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六百六十三話 地獄の戦争

 ──"地獄・モートの拠点跡地・現レクスの拠点"。


 ライたちがこの場へ向かう途中、既に到達していたエラトマたちとアマイモンたちは戦闘を行っていた。

 悪魔ではないモートの部下達を操り、複数の軍隊を作り出したレクス。そして見れば罰を受けていた亡者達もおり、本来よりも数倍の強さとなっていた。

 恐らく自分が地獄で名のある悪魔を殆ど取り込んだからこそ、悪魔を取り込む術を伝授させて亡者の軍団を作ったのだろう。


「力を与えて下さったレクス様に貢献を!」

「我らの王、レクス様に!」

「「「おおおおお!!!」」」


 永遠に続くかもしれない罰から解放された亡者達は自分を解放してくれたレクスに尽くす。元が身勝手な罪人なので完全に忠誠を誓った訳では無いのだろうが、力で敵わないと知っているのか全員がレクスの為に戦闘を行う。

 此方に居るのはテュポーンを除いて全員が悪魔。もしくは魂だけの存在。なので圧倒的な力の差がある主力以外はなるべく近接戦を避けながら攻め立てていた。


「モートの部下である者達は構わない! だが、亡者だった部下には触れるな!」


「「「はっ!」」」


 銃や矢に大砲。そして魔法。それらをもちいて放ち、レクス軍の兵士達を打ち払う。モートが既にやられている事を知らない悪魔たちからすると、レクスとモートの部下兵士達という認識だろう。


「しかし妙だな。レクスに対する声は聞こえるが、モートに対する声は聞こえない。二人が協定を結んでいるというのは早とちりだったか?」


「いや、ライ様曰くレクス一人では考えられない行動があったとの事。前線に立つ者だけだろう」


「そうか」


 中にはモートを気に掛ける悪魔たちも居るが、二人が手を組んでいるのはほぼ確実。なので偶々(たまたま)だろうと割り切っていた。

 そんな会話をしながらも周囲には砲撃音が響いており、白い閃光と共に爆発が起こる。即座に黒煙に飲み込まれ、モートの兵士達は剣や槍で斬り伏せ、突き刺す。


「フッ、懐かしい感覚じゃ。余を楽しませよ!」


「「「……!」」」


 刹那、巨腕に薙ぎ払われてレクス軍の大多数の兵士が吹き飛ばされた。そこに炎が吐かれ、身体が消滅する。刹那に両巨腕を伸ばし、残った兵士達も打ち倒す。

 戦場という雰囲気はテュポーンにとって懐かしいもの。懐かしい暇潰しの場所だ。


「多少は強化されているのかもしれぬが……弱い。弱いのう。余は弱体化している状態というのに、主らはその程度か?」


「ッ!」

「舐めるな!」

「地獄で受けた苦痛に比べれば、貴様程度の攻撃大した事は無い!」


 兵士達はテュポーンの挑発に激昂し、一気に加速して肉迫する。その速度はまずまずだが、それは悪魔で常人から見た場合。テュポーンからすれば弱過ぎるくらいである。

 最も、その場から動かずに吹き飛ばす事も可能であるが。


「失せよ」

「「「……ッ!」」」


 片手を薙ぎ、周囲を全て消し飛ばした。山は崩れ、天と大地が割れる。レクスの居る城は崩れ落ちないが、それ以外の全てが消滅したのだ。

 消滅させたテュポーンは本元である城の向けて踏み込み、一瞬にして城の中へと入っていった。



*****



「そろそろ戦場だ。覚悟はいいか、お前たち」


「はい!」

「ああ、勿論だ!」


 戦場に向けて音速以上の速度で進むライたち三人とルシファーたち。バアルはライとフルーレティに改めて確認を取っており、二人は当然のように返答した。

 モートの拠点はルシファーの拠点からそう遠くはない。今の速度なら数分で到達出来る距離だ。


「そう言えば、アンタは全軍を率いてきたのか、ルシファー?」


「うん? ああ、君か。フフ、そんな訳が無い。全軍率いていたら第三者に私の城を狙われる可能性もある……一部主力は城に残っているさ」


 戦場に向けて進む中、ふと気になったライがルシファーに訊ねた。多数の悪魔たちが来ているが、全軍居るのか気に掛かったのだ。しかし流石に全軍を率いている訳では無いらしい。バアルも全軍は率いていない。大規模な戦争だが、守護者の居なくなった城は不安なので当然の判断である。

