何とか目だけを動かして自分を止めた者に視線を向ける。


「……。テュポーンか……。そういや、戦場に居なかったな……」


「フフ……少し遊び過ぎてのう。まあ、そろそろ戻ろうとした矢先にこれだから余は運が良い」


 その者、テュポーン。既に砕かれている山々はテュポーンが貫通したモノ。偶然か否か、ライはテュポーンが吹き飛んだ方向に飛ばされていたのだ。

 しかし地獄は広い。なのでライの力が尽きる間際ギリギリで合流出来たという事だろう。全身がズダボロで死にかけている事を除けば、ライも比較的運が良いらしい。


「うん? テメェは確か、俺が倒した筈……まだ生きてやがったのか」


「阿保抜かせ。あの程度の攻撃、少し痛む程度のダメージしか受けぬわ。だが……今の主なら余にそれなりのダメージを与える事も可能と見た。丁度良い、リベンジさせて貰おうかの」


 片腕で掴んでいたライを無造作に置き、不敵な笑みを浮かべてレクスに向き直るテュポーン。負けたつもりはないが、負けたというていで挑む事によって自身の行動を正当化しているのだろう。

 そんな事をしなくてもライやバアル、ルシファー、アマイモンの軍の者たちからすれば正しい事なのだが、普段から勝手に行動しているのでそうする事が癖になっているようだ。


「ハッ、いいぜ? ようやくまともに戦えるようになったかと思いきや、そいつは既にボロボロだったからな。まあ、それ程までに俺の力が偉大で強大って事だが……大罪の魔王も居ない今、俺が地獄で最強だ! だからこそ、丁度良い暇潰しの相手に任命してやるから感謝しろ!」


「フフ……良い話だ。だが、任命は断ろう。任命させるのではなく、余の暇潰しに主が付き合うのだからな……!」


 唯我独尊を突き進む二人は、自身の意見を変化させて相手に向き直る。

 二人は試されているのでも、試しているのでも無く、悪魔で自身の敵を玩具としてしか見ていない。壊れにくい、ただの玩具である。


「さて、次は圧倒的にならぬ事を祈るのだな」


「こっちの台詞だ……!」


 踏み込み、二人は光を超えて一気に加速した。テュポーンはレクスを舐めているように見えるが、侮ってはいない。その証拠に、城程の大きさを誇る巨腕を既に展開させていた。

 その一方でテュポーンの実力を身を持って知っているレクスも油断はしていない。まだ序盤なので全力では無いにせよ、ライにならば勝利出来るくらいの力は使っていた。


「さて、」

「お手並み……」

「「拝見といこう……!」」


 息の合った言葉で互いを狙い、拳と拳が衝突する。質量も大きさも全てが違う拳同士は激しくぶつかり合い、辺りを一気に吹き飛ばした。

 これではライも巻き込まれてしまうが、ライは自身の治療魔術で応急措置を終えている。完全では無いにせよ、死ぬ確率は下がった筈だ。


「ダラァ!」

「フッ……!」


 テュポーンの巨腕を弾き、自身の身体も弾かれる。その瞬間に二人は炎を使い、巨大な業火で地獄の世界を焼き尽くした。

 正面からぶつかった二つの炎は崖によって返る波のように翻り、天高く舞い上がる火柱となる。そしてその火柱は次の瞬間に光によって飲み込まれた。


「流石のテメェも、この光を受けては助かるまい!」


「触れるだけで消滅させる光か。面倒じゃな」


 光速で迫り来る消滅の光線。消滅していく周りの山を見ながらテュポーンは光の効果を理解してかわした。

 触れるのは危険と分かっている光線。躱す事は容易く無いにしても避けられるなら避けた方が良いという判断だった。


(凄い戦いだな。……足手纏いになるかもしれないけど、俺も行くか……!)


 テュポーンとレクスの戦闘を見やり、ある程度の応急措置を終えたライが思考しながら立ち上がる。

 少なくとも、魔王の五割に匹敵する力から魔王の七割に匹敵する力を使えるようになった今のライなら、手助けくらいは出来るだろう。元々ライが受けた勝負なので、出ない訳にはいかなかった。


「テュポーン! レクス! 俺もやってやるよ!」


「フッ……やはり余の見込んだ者じゃ」


「ハッハッハッ! 纏めて掛かってこい、テメェらァ!!」


 光を超えたライがレクスに迫り、拳を打ち付ける。それをレクスは片手で防ぎ、ライを弾いて二人に向き合った。

 地獄の最強格となったレクスと、支配者に匹敵する力のライ。そして支配者その者であるテュポーン。現世組み二人の戦いは、無限地獄に居るあと一人を除いて続くのだった。

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