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六百六十六話 暴食と傲慢vsレクス

 ──"地獄・モートの元拠点・戦場"。


 レクスとエラトマの決着が付いた? 頃、ライたちは戦場を駆けながら敵の兵士を打ち倒していた。

 正面から来る者は正面から打ち砕き、遠方から放たれる矢や銃弾はかわし、時に正面から受けて無傷で進む。物理的な攻撃の効きにくいライならば態々(わざわざ)躱す必要も無いのだが、身体に当たらなければ矢などは再利用出来る。なので敢えて躱し、味方の武器補給も兼ねているのだろう。


「取り敢えず城に行けば良いのか?」


 周りに味方の主力は誰も居ない。広範囲の戦争だからこそ、強力な戦力である主力たちはバラバラで戦っているのだ。

 しかし味方の悪魔兵士たちは居る。一先ずライは味方を亡者の手から護りつつ、本拠地である城の方に向かう事にした。


「一騎当千のこの強さ、奴は主力か!」

「ならばその首、俺が貰い受ける!」

「手柄を得れば、側近になれるかもしれねェからな!」

「ハッ! 主力の力を取り込めば俺が頂点に立てるかもしれねえ!」


 ライを悪魔と思っているのか、取り込もうと様々な敵兵が武器を構えて突き進む。欲しいものは名声、手柄。ある者は下克上を狙う己の野望、目的は多数あれどライに挑む事はめないらしい。

 何はともあれ、元々があらゆる罪を背負った亡者。やはりレクスには完全に忠誠を誓っていないようだ。


「信頼無いんだな、レクスって」


 レクスに少しだけ同情しつつ、目の前から攻め来る兵士を迎え撃つ。次いで正面の者を殴り付けて吹き飛ばした。その後左の者を掴んで振り回し、そして周りの兵士を巻き込んで散らした。

 何人かの悪魔の力を取り込んでいるので力は上がっているが、大罪の悪魔数人を取り込んだレクスと同等だったライ。兵士程度ならば然程さほど苦になる程ではなかった。


「無視して進んだら味方の悪魔たちに被害が行きそうだし、放っては置けない。……うん、先は長そうだな」


 敵が亡者ならば、悪魔たちは常に触れたら終わりというハンデを背負っている。なのでそのハンデを少しでも削る為、一人でも多くの亡者を倒す必要があるのだ。

 しかしただ吹き飛ばしたり打ち倒すだけでは意味が無い。地獄の風と共に即再生するからである。なので最低でもバラバラにしなくてはならないのが難点だった。

 ライ程の力なら普通に殴るだけで大抵の兵士はバラバラになる。バラバラにした瞬間、更なる追撃をする必要があるのも面倒だろう。


「「「うおおおお!!」」」

「やっぱり再生して起き上がるか……」


 再び迫り来る兵士達。その一人を殴り付けて身体を砕き、炎魔術で焼き払う。背後から来る三人を回し蹴りで吹き飛ばして音速で迫り、脳に直接的な攻撃をしてその意識を刈り取る。

 まだまだ溢れる敵の兵士。縦回転蹴りで地面に埋め、兵士同士を投げてぶつけ、土魔術で閉じ込め、様々な方法で自由を奪う。


「そらっ!」

「……!」


 次いでライは兵士の一人を空へと蹴り上げ、


「オラァ!」

「……ッ!」


 そのまま赤い上空から大地に叩き付けた。隕石の如く落下した兵士によって大地が抉れ、左右に広がってクレーターが造り出され、敵の兵士達が衝撃波で吹き飛ばされる。


「"土の部屋(ランド・ルーム)"!」


 同時にクレーターを覆う土魔術を使い、複数の兵士達を閉じ込めた。


「これで百人は……いや、八十数人程度か。亡者は無限に湧き出る兵士みたいなものだし、かなり大変だな……」


 閉じ込めたのを確認して降り立ち、改めて周りを見渡す。まだまだ兵士は残っており、ライの進撃に戸惑ってはいるものの戦う気はあるようだ。

 苦痛はそのままなので気が引けているようだが、死ぬ事は無いので常に攻める事だろう。


「怯むなァ!」

「進めェ!」

「「「うおおおっおおおお!!!」」」


「またやる気がみなぎっているな……」


 遠距離からの攻撃はない。どうせ意味が無いのなら、近接戦に持ち込んで質量で実力差を覆そうという魂胆のようである。

 確かに少し強いだけの者は、一対一サシで勝てても集団戦になると弱い。作戦としては立派なものだが、


「はあ……邪魔だ!」

「「「…………ッ!!」」」


 ──圧倒的な実力差の前には無意味だった。

 ライが正面に拳を放ち、その衝撃で亡者兵士を吹き飛ばす。飛んだ亡者達はボトボトと空から落ち、加速したライが蹴散らした。埋める、封じる、距離を置かせる。ライはそれらのやり方によって亡者達を確実に無効化していた。


