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六百六十一話 レクスの変化

 ──"地獄・モートの拠点"。


 ライたちから瞬間移動で離れたレクスは、一瞬にしてモートの拠点に戻っていた。

 整列した兵士達を抜けて城内に入り、態々(わざわざ)正面口からモートの元に向かう。瞬間移動で直ぐに前に現れる事も出来るが、敢えて歩いて向かっているのだ。


「フム、回りくどいやり方で戻ってきたな。私が気にする必要は無いが、何時いつもなら直ぐ眼前に来ていたのだからな」


「なに。ただの気紛れだ。ま、そんな事は本当にどうでもいいだろ?」


「確かにそうだな。……それよか、お前……少し変わったか?」


「さあな。自分の性格の変化を聞かれても分からないのが普通だろ?」


 不敵に笑い、モートの言葉に返すレクス。どうやらいつもは瞬間移動で直ぐ目の前に現れるらしいが、今回は歩いてきた事が気になったらしい。しかしレクスは特に言及げんきゅうせずに返答していた。

 相変わらずの飄々とした態度。だが何時もと違う何処か知的な雰囲気。思わず訊ねたくなるのも頷ける。


「それはて置き……サタンの力は手に入れたぜ? 少し手間取ったが、まあなんとなかった」


「そうか。ならばお前自身が気付かない性格の変化はその影響かもしれないな。少しばかり力を取り込み過ぎたのだろう」


「そうかもな。まあ、俺は常に俺であって変わったつもりは無いがな。アンタがどう言おうと気にしない」


 取り敢えずレクスは目的の一つである、サタンの力の入手を報告する。それを聞いたモートは性格の変化にその事が影響しているのだろうと考えていた。

 レクス自身は変わったつもりが無いらしく、本人からして変わらぬ性格で言葉をつづる。


「まあ、これで残った大罪の悪魔は暴食のベルゼブブ。傲慢のルシファー。そして嫉妬のレヴィアタンか。レヴィアタンは行方不明らしいが、ベルゼブブとルシファーが協力しているとなると残り一人の地獄の支配者を狙うのも悪くねえと思うぜ?」


「……。まさか、お前からそんな言葉を聞けるとはな。次にどうするかを考えているとは思わなかった」


「ハッ。俺は元々知的だぜ? いずれはこの地獄……世界の王になる男だからな。この世で一番の天才と言っても過言じゃない」


「そこは変わらないのだがな」


 やはり全体的に変わっているレクス。だが、根本的な性格は変わらず王になる事を夢見ている。そして知的=天才という考えになっている辺り、ずば抜けて頭が良くなった訳では無いらしい。

 そんな、変わった性格と本来の性格が絡み合わず何とも言えない様子に悩みつつ、モートは言葉を続ける。


「まあいい。気にしない方針を貫くとする。さて、残る大罪の悪魔は最終目的としよう。バアル達とは直々に決着を付けたいからな。となると次の標的は──」



「──アンタ……ってのはどうだ?」



「……ッ!?」


 モートが次の標的について話そうとした瞬間、レクスの拳がモートの腹部を貫いた。次の瞬間に引き抜き、腕から滴る真っ赤な鮮血を払う。

 それに反応を示したモート配下の兵士達を一瞬にして消し去り、一部を傀儡くぐつに変えた。


「き、貴様……!」


「アンタの力は取り込めないが……まあこの際それはどうでもいい。俺は王を目指しているからな。対等な者なんか居ちゃならねえんだ。……て事で、恨みはねえ。それどころか、牢獄を抜け出せたのにアンタの力があったってのもあって感謝の念すらあるアンタを……今此処で葬らせて貰う」


「……ッ!」


 片手を薙ぎ、同時にモートの頭を掴んで引き千切る。首の根本から引き抜かれ、血管などの細い筋を無理矢理切り離して周囲に鮮血を散らした。

 ブチブチと嫌な音が周囲に響き、まだ生暖かい鮮血の水溜まりが作り出される。これにて、モートは完全に死亡した。


「どうせすぐ……七年後には復活するんだ。地獄の七年じゃなくて現世の七年。地獄の時間に置き換えなきゃ早過ぎるくらいだな。まあ、今日は休むとするか。数時間くらい」


 モートの生首を放り投げ、その場に捨て去る。今日はサタンにライ、エラトマ、テュポーンと多くの強敵と相対した。まだ力は完全に操り切れていないが、十分な収穫はあったと言えよう。