 そんなライに向け、次はルシファーが話し掛ける。


「ところで……君は何故バアルに手を貸すんだい? いや、君たちと言っておこうか。何かしらの恩か縁。それがあるから協力しているんだろう?」


 ルシファーの質問はもっともなものだった。

 確かに地獄や悪魔と直接的な関係の無いライたちが協力する理由は無い。なのにバアルたちと協力して手を貸している。当事者以外からすれば当然の疑問だろう。


「ああ、それか。アンタの予想通りだ。恩と縁。どっちかじゃなくてその二つだな。ちょっとした理由があって地獄に到達したんだけど、その時助けられてな。その恩で手を貸している」


「へえ? 現世で死んで地獄に来た訳じゃないのなら、命の危険もある筈……見たところ、他の二人は兎も角、君は精々幹部クラスの悪魔と同等の実力しかない。命を懸けてまで手を貸す程の恩なのかい?」


「ああ、そうだな。助けられなくちゃ俺は死んでいたかもしれない。死ぬ気は毛頭無いけど、それ程の恩だ」


 ルシファーの質問に返すライ。命を懸ける程のものかは確かに分からないが、助けられた事で今のライがある。なので迷い無くそれ程の恩であると返す事が出来た。


「成る程。余計な詮索だったかな。すまないね。少しばかり気になったんだ」


「いや、別にいいさ。俺は兎も角、エラトマとテュポーンの存在は脅威的に思えるからな。今回の件が終わったら元々帰るつもり……アンタらの地獄の派遣争いにはこれ以上は参加しないさ。悪魔でモートとの関係とかで悪化した戦争の手伝いが目的だからな」


 ライとバアルの協力し合う理由は激化する戦争を鎮火させる為の手伝い。直接的な関与は他の悪魔達からしても問題である。なのでモート関連の事が済み次第帰る予定なのだ。

 他の魔王も殆どやられている。必然的にモートが最後の敵になるだろう。まあ、もう既にモートは居ないが。


「フフ、そうか。中々良い性格している……私が君を助ければ良かったかな?」


「見つけられるかどうかだから、それは運だな」


「アハハ。イイね、気に入ったよ。さて、そろそろ戦争に到着だ」


 ルシファーに気に入られたライ。どうやらライはこう言った常人からしたら敵の立場になる者と気が合ってしまうらしい。少々複雑な心境だが、敵に気に入られれば余計な対立も減るので悪くはない。

 そしてライたちは既に始まっている戦場に到達するのだった。



*****



 レクスの城に乗り込んだテュポーンは早速城を破壊しながら怒濤の勢いで進んでいた。

 立ち塞がる兵士は軽く吹き消し、踏み込むと同時に周囲を吹き飛ばす。一歩進むたびに大きな影響が及び、城内は既に滅茶苦茶だった。


「大した敵はおらぬのう。元々主力の数も少ない。当然と言えば当然か」


 多くの兵士を吹き飛ばした後、一時的に停止して周りを見渡す。主力はレクスとモートしか居なかったこの拠点。現在ではレクス以外、テュポーンが楽しめる相手になど会えないのだ。


「なら、俺が大した敵になってやろうか?」


「フッ、そうじゃな。それを待っていた。そうこなくてはつまらぬ」


 退屈するテュポーンの前に現れた、多数の悪魔を取り込んだレクス。城に乗り込んでいる主力はテュポーンだけ。なので出て来ても良いと考えたのだろうか。

 何はともあれ、いきなりの首謀者ラスボス登場という訳である。


「さて、余を楽しませてみせよ」

「ああ。魅せてやるよ」


 テュポーンの言葉に返すと同時に、瞬間移動をもちいてテュポーンの背後へと回り込んだ。それを予期していたテュポーンは裏拳を放って牽制するが、その動きを読んでいたレクスはもう一度瞬間移動をもちいてテュポーンの死角へと移動した。