「まだまだ居るか。纏めて吹き飛ばしているけど、本当にキリが無いな……」


 一通り行動不能にさせ、百人近くをライは打ち倒した。しかし先にはまだまだ兵士がおり、流石に相手するのが面倒になり始めた時──


「「「…………!?」」」


 ──光の柱が立ち上ぼり、亡者達が消滅した。


「……。ルシファーの光か……」


 その光に見覚えのあるライ。それはルシファーの光の力だ。その光は救いを与えるモノではなく、存在その物を消し去るモノ。見方によっては消滅も救いかもしれないがそれはて置き、天使の光が何よりも確実な破壊を生み出す堕天使ルシファーには相応しい技だった。

 ともあれ、光の柱によって大多数の亡者が消滅したので先に進もうと加速した時、


「……。やり過ぎな気もするな……」


 空から降り注ぐ無数の光を見たライは呟いた。

 そう、今この場所には"無数の光"が降り注いでいるのだ。敵も味方も巻き込んでしまいそうな程の光の柱。触れれば即座に消滅するその光は恐ろしくも美しい神々しさがあった。


「まあ、ちゃんと考えて狙っているって言ってたし、多分大丈夫か」


 降り注いでいるのか立ち上っているのか分からないその光は、恐らく問題無い筈だ。

 なのでライは敵が減った恩恵にあやかり、拠点を目指して直進した。


「さて、と。レクスは居るのかどうか……」


 そして多数の兵士達を片付け、城の中に入ったライは辺りを見渡してレクスの事を探していた。気配があるかどうかは分からないが、一応探ってはいる。


「まあ、やっぱり気配は消してるか」


 その結果、気配は掴めなかった。それはライも理解しているので、ほとんど分かっていた事を試した程度なので特に問題はなかった。当ても何もない事を探すのは慣れている方だ。


「さて、どうするか」


 頭を掻き、広い城内を見渡して一息吐く。探すのは確定しているが、やはり大変な事に対して行動を起こすのは疲れるものだ。

 城内に入ったライは、何故か既にボロボロの城を探索するのだった。



*****



「おや? バアル。君も来ていたんだ。別々に行動していたというのに」


「来ていたも何も。目的地は城なんだから当然だろう。まあ、部下たちや他の主力が居ないのは気になるがな」


 ライが城の探索を始めて数分後、城の前にてバアルとルシファーが合流していた。目的地は城という事で一致しているので偶然でも何でも無いのだが、部下や主力が居ない事を考えればある意味偶然とも言える鉢合わせだった。


「ハッハッハ、大罪の悪魔にして地獄の支配者であるお二人が揃っているとはな。こんな光景、滅多に見れるもんじゃねえぞ」


「「……」」


 バアルとルシファーの会話に、一つの声が掛かる。それは軽薄な声であり、敵意を剥き出しにした声だった。

 二人はそちらを見やり、大体誰か分かっているがその者の姿を確認した。


「ハハハ……もう一人は居ないみたいだな。だが、アンタら二人が居るだけで十分かもしれねえな。何故なら、アンタらの力は取り込めるからよ。このレクス様の手に掛かればな!」


 そう、知っての通りレクスである。既にその存在を理解していた二人は臨戦態勢に入っており、何時でも行動を起こせる状態になっていた。

 バアルはアイムール稲妻ヤグルシを携え、ルシファーは翼を畳んで光を込める。この敵と分かった瞬間に行える切り替えの早さ。流石は大罪の悪魔ににして地獄の支配者である二人と言ったところだろうか。


「敵が来たなら都合が良い。さっさと仕留めて終わらせるか」


「フフ……随分と好戦的だね。けどまあ、この者を倒せば全てが終わるなら確かに選択肢は一つだけだね。うん、良いと思うよ」


 殺気を放つバアルと優雅に構えるルシファー。放っている気配は真逆のモノだが、目的は同じ。ルシファーも珍しくやる気を見せてくれているみたいである。


「クク……ハハ…… ハッハッハ! 良いぜ良いぜ! 良いな! 最高だアンタら! 始めから乗り気で戦ってくれんのはありがてえ! ま、いつもならんな事気にしねえんだが、今日は気分が良いからな! さっさと終わらせてやるぜ!」


 テンションを上げ、レクスは心の底から楽しそうに笑う。

 別に、相手が乗り気であってもそうでなくても無理矢理戦いを挑むつもりではあるが、テュポーンとエラトマを倒したと思っているので自然と血が湧き肉が踊るのだろう。高揚感に包まれているからこそ、話が早く自分の力を試せるのは心底楽しいという事だ。


「さあ! 楽しもうぜ!」

「悪いが、楽しませるつもりなど毛頭無い」

「別に私は構わないけどね」


 嬉々として力を込め、バアルとルシファーの背後を取る。二人は死角に回り込まれる事を予め予期しており、背後を取られた瞬間に距離を置いていかづちと光を放った。

 このいかづちはヤグルシからなるものであり、通常の雷よりも高い威力を誇る。ただの"雷"ではなく、文字通り"神鳴り"という事だ。そして光は相手の存在その物を消し去る光。