 モートを殺し、モートの拠点を乗っ取ったレクスは一休みする為に城の奥へと進んで行くのだった。



*****



 ──"地獄・バアルの城"。


「以上、これが今日の成果だ。レクスは着実に強くなりつつある」


「そうか。厄介だな。てか、この数ヵ月で何回厄介って言っているんだ俺は……」


 レクスがモートを仕留めた頃、光速で十数分掛けてバアルの城に戻ったライたちも報告をしていた。その内容は知っての通りレクスがサタンを取り込んだ事。そしてそんなレクスの力がかなり上昇していた事についてである。

 その報告を受けたバアルは頭を抱え、どうするか悩む。レクスの強さはエラトマやテュポーンには劣るらしいが、聞けば大罪の悪魔達だけではどうするか難しい事態となっている。


「瞬間移動があるなら何時この拠点に攻めて来てもおかしくないわね……」


「ええ。ルシファー様がまだ動かない現状、私たちだけで何とかするのも至難の技ですね……」


 バアルが悩む一方で、同じくアナトとフルーレティが悩んでいた。

 恐らくどの大罪の悪魔も凌駕したレクス。一応協定関係にはあるが、未だ動かぬルシファーの事もあるので簡単に攻撃は出来ない様子だ。

 そんなモヤモヤした空気の中、テュポーンが呆気からんように言葉を発した。


「モートの拠点を知っているなら、余たちが攻めれば良いではないか。純粋な実力では余たちが上……態々(わざわざ)敵の行動を待つ必要も無かろう」


【クク……確かにな。強くなるのは一向に構わねェが、お前たちがそんなに心配なら此方から攻めりゃ良いだけだろ】


 テュポーンの言葉に同調するエラトマ。元々戦闘好きの二人からすれば敵を待ち、来たら倒すというやり方が気に入らないのだろう。

 確かに地の利がある拠点で戦えれば有利だが、その分巻き込まれる味方も多くなる。それならば此方から攻め行き、相手を沈めるというのが良い策になる筈だ。

 エラトマたちの攻撃範囲に地の利はあまり関係無い。どんなに複雑な地形だろうと、全てが無にすからである。だからこそ、此方からせめても良いと考えているようだ。


「……。確かにお前たちが行けば状況は良くなるかもしれない……だが、それならそれで生じる問題もある。そう簡単に動ける訳じゃない」


【ウエにはウエの悩みがあるって事か? ケッ、下らねェ。んな事気にしてるから先に進めねェんだろうがよ】


「ふっ、至極最もだな」


 エラトマたちが攻め行けば勝てる可能性もある。だが、地獄の幾つかの地域を支配しているバアルとモートだからこそ、その戦争によって引き起こされる事態は新たな悩みの種となりうるのだ。

 支配する立場というのも、ただふんぞり返って指示を出していれば良いという訳では無いので行動を起こしにくいのだろう。


「まあ、此方から攻めるというのは良いかもしれない。その後に起こる問題は後で解決する事も出来るからな。逆に、我らが一目を置かれる事で地獄の派遣争いに終止符が打たれる可能性もある」


 そう、此方から攻め行き、モートを落とす事で生じるのは何もデメリットだけではない。

 地獄全域に分かりやすく力を誇示する事も可能なので、今の大きな争いで有利に運べるという可能性もあるのだ。


いずれにしても簡単に行動は起こせないか。不満はあると思うが、お前たちも分かってくれ」


【ハッ、分かったよ。だが、その時は意外と早く来るかもな?】


「フッ、そうじゃな。今回は普段と同じように過ごそうではないか。だが、行動は早く起こした方が良いぞ」


 敵陣に攻め込む。その事は一旦保留にした。打開策を見出だしつつ、その時が来たら攻めるという形に留まったのだ。

 これにて簡単な会議は終わりを迎える。現在の時刻はライたちの世界、現世で言うところの正午から九時間程。普段のライたちなら既に就寝の体勢に入っている時間帯である。なので程好い眠気が現れ、ライは湯殿に浸かった後自室に戻った。