「ほう? 読みに強くなったではないか。前の主なら食らっていた攻撃じゃ」


「ああ。強くなったからな。今の俺なら、アンタの攻撃に当たる気がしねえ」


「随分大きく出たものじゃ」


 攻撃を避けられたテュポーンは不敵に笑い、レクスは軽薄に笑って返す。それを挑発と受け取ったテュポーンは軽く返し、即座に攻撃へと移行した。


「行くぞ!」

「ハッ、見えるぜ!」

「……!」


 テュポーンが動いた瞬間、それを予期していたかのように避ける。そしてそこに来た拳が空を殴り付けた。

 レクスは──"テュポーンの攻撃を見切って避けた"。のではなく、"動く前に避けた"のだ。その未来予知のような動きにテュポーンは反応を示す。その反応を余所に、レクスはテュポーンの腹部に拳を打ち付けた。


「オラァ!」

「……!」


 打ち付けられたテュポーンは実に久々にダメージを受け、空気が漏れて後退あとずさる。

 その一撃で手応えを掴んだのか、レクスは畳み掛けるようにテュポーンへけしかけた。


「ハッハ! 遅い遅い! アンタの動きは完全に見切ったぜ!」


「どうやったかは分からぬが……確かに見切っておるようじゃな」


 両巨腕を伸ばし、城壁を砕いてレクスの背後へと腕を回り込ませて仕掛ける。左右に背後、城壁の影もあってより見にくくなった死角から放たれる光を超えた巨腕もレクスは避け切った。


「……成る程、未来予知染みた見極めでは無く、実際に未来を見ているか」


「……!? もうバレたか」


「うむ。余の知るお主が取り込んだ悪魔に、未来を見れるという者が居たからの。その力を直接見た訳では無いが、取り込んだというのなら未来予知を使えてもおかしくないからの」


 未来を予知する悪魔は多い。バアル軍に居たエリゴスもそうだ。エリゴスはバティン、プルソンと共にレクスとモートの見張りをしていた。そんな三人が取り込まれたのでその力を使われているのだろう。

 アスモデウスを始めとして取り込んだ多くの悪魔。その力を全て使えるとなると、テュポーンのような支配者たちと同等の力になるという事。言わずもがな厄介である。


「ハッ、そうだよ。バレたら意味もねえな。俺の眼は未来を映し出す。他にも悪魔達の力は使える。ある意味全能に近い存在だ!」


 仰々しく手を広げ、高らかに笑うレクス。やはり根本的な性格は変わっておらず、自身の力で楽しむ癖も抜けていない。

 何はともあれ、弱点を挙げるとすればその調子に乗りやすい性格だろう。


「そして、俺は不可視の攻撃も出来る!」

「……!」


 その瞬間、レクスが姿を消した。気配も無く、完全にその姿を眩ませたのだ。

 気配を消すだけならば大体の者は出来る。しかしその姿その物を眩ませているとなると、少々厄介だ。ただ単に透明ならば消えていても微かに存在している気配を読めば良いが、普通に気配を消すよりもより透き通っている。