 全てを消し去る神鳴りに敵を抹消する天使の光。悪魔の二人が使う技にしては、神としての格が含まれるものだった。


「良いじゃねえか! 悪魔の力だけじゃ少し物足りないと思っていたところだ! 神や天使の力が混ざればより上に行ける!」


 雷速のヤグルシと光速の光。それらを見切って避け、高らかに笑う。光速以上で動けるレクスにとっては大した事の無い速度なのだから当然だろう。

 避けたレクスは即座に二人へ向き直り、瞬間移動で再び背後を取る。取った瞬間に上から光の柱が降り注ぐが、それを未来予知していたのか軽く避けた。


「成る程な。近付くとたちまち返り討ちに遭うって事か。つか、アンタらは魔法や魔術を無効化しねえし、別に近接戦に持ち込む必要はなかったか」


 分析し、対処法を思い付く。エラトマと戦っていたので無意識に魔法や魔術を使わなかったレクスだが、バアルとルシファーには普通に効く。当然弱い力は軽く防げるが、エラトマのように完全に無効化する訳では無いので魔法や魔術を使っても問題無かったのである。

 それを思い付いた瞬間にレクスは魔力を込め、アスモデウスの炎魔法をけしかけた。


「遠距離から攻めてもあまり変わらないがな」


 放たれた炎魔法に向け、バアルは水を生み出してそれを放つ。天候神でもあるのでこの程度の炎魔法は容易く防げるようだ。

 大罪の悪魔、本領の力ならそう簡単には消せないが、レクスがこの数日で手に入れたばかりの力。魔法の使い方もまだ本人よりは劣るのかもしれない。

 それらの衝突によって周囲は白煙の水蒸気に包まれた。


「みたいだな。だが、この水蒸気は利用させて貰うぜ」


 白煙に紛れ、死角を取ったレクスがアスタロトの猛毒の息を吐く。常人なら即死の毒だが、バアルとルシファーにはあまり効かないだろう。それでもその毒を使った理由は、水蒸気と猛毒によって少しでも二人の動きを止めるのが目的のようだ。


「下品な毒だ。美しくない」

「……!」


 そしてルシファーは片手を振るい、それだけで全ての毒混じりの水蒸気を吹き飛ばした。

 それにレクスが反応を示した瞬間、バアルが背後からヤグルシを片手に姿を現し、背部に触れて感電させた。


「……ッ!」


「肉体も少しは頑丈になったみたいだが、元が亡者。肉体的な苦痛にはあまり耐性が無いみたいだな」


 ヤグルシで感電させた後に片手を構え、アイムールでその身体を貫いた。その二撃でレクスは膝を着き、バアルが飛び退いた瞬間に光の柱に包まれる。

 そして、先程までレクスの居た場所には一切の乱れなき美しい穴が空いていた。完全なる円をもちいて空けたような穴を前に、バアルとルシファーは呟く。


「随分とあっさりだが……まだレクスは存在しているみたいだな」


「ああ、そうだね。完全に消滅させる事も可能な光だけど、彼は避けようと思えば避けられる強さだ」


 普通の亡者ならばこれで終了。だが、二人はレクスが無事である事を疑っていなかった。

 というのも、今回はレクスの気配が残っており、まだ近くに存在しているのが分かる。なので無事ではないにしても何とか避けたのだろうと考え付くのだ。


「チッ、やっぱ強えな。純粋な力なら前人二人の方が上だが……二対一となると厄介極まりねえ。ボスラッシュでも受けてる気分だよ」


 その考えも束の間、半身を消滅させたもののレクスが治療をしながら姿を見せる。地獄の風でも再生しない傷だが、自分の力ならば魔力を肉体に変換させて再生させる事が可能なようだ。

 そんなレクスは二人を改めて一瞥し、分析する。完全に上位の立場だったテュポーンやエラトマと違い、力は自分と同等くらい。しかし二人居るので片方に気を取られて、思うような攻撃が出来ないという結論に至った。


「分身は使えねえしな。分身出来る悪魔なんか居たか?」


 此方の戦力を増やす事が優先。しかし分身の力を持つ悪魔は取り込んでいない。

 何はともあれ、バアルとルシファーが織り成すレクスの戦いは二人が有利に運べているようだ。


「色々と考えているみたいだが、それを完遂させる訳にはいかない。様々な悪魔達を倒した時点で侮れないと分かっているからな」


「うん。バアルがそこまで言うんだし、全力ならもっと強いんだろうね」


「チッ、思考時間は終了か」


 策を巡らせるレクスに向け、直接触れぬようにヤグルシと光の衝撃が放たれる。それを見たレクスは即座に避け、距離を置き魔法や魔術で牽制しつつ行動に移る。

 ライが藻抜けの殻であるレクスの城を探索している頃、城の外ではバアル、ルシファーによるレクスとの戦闘が続いていた。

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