(レクスの性格……強さ……表面から見れるモノに今日だけで大きな変化があったな……この調子じゃ明日にはまたかなり強くなっていそうだ……それに、戦争やルシファーの事も気になる。考える事は多い……)


 様々な事を思考しつつ、明かりの消えた暗闇で目を瞑る。布を使って窓から差し込む地獄の赤い光は防いでいるので、丁度良さげな睡眠環境が作り出されているのだ。

 その環境もあって次第に思考が無くなり、ライは眠りに就いた。



*****



 ──"地獄・某所"。


「此処が地獄三大支配者の一人……"アスタロト"の居る拠点か」


 ──"アスタロト"とは、ソロモン七十二柱の二十九番目に位置する四十の軍を従える大公爵の爵位を持つ悪魔にして、ベルゼブブ、ルシファーに並ぶ地獄の三支配者の一人だ。


 様々な魔術に長けており、天使に近い見た目をしている。そして巨大な龍を従えさせていると謂われている。


 その口からは毒の息を吐き、上級の悪魔でも容易に近付く事は出来ないらしく、様々な魔術に加えて過去と未来を見通す力もあると謂われている。


 その多くは謎に包まれているが地獄の支配者であり魔術を使い、龍を操り過去と未来を見通す、毒の息を吐く地獄の支配者の一人、それがアスタロトだ。



 そんなアスタロトの拠点に居るのはモートを始末したレクス。どうやら大罪の悪魔の次は地獄の支配者の一人を狙おうという魂胆のようだ。

 だがそう簡単に入る事が出来る筈も無く、レクスの前に一匹の獣が姿を現した。


『侵入者か……!』


「巨大なカラス……? いや、"ナベリウス"か。番犬のようなものだな。カラスで番犬というのもおかしかものだが」



 ──"ナベリウス"とは、ソロモン七十二柱の二十四番目に位置し、十九の軍を従える侯爵の爵位を持った悪魔である。


 その姿はカラスのようなものであり、しわがれた声で話すと言う。


 別の魔物であるケルベロスと同一視される事があり、様々な知恵を持つと謂われている。


 カラスのような姿をしたあらゆる知恵を持つ悪魔、それがナベリウスだ。



『何をしに来た』

「ん? 侵略」


 呆気からんと言い放ち、腹部に拳を突き刺してナベリウスを一撃で仕留めるレクス。次いで倒れたナベリウスに触れ、その力を吸収した。

 レクスは既にソロモン七十二柱の一角ですら相手にならない程の実力を身に付けた。アスタロトの拠点にて警備を勤めていたのだから、相応の実力はあった筈だ。

 しかし、結果はこうなった。どうやらレクスは想像よりも遥かに迅速に成長し、進化し続けているらしい。


「敵襲! 敵襲!」

「出合え出合え!」


 ナベリウスと共に居た悪魔の見張りが大声を上げ、多数の悪魔達が武器を構えて一斉に駆け出してきた。

 ある者は魔馬に乗り、ある者は己の足で駆け、ある者は遠方から銃や矢に大砲を放つ。


「力の源がこんなに沢山……良いものだ」


 そしてその軍勢に片手を薙ぎ、衝撃波を放って一掃した。軽く払うだけで街一つが消し飛ぶ衝撃波。それを受けても無事なアスタロトの拠点は中々頑丈である。


「完全に消し飛ばす訳にはいかねえな」


 悪魔達が衝撃波で舞い上がった瞬間、バティンの瞬間移動をもちいて舞い上がった悪魔達に触れてその力を吸収する。

 しかしながら一薙ぎで全てを終わらせては経験を積む事が出来ない。なので何人かの悪魔達を残し、一人一人地道に相手をしていく。


「ほら、来いよ雑魚共」

「「「うおおお!!」」」


 挑発するように言い、一斉に攻め来る悪魔の一人を正面から殴り飛ばし、次いで周囲に魔法をもちいて焼き払う。まだ残っている兵士は体術で打ち倒し、倒した瞬間に取り込む。


「この調子なら、アスタロトも直ぐに落とせそうだ」


 拳を放ち、風圧で残った全ての悪魔を吹き飛ばして取り込むレクス。モートを殺したレクスは順調に己の力を高める。

 ライたちが四日目の行動を終わらせて休息を取る中、レクスは自身の力を上昇させる形で英気を養っていた。

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