 空気と完全に同化している状態だった。


「ハッハッハ! この能力はアスタロトの部下である"グラシャ・ラボラス"の透明化と気配消失の力だ!」



 ──"グラシャ・ラボラス"とは、ソロモン七十二柱の二十五番目に位置する三十六の軍を従える総裁の爵位を持つ悪魔である。


 その姿は鷲の翼を持った犬のような姿であり、地獄の支配者であるアスタロトの部下だ。


 人文科学の歴史を与える者であり、殺戮の達人でもある。未来を知っており、人を消す、人の気配を消す力を持っていると謂われている。


 鷲の翼を持った犬にして知識を持ち殺戮を行う他人の姿を消す力を持った悪魔、それがグラシャ・ラボラスだ。



 そんなグラシャ・ラボラスの力をもちいた事で自身の姿と気配を消せるようになったレクス。気配の無い不可視の攻撃というものは、中々に面倒なものである。


「姿を消し去る悪魔の力か。しかし実体はあるのだろう。ならば話は早い。──纏めて吹き飛ばせば良いだけじゃ」


「……!」


 ──刹那、テュポーンは両巨腕を大きく振るい、この城内でテュポーンの居る階層全てを消し飛ばした。

 周囲の壁は砕けて消し飛び、天井が崩れて瓦礫が落ちる。この階層全体がこの有り様なので実体がある以上いくら姿を消そうと関係無いだろう。瓦礫の落下によるダメージが少なくとも、落ちた位置から居場所も特定出来るからだ。


「滅茶苦茶しやがる。此処までして探すか、普通」


「別に構わぬだろう? この城は崩壊しても構わぬのだからな」


「俺的には重要な要塞なんだがな」


 テュポーンの思惑通り姿を現し、自分に落ちてきた瓦礫を退かしながら肩を落とすレクス。レクスにとって大事な城だろうと、知った事では無い。今は戦争。なので敵の城を落とすのは当然の行為である。


「さて、ご託はいい。まだ色々と隠している力もある筈だ。トドメを刺すぞ」


「まだそこまで弱ってねえよ!」


 テュポーンがレクス目掛けて巨腕を払い、未来予知でテュポーンが動き出すよりも早くに避ける。その先にも巨腕を伸ばしており、鞭のようにしなる巨腕があらゆる方向からレクスを狙う。この方法ならば未来を読めてもしのぎ切れない程だ。

 二本の腕が数十に見える巨腕の雨を辛うじて凌ぎ、テュポーンの前に躍り出る形になって誘い出された。


「……ッ! しまっ……!」

「遅い!」


 気付いた瞬間レクスの腹部にテュポーンの膝蹴りが入り、そのまま残っていた天井を打ち抜いて天空に舞い上がる。それだけでかなりのダメージを負った筈だがレクスは途中で堪え、下方に向けて加速した。


「まだだ!」

「……! 速いの」


 そのまま隕石のように落下し、テュポーンごと床を砕いて下方に沈む。それによって城は崩壊し、城を中心に巨大なクレーターが造り出された。

 クレーターの中心には二人の影があり、レクスが力を込めて腕を引く。


「これで……終わりだ!」

「……ッ!」


 数多くの悪魔を取り込んだレクス渾身の一撃が人化の状態であるテュポーンの顔面に突き刺さる。そのまま力任せに振り抜き、その身体を遠方に吹き飛ばした。

 吹き飛んだテュポーンの身体は近隣の山々や鉄、針を抜けて進み、目視出来ぬ程の距離にて巨大な粉塵を巻き上げて停止した。


「ハ、ハハハ……ハハハハ! やったぞ、ついにやった! 今まで勝てなかった……いや違う。えて勝たなかった主力の一角を落としたぞ!」


 見えなくなったテュポーンの方向に視線を向け、己の勝利を確信するレクス。勝てなかった相手に勝利したと思っているので心の底から歓喜しているのだろう。

 その一方で、テュポーンはというと。


「……。かなりの距離吹き飛ばされたの。それに、そこそこのダメージを受けてしもうた」


 崖の側面に造られた巨大な窪みの中心にて、吹き飛んだ方向を見ながら呟いていた。

 土汚れや少しの傷はあるものの大したダメージは無い。何時でも行動を起こせる状態だが、またレクスを探すのは少々面倒だろう。

 テュポーンとレクスの勝負は、レクスが勝利したと思っている。だが意識も失わず、少しヒリヒリする程度のダメージを受けたテュポーンは崖の窪みの中心にて暫しボーッと向こうを眺めるのだった。

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